SAVAWAY 齋藤直|万年赤字から1年で黒字転換に成功!企業再生のプロが語る事業立て直しの重要な4ステップ
外資系企業やeコマース分野で実績をあげたプロフェッショナルによる、経営状態の悪化から好転させる手法
順調に運営していた企業が経営不振に陥る原因は、市況の変化や人材の流出、キャッシュフローの悪化など、会社によってさまざまです。
ここで最も重要なのは「経営状態が悪化したときにどのように事業を立て直していくか?」に尽きます。
その事業立て直しのプロフェッショナルとして高い評価を得ているのが、ECソリューション事業を展開するSAVAWAYの代表取締役社長を務める齋藤さんです。
赤字が続いていた同社を、わずか1年で黒字転換に成功。外資系企業やeコマース分野で実績をあげ、創業社長とは異なる独自の視点をもつ齋藤さんの手法には、起業家にとって多くの学びが詰まっています。
今回は齋藤さんが同社の代表に就任するまでの経緯や、事業立て直しの4ステップについて、創業手帳代表の大久保がインタビューしました。
・ SAVAWAY株式会社 代表取締役社長
・ 独立行政法人独立行政法人 中小企業基盤整備機構中小企業アドバイザー(新市場開拓)
・ 独立行政法人 中小企業基盤整備機構 国際化支援アドバイザー
・ 独立行政法人 中小企業基盤整備機構 震災復興支援アドバイザー
【経歴】
ダンロップスポーツ、トレンドマイクロ、アディダスジャパンを経て、2005年にヤフー社へ転職、7年間EC事業のマネージメントに携わる
2012年にソニーペイメントサービスへ転職、同社、営業統括部長、営業企画統括部長
2016年 NHN テコラスEC事業戦略室長
2018年 NHN JAPANパートナー事業部長
2020年 NHN JAPANパートナー事業部長 兼 NHN SAVAWAY事業戦略室長
2021年 SAVAWAY株式会社 代表取締役社長
2016年度 独立行政法人 中小企業基盤整備機構 越境ECマーケティング支援事業ディレクター
2018年度 独立行政法人 中小企業基盤整備機構 モール活用型 越境ECマーケティング支援事業ディレクター
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
外資系企業やeコマース分野で改革を成功させた手腕を買われ、SAVAWAYに参画
大久保:まずはご経歴についてお聞かせ願えますか。
齋藤:ダンロップスポーツでキャリアをスタートさせ、トレンドマイクロに移った後、アディダスジャパンで大手スポーツ量販店、サッカー専門店などのキーアカウントスーパーバイザーを経て、直営店事業改革の責任者を務めました。
2005年にヤフーにジョイン。同社では7年間、EC事業のマネジメントに携わっています。ヤフオクの安全対策室長など、EC関連をすべて網羅し実績を積むことができました。
その後、2012年にソニーペイメントサービスへ移り、営業改革の責任者として営業統括部長や営業企画統括部長を務めています。
SAVAWAYを買収したNHNには、2016年にテコラスEC事業戦略室長として参画しました。2018年にNHN JAPANパートナー事業部長に就任したのですが、ここで一旦同社から離れています。
大久保:長年にわたって外資系企業やeコマース分野でキャリア形成されてこられたんですね。そこから再びSAVAWAYに参画された理由についてお教えください。
齋藤:ASPタイプの複数ネットショップ一元管理システム「TEMPOSTAR(テンポスター)」がマーケットに浸透せず、経営的にも事業的にも非常に苦戦していたからです。
事業売却を検討しているとのことで、約半年間で地盤を強化する必要があったんですね。その過程で「もう一度、事業戦略室長として業務にあたってほしい」と依頼されました。
そこで、2020年にSAVAWAY事業戦略室長に就任して事業改革に着手しました。
大久保:事業売却業務にも携わったそうですね。その後、社長にご就任されたのでしょうか?
