サンフロンティア不動産 齋藤 清一|オフィスビルのバリューアップでセットアップオフィスを提供し、企業の成長と社員の交流を後押しする
リモートワークとの併用が当たり前になった今だからこそ理想的なオフィスを持つべき理由とは
都市開発に伴い、毎年多くのビルの建設と解体が繰り返されています。しかし、ビルを1棟建てるには多くの資材や燃料を使い、環境負荷がかかります。
この課題に「リノベーション」という手法で解決に取り組んできたのが、今年で創立25期目を迎えるサンフロンティア不動産(以下「サンフロンティア」)です。リノベーションという目的に留まらず、地域社会に貢献し、不動産価値を高める「バリューアップ事業」が特徴の企業です。
今回の記事では、サンフロンティアが取り組むバリューアップ事業の特徴や、コロナ禍でリモートワークが増えた今の時代に合うオフィスの役割について、創業手帳の大久保が聞きました。
サンフロンティア不動産株式会社 代表取締役社長
1960年福島県生まれ。1984年3月慶応義塾大学卒業。2005年同社入社。管理本部長、専務取締役管理本部長などを経て、2020年4月に代表取締役社長に就任。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
東京都心部の中規模オフィスビルをバリューアップして新たな価値を創出
大久保:サンフロンティアさまはスタートアップに目を向けられている印象を受けるのですが、その理由は何でしょうか?
齋藤:当社グループの中核事業は、既存ビルの価値を高めるためにリノベーションを行う「バリューアップ事業」です。主に10階建てくらいの中規模のビルが対象で、東京都心部をメインに展開しています。
一般的に、築後20〜30年のビルは、見た目は古くてもリノベーションすれば躯体を活かして蘇らせることができる物件もあります。にもかかわらず、新たに建て替えることが多く、非常にもったいないと感じています。
そのため、バリューアップをして築年数が経過したビルに再度命を吹き込んで、ビルの潜在的魅力を最大限引き出し、生まれ変わったビルにテナント企業様を誘致し、満室稼働にして販売することが当社のビジネスモデルになっています。このように、物件そのものの価値を最大化することで、テナント企業様、ビル経営者様共にご満足いただける事業です。
バリューアップした物件の販売後は、引き続きビル管理サービス(プロパティマネジメント部門)を通し、ビル経営者様と入居テナント企業様をサポートする一連の事業を行っています。
現在、東京都心部を中心に約500棟を管理受託しており、そのうち50棟ほどを当社で保有しています。
入居いただいている企業の3割ほどは創業5年未満で、成長過程の中で資金調達に苦労されることも多い段階にあるため、こうしたスタートアップ企業を支援しています。
起業初期は1〜2人で立ち上げ、マンションの一室で事業を始められる方も多いと思いますが、立ち上げ期から次のステージに拡大する時に、我々のオフィスをご活用いただいています。
当社は、資金調達を始めとした法務・税務など、幅広く相談できるパートナー企業と協業しているため、テナント企業様の成長のお役に立てるよう全力で支援させていただいています。
オフィスビルにおける「付加価値」とは
大久保:どのようにすれば、物件の魅力が上がるのでしょうか?
齋藤:我々が考える物件の魅力とは、テナントとして入居されている企業が成長することです。つまり「あのビルに入ったら会社が大きくなった」という実績です。
そのためには、例えば、企業様の社員同士のコミュニケーションを活性化させることが重要だと思っています。コロナでリモートワークが増えましたが、むしろリアルで会うことの大事さが浮き彫りになりました。
皆が集まって話し合い、様々なアイデアが生み出せるコミュニケーションの場として、オフィスの重要性が増しています。このようなニーズに応えることができるオフィス環境をご提供しています。
当社が10年ほど前から提供している、即入居可能な「セットアップオフィス」は、壁、床、ドアといった内装工事、オフィス家具の設置、受付や会議室の設営の他、コミュニケーション活性化のためにボックス席やソファスペースを設けるなど、様々な工夫を凝らしています。
大久保:なぜそのような発想に至ったのでしょうか?
