近年注目の「社会起業家」とは?意味や目的、一般的な「起業家」との違いなどを解説
起業で社会問題に取り組む「社会起業家」について詳しく解説します。
近年、起業家の中でも「社会起業家」と呼ばれる人々が増加傾向にあります。
社会起業家は、様々な社会問題への取り組みを事業として起ち上げる人を指し、その動きは徐々に広がってきています。
通常の起業と手順や運営そのものは変わりありませんが、根本的に異なる点とはどのようなものなのでしょう。
今回は、社会起業家の意味や定義、通常の起業家との違いや実際の事例について説明します。
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この記事の目次
社会起業家とは何か
社会起業家とは、ソーシャルアントレプレナー(社会と起業家を合わせた造語)と呼ばれることもあり、起ち上げた事業=社会的事業はソーシャルビジネスともいわれます。
では、具体的に社会起業家とは何なのか、こちらで解説します。
社会起業家の定義について
社会起業家が起ち上げる事業=ソーシャルビジネスに関しては、経済産業省が3つの定義をかかげています。
・社会問題を解決するものであること
現代社会が抱える様々な問題に対し、何らかの方法で解決に導く事業を行うこととされています。
・利益を上げる事業であること
社会問題の解決を事業として掲げ、利益を上げて自社の資金で活動を続けていくことも定義のひとつです。そのため、運営形態自体は一般企業と共通するものです。
・新たなビジネスモデルであること
これまでにはない革新的な方法で社会問題への解決に切り込み、新たな社会の改革を行う事業であることもあげられます。これにより、従来では実現しえなかった解決方法を見出します。
社会起業家が行う事業:利益追求ではなく社会問題の解決
社会起業家が起ち上げる事業では、利益追求ではなく社会問題を解決することが念頭に置かれます。
加えて、社会的事業での利益は株主への還元のために上げるのではなく、次なる社会的活動に投資して事業を継続させるために上げるものです。
革新的な方法で社会問題に取り組むことはもちろん、自社の資金で長期的に社会貢献することが求められます。
利益を生むことを第一の目的とせず、利益を社会に還元する考え方です。
その結果、会社の社会的責任を果たすほか、会社の倫理に関する視点も磨き上げていくことが、社会的企業には求められます。
社会起業家が取り組むべき社会問題とは
こちらからは、社会的企業を起ち上げて、解決に向けて取り組む社会問題について下記2つの視点からみていきましょう。
- 世界共通の社会問題
- 日本で解決すべき社会問題
社会起業家が取り組むことが求められている問題には、どのようなものがあるのでしょうか。
世界共通の社会問題
世界に目を向けると、共通して存在する社会問題が様々にあります。例えば、以下のようなものです。
・貧困を改善する
東南アジアの国では「人口の増加が理由で十分な雇用を確保できず、貧困層が後を絶たない」という状況が多く見受けられます。
貧困下では学校に行けない子どもや適切な医療を受けられない人が生まれてしまいます。
また、彼らを養う人も仕事がなかったり、働けたとしても低い賃金や厳しい労働環境での就労を余儀なくされたりしているのです。
・地球温暖化を防止する
CO2の排出が原因とされる地球温暖化は、世界を取り巻く問題のひとつです。
温暖化により、海面水位の上昇や生態系の崩壊、異常気象など、実に様々な現象が起こることが予想されます。
CO2を排出する要素の大半はエネルギー生産によるものであるため、CO2を抑制できる新たなエネルギー資源の開発が求められています。
・異人種への偏見をなくす
異なる人種や文化への偏見は、世界中にはびこる問題です。
個人に対する攻撃のみならず、就職や住居でも排除される例が後を絶ちません。
双方の理解を深めないままに、偏見を持って接してしまう問題は、グローバル社会への弊害にもなりえます。
日本で解決すべき主な社会問題について
こちらでは、日本国内で解決すべき社会問題に目を向けます。
・育児・教育にかかる問題をサポートする
日本でも、家庭環境や経済状況から育児に手が回らない、十分に教育を受けさせられない問題が存在しています。
また、震災後に教育の場をなくしてしまった子どもに対するサポートも重要な課題です。
これらの問題に対し、育児の代行や教育の現場の提供を推進し、子どもの成長を支える必要があります。
・環境問題を解決する
前述の地球温暖化をはじめ、大気汚染や廃棄物の増加、水質汚染に森林破壊のように、日本を取り巻く環境問題は山積しています。
これらの問題は国でも取り組むべきものですが、事業として解決に取り組む会社が増えれば、事態を好転させられる可能性は大きいです。