齋藤:はい。現在の親会社である株式会社イード代表取締役の宮川さんから声をかけていただきました。
こうした経緯で、2021年7月にSAVAWAYの代表取締役社長に就任しました。
それまでずっと赤字続きでしたが、初年度から黒字転換に成功しています。弊社の強みを活かし競合他社との差別化を図ると同時に、コスト関連まですべて細かく見直し、活用できるものと削減できるものを見極めながら管理して成果を出すことができました。
多くの企業を軌道に乗せたプロ視点で見た、SAVAWAYが苦戦した理由と改革のポイント
大久保:SAVAWAYが苦戦していた理由についてお教えください。
齋藤:マーケットの動向や競合他社の展開を分析しながら対策を打ち、市場シェアを伸ばすといったことが一切できていなかったからです。過去の成功体験にとらわれ、いつまでも成功時の手法を変えられず、ずるずると来てしまっていたんですね。
SAVAWAYは創業者が運営していた時代に、「サバスタ」というヒット商品を生み出しています。複数ネットショップ一元管理システムの老舗だったため、先行者利益のメリットや市場の機運にうまく乗ったことで一気に浸透しました。
しかし当然のことながら当時と現在では市場環境やお客様のニーズが変わっていますし、「サバスタ」と後継プロダクトの「TEMPOSTAR」では、そもそも仕様も大きく異なります。
ところが、いつまでも「サバスタ」時代を引きずっていたんです。緻密な分析を行い、市場環境やお客様のニーズに対応できる施策を立案して、的確に実行していかなければ結果が出るわけがありません。自らが世の中の進化に対応できるように脱皮することができていなかったんです。
大久保:これまでさまざまな改革を行い成果をあげてこられた齋藤さんは、事業立て直しのプロフェッショナルです。その視点でSAVAWAYを見て、軌道修正するために着手されたポイントについてお聞かせいただけますか。
齋藤:実は本質的なことをやっただけなんです。ただしこの当たり前ができている経営者や部門責任者がどれくらいいるか?というと、ものすごく少ないんですね。
まず自社製品の特徴をとことん理解すること。それから他社製品と比較し、共通している要素と差別化できる違いについて明確に把握すること。そして顧客に伝えたい自社製品の魅力や強みをすべて整理し、きちんとストーリーとして描きながら実行すること。そのうえで、製品の導入(購入)をご検討いただくお客様とのタッチポイントにおいて、そのストーリーをしっかり伝える環境を整備すること。
私はこうした基本的かつ確実に結果を出すことができるポイントをおさえながら実績をあげてきましたので、非常に重要な項目だと進言させていただきたいです。
1年で黒字化!企業再生のプロが語る、事業立て直しを成功させる重要な4ステップ
大久保:SAVAWAYの事業立て直しについて、どんなふうに成功されたのか具体的にお教えください。
齋藤:手法を大きく分けると4ステップです。効果が出るよう、ひとつずつ進めていきました。
- 事業立て直しを成功させる重要な4ステップ
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- ステップ1:会社の歴史を紐解き「なぜこういう変遷を辿ってきたのか?」という原因を明確化すると同時に、事業領域を広くとりながら分析を行う
- ステップ2:競合他社とのサービス比較とカスタマージャーニーの分析を行い、ユーザー視点に立ってプロダクトの選び方の仮説を立てる
- ステップ3:ユーザーのニーズに応えられていない原因の洗い出しなどを行い、「あるべき理想像」を描いて現状とのギャップを施策に落とし込む
- ステップ4:会社の実情やプロダクトに関する問題点などを従業員全員に認識してもらうために、ハンズオンで理解を促しながら意識改革を行う
ステップ1:会社の歴史を紐解くと同時に、事業領域を広くとって分析を行う
大久保:まずはステップ1からお聞かせください。
齋藤:先ほどお話しした通り、SAVAWAYは「サバスタ」の成功にとらわれていましたので、最初にSAVAWAY設立から現在までの歴史を紐解き、重要なポイントを細かくピックアップする作業に注力しました。
「なぜこういう変遷を辿ってきたのか?」という原因を明確にすることが目的です。そのため、時代ごとのマーケット動向も同じようにおさえていきました。
そのうえで、マーケットやECの動向だけでなく、さらに事業領域を広くとりながら分析し、「どこに、どんなチャンスが眠っているか?」を探る作業を行いました。
大久保:広範囲にわたって分析を行う理由についてお聞かせください。
齋藤:複数ネットショップ一元管理システムはその特性上、あらゆるシステムと繋がっているからです。わずかでも関わる可能性がある市場や分野をすべて調査し、綿密に分析することが大切ですので、事業領域を広くとっています。
歴史を把握するだけなら、マーケットとEC業界だけでも構いません。ただし、新たにどのように取り組まなければいけないのか?という戦略策定をするときには、EC業界だけではなく、たとえばPOSレジや物流領域などの事業や運営を支援する市場まで注視する必要があります。
ステップ2:競合他社とのサービス比較とカスタマージャーニーで仮説を立てる
大久保:ステップ1にて「なぜこういう変遷を辿ってきたのか?」という原因を究明すると同時に、事業領域を広くとって分析を行いました。続いてステップ2についてお教えください。
齋藤:競合他社との製品やサービス比較を徹底して行い、細かく分析しました。主にサービス展開の手法や、製品を比較したときの機能の違いを洗い出します。
次に競合他社の営業展開の手法について情報を収集し、整理しながら分析しました。WEBや独自販路、アライアンス、紹介代理店展開など、どのように仕掛けているのかすべて確認しています。
大久保:自社を抜本的に改革するためには競合他社を知る過程が欠かせませんよね。
齋藤:おっしゃる通りです。ひたすら細かく情報収集しながら緻密な分析を重ねる作業は不可欠ですね。
