テレワークを導入して定着させるための問題・課題の解決方法
テレワークの導入が進まず定着しないのはなぜ?
昨今、コロナウイルスの蔓延によってテレワークが推奨されています。
しかし、日本においてテレワークの普及率は低く、一向に導入が進む気配はありません。
今回の記事では、テレワークの普及率を日本と海外で比較します。くわえて、日本でテレワークの導入が進まない原因について解説します。
テレワークのデメリットや問題、課題を解決する方法についてもまとめました。
厚生労働省や経済産業省、東京都はテレワークの助成金を提供しています。
これらの制度を上手く利用して、効果的にテレワークの導入を進めましょう。
この記事の目次
テレワークとは
テレワークとは「tele(遠隔地)」と「work(働く)」を掛け合わせた造語で、情報通信技術を活用した働き方です。時間と場所にとらわれず働けるという特徴があります。
テレワークはその形態によって3種類に分けることができます。
在宅勤務:従業員が自宅で自身の仕事をする働き方
モバイルワーク:取引先のオフィスや出先で仕事をする働き方
サテライトオフィス勤務:会社の保有するサテライトオフィスやレンタルオフィス、シェアオフィスで仕事をする働き方
在宅勤務だけでなく、サテライトオフィス勤務やモバイルワーク、移動中のスマートフォンでの仕事もテレワークに分類されます。
テレワークの普及率
日本と海外におけるテレワークの普及率について紹介します。
日本
総務省が発表している「令和2年版 情報通信白書」によれば、2019年末時点のテレワークの普及率は20.2%でした。
パーソル総合研究所が2020年11月に実施した調査によれば24.7%の普及率です。
テレワークの普及率は企業規模によって格差があります。同調査では1万人以上の企業で45%でしたが、100人未満の企業では13.1%の普及率しかありませんでした。
海外
野村総合研究所の2020年7月の調査によれば、海外のテレワークの普及率は中国75%、スウェーデン52%、アメリカ61%、イギリス55%、イタリア61%、ドイツ50%、韓国37%です。
同調査で日本は31%と最下位です。
テレワーク導入に向いている職種・向かない職種
テレワークはすべての職種に導入できるわけではありません。テレワークの向き不向きについて職種別にお伝えします。
向いている職種
テレワークに向いている職種は、1人でパソコンに向かって仕事する職種です。
事務
事務職は1人で黙々と作業することの多い職種なので、テレワーク導入に向いています。
ExcelやWordのデータ入力作業であれば、データさえ受け取れればどこでも仕事ができます。請求書やパワーポイントを用いた資料の作成も同様です。
ただし、事務職の場合は成果がわかりづらく人事評価しにくいのが難点です。上司の目が届かない在宅勤務では、どのように評価するか検討する必要があるでしょう。
システムエンジニア
システムエンジニアも1人で作業することが多い職種で、テレワークに向いています。
システムエンジニアはクライアントが必要とするシステムをヒアリングし、設計する役割を担います。そのため、パソコンやサーバーでの仕事に多くの時間を割きます。
プロジェクトチームで働く場合も、ツールが整備されていれば十分にテレワークが可能です。
プロジェクトを立ち上げて納品するため成果がわかりやすく、テレワークでも評価しやすいのがポイントです。
プログラマー
システムエンジニアと同様にプログラマーもテレワークに向いた職種です。
プログラマーとシステムエンジニアは似ていますが、プログラマーは設計書に基づいて実際にプログラミングする仕事です。
システムエンジニアと比較して顧客とのやりとりが少なく、作業の多くはプログラミングです。
システムエンジニアと同じくプロジェクト単位で成果を測れるため、人事評価がしやすくテレワークに適しています。
Webデザイナー
WebデザイナーはWebサイトのデザインを構築する職種です。
パソコンでの作業が多いため、テレワークととても相性が合います。
クライアントからヒアリングを行い、さまざまな要望を実現するWebサイトをデザインするのが仕事です。
Webサイトやデザインといった成果物がはっきりとわかるため、人事評価をつけやすいのが特徴です。
Webライター
Webライターとテレワークの相性は抜群です。
Webライターとは、企業や個人が陣営するサイトの記事を執筆する職種です。執筆する内容はビジネスやプログラミング、美容、アウトドア、家電製品などカテゴリーによりさまざまです。
