新規就農者として働く!取り巻く環境とサポート制度まとめ

創業手帳

新規就農者として使えるサポート制度を知っておこう


農業を始めることは、ほかの事業と同様に様々な準備が必要です。
新規就農には資金や経営のノウハウだけでなく、農業用地や農業機械などの準備があるため、尻込みしてしまう人もいるかもしれません。
しかし、新規就農者向けのサポート制度は、資金サポートからインターンシップまで数多く提供されています。
どのような制度が利用できるのかをあらかじめ調べておき、上手に活用しましょう。

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新規就農の基礎知識


農業を仕事にする選択肢は、会社で働いているとあまり生まれてこないかもしれません。
しかし、自分の力で事業として農業を経営することはやりがいがある仕事です。

農業を仕事にするために何を用意すればいいのか、どのような準備が必要なのかはあまり知られていないかもしれません。
独立して農業を始めたい、事業として農業に進出したい新規就農についてまとめました。

新規就農とは

簡単に新しく農業を始めるといっても、その事業形態にはいろいろあります。
新規就農とは、自ら農業を事業として興すことをいいます。
農業法人に就職して農業に携わる場合には、新規就農とは呼びません。
法人などで雇用されることで農業に従事するようになった人は、新規雇用就農者と呼びます。

新規就農に必要なこと

自分で事業として農業を行うとなれば、そのためのお金や設備、場所も自分で調達しなければいけません。
新規就農で必要なものを項目別に紹介します。

資金

新規就農に際してどの程度の資金を用意すればいいのか、見当がつかない人もいるのではないでしょうか。
一般社団法人全国農業会議所全国新規就農相談センターの『平成28年度 新規就農者の就農実態に関する調査結果』では、新規就農者の就農時の費用と資金確保の内容について調査しています。

この調査によると、新規就農に当たって農業のために用意した自己資金は、平均で232万円でした。
就農1年目にかかった費用は、新規参入者全体の平均で569万円と出ています。
そのうち、機械・施設などへの費用は411万円、種苗・肥料・燃料などへの費用が158万円でした。

農業は、売上げがない時期もあるため、その時の生活費や経費も考えて800万円〜1,000万円程度は用意したいところです。

さらに、酪農や畜産のように初期費用が大きくなるものもあります。
初期費用は作物によっても違いがあるため、事前に調べておくようにしてください。
費用すべてを自己資金で用意するのが難しい場合には、融資を受けることも検討しましょう。
資金調達の方法や生活資金、営農資金についてしっかりと計画を立てておくことが必要です。

農地

現在住んでいる場所が農業に向いているとは限らないため、農業を行うために農村部に移り住んで生活することになります。
新規就農として働く場合には、農地を借りる方法もありますが、賃貸住宅を借りるように簡単ではありません。

就農する地域の農地を借りるために、その土地で研修を受けたり、面接があったりする場合もあります。
農業用水や農道確保のために、その土地の人々と交渉も場合によっては必要です。
地域の円滑な関係、信頼を構築するためには、日ごろから地域の仕事やお祭りなどの行事への参加が求められることもあります。

農地への移住は、行政が空き家や住宅をあっせんしてくれているケースもあります。
移住先に自治体の制度がどうなっているか、新規就農者向けの研修制度があるかどうかもチェックしてみてください。

施設・機器

資金の項目でも説明したように、初期資金の多くを占めているのが施設と機器です。
作物によって必要となる施設や機器に違いはありますが、負担は大きくなります。
また、施設や機器はレンタルを利用したり、研修先のものを初めのうちだけ使わせてもらったりするなどの選択肢もあります。

新品にこだわらず、中古の製品を探す方法も可能です。
ただし、初期投資金額を抑えていても、いずれは故障や買い替えが必要になるかもしれません。
事業を経営するにあたって、施設や機器に使うお金は計画的に積み立てて準備しておくと安心です。

販路

農作物を作るだけでお金になるわけではありません。
収入にするための販路も新しく用意する必要があります。

販路はついつい見逃しがちですが、新規就農で用意するものの中でも特に大切です。
どのように販売するのか、どこにターゲットをおくのかは、事業計画の段階で考えておいてください。

技術

農業は素人が知識なしで成功するほど簡単ではありません。
知識がない中で無理にスタートしたとしても、試行錯誤の末に安定した収穫で利益が出るようになるまで何年もかかる場合があります。

