フライヤー 大賀康史|知的生産性向上には「強み・興味・学び」が不可欠!本の要約サービス「flier」が成功した要因に迫る

創業手帳
※このインタビュー内容は2023年04月に行われた取材時点のものです。

本の要約サービスのパイオニアが語る、「ヒラメキ溢れる世界をつくる」ための事業へのこだわり


ビジネスパーソンが知識や教養をインプットしたり、キャリアやスキルをアップさせるために欠かせないのが、ビジネス書をはじめとする書籍です。

ところが、多忙なために本を読むことはおろか、選ぶことすらできないと悩む方が少なくありません。

こうしたニーズに応え、人気を集めているのが本の要約サービスです。注目の新刊や名著を厳選し、重要ポイントをまとめて10分で読めることから「自分に合った本と出会うことができる」と年々評価を高めています。

現在市場にはさまざまな本の要約サービスが出回っていますが、先駆者であり最も浸透しているのがフライヤーが提供する本の要約サービス「flier(フライヤー)」です。

同社は「ヒラメキ溢れる世界をつくる」をミッションに掲げ、あらゆる人が気軽に、信頼できる知にふれられる世界の構築を目指しています。

今回は代表取締役CEOを務める大賀さんの起業までの経緯や、長年成功を続ける要因について、創業手帳代表の大久保がインタビューしました。

大賀 康史(おおが やすし)
株式会社フライヤー 代表取締役CEO
早稲田大学大学院理工学研究科機械工学専攻修了。2003年にアクセンチュア(株)製造流通業本部に入社。同戦略グループに転属後、フロンティア・マネジメント(株)を経て、2013年6月に株式会社フライヤーを設立。著書に『ビジネスエリート必読の名著15』(自由国民社)、『最高の組織』(自由国民社)、共著に『7人のトップ起業家と28冊のビジネス名著に学ぶ起業の教科書』(ソシム)、『ターンアラウンド・マネージャーの実務』(商事法務)がある。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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読書に没頭する学生時代を経て、多忙な社会人生活で本の要約サービスを考案

大久保:御社は本の要約サービス「flier(フライヤー)」を世の中に登場させ、先駆者として長年業界を牽引されていらっしゃいます。そこでまずは大賀さんと本との接点からお聞かせ願えますか。

大賀:私が初めて本を読むようになったのは小学3年生の頃です。歴史ものが大好きで、偉人の人生を追いかけることができる本に魅力を感じました。

特に乱世における武将の判断が面白く、戦国時代や明治維新を中心に、図書館にあった歴代の偉人の物語を読破する幼少期を過ごしたんです。

戦国ゲーム「信長の野望」なども熱心にプレイしていたくらい、私にとって戦国・明治維新をテーマにした媒体は欠かせない存在でした。

大久保:その後、軍師の存在にも惹かれるようになったそうですね。

大賀:はい。武田信玄や羽柴秀吉の成功の裏には、それぞれ山本勘助と黒田官兵衛が存在します。日本以上に軍師が活躍した中国では、諸葛孔明や張良などの著名な戦術家がたくさんいました。その人物たちがいずれも魅力的だったんです。

いつしか表に立つ武将より、戦略を策定し軍を動かす裏方の軍師に憧れるようになって、今度は軍師が登場する本を読み漁るようになりました。

大久保:熱心に本に親しむ学生時代を過ごされたんですね。そこから「flier」の構想に至ったきっかけについてお聞かせください。

大賀:大学院時代に海外の論文に多く目を通す必要があり、そこで初めて論文の概要にあたるアブストラクトやサマリーに触れたことがきっかけです。

大学院では主に環境に優しい自動車エンジンの研究をしていて、その過程で海外の研究論文を読む機会が多かったんです。

当然のことながらすべて英語で執筆されているのですが、実は英語が大の苦手でして(苦笑)。なのに膨大な論文を読まなければならない。ところが苦労しながら読んだのに、自分の研究内容とはまったく関係ないなんてこともザラだったんです。

そんなときに気づいたのが、アブストラクトやサマリーの存在でした。数ページにまとめられ冒頭に掲載されていますので、「この部分をきちんと読むだけで、論文が伝えたい主張や、自分の研究分野への関わりの有無がわかる。ものすごく便利だな」と。

大久保:それからアクセンチュアなどでコンサルタントとして働くなかで、よりサービスの必要性を実感されたそうですね。

大賀:はい。読むべき本が見つけられないほど多忙だったので、「本の要約サービス」が一番必要だと感じました。同時に「多くの社会人の役に立つサービスになる」と確信しました。

こうした経緯が起業への大きな原動力となり、2013年6月にフライヤーを設立し「flier」をリリースしました。

出版業界と二人三脚!「flier」の役割は、本の素晴らしさを知るきっかけの提供

大久保:事業内容が本の要約サービスですので、許諾などあらゆる面で慎重に進める必要がありますよね。起業当初はご苦労されたのではないでしょうか?