WebライターはGoogleドキュメントやWord、WordPressなどで執筆します。クライアントとの連絡もChatworkやGoogleハングアウトで行います。
記事という成果物があるため、テレワークでも評価が容易です。
カスタマーサポート
近年、カスタマーサポートもテレワークに適した職業として認知されています。
カスタマーサポートは、顧客からの問い合わせに対して回答する職種です。顧客とのやりとりは電話やチャット、メールで行うためテレワークで対応できます。
実際に大手企業やIT企業、物流企業でカスタマーサポートのテレワーク導入が進んでいます。今後もテレワーク導入が拡大していくと予想されます。
営業
営業もテレワークを導入しやすい職種の1つです。
営業は顧客のもとに出向いて、自社製品やサービスを購入してもらうために渉外することが仕事です。
1日の大半が顧客回りであり、会社にいる時間はわずかです。
そのため、朝の出社をなくして直接顧客訪問することで通勤時間を省略し、浮いた時間を他の作業に費やすことで生産性向上が見込めます。
管理職
管理職もテレワークを導入できる職種の1つです。
管理職は部下のマネジメントが主な仕事です。自分が受け持つ部署やプロジェクトの進捗を確認したり、状況に応じて修正したりすることが求められます。
チャットやビデオ会議を利用すれば、自宅にいながらでもマネジメントは十分に可能です。
近年では管理職向けテレワーク研修が実施されるなど、管理職にテレワークを導入する動きが広まっています。
向かない業種
テレワークに向かない業種は「対面での接客」「大きな設備・土地」が必要な職種です。
生産・製造
製造業や生産業でテレワークの導入は困難です。製造業や生産業には専用の機械や設備、土地が必要だからです。
くわえて、製造業は工程に分かれて大人数で行うことが多く、テレワークのように1人だけで作業できません。
また、機械に不具合が生じればメンテナンスや修理が必要です。
大規模な設備や機械、土地が必要な生産・製造業にテレワークは不向きです。
接客・販売
接客・販売業もテレワークに不向きな職種です。
スーパーマーケットやコンビニエンスストア、銀行、役所など対面での接客が必要な業務でテレワークは導入できません。
製品やサービスを販売するのに店舗や設備も必要です。
オンラインショッピングのようにオンライン化が進む可能性もありますが、現在のところはテレワーク導入が難しい職種です。
医療・福祉
医療・福祉といった職種もテレワーク導入が困難です。
これらの業務は人と接しないと成り立ちません。医療であれば患者を診察する必要がありますし、対面でなければ介護はできません。
こういった、直接の対面が必要な業種とテレワークの相性はよくありません。
テレワーク導入の課題や問題点
テレワーク導入の課題や問題点について解説します。
従業員間で不公平感が生まれる
1つの企業内でも、テレワークしやすい部門とそうではない部門があります。
たとえば、経理部や営業部は比較的テレワークしやすい部門です。
逆に、製造部はテレワークを導入しづらい部門の代表例です。
同じ企業内でもテレワークを行えない部門の従業員が、不満を抱く恐れがあります。
生産性が下がる
ソフトウェア大手のAdobeが実施したアンケートによれば、日本人従業員のうちテレワークで生産性が下がったと回答した割合は43%に上ります。
レノボが2020年に実施した調査では、テレワークで生産性が下がると回答した割合は海外で10%台でしたが、日本は40%を記録しました。
このように、日本ではテレワークで生産性が下がる可能性があります。
人事評価や人材育成がしにくい
人事評価や人材育成は企業の成長に欠かせません。
しかし、テレワークは気軽な質問やフィードバックが困難で、上司は部下の働きぶりを確認しづらい状況です。
その結果、上司が人事評価や人材育成に困惑するケースが見受けられます。
コミュニケーションが難しくなる
オフィスに出社すれば会話を交わさなくとも、相手の顔を見ながら仕事ができます。しかし、テレワークではそうはいきません。
ビデオ会議やチャットでコミュニケーションは可能ですが、対面での細やかコミュニケーションには及びません。
テレワークでは仲間意識や連帯感も芽生えにくくなります。
チームワークが必要な仕事では大きな課題です。
テレワークする環境がない
「自宅では仕事できない」という人も少なからず存在します。
実家暮らしで仕事部屋が確保できなかったり、子供が小さくて落ち着かなかったりといったケースです。
他にも、通信環境が整っていないことも考えられます。
テレワークをしたくてもできない事情がある人も少なくありません。