作物の知識を得るだけであればひとりでも可能ですが、四季があるだけでなく、就農する土地によっても気候や風土が異なります。
画一的なマニュアルがあっても、その土地の特性を知らなければ成功は困難といえるでしょう。

農業に関する技術やノウハウを得るには、自治体での研修やどこかの農業に携わる法人で働きながら学ぶことをおすすめします。
将来的に独立をサポートしてくれる制度があるところであれば、よりスタートしやすくなります。
農業経験を積んで、栽培技術やノウハウを習得するようにしてください。

新規就農者の種類

新規就農は人によって働き方、立場が違います。
農林水産省による新規就農者の定義は、「新規自営農業就農者」・「新規雇用就農者」・「新規参入者」の3つを合わせたものです。
それぞれを紹介します。

新規自営農業就農者

家族経営帯の世帯員でほかの仕事から自営農業への従事がメインになった場合には、新規自営農業就農者と呼びます。
例えば、家族経営の農家で学生から農業従事者になった場合は、新規自営農業就農者です。
また、ほかの仕事をしていて、自営農業従事者に転職した離職就農者を指して使われます。

新規雇用就農者

法人などに雇用されることで、農業に従事することになった人は新規雇用就農者と呼びます。
新しく農業を始めるにあたって、農地や資金の準備が課題となるケースは珍しくありません。
新規雇用就農者であれば、資金や知識に不安がある場合でもスタートしやすくなります。

新規参入者

土地や資金を調達して、新しく農業経営を開始した経営の責任者や共同経営者は新規参入者と呼びます。
新規就農者といっても業態の違いによって働き方が違うので、自分がどれに該当するのか考えておくと良いでしょう。

新規就農者を取り巻く現状

一般社団法人全国農業会議所全国新規就農相談センターの『平成28年度 新規就農者の就農実態に関する調査結果』によると、経営面での課題となっている項目で最も割合が高かったのは「所得が少ない」で、55.9%を占めています。
さらに、「技術の未熟さ」が45.6%、「設備投資資金の不足」が32.8%、「運転資金の不足」が24.3%と続きました。

所得の少なさは、事業資金の少なさに直結します。
農業に限らず、事業を始める時には自己資金や事業資金の確保が課題となります。

新規就農者が直面している課題はそれだけではありません。
生活面での問題・課題として最も割合が大きいのは、「思うように休暇がとれない」で46.0%でした。
さらに「健康上の不安(労働がきつい)」が40.3%と続きます。
また、「集落の人等との人間関係」と挙げる人が19.5%、「交通、医療等生活面の不便さ」が16.9%でした。
移り住んで農業をスタートすることは、経済面でもプライベートでも課題があります。
どのようにして課題をクリアするのか、事前に対策を講じておくようにしてください。

新規就農者のこれからの課題

もともと農業従事者の数の減少は、長年にわたる日本の課題でした。
社会全体が高齢化していることもあり、農業に関わる人材の育成は日本において急務といえます。

政府は研修を受ける新規就農者に補助金を交付するといった取組みも行っています。
しかし、残念ながら研修を受けた人でも離農する割合は少なくありません。
所得や勤務時間などの理由で多くの人が農業を離れています。

研修をしている農家では、栽培の指導にとどまり、農業経営や機械の取扱いにまつわる研修をしていないケースも確認されました。
新規就農を増やすだけでは、農業従事者の増加につながりません。

農業に取り組む人を増やすためには、所得を確保して、労働時間の見直し、離農率を下げることが必須です。
科学技術を活用したスマート農業の導入や農地を確保しやすい制度作りも検討の余地があります。
農業に意欲を持った新規就農者たちを支えるような仕組みが求められています。

新規就農者が受けられる段階別のサポート


新しく農業を始める人に対して、様々なサポートが提供されています。
どのようなサポートが提供されているのかをまとめました。

募集

新規就農者の募集は、ウェブサイトや店舗窓口でのパンフレット配布のほか、就農相談会が開催されています。
新規就農では、事前に思っていたイメージと実際に体験した後の感想にギャップがあることもあります。
面談や就農相談会を通じて、ニーズを汲み上げ、ミスマッチを減らす取組みも重要です。
各々の新規就農者が希望する就農に向けて必要な準備をサポートします。

