760万人の卓球プレーヤーをピラミッドの中に 元全日本プロ・松下浩二が掲げる「Tリーグ構想」

創業手帳

一般社団法人Tリーグ・チェアマン 松下浩二氏インタビュー(後編)

(2018/12/27更新)

一般社団法人Tリーグ・チェアマン 松下浩二氏のインタビュー前編では、卓球界の現状やTリーグ発足の経緯についてお話いただきました。後編では、一組織のトップとして、どのように意思決定を行ってきたか、また苦境の乗り越え方、さらにはTリーグの展望についても伺いました。

前編はこちら→「日本初のプロ選手」が描く卓球界の未来 Tリーグ創設の手腕に迫る

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松下 浩二(まつした こうじ)
1967年生まれ、愛知県出身。プロ卓球選手第1号、また日本人初ドイツ・ブンデスリーガに参戦など卓球界のパイオニアとして第一線で活躍。現役時代は全日本選手権、シングル4度、男子ダブルス7度の優勝を誇り、世界卓球選手権やアジア選手権など世界大会でも団体で銅メダルを獲得。オリンピックはバルセロナからシドニーまで4大会連続出場を果たす。引退後は、卓球用品メーカー「VICTAS」の代表取締役社長、日本卓球協会理事を歴任。2017年には一般社団法人Tリーグ・チェアマンとして日本卓球の新リーグ「Tリーグ」発足に尽力するなど、日本の卓球界に大きく貢献。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社の母子手帳、創業手帳を考案。2014年にビズシード社(現:創業手帳)創業。ユニークなビジネスモデルを成功させ、累計100万部を超える。内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学、官公庁などでの講義も600回以上行っている。

明確な目標を持つことで、苦境を乗り越えてきた半生

大久保:Tリーグ発足や、開幕戦を国技館で大々的に開催するなど、こうしたイベントを運営することは多くの方々の協力が必須だと思います。一般社団法人Tリーグには、どのような人たちが集まっているのですか?

松下:やはり、Tリーグを成功させたいという強い思いのある人間が集まって運営を進めています。現在は、「一般社団法人Tリーグ」と出資会社の「株式会社Tマーケティング」のスタッフ計28名で活動していて、開催スケジュールの計画やマーケティング、プロモーション、PRなどを行っています。ですが、もっとパートナーさんを見つけなくてはいけないですし、ゼロベースからの立ち上げですので、まだまだやらなければならないことが多いですね。

大久保:やはり新しいことを始めるには大きな苦労も伴うと思いますが、その中でも特に難しく感じたことはどんなことですか?

松下:スポンサー探しや国内リーグとの調整など、相手のいる交渉事は難しいですが、それよりもスタッフをどう活かしてプロジェクトを成功させるか、ということが一番難しいですね。企業で言えば30人弱は小さい規模ですし、全員が一丸となって進んでいかなくてはTリーグを運営する事はできません。

大久保:それでも、時々は不安になったり悩んだりして停滞してしまうこともありますよね。そうした時には、どのようにして立て直しますか?

松下落ち込んだ時は、Tリーグの理念やビジョンを再確認して気持ちを奮い立たせています。明確な目標があれば、私だけでなく各社員にとっても悩みや不安など問題解決の方向性を見失いにくく、組織がまとまって進むことができます。

今は何をやっても初めてのこと。いわば手探りの状態ですから、これをやれば安心ということはありません。それでもかつて、25歳でサラリーマンを辞めてプロ卓球選手になった時の1年目の辛さを経験しているので、Tリーグが成功するという自信だけはあります(笑)。

大久保:なるほど、松下さんしか味わえないかつての経験が、今になってまた役立っているのですね。プロになった当時はどのように辛い時期を乗り越えたのですか?

松下:あの当時は「卓球のプロなんてやっていけるわけない」とか「アマチュア選手にプロがなぜ負けるの?」とよく批判されました。勝てずに上手くいかない日々は、自分に自信がなくなり不安だらけでした。自分が行っている練習方法や、プロの道に対しても正しいことなのかどうか、自問自答しては悩んでいました。

けれども最終的には目標やビジョンを明確に持てるかどうかで結果は違ってくると思います。その時は、「全日本選手権でチャンピオンになる」という簡潔で誰もがプロ選手として認めてくれるであろう目標にたどり着き、そこからは迷いを吹っ切ってガムシャラになって練習に打ち込みました。

今回のTリーグにおいても「世界一のリーグにする」をトップに、「卓球ビジネスの価値を高める」、「卓球を通して人生を豊かにする」という理念を掲げています。その理念をさらに細分化すると、「世界最高水準のプレーが楽しめるリーグであり、トップレベルの選手が育成できる場であること」、「地域を通して誰でも卓球に関われることで、競技の魅力や卓球ビジネスの価値を高め、ひいては生涯スポーツとしてもっと卓球が身近な存在になる」という壮大かつ具体的な方針となっています。

これだけビジョンを明確にしても、やはりTリーグという大プロジェクトの重圧から苦しくなることはあります。そうした時には、この活動が今の現役選手やお客様に少しでも喜んでもらえることなのだ、と想像することで少しだけ安心できます。

関わる人たちが喜ぶ姿を思い浮かべることで、重圧の中に安心感が生まれる

Tリーグを根幹に、日本がかつてない卓球王国となる日も近い!?