仕事とプライベートの切り分けが難しい
テレワークは従業員に多くの裁量が委ねられます。始業時間や休憩時間、終業時間なども裁量によるところが大きくなります。
つまり、従業員が従業員自身をマネジメントする必要があります。
しかし、自宅での仕事は誘惑が多いです。
ついついYouTubeやTwitterをしたり、興味が他に移ったりしがちです。
このように、テレワークでは仕事とプライベートの切り分けが難しくなります。
労働時間の管理が難しい
テレワークを行う場合でも、企業は適切に労働者の労働時間を管理する必要があります。
テレワークでなければ始業時間、休憩時間、終業時間が決められており、労務管理は比較的容易です。
しかし、テレワークでは労働者の自己申告になり、自己申告を確かめる術がありません。
このように、テレワークでは労働時間の管理が難しくなります。
セキュリティリスクが高まる
テレワークにはサテライトオフィス勤務やモバイルワークも含まれます。
たとえば、モバイルワークではスマートフォンやタブレットなどの端末を外に持ち出し、紛失するリスクも否めません。
テレワーク中の画面を他者に見られたり、会社や顧客との会話内容を他の人に盗み聞きされたりといった情報漏洩のリスクが生じます。
セキュリティリスクはテレワークの大きなデメリットの1つです。
テレワーク導入のデメリットを解消する方法
テレワークの課題やデメリットを解消する方法について解説します。
コミュニケーションツール
コミュニケーション不足は生産性や連帯感、会社への帰属意識の低下につながります。
そこで、ビデオ会議やチャットツール、グループウェア、情報共有ツールなどを使ってテレワークでコミュニケーションを図りましょう。
ビデオ会議ではZoom、チャットツールではSlackやChatworkが代表的です。
その他にもグループウェアのG suiteや、情報共有ツールのKibelaなどさまざまなツールがリリースされています。
これらのコミュニケーションツールを導入して円滑にコミュニケーションを進めてください。
クラウド勤怠管理ツール
労務管理が難しいテレワークでは、クラウドで勤怠をチェックできる勤怠管理ツールの導入がおすすめです。
どこからでも出退勤できますし、残業時間や出勤日数を一目で確認できます。
給与管理システムと連携すれば、スムーズな給与計算も可能です。
勤怠ツールには以下のようなものがあります。
・ジョブカン
・AKASHI
・KING OF TIME
従業員教育によるセキュリティ対策
テレワークではスマートフォンやタブレットなど、業務用に使用する端末のセキュリティルールを設ける必要があります。
くわえて、従業員にセキュリティの啓蒙教育を行うことも求められます。
たとえば、個人使用している端末やサービスを業務で使用することの禁止や、セキュリティソフトの採用などです。
リモートアクセスサービスを利用して会社のパソコンを操作すれば、端末にデータを残さずにすみます。
また、VPN回線を使用すると通信を暗号化できます。
こういったセキュリティ対策を講じるとともに、従業員への教育を行いましょう。
評価制度の見直し
テレワークでは、仕事へのやる気やプロセスが評価しづらくなり、成果による評価がウエイトを占めます。
そのため、現状の評価方法を変更する必要があります。
「評価方法の明確化と共有」「評価方法の統一」「目標管理制度の導入」などが考えられます。
自社に適した評価方法を再考してください。
業務フローの再構築
業務をクラウド化・IT化してペーパーレスにする業務フローの再構築が必要です。
くわえて、社内インフラを整え、就業規則を改正することも求められるでしょう。
紙文書の印刷や捺印が必要な業務フローは極力排除し、従業員のテレワーク環境からでも使いやすいシステムを構築しましょう。
環境整備の手当や一時金
テレワークの環境整備は、会社側で端末や通信環境を提供するのが一般的です。くわえて、通信費や光熱費、机、椅子などまかなう補助金や一時金を検討しましょう。
テレワークでは在宅期間が長くなることで、夏場や冬場のエアコンの電気消費量が上がり、従業員にとって大きな負担になるケースがあります。
そうした状況の解決策として、在宅勤務手当を導入する企業も徐々に増えています。
実際に富士通株式会社では月額5000円、ランサーズ株式会社では一時金として3万円を提供しています。
テレワーク導入を支援する助成金
テレワーク導入を支援する助成金はコロナ禍で拡充されています。
最適な制度を選んで利用しましょう。
働き方改革推進支援助成金(テレワークコース)
