データセクション 澤 博史|AIで第四次産業革命を起こしたい。

創業手帳
※このインタビュー内容は2018年08月に行われた取材時点のものです。

AIの可能性と付き合い方

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(2018/08/29更新)

Googleやamazonなどをはじめとする名だたるIT企業からベンチャー企業まで、各社が最先端の技術を結集して競い合う「AI」。「社会を変える」とも言われているAI分野において、技術力を武器にビジネスソリューション開発や新規事業創出に取り組んでいるのが、データセクション株式会社です。
その会長である澤 博史氏は、富士通株式会社、双日株式会社等で、IT系新規事業の開発に従事してきました。

今回は大企業とベンチャー企業、両方の視点を持つ澤氏から、AIの活用方法と社会に与える影響について、お話を伺いました。

澤 博史(さわ ひろふみ)
データセクション株式会社 会長
1991年、大阪市立大学理学部を経て、富士通株式会社に入社。インターネット系のサービス開発を実施するなど、プログラミングから新規事業開発まで幅広い業務経験を持つ。その後、双日株式会社にてIT系新規事業開発に従事、大手事業投資会社にて、ベンチャー会社への事業投資、企業のビジネスプラン作成から新規サービスの立上げ、M&A等に従事。2008年、株式会社イーライセンス社外取締役に就任。前職時代に、ビッグデータを活用した傾向分析サービスを開発した経緯から、2009年データセクション株式会社の代表取締役に就任。2014年12月24日東証マザーズ上場。 ソリッドインテリジェンス株式会社取締役、2018年6月会長に就任。

AIによってもたらされる2つの変化

ーAIと一口に言っても幅広いと思いますが、主にビジネスでのAIによる恩恵というのはどのようなものでしょうか?

大きく2つに分かれると考えています。「人の作業をAIが代替し効率化だけできる分野」、「できなかったことができるようになりイノベーションが起こる分野」です。

最初に挙げた「人の作業をAIが効率化だけできるパターン」ですが、例えば定例的な文書作成において、過去の文書から適切な文案をAIが導き出したり、録音された音声を元にして自動的に議事録を作る、といったことです。それまで人がメインの担い手であった作業を単にAIが代替することが可能になります。

二つ目の「できなかったことができるようになりイノベーションが起きるパターン」は、上にあげたパターンをベースに起こるものであり、人が行っていた作業を効率化する技術を確立し、さらに作業システムそのものを変えることで産業構造を変える動きを指します。

通常、業務の効率化はデータの集積とその活用からスタートします。それまで人や拠点ごとに散らばっていた情報を、作業効率を上げるため一ヶ所に集約しシステム化することにより、少ない人数で多くの業務を行うことができるようになります。かつデータが集約され、そのデータに対して分析・解析を行うことで新たなビジネスの課題が導き出されてくるのです。

AIによって大量のデータの解析が瞬時に行えるようになり、さらに課題の抽出と解決が高速で行われるようになれば、今後も産業革命が起こりえます。

これらをすべて一様にAIと捉えがちですが、後者の方がインパクトが大きく、本来騒がれるべき分野は後者かと思っています。

ーAIが人の作業の代替を行うということ以上に、産業構造をも大きく可能性があるのですね。

:AIの可能性は広く、且つ多種多様です。AI技術をいかにして活用していくかを考え抜くことによって、人が本来の力を割くべきところに人の力を結集させることができます。AI技術によって世界観が変わっていくのです。

例えば、タクシーの自動運転ができれば、ドライバーがいらなくなり、情報ルートが明確化され、どこで誰がどの車に乗っているかがわかります。そうなると、人が運営しなくてもAIがタクシー会社を運営できるような時代が来るかもしれません。

銀行も同じですね。AI によって金利や与信による審査を今までのように人間が経験値で判断しなくてもよくなり、個人が個人にお金を貸すことが本格化する可能性も秘めています。

既得権益との付き合い方

ーAIのもつポテンシャルによって、交通・運輸や金融業界までをも変える可能性があるとは、なんとも興味深いお話です。

はい。ただし、AI技術は大変なポテンシャルを秘めている技術ですが、ただ単に技術を投入するだけではイノベーションを起こすことは難しいと思います。

もし、産業構造を変えるような技術が投入されたとしても、金融などに代表される既得権益(※1)で守られている業界は、自らでその権益を手離し、新しい産業構造を創造するまでのエネルギーを持っていません。