・障害者・高齢者の就労を支援する
障害者や高齢者が自立した生活を送るため、また生きがいを見つけるために就労支援を行う動きも求められています。
一般企業では、これらの人々を受け入れる体制が整っていないところも多いですが、無理なく生き生きと働ける職場の提供やあっせんも、社会活動のひとつです。
・地方の活性化
都市への人口集中が進んだ結果、取り残された地方の中には経済的に困窮し、人々の生活を脅かすところまで追い詰められているところも多くあります。
このような地方の活動を活性化させるために、街おこしによる観光客の誘致や都市部からの移住者の受け入れなどの取り組みが注目されています。
・災害復興
東日本大震災に代表されるような地震や、各地で頻発している水害のように、災害によって住居や職場、学校を失って苦しい生活を余儀なくされている人たちがたくさんいます。
このような被災地に様々な支援を行い、人々の生活を守ることは社会的企業の役割のひとつといえるでしょう。
一般的な起業家と社会起業家は何が違うか
では、社会起業家が通常の起業家と線引きされる理由はどこにあるのでしょう。
どちらも、事業を起ち上げることに変わりはありませんが、双方には根幹に立ち返った時に違いが出ます。
以下では、それぞれの違いについて解説します。
一般的な起業家と社会起業家の大きな違いは事業目的
社会起業家と通常の起業家の大きな違いは、起ち上げる事業がどのような目的を持っているかです。
通常の起業家が目指すのは、自身の夢の実現や利益の追求のように、事業における実績が経営者自らや自社に還元されます。
一方、社会起業家の事業目的は社会問題の解決をビジネスとして成立させることであり、これまでにない方法で社会に貢献することを目指します。
そして、その結果として利益を出し、さらに社会活動に還元させるところが通常の起業家と異なる点です。
利益を追求し社会貢献するか、社会貢献した結果利益を生むかの違いといっても良いです。
ボランティアやNPOとも若干異なる
社会貢献をする立場として、ボランティアやNPOもあげられますが、社会起業家が起ち上げる社会的企業とは異なる面もあります。
以下ではボランティア・NPOと社会的企業の違いをみていきましょう。
ボランティアはビジネスではない
ボランティアとは、基本的に無償で行う支援活動であり、その活動資金は寄付などで賄われています。
そして、携わる人々に利益は生じず、活動だけでは生活を営むことができません。
また、活動内容は外部からの需要に基づくもので、社会的企業のように自ら活動方針を定められず、基本的にビジネスとは異なる活動であることが大きな違いです。
NPOは寄付金に頼る形態もある
NPOに関しては、識者によって見解が分かれるところです。NPOも社会活動のために起ち上げられることが多く、ある程度利益を得る方法で活動を行います。
ただし、NPOに関しても活動資金の一部を寄付に頼る面があり、自社の資金のみで活動を行うことを社会的企業の定義とするなら、完全に当てはまるわけではありません。
また、NPOには常勤職員に給与が発生しないケースも見られます。
社会問題に対する活動資金を完全に自社で生み出している、給与が支払われるといった一般的な企業の体を成していることなどが違いとして挙げられるでしょう。
一般企業が掲げるCSRが発展する形も
社会的企業ではない一般企業でも、CSR活動を推進しているところが増えています。
・CSRとは
CSRは、corporate(企業) social(社会的な) responsibility(責任)の略称であり、日本語では「企業の社会的責任」という訳です。
会社が事業を進めるにあたり、顧客や従業員の生活向上や環境保全など、社会に貢献すべき取り組みの推進を負うことが、一般企業にも求められています。
・CSRは一般企業に浸透している
CSRは、社会全般に利点や良い影響を与える活動である一方、日本では一般企業の不祥事により顧客が不利益を被り、企業が信頼を落としてしまう事態が随所で発生しています。
さらに、商品の製造過程における産業廃棄物や汚染物質の排出により、公害をもたらす問題もなくなっていません。
一般企業が顧客からの信頼を得るほか、事業による環境破壊を防ぐための活動が重要視された結果、CSRを導入する会社が増えてきました。
・一般企業のCSRが事業に発展する
一般企業の中でも、特にCSRを積極的に推進しているところがあります。
自社の利益だけを追求するのではなく、社会貢献や問題解決のためにリソースを割く活動は、そのまま企業のメイン事業にシフトすることも可能であるはずです。
運営に関して、一般企業はこれまでのノウハウを存分に生かすことができるため、ビジネスとして十分成立させられると考えられます。