齋藤:成長期にあるスタートアップ企業がオフィスを移転する際、間取りやオフィス家具の配置などを計画的に進めることは意外に難しく時間を要します。そのため1つとして同じものがない中規模ビルを数多く扱ってきた当社の経験と知見を活かしオフィスを作り込んでご提供しています。
テナント企業様は、入居してすぐに業務を開始できるので、自分たちの事業に集中し、時間の有効活用ができる。これまで多様なお客様にご利用いただいてきた実績をもとにオフィス環境を進化させ、「成長を加速させるオフィス」としてお客様に提供し続けることで、ありがたいことにお客様がお客様を引き寄せてくださり、結果として当社の事業成長にも繋がっています。
大久保:もう1つの課題として、ベンチャー企業さんは採用に苦労されますよね。
齋藤:おっしゃる通りで、魅力的なオフィス環境は、採用面でも効果を得られるというお声をいただいています。オフィスに来たくなる魅力づくりを意識することで、社員間のコミュニケーションや協業が促進され、人材採用にも繋がっていきます。
社内イベントで仲良くなった社員同士は、オフィスでの会話や協業も自然と増える
大久保:「出世ビル」を作るということですね。社員同士のコミュニケーションを活性化するために行っている工夫を教えてください。
齋藤:当社内でも、社員同士が部署を越えていかに繋がり協業を促進するか、という点に注力しています。
1つの例を挙げると、部署の違う人と交流する場所や機会を創出するために、コネクト(=繋がる)カフェをオフィス内に創っています。
他にも、全社員参加型のスポーツ大会、社員旅行、家族を会社に招待するファミリーデーなどの一連の企画を実施することで、組織横断的なコミュニケーションが活性化する環境を創り出しています。異なる部署に所属する社員同士が、次に会社で会った時には自然と会話が生まれ、その後の協業にも繋がっていきます。
大久保:コロナ前は「会社に行く=仕事をする」という立ち位置でしたが、今は「コミュニケーションをする」という役割に変わってますからね。
決まった作業はリモートでもできますが、気づきを得る時は、誰かと会話した時が多いですからね。
齋藤:オフィスの価値は、アイデアを生み出すことだと思っています。コロナ禍を経て、オフィス回帰という流れが追い風にもなっていますね。
大久保:採用が難しい時代に広告にお金を使うのではなく、来たくなるオフィスにお金を使うというのはとても良いですね。
テナント企業のために業界分析を徹底
大久保:テナントになる企業の業種を見ていると、ビジネス全体のトレンドを掴みやすくなりますか?
齋藤:そうですね。テナント企業様の業界情報を把握することで、その業界の動向や需要が掴みやすくなります。
私も、新しくテナント企業様が入居されたとき、どのような業種なのかなどに関心を持って、把握するようにしています。例えば、IT系企業の入居が多いと聞くだけではなく、医薬系のITなのか、クラウド系のITなのか、どのような業種のIT企業なのかを知る必要があります。
具体的にお客様のことを知ることで、どういった事業をやっている企業が増床傾向にあるのか、逆に縮小傾向にあるのかなどのトレンドが読めるため、次に活かすことができます。
大久保:ITは本当に広いですからね。サンフロンティアさまは、オフィスの内装にアート要素を取り入れたこともやられてますよね?
齋藤:「A YOTSUYA(エー・ヨツヤ)」と「A SHIBUYA(エー・シブヤ)」は、アートのAをネーミングにしています。コワーキングスペースとして活用するなど、様々な施策に取り組んでいます。
単に場所を提供するだけでなく、プレゼンできる場、スタートアップ同士で学びを得る機会を創るといった企画もしています。
大久保:主力ビジネスでエントリー企業を受け入れ、情報を得るというのが良いですね。
齋藤:最初はコワーキングスペース、その次はオフィスを持つ、といった成長期のステップアップを一貫して支援しています。
内装が作り込まれたオフィスは原状回復せずに居抜き物件としても活用
大久保:居抜きもやられているのですか?
齋藤:原状回復費用はテナント様にとって頭の痛い問題の1つですよね。お店や接客業などは、内装の作り込みがブランディングになりますが、オフィスについては、そこまでの仕様は必要ないという特徴があります。
当社はセットアップオフィスの草分けでもありますが、居抜きはリーマンショックで外資系企業が母国に戻られてしまった時に始めた事業です。
外資系企業の中には、費用をかけて内装を作り込んで使用されている企業も多かったため、折角の豪華なオフィスを取り壊して、次に入居されるテナント様がまた費用と時間をかけて内装を作るのは、とてももったいないと思いました。
そこで、従来の内装をそのまま使っていただく「そのまんまオフィス!」という事業を立ち上げ、約15年運営しています。環境面も経済面も理に適った事業だと思っています。
大久保:創業手帳として取材した企業の中には、原状回復できないほど作り込んでしまい、移転時はそのままお渡しするしかなかった、というお話を聞きます。
人が集い、心通わせる場をつくるために「バリューアップ」する
大久保:サンフロンティアさまの事業をカテゴリー分けすると、何になるのでしょうか?
