社員紹介制度の導入にあたって気を付けるべき法律上の観点
報酬を出すと法律違反?社員紹介制度を上手に活用して有能な人材を確保しよう!
(2015/07/27更新)
「社員紹介制度」とは、会社が自社の社員に対し、「あなたの知り合いに、当社への転職を希望する人がいたら紹介してください」と依頼し、その紹介によって入社が決まったり、一定期間在籍したりすれば、紹介した社員に何らかの報酬が支払われるという制度です。
有能な人材を確保することは、事業の拡大には必要不可欠でしょう。創業期では起業家自身が面接などを行うことになると思います。しかし起業家は人事のプロではないので、採用時に注意すべき点など、わからないことが多いかもしれません。冊子版の創業手帳の別冊、総務手帳(無料)では、採用のノウハウについて詳しく解説しています。
この記事の目次
社員紹介制度を導入する理由
なぜ会社が社員紹介制度を導入するのかというと、一般的には次の2つの理由があると言われています。
第1に、採用コストの削減です。
大手の求人誌やWEB媒体に求人広告を掲載すると、1回で数万円から数十万円の掲載料が発生するのが通常です。また、ヘッドハンティング会社などを用いた場合には、転職者の年収の30%~40%が成功報酬の相場だと言われています。
これに対し、社員紹介制度を導入すれば、上記のような高コストな採用方法に頼らなくても人材を集められる可能性があります。
第2に、ミスマッチの防止です。
確かに、コストだけに限って言えば、ハローワークへ求人を出せば求人費用は一切かからないので、もっともローコストです。しかし、ハローワークは誰でも求人に応募できるので、会社が望んでいない人材が応募をしてくる可能性も高い。また、面接数回だけで人物を見極めるのも至難の業なので、雇用してみてミスマッチが判明することも少なくありません。
この点、社員紹介制度では、社員が、ビジネス上や日常の付き合いのある人の中から「この人だったら紹介しても大丈夫」という確信を持った上で会社に紹介するので、高い確率でミスマッチを防ぐことができます。
逆に、デメリットとしては、過度に社員紹介制度に頼りすぎると、派閥の温床になったりするケースもありますが、その点に注意をすれば、基本的には会社にとって有益な制度と言えるでしょう。
社員紹介制度を導入する場合の法律上の注意点
このように、社員紹介制度はメリットの大きいものでありますが、法的には一種の「職業紹介」ということになるので、職業安定法の定めに従わなければならないことに注意が必要です。
この点、まずは職業安定法第40条に次のような定めがあることをご確認ください。
労働者の募集を行う者は、その被用者で当該労働者の募集に従事するもの又は募集受託者に対し、賃金、給料その他これらに準ずるものを支払う場合又は第36条第2項の認可に係る報酬を与える場合を除き、報酬を与えてはならない。
労働者の募集を行う者に対して報酬を与えることは原則禁止されていますが(労働基準法で禁止されている中間搾取に該当するため)、本条では、例外的に許される場合の1つとして、「自社の社員が募集を行い、その社員に対して賃金や給料という形で紹介報酬を支払うことは例外的に認める」としているわけです。
そこで、社員紹介制度を導入する場合には、この条文の趣旨をくみとり、次の点に気を付けて、制度設計をする必要があります。
- 就業規則や賃金規程に、紹介報酬を社内制度の一部として定めること
- 紹介報酬の支給範囲、支給額などを明確にすること
- 過度に高額な紹介報酬の設定は避けること
(元々は社員が採用のために負担した実費を補償することが本条の制度趣旨のため) - 紹介報酬を現金以外のもので支払う場合は、労基法上の「賃金の現金払い」
の原則に抵触する可能性があるので、専門家に確認するのが望ましいこと
以上を踏まえて制度設計すれば、実務上問題になる可能性はまずありません。
また、制度を作るにあたっては、専門家に相談するとより安心できるでしょう。創業手帳では、起業に関する記事を書くため、専門家からアドバイスを受けています。また、その専門家ネットワークを活用し、無料会員向けに、専門家の紹介を行っています。この紹介サービスを利用するに際して、料金は一切かかりません。ぜひご活用ください。
「ゆるい」社員紹介制度を導入する場合の例外
前段で説明をしたのは、社員紹介制度を、正式な社内制度として導入することを前提とした場合の話です。本段落では、別の観点から法的解釈を紹介します。
というのも、ここでまず理解いただきたいのは、労働基準法や職業安定法が禁止している労働者の募集や斡旋に関する金銭の授受というのは、それらが「業」として行う場合に限られるということです。
「業」として、というのは、もう少しわかりやすく言えば「反復継続的に」という意味です。
この点に着目すれば、社員紹介制度を継続的に運用される社内制度としてではなく、会社が社員に対し「誰かいい人がいたら紹介してね」と声がけをし、実際に紹介から採用につながったとき「いい人を紹介してくれてありがとう。これは簿謝だけど。」といったような程度の運用であれば、社員紹介制度に「業」と言える実態はないでしょう。
したがって、紹介してくれた社員に対して社会通念上相当な範囲で、金銭や商品券等を渡すことについては、特段の法的規制を気にする必要はないのではないかと当職は理解をしています。
社外の人に紹介報酬を支払う場合
取引先などの社外の第三者から紹介を受けた場合の紹介報酬についても合わせて検討をします。
この点、第三者に対して紹介報酬を支払う場合には、自社の社員のように職業安定法第40条の例外は適用されないので、原則通り、紹介に対する報酬の支払いは禁止です。
しかし、紹介を「業」としない場合は、社員の場合と同様、職業安定法の規制は受けないと考えられます。
すなわち、特定の取引先から何度も社員の紹介を受け、そのたびに報酬を支払うような実態があれば、「業」という扱いになるが、様々な取引先から散発的に縁があった人を紹介してもらい、それに対して社会通念上も相当な範囲で謝礼を支払うという考え方であれば、合法の範囲内と解釈されるのです。
結び
以上のように、ビジネスの世界ではよく耳にする社員紹介制度であるが、その制度を社内でどう位置付けるかによって、労働基準法や職業安定法の規制を受ける可能性があることを、頭の片隅に覚えておいてください。
その上で、自社で導入を検討する際には、細心の注意を払って制度設計し、不明点があれば弁護士や社会保険労務士といった専門家に相談しながら、慎重に導入を進めてください。
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(監修:あおいヒューマンリソースコンサルティング 代表 榊 裕葵)
(編集:創業手帳編集部)