「働き方改革推進支援助成金(テレワークコース)」は、2020年4月1日から受付が開始された厚生労働省の助成金制度です。
「時間外労働の改善」「労働者のワークライフバランスの推進」「多様な働き方」を目標として、テレワークに取り組んでいる中小事業主へ助成金が支払われます。
「働き方改革推進支援助成金(テレワークコース)」には評価期間があり、テレワーク目標の達成状況によって補助率に大きな差が出ます。
無理のない目標を立てて申請を行いましょう。
新型コロナウイルス感染症対策のためのテレワークコース助成金
「新型コロナウイルス感染症対策のためのテレワークコース助成金」はコロナ禍の影響を受けて急遽、新設された助成金制度です。
「働き方改革推進支援助成金(テレワークコース)」の特例コース扱いとなります。
新型コロナウイルスでテレワークを新規導入する中小企業を対象として、以下の費用を助成します。
・テレワークに使う通信機器の導入や運用
・就業規則や労使協定などの作成、変更
・労働者への研修や周知、啓発
・外部専門家のコンサルティング
支給額は補助率50%で、企業あたりの上限額は100万円です。
IT導入補助金2021
「IT導入補助金2021」は経済産業省が提供する補助金制度の1つです。
中小企業が生産性向上に役立つITツールを導入するとき、補助金として費用の一部を支給してくれます。
2019年までは補助率が2分の1でハードウェアは対象外でしたが、2020年から補助率が3分の2になり、ハードウェアの購入も対象とされました。
以下の記事で詳しく解説しています。
IT導入補助金2021年最新情報。支援事業者の検索が便利に!
テレワーク導入の成功事例
テレワークを導入して成功した事例についてまとめました。
東京書籍株式会社
東京書籍株式会社は従業員のワークライフバランスの実現に向け、テレワークの全社的な導入を目指しています。
締め切りに左右され残業が多くなりがちな職種で、テレワークによるデジタル化・効率化を検証しました。
4部署から育児・介護に携わる従業員をバランスよく人選し、よりよい働き方を模索しています。
テスト運用では育児・介護に携わる従業員を中心に、週に1回以上の在宅勤務を実施しました。
結果、「通勤時間の削減によるワークライフバランスの実現」「テレワーク向けの業務とそうでない業務の仕分け」「業務の効率化」などが実現しました。
ベクター・ジャパン株式会社
ベクター・ジャパン株式会社では、従業員満足度向上を目指してテレワークの試験運用を開始。
たとえば、遠方のお客様との打ち合わせ後に帰社すると効率が悪くなります。こういった、非効率的な部分の改善を目指しました。
実施にあたっては二重のパスワード認証など、セキュリティ対策を徹底しています。
支給済みのパソコンにビデオ会議ツール、チャットツールをインストールし、スマートカードによるVPNを通じて社内LANへのアクセス環境を構築しました。
その結果、外出先で資料を作成するなど業務の効率化が見られました。
業務効率化が進むと労働時間の削減になり、家族と夕食が取れるなど従業員満足度の向上に寄与しました。
YAMAGATA INTECH株式会社
YAMAGATA INTECH株式会社では、生産性向上と働き方改革の必要性を強く感じていました。さらに、ブランド力向上も大きな課題です。
試験運用では各部門から9名を人選しました。
スマートフォンによる勤怠とクラウド管理システムの導入により、効率化を目指しました。
くわえて、自宅での業務やサテライトオフィス勤務も進めました。
その結果、サテライトオフィスの利用で効率的に業務を行えました。
また、ビデオ会議を面接にも活用することで、採用時における効率化とブランド力強化が実現できました。
まとめ
テレワークを導入するにはさまざまな課題があります。
・従業員間で不公平感が生まれる
・生産性が下がる
・人事評価や人材育成がしにくい
・コミュニケーションが難しくなる
上記は、テレワーク導入の障害となる代表的な課題です。
これらの課題を解決するためにはITツールや勤怠管理ツールの導入、従業員教育、就業規則の改正などが必要不可欠です。
一方、テレワークを導入するメリットもあります。
業務の効率化や出勤時間の削減、優秀な人材の流出防止、ワークライフバランスの実現などです。
また、現在ではコロナ禍によりテレワークが推奨されています。
助成金制度を上手く利用して、効果的にテレワークを導入しましょう。
創業手帳では、別冊版「リモートワーク手帳」にてテレワークの進め方について情報をまとめています。無料でお届け致します。あわせてご活用ください。
(編集:創業手帳編集部)