例えば、ブロックチェーン技術を活用したソーシャルレンディング(※2)が、今の“個人の大手銀行への貯金⇒企業への融資”の流れを変えるものだとします。そうすると、“今の貯金⇒融資”における経路、個人の信頼、金融認可など既得権益を捨てる覚悟がない限り新しい分野を取り組むことは難しいと思われます。

これは新たな分野を取り組むことは既得権益を持っている分野とのカニバリゼーション(※3)が起こるためです。

※1
既得権益:ある団体や集団が歴史的経緯や法的な根拠に基づいて、維持している権利や利益のこと。

※2
ソーシャルレンディング:お金を借りたい会社(借り手)とお金を運用して増やしたい人(貸し手)をマッチングするサービスのこと。

※3
カニバリゼーション:マーケティングにおいて、自社商品の売り上げがそれと類似する自社の別の商品の売り上げを奪ってしまう現象のこと。

ーAIが参入しても大きな産業改革につながらないことの原因の一つとして「既得権益との関係」があるとのご指摘ですが、どのようにすれば、イノベーションが起こせるのでしょうか?

:先ほど述べたように既存事業者は自らが作りあげた既得権益が壁となり、イノベーションを起こすことが難しいのです。そこへ既得権益を持たないベンチャーが第三者として参入することにより、その分野にイノベーションを起こすことができる。既存事業者の持つ既得権益を壊すだけのパワーとなるのがデータであり、データを解析するAI技術です。

これからの5Gの時代、高速かつ大容量の通信が可能となれば、さらにIoTの技術も進み、ビッグデータと呼ばれるデータ集積群もさらに巨大なものになっていくことでしょう。

AIによってそのデータの活用領域が広がれば、先ほど例にあげたタクシーや銀行のように、様々なものが自動化され、一部の人が握っていた権益は意味のないものに変わっていきます。

ー第三者として参入して、内部から既得権益の壁を壊していく。ベンチャーとしての神髄ともいえる仕事ですが、具体的はどうやって参入すればよいのでしょうか。

資本業務提携をしていくことが良いと思います。いくら技術を持っていても、システム開発の業務請負だけを行って利益を得るだけでは、イノベーションは起こせません。

現在はヒト・モノ・カネをもつ既得権益を持つ大手企業は莫大な力を持っています。しかし、先ほど述べたように大手企業は新分野を展開しづらい。

そこで、既得権益を持つ大手企業が、既得権益を持たない第三者のベンチャー企業を利用する形になれば、ベンチャー企業にとっても、大手の力を借りながらイノベーションの基盤が築けることとなるかと思います。

この時、売上をあげたいからと、業務請負を行い著作権を大手企業に全て渡してしまうと、結果としてイノベーションは生まれないことになるかと思います。著作権は少なくとも共有でも第三者のベンチャーが持ち、このベンチャーがイノベーションを生んでいくことになるかと思います。

起業という「新興勢力」がイノベーションを起こす

ーAIが様々な可能性を引き出している現代ですが、その中で起業家たちはどのように行動すれば良いのでしょうか?

:起業家からの視点で見ると、起業するチャンスは各段に増えていると思います。技術革新が進んで、流通、小売、製造、金融、物流あたりは、10年後にはなくなっている企業もあるでしょう。身近な例ですが、amazonは、お米や洗剤がボタン一つで安く購入でき、大手スーパーや量販店に大きな影響を与えています。

そういう時だからこそ、今の主流とは違う新興勢力を作り出して事業展開することができたら、様々な事業を席巻できるかもしれません。

ーAIの技術を以てすれば、日本のみならず海外での事業も可能でしょうか。

:AIを活用したビジネスモデルは様々な可能性を秘めています。そしてAIの技術は今後さらに一般化が進み、汎用的に活用できる時代が来ると思います。そのため、その技術を生かし、ビジネスモデルを確立した企業が海外でも勝てるということになるかと思っています。

ただし、日本国内の大企業に対して商談をしている限りは、根本的な社会的構造は変えられません。現在は、大企業相手であれば利益が上がりやすくビジネスしやすい環境なので、なかなかその構造から抜け出せないのが現状です。