さらに、既存の社会的企業と連携することで、さらに大きなムーブメントとして活動を進めるビジョンも描けるでしょう。
通常の起業家と共通する部分について
しかし、社会起業家と通常の起業家で共通する部分も存在します。
いずれも、結果的に利益を上げるための事業展開を行うために起業することです。
社会起業家も、通常の起業家と同様に目的を明確にし、それに対して事業を効率的に進める方針決定や戦略立案、資金繰りの計画を立てて進行することが求められます。
社会起業家と通常の起業家では、根幹となる事業目的の性質が異なるだけで、事業を展開するにあたっての手順に変わりはありません。
社会起業家にとって大切なものとは
社会起業家として、事業を起ち上げることを目指すにあたって、特に大切にすべき点とは何でしょう。
社会問題解決に対する情熱が重要
社会起業家が目指すべきは、自社の利益還元ではなく社会問題の解決です。
社会問題に対してしっかりと向き合う姿勢、そして、どうしても問題を解決したい情熱があるか否かが重要なポイントです。
社会を変えたい強い気持ちがなければ、わざわざ社会起業家を目指す必要がなくなってしまいます。
社会に山積している問題は複雑な要素が絡み合っているため、解決には様々な障壁があります。
例えば、雇用の創出を事業に掲げるとすると、職にあぶれた人々の雇用を求めて一般企業と折衝し、受け入れ体制を整えてもらい土台を作ることが必要です。
そのためには、長い時間を要することがあるかもしれません。
事業目的を達成させるために立ちはだかる壁をひとつひとつ壊していく根気強さを持つことが、社会起業家に求められる重要なマインドです。
事業を成功させるビジネススキルも必要
社会問題の解決に対して、強い情熱を持っていたとしても、事業として成功させ利益を上げるには、確固たるビジネススキルも必要です。
利益を生み出し活動を継続させるために、しっかりとした事業計画や戦略立案、マーケティングなど、一般企業と同様に地盤を作り、社会に事業を広く認識してもらわなければなりません。
複雑で根が深い社会問題に取り組むなら、なおのことビジネスに関する知識がなければ、事業の目的にたどり着くのも難しくなってしまうことが予想されます。
そのためには、社会起業家がビジネススキルを身に着けるほか、ともに経営を進めていく共同起業家や役員に、優れたビジネススキルを持った人材を迎え入れることも方法のひとつです。
社会起業家が立ち上げられる起業形態とは
社会起業家として会社を起ち上げる時、その形態にはいくつかのものがあげられます。どのような形態を選ぶかは、事業目的や方針を鑑みて決めると良いです。
事業展開を行っている社会的企業の主な形態を下記に紹介します。
株式会社や合同会社
株式会社や合同会社は一般企業にも多い形態です。
株式会社では事業によって得た利益を事業展開だけではなく、株主や従業員へ分配します。
株主が存在することで、資金調達が比較的容易に行えるため、事業展開しやすい利点がありますが、融資の中で社会的企業を対象にしたものは受けられないことがデメリットです。
合同会社は株式会社と並ぶ企業形態のひとつで、株式会社とは異なり、出資者が経営者と同一という特徴があります。
多くの企業に選択されている形態のため、金融機関や取引先からの信頼が得やすいという点も大きな特徴です。
保証有限責任会社
社会的企業には比較的多く、利益を上げるための事業展開は可能ですが、明確かつ具体的な目的を持って起ち上げることが求められます。
株主が存在せず、利益は従業員に還元されずに社会活動に供する必要がある形態です。つまり、社会的企業の運営に向いているものといえます。
産業・共済組合
この形態では、コミュニティ組合と真正協同組合に分けられ、いずれも会社ではなく組合として運営されるのが特徴です。
コミュニティ組合では、利益はコミュニティの目的に供されるものであり、真正協同組合は、社会的目的のもと取引先に利益還元することができます。
コミュニティ利益会社
明確な目的のもとにコミュニティを結成し、コミュニティの利益を上げるために運営される会社です。
株式は、一定の上限のもとに発行できますが、登記の際には監査局による審査があり、会社の活動がコミュニティの利益につながるかなどを証明できる必要があります。
一般社団法人
これは、法人設立にあたり2名以上の人材を集めて運営されるものです。
設立の条件は株主に利益の分配を行わない非営利法人であることで、事業で得た利益は活動への投資に充てられます。事業内容自体は、自由に決定することができます。
社会起業家の成功事例を紹介
様々な社会問題の解決に、真摯に取り組む社会起業家は日本国内にも多数います。
その中でも、成功を収めて社会に名を轟かせている社会起業家もよく見られるようになりました。下記では、実際に社会起業家として成功した事例を紹介しましょう。