そのうえで、複数ネットショップ一元管理システムをお客様が選ぶ際のポイントや比較基準について情報を集めながら分析しています。近年盛んに提唱されているカスタマージャーニーですね。たっぷりと時間をとりながら行いました。
このときに無料ツールを活用しながら競合のWEBサイトの解析も実施しています。「どんなキーワードで、どのようなルートからアクセスしているのか?」なども含めてすべて調べました。
そこから「お客様にはどんな背景があり、どのような理由で製品やサービスを比較検討している」などの仮説を構築。その結果として「お客様は複数ネットショップ一元管理システムを選ぶ際にこのような理念や観点を踏まえて選んでいる」という選び方について特定しました。
ステップ3:「あるべき理想像」を描き、現状とのギャップを施策に落とし込む
大久保:次にステップ3についてお教えください。
齋藤:ステップ2で立てた仮説と、お客様の製品の選び方を踏まえ、弊社の製品や営業手法、カスタマージャーニーなどをすべて照らし合わせながら「お客様のニーズに応えられていないのはなぜだろう?」という原因究明にあたりました。
このプロセスとともに、「お客様のニーズに応えられているにもかかわらず、きちんと強みを発揮できていないポイントはなにか?」についても特定しました。
大久保:ここまでの過程で、ひたすら情報収集・整理・精査・分析を繰り返し行っているんですね。
齋藤:はい。かつ蓋然性をしっかりと担保しながら進めています。
その結果、弊社の「TEMPOSTAR」は競合他社の製品と比較すると差別化要素が大きい製品であることがわかりました。
そこでこの「TEMPOSTARならではの特性」を軸に、市場に打ち出していくための戦略を策定。「こういうことを実現していくべきだ」というあるべき理想像を構築していったんです。
そのうえで内部分析した結果と比較しながら、「理想に対して現状はどうなっているか?」のギャップをすべて施策に落とし込んでいきました。
ステップ4:ハンズオンで従業員全員に実情と問題点を認識させ、意識改革する
大久保:最後のステップ4についてお教えください。
齋藤:会社の実情や製品に関する問題点などを従業員全員にきちんと認識してもらうことを目的に、それらを共有および説明を繰り返し理解を促しながら意識改革を行いました。
特にマネージャー陣には「このまま成功体験に縛られて脱皮できずにいるなら、生き抜くことはできないよ」と、はっきりと言葉にして伝えています。
大久保:最終的に会社や事業の立て直しの成功を左右するのは、従業員一人ひとりの意識改革といっても過言ではありませんよね。理解を促すにあたってコツがあればお聞かせください。
齋藤:私自身も率先してハンズオンで進めるようにしていることです。
新たなトライをしようとしても、従業員に知識と経験が足りない場合はアウトプットがうまくできないことも多くなります。インプットだけですと知識を得ただけに過ぎませんので、自在にアウトプットできるようになることが大切なんです。
そのためにも私が自ら手本を示して進めていく必要がありました。
弊社は規模的に中小企業ですので、人員もそこまで多くありません。だからこそなおさら社長が描いた絵を共通イメージとして浸透させるには、現場に任せるだけではなくてハンズオンで背中を見せていかないとなかなかうまくいかないんですね。
大久保:素晴らしい改革手法ですね。先ほど「本質的なことをやっただけ。ただしこの当たり前ができている経営者や部門責任者はほとんどいない」とお話しいただきましたが、その通りだなと痛感しました。
齋藤:「実践できていないな」と感じた方々は、意識しながら取り組んでいくと変わってくると思います。
それから、従業員一人ひとりに共有してほしい行動基準として最も重要なのは「競合他社と比較して、お客様にとって意味のある、かつ差別化された価値を提供できているか?」を常に自問自答やディスカッションしながら業務にあたるということ。
これはプロダクトだけではなく、営業やカスタマーサポートの手法や在り方などすべてにおいていえることです。「あなたがいま取り組んでいる仕事は、差別化された意味のある価値の創造と提供につながっているか?」と。
こんなふうにその都度、原点に立ち返るよう繰り返し声をかけながら意識改革しました。
加えて「目指すべきゴールはこれだ」と将来的に実現したい世界観を示しています。そのゴールに向かいながら「実現できていないのはなぜだ?」という分析もセットで必須にしています。
プロ経営者が指南!会社経営を成功させるために起業家が気をつけたいポイント
大久保:事業立て直しのプロである齋藤さんのお話には、創業者が軽視しがちなゆえに失敗しやすい課題を克服するための答えが詰まっていて、すべてが金言だと実感しました。起業家に向けて、事業運営するうえで気をつけたいポイントについてお教えいただけますか。
齋藤:ステップ4でお伝えした、会社の実情やプロダクトに関する問題点などを全員に共有して浸透させることです。
そしてそれを実践するためにも、前段階のステップ1からステップ3が欠かせないんですね。
私はこれまでのキャリアでも「現状や問題の把握と周知」を実践してきました。「このままでは幸せになれないし、生き抜くことはできないよ」とはっきりと伝えることが重要だからです。
創業社長はどちらかというと精神論で進めてしまう傾向があるというか、現状や問題を把握するための情報収集や分析ができているようでできていないというケースがものすごく多いのではないかと思いますが、いかがでしょうか?
大久保:確かに「これが正義なんだ!死ぬまでやるんだ!」というふうに突っ走りがちになってしまいますよね。
齋藤:そうではなくて、「合理的に勝利する状況を作ることができないと幸せにはなれないぞ!」と明確にすることが大事ですね。
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(取材協力:
SAVAWAY株式会社 代表取締役社長 齋藤 直)
(編集: 創業手帳編集部)