スマート農業とは?導入のメリットや取組事例をわかりやすくご紹介

創業手帳

スマート農業で農業分野の問題点を解決!


農業分野では、人手不足や生産性の向上、農作物の品質向上など、様々な課題・問題点を抱えています。
それらの解決に向けて、ロボットやデジタル技術を用いたスマート農業を導入する農業経営体が増加傾向です。
スマート農業の導入を検討する際には、特徴や効果を理解しておくことが大切です。

今回は、スマート農業を導入するメリットやデメリット、実際の取組事例などについてわかりやすく解説します。

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スマート農業とは?ロボットやAIなど最新技術を活用する農業


スマート農業とは、ロボットやAIなどの最新技術を用いた新たな農業スタイルです。
農業は人手が求められる作業が多くありますが、最新技術を組み合わせることで効率化や生産性の向上を図れます。
まずは、スマート農業の目的や推進される背景、期待できる効果についてご紹介します。

スマート農業の目的と推進背景

スマート農業の主な目的として、以下のようなことが挙げられます。

  • 現役農家の生産性向上
  • キャリアが浅い農家でも安定した生産量の実現
  • 安心安全な食の提供

自営で農業を行う基幹的農業従事者は減少傾向にあり、高齢化が進んでいる状況です。
農業の担い手の確保が難しい中で農作物を生産していくためには、最新技術を活用した作業の自動化が求められます。

キャリアが浅い新規就農者でも、自動化により働きやすい環境を整備し、一定の生産高を実現することが可能です。
また、安心安全でおいしい農作物を提供するためには、収集した栽培データを活用して農作業を行うことが求められます。

農家の負担軽減や農業分野の参入促進、食の安全保全といった観点から、スマート農業が推進されているのです。

スマート農業の特徴や効果

スマート農業では、農業分野におけるあらゆる課題・問題点の解決に期待できます。具体的に期待できる効果は以下のとおりです。

  • 自動化技術やロボット技術を用いて、収穫や農薬散布などの農作業を自動化
  • センサーやIoTによって農場や作物データを収集し、データをリアルタイムで共有
  • 収集したデータを分析し、農作業や人材育成などでデータを活用

農作業の自動化により作業効率を向上でき、人手不足や就労者の高齢化をカバーしたり、属人化を解消したりできます。
また、農作業に関連するデータを簡単に収集し、一元管理することが可能です。

収集したデータはリアルタイムで共有できるほか、分析して栽培計画を練ったり農作業の改善を図ったりできます。
さらに、農業に関する技術やノウハウをデータとして蓄積し、人材や後継者の育成に活用できます。

スマート農業で取り入れられている技術


スマート農業で導入されている主な技術は、ロボット・AI・IoTの3つです。これらの技術の特徴をご紹介します。

ロボット

ロボットを使うことで、人の手で行っていた作業の一部を自動化させることが可能です。

例えば、ロボットトラクターには人が搭乗する必要はなく、カメラやセンサーによって自動操縦され、種まきや収穫などの作業を任せられます。
また、重たい荷物の運搬や収集した農作物の選果、箱詰めに対応するロボットもあります。

農業用ドローンもスマート農業では定番のものです。決まったルートを自動飛行し、農薬や肥料の散布ができます。
カメラ撮影による生育データ収集や、病害虫の診断なども可能です。

AI

AIは大量のデータを学習し、農作業に関するデータの分析や活用に役立つ技術といえます。

例えば、作物の育成データを学習することで、作物の形状や色から成長度合いを分析し、ベストな収穫時期の予測や判断をサポートしてくれます。
また、画像分析により病害虫が起きる可能性がある場所を検知し農薬散布をすることも可能です。
さらに、過去の気象情報や農地の情報を収集・分析して、その土地に合わせた栽培計画を立てることにより、生産性の向上や農作物の精度向上を目指せます。

ビッグデータ

農地の撮影やセンサーで集計したビッグデータは、AI同様に栽培管理や生産管理に役立てることが可能です。
気象データや人工衛星によるビッグデータを分析すれば、栽培状況の現状やリスクの予測なども容易に行えるようになります。
ロボットやAIなど他の技術と組み合わせれば、高精度かつ効率の良い農業を実現できます。

IoT

IoTとは、様々なものがインターネットでつながる仕組みを意味する技術です。
農業に取り入れることで、市場の動向や消費者ニーズを理解し、需要に見合った農作物の生産を実現できるようになります。