ホームレス支援の事業を起ち上げ
イギリスで起ち上げ日本に持ち込んだ例が、ホームレスによる雑誌販売事業です。
雑誌の売上げの一部を販売員であるホームレスが受け取る仕組みとなっており、ホームレス支援に貢献するビジネスとして成立しました。
この事業は全国展開を行っているほか、基金を設立してホームレスの人々の生活全般を支える活動も広がっています。
障害者の就労支援や学習支援サービスを展開
こちらは、心身に障害を持つ人に対し就労支援を行ったり、学習に支障がある子どもに合わせたプランを提供する学習塾を展開したりなどの事業を展開しています。
事業を通して、障害者をはじめ様々な人々が社会で豊かな人生を送るためのサービスを行っている会社です。
小さな町の高齢者とともに歩むビジネス
高齢化が進む小さな町で高齢者とともに行う事業が、豊かな自然から採取できる花や葉、山菜などを日本料理の彩りとして使用するための商品とし、販売するビジネスです。
地方の特徴と高齢者の就労をうまく組み合わせたビジネスであり、確実に売上げを伸ばしています。
新たな人材を迎え農薬不使用の農産物を販売
これまで農業に携わっていなかった新たな人材を農家として迎え、農薬や化学肥料を使わずに栽培した農産物を販売する事業では、今後の農業の発展を見越したビジネスとして成功しています。
さらに、海外への進出により貧困層の人々への就労支援も行っています。
日本人社会起業家が立ち上げた国内企業を紹介
ここからは日本人社会起業家が立ち上げた国内企業を3社ピックアップして詳しく解説します。
- 株式会社ユーグレナ 出雲充氏
- 株式会社マザーハウス 山口絵理子氏
- 株式会社ボーダレス・ジャパン 田口一成氏
それぞれの企業が、日本国内でどのような社会問題に取り組んでいるのかみていきましょう。
株式会社ユーグレナ 出雲充氏
出雲充氏は、貧困による栄養失調問題を解決するために「ミドリムシ」に注目し、株式会社ユーグレナを起ち上げました。
※ユーグレナの和名:ミドリムシ
同社では、バングラデシュの子どもたちや難民への支援をはじめ、ヘルスケア事業・バイオ燃料事業・バイオインフォマティクス事業を展開しています。
栄養豊富なミドリムシの商品化やサステナブルな社会を実現するための燃料「サステオ」を開発。
また、高齢化社会において健康寿命を伸ばすことを目的に掲げ、生物学の視点から遺伝子解析サービスを提供しています。
「自分たちの幸せが誰かの幸せと共存し続ける方法」をゴールに見据え、同社は現在も「Sustainability First」な社会の実現に取り組んでいるのです。
株式会社マザーハウス 山口絵理子氏
山口絵理子氏は途上国の貧困問題に注目し「途上国から世界的なブランドをつくる」ために、株式会社マザーハウスを起ち上げました。
同社では、途上国に存在する独自の素材を利用してモノづくりを行い、バッグ・ジュエリー・服など、さまざまな商品を世界に届けています。
途上国の発展に留まらず、その国が持つ魅力を世界に向けて証明するために、商品・ブランド開発を行っているのです。
6つの生産国と4つの販売国にまで幅を広げており、最近では世界的なブランドを目指してパリへの進出にも挑戦。
大きな目標を掲げつつ、生産現場の環境を整えることや被災地への支援など、現地の声にも耳を傾けたソーシャルアクションも行っている企業です。
株式会社ボーダレス・ジャパン 田口一成氏
田口一成氏は、貧困や差別・環境問題などの社会問題を解決するために、社会起業家が集うプラットフォームカンパニーとして、株式ボーダレス・ジャパンを起ち上げました。
同社の事業では、国内外で貧困や児童労働問題に取り組みつつ、社会起業家を育てることにも注力しています。
その根底には、多くの社会問題を解決するためには、1人でも多くの社会起業家が必要だという考えがあります。
同社は社会起業家の共同体として、社会の模範企業となり、いい会社を増やし、いい社会を実現することをソーシャルビジネスを通じて目指しています。
まとめ・社会起業家は社会問題に取り組む革命家でもある!
社会起業家とは、社会問題の解決に向けた事業をビジネスとして展開します。
起業を考えている人の中で、社会問題の解決について力になりたいと考えている人がいれば、社会起業家として動き出すのもひとつの方法です。
これを事業として成立させるためには、ビジネススキルも必要ですが、社会起業家が持つべきものは社会貢献したいという大きな志と情熱です。
その志に共感する仲間が増えれば、ビジネスとして成功していくのではないでしょうか。
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(編集:創業手帳編集部)