齋藤:当社グループでは、都心オフィスビルのバリューアップを主軸に、売買・賃貸仲介や管理、メンテナンス、滞納賃料保証、貸会議室運営等、不動産に関する多様なサービスをワンストップでご提供しています。そして、不動産活用のノウハウを活かし、ホテル・観光事業、海外事業、建設事業を展開しています。事業カテゴリーは、「不動産再生事業」「不動産サービス事業」「ホテル・観光事業」と「その他」の4つのセグメントで構成しています。
当社グループの特徴は、フィロソフィをベースにお客様視点で課題解決に取り組み、連鎖複合型の高付加価値の商品とサービスをご提供している点です。
現在、2025年3月期を最終年度とする中期経営計画を推進していますが、「人が集まり、心を通わせ、社会の発展と人々の幸せを創出していく場」を提供することを基本方針にしています。また、今年スタートした屋外広告では「未来をバリューアップする」というメッセージを打ち出しました。当社グループの事業活動を通して、より多くの皆様の未来をバリューアップするお手伝いが出来ると嬉しいですね。
サンフロンティアの社是「利他」に込められた想い
大久保:齋藤さんはずっと管理畑の仕事をしてこられたのでしょうか?
齋藤:20年以上、銀行で仕事をしていました。ただし、いわゆる銀行マンではなく、市場部門にいて、金利や為替の売買に関わる仕事をしていました。
サンフロンティアに来てから18年経ちますが、約13年間は管理部門、その後の約5年間はアセットマネジメント部門の責任者をしていました。
大久保:「利他」という言葉が飾られていますが、大事にしている言葉なのですか?
齋藤:当社の社是であり、仲間と一緒に働く上で最も大切にしている価値観です。
当社グループはホテル事業も展開しており、現在22軒を運営(2023年12月1日現在)していますが、今後もベンチャースピリットを持って、どんどん開拓していこうと頑張っています。
大久保:サンフロンティアさまの社風としての特徴を教えてください。
齋藤:当社は、他を思いやる心を持つ「利他」を社是とし、理念経営を実践しています。一緒に働く上で最も大事にしたい価値観で、創業者である現会長の堀口が創業時より大切にしている、最上位概念の経営哲学で、サンフロンティアのフィロソフィの柱です。
会社のミッション、経営の目的は、「一緒に働く社員が幸せになること」、その上で「物心両面の幸福を追求し、共創の心をもって持続可能で豊かな社会の実現」と定めおり、当社理念を日々の行動の中で常に意識しながら、社員全員が同じベクトルで動いています。
当社では、創業時、堀口が毎週社員向けに送っていたメッセージをまとめた経営理念手帳があります。世の中に貢献する仕事をしようということをモットーに日々働く中での気づきをまとめたもので、当社では、毎朝、手帳の読み合わせを行っています。
誰かが言っていることをそのまま取り入れるのではなく、自分たち独自の理念を提唱し、理想に向かい日々意識し行動することを促しています。
このように生きた実践哲学を、起業したばかりの経営者の皆さんにも取り入れていただけると嬉しいですね。
大久保:最後に起業家へのメッセージをお願いします。
齋藤:日本に新しい会社が創出されることは、ものすごく大きな意義があると思っています。当社も起業家の皆さんを応援すると同時に、ベンチャースピリットは決して失いたくないと思っています。
「世の中に何を成そうとしているのか」
事業の目的は何か、深く考え、それを紙に書き下し、毎日意識して経営していくことが大事だと思っています。
もう1つ大切なことは「人生の大病は放漫になること」です。
成功者の中には手応えを感じて、喜ぶ瞬間もあると思います。そういったときに、おごりが出てしまいがちで、そのことに自分自身は気づきにくいものです。
リーマンショックで倒産の危機を乗り越えてきた経験から、この2つの言葉をお伝えしたいです。
大久保の感想
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(取材協力:
サンフロンティア不動産株式会社 代表取締役社長 齋藤 清一 )
(編集: 創業手帳編集部)
今後オフィスはただ単に業務や作業をする場所から会話や体験をする場に変わっていくことを感じました。