個人事業主・フリーランスで年末調整が必要なケースはある?

創業手帳

個人事業主・フリーランスが年末調整する場合や確定申告との違い、年末調整の基本ルールとは


会社員だった人が独立・起業すると、会社員時代には会社がやってくれた手続きを自分でしなければいけなくなることがあります。
個人事業主・フリーランスになった人がそのことを強く感じる手続きのひとつが「年末調整」かもしれません。

会社を辞めて独立した個人事業主・フリーランスは、年末調整をする必要があるのでしょうか。必要なケースや年末調整のルールを押さえておきましょう。
また、必要がない場合には何をすべきかも知っておくことが大切です。

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この記事の目次

個人事業主・フリーランスは基本的に年末調整は必要ない


個人事業主やフリーランスの方は、原則として年末調整を行う必要はありません。年末調整は、基本的に雇用されている会社員向けの手続きであるためです。

年末調整は、会社員をしたことのある人、公務員経験のある人などに馴染みのある言葉でしょう。税金の計算に必要なもので、やらないと損をする場合もあります。

会社員や公務員から個人事業主・フリーランスに転向した人が税金の計算をする場合は、別の手続きが必要です。以下に、年末調整を行うべき人の詳細や、個人事業主・フリーランスがとるべき対応について紹介します。

会社員は年末調整が必要

年末調整は会社員の所得税・住民税の計算に必要な手続きです。つまり、個人事業主・フリーランスは基本的に年末調整をしません。
会社員は、会社がまとめて税金の計算をして納税してくれるため、年末調整を行うことになります。

ただし、中には会社員でも年末調整が必要ない人、個人事業主・フリーランスでも年末調整が必要な人など、例外もあります。
最終的には個々の状況で判断することが必要です。

個人事業主・フリーランスは確定申告が必要

会社員の年末調整にあたる個人事業主・フリーランスの手続きは、確定申告です。確定申告とは、税務署へ直接、税金の計算をして届け出る手続きです。
会社員のように会社が取りまとめることはないため、個人事業主・フリーランスは一人ひとりが自分で税金の計算と届け出を行います。

個人事業主・フリーランスの確定申告では、年末調整とは違い、誰も提出書類の手配や配付、回収などをしてはくれません。
しかし、確定申告が必要な人が申告を忘れると余分に課税されるなどのペナルティも発生するため、責任を持ち自分で管理して毎年申告する必要があります。

年末調整とは


年末調整とは、会社員や公務員など、給与所得者に必要となる納税手続きです。会社員は会社から出る給料が収入となっており、それに所得税や住民税が課税されます。
個人事業主・フリーランスは、会社に属しておらず、給与所得者ではないため、基本的には年末調整がありません

年末調整の対象者や仕組みなど、年末調整の概要について解説します。基本的な内容は確定申告とよく似ていますが、違う点も多くあります。

年末調整のやり方について、詳しくはこちらの記事を>>
年末調整のやり方が丸わかり!書き方、計算方法、注意点などを解説【令和5年版】

給与所得者に必要な納税手続き

年末調整は、給与所得者に必要な納税手続きで、正社員以外にもパートアルバイト、契約社員、派遣社員が対象です。
年末調整の手続きをするのは、雇用契約を結んでいる組織であり、派遣社員は派遣元で行うことが必要です。

給与は会社が毎月、所得税などを天引きし、それぞれの従業員に渡します。天引きした税金や保険料などは、会社が取りまとめて納めることになっています。
しかし、所得税は1年間の所得が決まらないと正確な金額は出せません。そのため、毎月の天引きは概算で行っています。

そこで、1年分の所得が決まった年末に再度計算し直し、正しい納税額を出し、過不足を調整する年末調整が必要です。
年末調整では1年間の給与所得とそれぞれの従業員の事情によって行われる所得控除をもとに計算が行われます。
ただし、パートやアルバイトなどの非正規雇用の場合には、給与総額が年末調整対象とならないこともあり、会社で年末調整をしないこともあります。

給料から源泉徴収された税金の再計算

年末調整では、給料から源泉徴収された所得税を再計算し、さらに、その計算後の正確な所得額は住民税を算出するために用いられます。
これは、確定申告についても同様で、1年間の正確な所得額を出すことで、所得税と住民税が確定する仕組みです。