研修

研修は、農業協同組合や農業生産法人、研修生を受け入れている一般農家などで実施されています。
研修の内容は、作物やその土地に応じた農業技術の習得だけでなく、経営管理面にも及びます。
一定のカリキュラムに沿って就農を目指したサポートです。

就農

就農にあたって必要なサポートはたくさんあります。
農地のあっせんから販売ルートの確保、農業機器の導入のほか、会計や税務といった知識も必要です。

また、移住して農業を始める場合には、住居の確保や地域のネットワークへの参加も求められます。
地域に溶け込み、経営が軌道に乗るまでの間は、農業協同組合の営農指導員や新規就農相談センターの職員による相談対応のサポートも活用することになるでしょう。
また、資金準備のために融資制度も有効な手段です。

新規就農者向けの支援制度を利用しよう


新規就農者の中で、資金に困る人は少なくありません。
資金が足りないからと諦めてしまう前に、国や自治体の補助金や支援制度を調べてみてください。

認定新規就農者制度とは

認定新規就農者制度は、新しく農業をスタートする人が作成する「青年等就農計画」を市町村が認定して、支援する制度です。
対象となるのは、青年(原則18歳以上45歳未満)と特定の知識・技能を有する中高年齢者(65歳未満)、それらのものが役員の過半数を占める法人です。

認定新規就農者に関連している施策はいろいろあります。
就農直後(3年以内)の所得を確保する資金として、年間最大150万円を交付する「経営開始資金」のほか、新規就農者に対する「無利子資金制度(青年等就農資金)」、農業用機械などの導入を支援する「農地利用効率化等支援交付金」などがあります。
どの支援がニーズに合うかチェックしてみてください。

農業次世代人材投資事業(経営開始型)

農業は就農してから事業が安定するまでが大変です。
農業次世代人材投資事業は、農業を始めて経営が安定するまで最大3年間に、月12.5万円(年間150万円)を定額交付する制度です。
夫婦ともに就農する場合には、夫婦合わせて1.5人分の交付が受けられます。
複数の新規就農者が法人を共同経営する場合には、新規就農者それぞれに最大150万円を交付します。

新規就農者に対する無利子資金制度(青年等就農資金)

青年等就農資金は、日本政策金融公庫農林水産事業で実施している新規就農者を応援する融資制度です。
経営改善資金計画を作成し、特別融資制度推進会議の認定を受けた事業に対して無利子で貸付けをしています。

農業経営基盤強化準備金制度

農業経営基盤強化準備金制度は、計画的に農業経営の基盤強化(農用地や農業用の建物・機械などの取得)を図る取組みを応援してくれる制度です。

農業経営基盤強化準備金として積み立てた時に、積立額を個人は必要経費に、法人は損金に算入できるようになります。
さらに、税制上の特例として、積み立てた準備金を取り崩すことや、受領した交付金をそのまま使って農用地や農業用の建物・機械などを取得した際に圧縮記帳をすることなどが認められます。

農業次世代人材投資事業(準備型)

農業次世代人材投資事業の準備型は、都道府県が認める農業大学校などの研修機関で研修を受けた就農希望者に対して、最長2年間、月12.5万円(年間最大150万円)を交付する制度です。

さらに、農業経営ビジョンとの関連性が認められ、海外研修を行う場合は国内での2年の研修に加え、交付期間を1年延長することができます。

農業インターンシップ事業

農業インターンシップ事業は、農業に関心を持っている人が現場で短期就業体験できる日本農業法人協会の制度です。
農業にまったく関わってこなかった場合、農業を仕事にしたいと考えてもなかなかイメージできないことが多いのではないでしょうか。

インターンシップとして農業を体験できる制度が設けられ、2日以上から6週間までの希望する期間で参加します。
作物ごとや地域ごとに受け入れ先を選べるので、希望する地域で実施しているかどうかをチェックしてみてください。

まとめ

農業は、作物を育てて社会に提供するやりがいがある仕事です。
しかし、まったくの素人が農業をスタートするのはハードルが高く、技術や知識のなさ、資金の面で諦めてしまう人も少なくありません。

新規就農者向けのサポート制度もいろいろなものがあるため、自身のニーズを満たすものがないかチェックしてみてください。

創業手帳の冊子版(無料)は、事業計画の立て方や創業支援制度などの役に立つ情報を多数掲載しています。起業のサポートにぜひ参考にしてください。
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(編集:創業手帳編集部)

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