また、IoTを活用すれば情報を素早く共有することが可能です。
生産・流通・販売までの一連の過程で連携を図り、輸送コストを抑えながら効率良く消費者に農作物を届けられるようになります。
スマートフォンなどを使って、農業従事者の作業記録をリアルタイムで共有することもできます。

スマート農業を導入するメリット


農家がスマート農業を導入することには、様々なメリットがあります。具体的なメリットは以下のとおりです。

作業の省力化につながる

スマート農業を導入することで、作業の省力化につながります。
機械やロボットによって収穫や散布の作業を自動化できるため、少ない労働力で農作業を行い、作業時間を短縮できます。
機械やロボットであれば、人的なミスを防いで作業の正確性を向上させることもメリットです。

また、ネットワークに接続されたカメラで農作物の状態をチェックできます。
さらに、AIによって収穫時期を判断し、作業をロボットに任せる体制が整えられるため、大幅な省力化になります。
人手が足りずに悩んでいる農家は、スマート農業の導入により労働力不足を解消できるかもしれません。

コストを削減できる

労働力や資材、生産といった農業に関するコストを削減できることもスマート農業のメリットです。農作業の省力化を実現できれば人件費を減らせます。
農薬や肥料を撒く際に、センサーやデータの分析で適切な使用量を把握できれば、資材コストの削減につながります。

また、データをもとに栽培計画や正確な在庫管理ができるようになれば、生産効率を最大化しながら過剰在庫を回避し、生産コストを減らすことが可能です。

生産性を向上できる

種まきや収穫は単純作業ですが、それなりに手間と時間がかかります。すべて手作業で行えば生産性が低下する可能性があります。

スマート農業により自動化できる作業を自動化させ、人の手でしかできない作業は人が行うように体制を整えれば、生産性を向上させることが可能です。
センサーやモニタリングにより作物の成長や環境をすぐに把握できることも、生産性を向上できる要素です。
生産性が向上すれば、農家の収益性が高まると同時に、国内の食料自給率の向上に貢献できます。

農作物の品質を向上できる

スマート農業によってあらゆるリスクを回避しつつ、最適な栽培方法を実現できれば農作物の品質向上につながります。

例えば、農地や作物の生育状況をモニタリングしてデータを収集して管理すれば、最適な栽培条件を導き出せます。
また、適切な水やりや温度・湿度管理などができるようになるほか、ベストなタイミングで収穫や出荷をすることも可能です。
AIを活用して病害のリスクを予測すれば、早急に対策できます。

農家の技術やノウハウを継承しやすくなる

センサーやモニタリング技術で収集したデータを活用することで、農家の技術やノウハウが継承しやすくなることもスマート農業のメリットです。
人の手で行われる農作業は、農業従事者の経験や勘が重要です。

経験や勘はデータ化しにくく、経験が浅い就農者や後継者に伝えることは簡単ではありません。しかし、スマート農業では熟練の技術やノウハウのデータ蓄積が可能です。
データを活用して育成を行えば、スムーズに技術やノウハウの継承ができるようになります。

スマート農業の導入事例


スマート農業を導入する農業経営体は規模を問わず拡大しており、成果を出している経営体も多く存在します。
ここで、スマート農業に取り組む経営体の事例をご紹介します。

スマート農業による大規模農場経営

宮城県栗原市にある農事組合法人iファームは、若手社員も十分な生産性を確保できる大規模農業経営を実現するために、スマートアシストとGNSSガイダンスを導入しました。
スマートアシストによって、社員は500筆以上の圃場をスマートフォンから確認できるように、正確な作業進捗の管理が可能となりました。
また、乗用作業機の操作に慣れていない社員もGNSSガイダンスを通じて適切な作業を行っています。

さらに、農薬散布ドローンやロボットトラクターを導入し、作業や管理の効率化や生産量や品質の向上などの成果を上げています。

ドローンとICT技術を活用した農作物の生育診断

北海道函館市の個人農家では、長ねぎの製品率向上を模索していました。
傾斜地が多い圃場であったことから土壌養分が不均一と想定され、試験的にドローンを使ってVARI測定を実施しています。