所得税

年末調整では、1年間の給料から源泉徴収された所得税をあらためて再計算して調整します。
源泉徴収で天引きする所得税の金額を決める基準となるのは、給与所得の源泉徴収税額表と賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表です。

給与所得の源泉徴収税額表には、それぞれに甲欄と乙欄・丙欄(日額表のみ:日雇いの人など)があり、甲欄は扶養親族の人数で分けられた税額が書かれています。
給与担当者は毎月、扶養親族等の数と給与等の金額を従業員ごとに照らし合わせて源泉徴収する税額を決定します。
最近はソフトを用いて自動計算するのが一般的なようです。扶養親族等の数は、入社時に提出を求められた給与所得者の扶養控除等(異動)申告書で確認します。

こうして求めた税額も、個々の控除などの事情は反映されておらず、1年間で計算し直すと正確ではありません。
そのため、最終的に1年分の給料を支払った後で再計算が必要です。

住民税

住民税は、所得税のように源泉徴収しません。しかし、住民税もそれぞれの従業員から徴収して会社が支払う方法が、会社員にとっては一般的です。
各市区町村は前年の課税所得に基づいてその年の住民税を決定し、税額通知書を発行します。

住民税には、特別徴収と普通徴収という納付(徴収)方法があります。本人に代わって事業主(会社)が納付するのが特別徴収です。
特別徴収では、会社が各従業員から天引きした住民税を、給与支払い月の翌月10日までに市区町村へ支払うことになっています。

所得税はその年の給与額で納税額が決まりましたが、住民税は前年の額で決まるため混同しないように注意してください。

年末調整と確定申告の違い

給与所得者にとっては年末調整が税額を調整し、正しい納税額を納める方法ですが、個人事業主・フリーランスは自分で確定申告を行うのが一般的です。
年末調整と確定申告の主な違いは、対象となる所得や控除の種類です。

年末調整で控除や税額計算できないものは確定申告が必要となり、個人事業主・フリーランスとして得た所得以外にも確定申告が必要な所得があります。

年末調整と確定申告の違いについて、詳しくはこちらから>>
年末調整と確定申告の違いと注意点

個人事業主・フリーランスでも年末調整が必要になるケース


年末調整は給与所得者に必要な税額の計算・納税手続きですが、例外的に個人事業主・フリーランスが年末調整を行うこともあります。
個人事業主・フリーランスであっても、以下のようなケースでは年末調整をしなければいけません。
また、年末調整と確定申告の両方が必要となる場合もあるので、注意が必要です。

個人事業主がアルバイト収入を得た場合

個人事業主・フリーランスがアルバイト収入を得た場合、年末調整が必要となることがあります。
どこかの会社やお店などでアルバイト・パートなどで雇用され、給料をもらった場合には注意してください。稼いだ給料の金額によって、年末調整の必要の有無は決まります。

個人事業主・フリーランスの仕事は不安定な時もあるでしょう。
特に、起業時は取引先が少ない、売上があまりないなどの事情で、事業収入が安定せず、さらに、初期費用がかかって生活が厳しくなることも多いかもしれません。

そこで、当面の生活費などを稼ぐ目的で個人事業主でもアルバイトやパートなどをする場合があります。
アルバイトやパートで稼ぐお金は給与所得となり、年末調整の対象です。ただし、年収(所得)の金額によっては年末調整が必要ないこともあります。

年収103万円超なら勤務先で年末調整が必要

個人事業主やフリーランスが給与所得を得たら、基本的には雇用されている勤務先での年末調整が必要です。
この場合には、前述の会社員(給与所得者)と同じ扱いとなり、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を入社時に提出し、会社側が源泉徴収を行います。

ただし、年末調整が必要となるのは年収103万円をオーバーした場合のみです。
給与収入は給与所得控除と基礎控除を引くことができ、その金額がそれぞれ55万円と48万円であるため、その合計金額である103万円を控除すると課税所得が残らなくなります。
そのため、年収103万円までであれば、給与所得があっても年末調整の必要はありません。

事業所得が20万円以上の場合には確定申告も必要

給与所得と事業所得の両方がある個人事業主・フリーランスは、給与所得の額だけでなく事業所得の額にも注意が必要です。
事業所得の金額が20万円以上になると、今後は確定申告の必要性も出てくるためです。