大久保:開幕戦のセレモニーでは、今までの卓球の大会やイベントにはないような華々しい演出が印象的でした。反響も大きかったのでは?

松下:お陰様で開幕戦のセレモニーは大きな反響がありました。卓球関係者からはもちろん、一般の方からの好評も多くいただいています。取材しに来てくださったメディアの数も従来の卓球大会の倍ほどに上り、若い選手の台頭により少しずつ人気が高まりつつある時期と重なって効果は抜群だったことが実感できました。

新しいことを始めるにあたって、これまでと同じことはやりたくありませんでした。8m×16mの競技エリアをどう魅せるか、社員総出で意見を出し合った結果、競技エリアを区切るパネルをモニターにしたり、卓球の球を模した球体のオブジェをスクリーンにして映像を投影したり、これまでの常識にとらわれないアイデアが斬新な演出を可能にしてくれました。

大久保:斬新という意味では、Tリーグのルールにも今までになかったものが採用されていますよね。

松下:そうですね。試合中はボールパーソンが球を拾い、副審が球出ししたり、またテニスと同じように、主審による前のプレーの得点コールがあってから、20秒以内にサーブを行うなどの時間短縮ルールや、勝ち点による年間順位決定方式、また出場選手のランク付けやレギュレーションも細かく設定しています。

特に5マッチで1試合としていますが、そのうち日本人選手を必ず1人出場させなくてはならないというルールは、社内でもかなり反対を受けました。というのも国内リーグにもかかわらず、1名以外、残りすべてのプレイヤーが外国人選手というチームが出てくる可能性があるためです。

現に女子チームの「トップおとめピンポンズ名古屋」では、開幕戦でそういうオーダーで戦っていました。しかし、私は日本人とか外国人の区別をするのではなく、やはり世界最高のプレーをお客さんに楽しんでもらうこと、またより多くの日本人選手にその環境で戦って経験を積んでもらうことが先決だと思いました。

例えば、サッカーだとスーパースターのアンドレス・イニエスタ選手やフェルナンド・トーレス選手がJリーグに来たことで、同じチームの選手はプレー技術を盗もうと必死になるでしょうし、対戦するチームの選手であれば、目の色変えて対抗意識を燃やすでしょう。地域に根ざすという意味では、ここからが出発点なので、国籍や人種を問わず地域に貢献していくことでその地域の一員になれるのです。

大久保:確かに他のスポーツのプロリーグでは、外国人選手の登録者数は限定されていますよね。そういった意味では、開かれたプロリーグとして大きな可能性を秘めていると思います。Tリーグの今後の展望について教えてください。

松下:何年かかるか分かりませんが、Tリーグ構想を実現することです。

Tリーグ構想とは1部から16部までレベルごとにクラス分けされたドイツリーグを参考にした体系で、プロのトップレベルの選手が戦う「Tプレミアリーグ」を頂点に、「T1」、「T2」などの下位リーグを設けます。例えば趣味でプレーする地域の卓球クラブが「T30」として参入したり「マスターズリーグ」や「障害者リーグ」などを設けて、約760万人いると言われている卓球競技者を、大きなピラミッドの中に組み込んで行きたいですね。

大久保:それでは最後に、組織のトップとして、起業家に向けてメッセージをお願いします。

松下とにかく、強い信念を持つことですね。それさえあれば、いつか必ず目標を達成できる日がくると思います。強くその目標を達成したいという気持ちがあれば、そのために行動的になるでしょうし、必要な知識がなければおのずと勉強するでしょう。

そして、決して諦めないでやりきって欲しいです。途中で諦めてしまうことほど、もったいないことはありません。だって世間のほとんどの人が卓球のプロ的なリーグなんて無理だと思っていたのですから(笑)。無理なんてことはないんです。

諦めなければ、無理なんてことはない

一般社団法人Tリーグ チェアマン 松下 浩二インタビュー(前編)
「日本初のプロ選手」が描く卓球界の未来 Tリーグ創設の手腕に迫る

(取材協力:一般社団法人Tリーグ・チェアマン/松下 浩二
(編集:創業手帳編集部)

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