そのため、マザーズに上場する企業を含めベンチャー企業はかつてのアマゾンのように、既存の売上利益に拘らず、将来価値を最大限にする取組みが必要だと考えています。

ーもしかしたら、今の日本の構造は、新しくイノベーションを起こすような事業を作りづらいのかもしれませんね。

すでに構造が確立されているので、大きな会社は腰が重いかもしれません。
ですが、どの分野においても、このまま今の事業自体が永続的に伸びる事はほぼ無いでしょうから、おのずと新陳代謝は生まれると思います。

ただ、その新陳代謝を促すには、短期的な目先の利益ではなく、長期的に会社の価値を上げていく文化を、投資家側も事業経営者側も育てていく必要はあると思います。

例えば、アメリカでは大手自動車メーカーである「GM(ゼネラルモーターズ)」よりも、電気自動車を製造するベンチャー企業である「テスラ」が時価総額を超えてきました。GMには、電気自動車を作る体制が整っていなかったことが原因の一つとされています。上場した会社に利益だけを求めていると、新しい事業への投資が鈍化することの象徴ではないでしょうか。amazonもテスラも、長期間赤字だったと思います。それでも挑戦を続け、イノベーションを起こしはじめています。

日本を見てみると、東証に上場し成長しているベンチャー企業も、まだまだamazonやFacebookに比べて小さい。 ユニクロ、楽天でさえ、時価総額では数十分の1におさまっています。 世界の時価総額トップ10に多くの日本企業がいた時代から考えても、もっともっと挑戦していく 必要があるかと思います。

本当のイノベーションはAIを活用した事業がホンダ、トヨタ、パナソニックのように新たな産業を10兆円レベルであげられるようになることだと思っています。投資家側も経営者側もこういった考え方を持つ必要があると思います。

ー澤さんはもともと富士通にいらっしゃったと伺いました。大企業の構造なども踏まえてのお考えですね。

:はい。大企業の文化とか良い所は理解しているつもりです。ですから、我々データセクション株式会社では、大企業と手を組みながら、新しいものや環境を作るためにはどうすればいいかを考え、AIを活用したデータ分析を行うように仕組みを作っています。

「自分の生きる価値は何か」を常に問い続ける

ー業務提供や投資先は、どういうポイントを見て判断しているんですか?

会社ではなく、人を見ます。考え方が合うのか、ビジョンが合うのか、どれだけ一緒にできるのか。アメリカのビジネスの基本と同じです。どの会社と付き合うかではなく、誰と付き合うかが大事。もしその人が会社を変われば、会社との付き合いは途絶えます。合わない人とマッチングをしても良い環境にはなりませんから。

ー澤さん個人として、今後の夢はありますか?

:データとAIに携わる者として、第四次産業革命を起こしたいですね。ベンチャーでもいいし、自分が主体とならなくてもいい。どんな方法でも、新しい産業革命の環境を作ることで自分の人生の価値が決まると思っています。一度上場すると、資金面でも生活環境面でも安定するし、地位も得られるので勘違いしてしまいがちなのですが、「自分の生きる価値は何か」を自分自身に問い続けたいですね。

私の目標は、お金持ちになって良い生活する事でなく、松下幸之助や本田宗一郎のような人になって、世の中を変えていろんな人を幸せにすることです。

私にとっては、世の中を変える最短距離は起業だったから、今この人生を選びました。目的に到達する可能性が高い道なら、収入が減っても、社会的地位が低くなっても、その道を選ぶことが私にとっての幸せなんです。

ー今後、産業革命が起きた際に、人がやっていた仕事をAIができるようになったとします。「AIが人の仕事を奪う」と考える人がいるかもしれませんが、そのときに人はどのように行動すれば良いと思いますか?

:自分ができることを増やしましょう。もしタクシードライバーであれば、運転する人になるのではなく、制御できる仕組みをコントロールしたり、AIを監視・保守する人が必要です。そうやって仕事を変えていかないと、仕事がなくなってしまいますよね。

例えば、昔は刀で戦っていましたが、今は銃があるので刀だけでは対抗できないでしょう。刀で戦っていた武士たちは、銃を勉強しないといけません。新しいものが出てきた時に、それを使いこなせる人間にならないといけない。そうやって、歴史は変わってきているんです。

視野を広く持ち、自らイノベーションを起こそうという起業家が増えれば、世界は進化していくと思いますよ。

(取材協力:データセクション株式会社/澤 博史
(編集:創業手帳編集部)

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