ドローンを使って圃場を上空からRGB画像を撮影し、その画像からVARI測定を行い、長ねぎの生育差をマップ化しました。
生育マップをもとに土壌を採取して分析し、生育差が生じている原因を特定して改善に取り組んでいます。
その結果、長ねぎの生育ムラが軽減され、製品率の向上につながりました。

スマート農業機械の導入による田植え作業の高精度化

三重県木曽岬町にある有限会社木曽岬農業センターは、経験の浅い社員でも田植え作業を高度化できるように直進キープ機能付田植機を導入しました。
直進キープ機能付田植機は、経験を問わず真っすぐに田植えができる機械です。

機械の活用により、社員は心的なストレスから解放され、一定の作業効率の向上も見られました。
今後も自動操舵付きトラクターや自動運転田植機を導入し、さらに稲作作業の高精度化を図っていく見込みです。

ICT気象観測装置の活用による生産安定化

山梨県甲府市で農業経営を管理する甲府市ジベ処理委員会は、ICT気象観測装置を導入しています。
甲府市はデラウェアの産地として有名であり、全国に先駆けてジベレリン処理による種なしブドウの生産に取り組んでいます。
ジベレリン処理の適期や再処理の判断には、気象の観測が欠かせません。もともとはアナログの装置を使い、毎日複数の地点を巡回して観測を行っていました。

作業にはかなりの労力がかかるため、ICTを搭載したICT気象観測装置の設置に至りました。
装置の導入後は、現地を巡回せずとも気象の観測をリアルタイムでできるようになり、大幅な労力削減につながっています。

ICTの活用による収量アップ

宮崎県西都市は、ピーマンの産地として知られています。
10年後には農家数や生産量が半減することが推測されており、産地維持対策として平均収量を16.5トンと設定しています。
その収量の実現に向けて、生産グループや普及センター、西都市、JA西都などが連携しながら、環境測定値装置や炭酸ガス発生装置を導入しました。
また、生産グループやICTコンサル会社などが集まり毎月定例会を開催しています。

定例会で分析データを共有し、環境制御や栽培管理技術の検討を行っています。
データにより収量が減少している要因を可視化できるようになり、栽培技術の改善へとつながりました。
その結果、生産グループに参加するピーマン農家の多くが、16トン近くの収量を実現しています。

スマート農業を導入する際の課題・デメリット


農家にとってメリットの多いスマート農業は、以下のような課題やデメリットがあります。

導入コストがかかる

スマート農業の導入には、農業ロボットやAI・ICTシステムなどが必要です。しかし、機械やシステムの導入に多大なコストがかかります。

最新技術を搭載した機械やシステムは、普通の農機よりも割高です。
また、スマート農業は新しい農業スタイルであることから、費用対効果の見通しが立ちにくいこともデメリットです。

IT人材が不足している

スマート農業では、ITに関する知識が必要になることがあります。しかし、IT人材はどの業界でも不足している現状です。
IT人材がいなければ、専門知識を持つ人材を雇うか、自社で人材を育成しなければなりません。そのため、スマート農業の導入の難易度は高いものといえます。

新たに作業負担が増える可能性がある

スマート農業を導入すれば、農作業のプロセスが大きく変わります。
パソコンやスマートフォンなどのデバイスから、データを入力したり分析したりするなど、新たな作業が追加されます。

これらの作業は繰り返すことで慣れますが、負担を感じることがあるかもしれません。
少しでも負担を減らしてスマート農業に取り組むのであれば、操作が複雑な機械やシステムは避けるほうが良いでしょう。

作物の味が劣る可能性がある

スマート農業で作業効率や収量を向上させられますが、作物の味が劣ってしまうこともあります。
効率化や収量アップを目指すのではなく、作物の栄養価や味にも着目してスマート農業に取り組んでいくことが求められます。
農家の本質はおいしい作物を作ることであり、スマート農業はそのための手段であることを念頭に置いてください。

スマート農業で持続的な農業システムを構築しよう

ロボットやAIなどを活用したスマート農業は、人手不足や農作業の効率化など、農業に対する様々な課題を解決できます。
スマート農業を通じて持続的な農業システムを構築できれば、食料不足や農家の廃業などを回避できるかもしれません。
ただし、スマート農業の導入には専門的な知識や膨大なコストが必要です。まずは各地のスマート農業普及センターに相談して、導入を検討してみてください。

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(編集:創業手帳編集部)

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