確定申告には、通称「20万円ルール」と呼ばれるものがあり、年末調整をしていれば別に所得があっても20万円以下であれば申告は不要となっています。
個人事業主でありながら給与所得を稼いだ年は、事業の年間所得額によって年末調整で済むか事業の確定申告が必要か変わるため注意してください。

年末調整と確定申告のどちらも必要なときは、先に会社の年末調整が済むのを待ち、源泉徴収票をもらいましょう。確定申告の際に、源泉徴収票の情報をもとにして書類を作らなくてはならないためです。配布を受けたら確定申告の実施まで厳重に保管し、申告書の作成に反映させてください。

年収103万円以下で源泉徴収なしの場合は不要

年収103万円以下で会社から源泉徴収もされていない場合には、年末調整の必要はありません。アルバイトでは勤務先が源泉徴収を行わないこともあります。
年間103万円の収入であれば、控除によって課税所得は0円となるため、所得税を支払う必要はなく、年末調整も必要なくなります。

ただし、注意したいのは源泉徴収で所得税が天引きされていたかどうかです。
源泉徴収されていた場合には、余分に所得税を取られすぎていることになるため、還付を受ける必要があります。

年の途中で会社員に戻った場合

個人事業主やフリーランスとして働いてきて、途中で会社員になった場合にも年末調整の対象となります。
この場合には、個人事業主・フリーランスとしての事業収入と、その後に会社員としてもらった給料の2つが課税対象となり、確定申告もしなければいけません。

会社では、雇用されてから年末まで働いた分を年末調整し、それ以前の事業収入は会社の年末調整後、源泉徴収票を持って確定申告に行くことになります。

個人事業主・フリーランスで従業員を雇っている場合は従業員分の年末調整も必要


個人事業主・フリーランスは、自分の収入に対して年末調整するだけでなく、雇用主として従業員の源泉徴収を行い、年末調整を行うケースもあります。

個人事業主も、法人と同じように従業員を雇用可能です。従業員を雇用すれば、給与の支払いも必要となり、年末調整をする義務が発生します。
年末調整する際には、あらかじめ書類作成などが必要なので、滞りなく準備を進めてください。

年末調整を行うにあたって事前に済ませておく手続きや、年末調整の流れなどを紹介します。

「給与支払事務所等の開設届出書」を提出する

個人事業主が従業員を雇用する際には、あらかじめ「給与支払事務所等の開設届出書」を提出する必要があります。
これは、源泉徴収を行い、従業員に代わって納税するためです。
届け出をすると、税務署から所得税を納付する用紙が送られてきて、源泉徴収した税金を納めることができるようになります。

この届け出は、従業員に払う金額が少額で源泉徴収の必要がない場合や家族を従業員にする時も提出が必要です。
また、法人化して一人社長となる場合でも会社から自分の給料を支払うため、提出する必要があります。

従業員の所得税を天引きする

従業員の年末調整をする個人事業主は、毎月支払う給料から源泉所得税を天引きします。天引きした分は預り金で仕訳しておくのが一般的です。
青色事業専従者にあたる家族を従業員にしている場合も、同様に年末調整する必要があるので、天引きしておきます。

年末調整の準備を行う

年末調整は、11月くらいから準備を始めましょう。従業員に準備してもらう書類もあるため、従業員へも早めに告知しておく必要があります。
従業員に提出を求めるのは、各種控除証明書、住宅借入金等特別控除の明細書などです。転職してきた従業員には前職の源泉徴収票も準備してもらいます。

また、その後は年末調整書類を従業員に配付、記入して提出させることも必要です。年末調整書類は以下の4種類となります。

  • 給与所得者の扶養控除等申告書
  • 給与所得者の保険料控除申告書
  • 配偶者特別控除申告書
  • 給与所得者の住宅借入金等特別控除申告書

これらの年末調整の準備は、旧来通り紙ベースで行うか、電子申請で行うかを選択できます。それぞれのメリットや特徴を理解して導入しましょう。

年末調整を紙ベースで行う場合

すべての年末調整書類を紙で準備する方法です。紙ベースの場合は配布・回収・確認といった工程に時間がかかるため、余裕をもって取り組む必要があります。

紙ベースのメリットは、従業員のITリテラシーを問わないことで、手続きのハードルを低くできる点です。電子申請は前提としてツールの利用方法を理解しなくてはならず、年末調整を億劫に感じる要因になり得ます。

一方で、紙での申請は税務署に用紙をもらう・郵送してもらうといった手間が生じる方法です。配布するタイミングや回収が遅れると、年末調整の時期に間に合わない恐れがあります。メリットとデメリットの両方を考慮し、総合的に判断しましょう。

年末調整を電子申請で行う場合

年末調整は、電子申請で行うこともできます。紙書類を廃止することで、配布や回収にかかるコストを大幅に削減可能です。2021年より、電子申請にともなう税務署への承認申請が廃止されたことで、容易に利用できるようになりました。

電子申請を使う場合、従業員にe-Taxなどの手続きを行ってもらう必要があります。従業員が作成した電子データをもとに、雇用主が年税額を計算する流れです。双方ともにITツールを利用するため、入力・計算の手間を縮小できます。

反面、ツールに慣れていない従業員の場合は負担が大きく、雇用主側も操作を理解しておかなくてはなりません。また、電子データのインポートといった処理も必要となるので、既存ツールが対応していない際は改修や乗り換えを検討せざるを得ないでしょう。

多くのメリットを享受できる電子申請ですが、事前に従業員の理解を得るほか、ツールの整備にも目を向けたうえで導入してください。

e-Taxの使い方について、詳しくはこちらの記事を>>
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年末調整を実施する

書類や手続きの用意が整ったら、12月分の給料を計算するとともに年末調整を実施、給料に反映させます。
還付金が発生する場合もありますが、不足分を追加で徴収することもあります。

翌年1月には、徴収した源泉所得税の納付を行いましょう。

源泉徴収票を発行する

正確な納税額を納付した後、源泉徴収票を作成・発行します。国税庁のホームページに源泉徴収票の様式が掲載されているので、ダウンロードして使いましょう。

給与の総支払額や控除後の金額、源泉徴収税額などの各項目を埋めていきます。生命保険料や地震保険料の控除額などは、従業員が作成した申告書の情報をもとに記載してください。作成後は従業員に発行して、年末調整の一連の作業は終了です。

青色事業専従者への年末調整について

青色事業専従者とは、青色申告を用いて確定申告をしている場合に、配偶者や親族を従業員として雇う際の呼び名です。青色申告専従者への給料は経費計上ができることから、年末調整が必要な給与所得者となります。白色申告では、原則的に家族への給与は経費にできず、年末調整の対象にもなりません。

青色事業専従者がいるなら、他の従業員と同じように年末調整を行いましょう。なお、青色事業専従者の制度は節税の一環にもなり、年末調整の手間を鑑みても検討の余地があります。

個人事業主・フリーランスが従業員の年末調整を怠るリスク

個人事業主・フリーランスであっても、雇用している従業員がいる場合は年末調整の実施義務があります。仮に忘れていた場合、従業員から預かった所得税を正しく納付できず、過不足が生じる恐れがあるでしょう。

また、従業員から義務を怠るような事業主であると判断され、信頼関係の悪化や離職を加速させてしまいます。事業の発展を妨げる原因を作らないためにも、従業員の年末調整は欠かさず実施してください。

従業員の年末調整を拒否した場合はどうなる?

年末調整は、法律で定められた雇用主の義務であるため、正当な理由なく拒否すれば罰則が課せられる可能性があります。場合によっては10年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金、またはそれらが併科されることもあるのです。

個人事業主やフリーランスが従業員を雇用する場合は、年末調整の義務について正しく理解し、必要性を十分に把握しておきましょう。手続きの遅延なども従業員の信用を損ねる理由になるため、計画性をもって年末調整の準備を進めてください。

まとめ・個人事業主でも年末調整が必要な場合があるため注意!

個人事業主やフリーランスにとって年末調整は基本的に必要ありませんが、例外的に年末調整が必要な人もいます。
特に、給与所得が発生した年は注意してください。また、従業員を雇用する個人事業主は、従業員の分も年末調整が必要です。

年末調整は会社員のものと思われがちですが、必要となった際に慌てないため、自分に無関係とは思わないほうが良いでしょう。

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(編集:創業手帳編集部)

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