大賀:当然ながら著作権などの権利の許諾をいただきながら進めなければいけないと確信していましたので、出版業界との二人三脚を心がけました。

確かに最初のうちはどの出版社でも「そのサービスはメリットがあるのか?」と疑心暗鬼でしたので苦労はしました。

ただ事前に弁護士にも確認しましたが、やはり「きちんと許諾を取ったほうがいい」と。弊社では1冊目から「許諾を得る」「誠実に対応する」を徹底し、少しずつ出版社のご協力を得ながら軌道に乗せていきました。

大久保:サービスが浸透するにつれて、強固な信頼関係で順調に成長されたそうですね。

大賀:おかげさまで「flier」は「本の素晴らしさを知るきっかけを提供する」という役割で認識され、多くの出版社や著者の方々とお付き合いさせていただいています。

私自身もそうなのですが、人は興味が湧いたものに対しては、より詳しく知りたいと思うものです。記事の一部を無料で解放するメディアの意図はそのようなところにあると思います。

弊社の「flier」を通して要約が読まれることにより、結果として本に触れる機会が増え、売上が伸びることにつながります。日々そのための努力を続けてきて、出版社のご理解を得られたと思っています。

大久保:市場には膨大な量の本が出回っていますので、そのなかから探すのは大変だからこそ御社の存在意義が高まったわけですね。

大賀:はい、なにしろ年間約7万冊が発売されていますからね。

そういう宝の山から「自分に合っていたり、興味が持てそうだったり、信頼性があるのはどの本か?」を知ることは、書籍購入における重要なファクターだと考えています。

大久保:要約の質自体にもこだわっていらっしゃるそうですね。

大賀:創業時から変わらず「要約にも学びがないといけない」という方針を貫いてきました。

人は学びがないものには、たとえ10分でも費やしません。いくら「本とのきっかけを作る」といっても、「自分にとって勉強にならなかった」となると継続は難しいんですね。

そのため、「flier」では「およそ10分間で読める要約だとしても、魅力的な読み物として提供すること」をポリシーとして定めています。

良質なサービスとして高評価!「flier」の成長を支える要約執筆担当者の共通点

大久保:「flier」が良質なサービスとして成長した大きな要因は、やはり要約ではないかと思います。そこでこの要約の作成をご担当されているのはどんな方か?についてお聞かせください。

大賀:弊社の要約の執筆担当者には3つの共通点があります。

まず1つ目は、ジャンルに精通したプロフェッショナルであることです。

その分野に強い人間が執筆したほうが、非常に優れた要約になります。「flier」は幅広いジャンルを網羅していますので、この観点から得意領域が異なるライターに協力いただいています。

現在のライターは約50名です。哲学に強い方もいれば、マーケティングに強い方もいらっしゃいます。ベンチャービジネスやテクノロジーなど、それぞれ能力を発揮できる分野が多様なんです。

各ライターが強みを活かせる領域で執筆していますので、出版社や著者、ユーザーから継続して高評価を得ることができています。

大久保:まず書籍の内容を読み込むにもベースとなる知見が必要とされますし、得意分野でお願いしたほうが断然良いということなんですね。続いて、2つ目についてお教えください。

大賀:2つ目は、本を執筆できるレベルのライティング力を擁していることです。

創業当初の要約作成は創業メンバーで担当していたのですが、次第に経験とライティングスキルの高い方が「お手伝いしましょうか?」と名乗りをあげてくださるようになりました。

たとえばアクセンチュア時代の同僚が「退職して子育て中なので、せっかくだし知見を活かしたい」と声をかけてくれたんです。徐々に彼女の友人にも広まり、続々とお声がけいただけることが増えました。

こうした流れで確かなキャリアと執筆能力がある主婦の方をはじめ、引退された元新聞記者や、出版社でご活躍された元編集者などが集まってくださったんです。副業可能な大手企業で働く方もいらっしゃいました。

この執筆担当者のライティング力に関しても、各方面へのクオリティ担保として現在でもこだわり続けています。

大久保:能力のある方が執筆されると高い品質が提供できますので、要約作成において重要なポイントですよね。最後の3つ目についてもお願いします。

大賀:3つ目は、執筆担当者は全員「本が好き」「本に興味がある」ということです。

やはり好きなことや興味があることのほうが、人は前向きに継続しやすくなります。自分の才能が開花したり、能力を発揮しやすいという点においても重要な要素です。

とりわけ「知」が必要とされる業務では、なおさらその傾向が強いんですね。クオリティも大きく変わってきますので、依頼側として常に意識するようにしています。

大久保:協力ライターへの依頼時だけでなく、社内の組織構築においても徹底されているそうですね。

大賀:なるべくその人の才能が活きたり、興味があったり、伸ばしたい領域の仕事をお願いするようにしています。これも創業以来、弊社の変わらない方針です。

弊社は「ヒラメキ溢れる世界をつくる」をミッションに掲げているのですが、このミッションと従業員一人ひとりの方向性が重なる部分を大切にしています。

人材採用にしても、優秀かどうかよりも「この人の人生において、フライヤーが一部でも重要な役割を持ちそうだ」と判断しながら採用しているんです。入社後、その従業員の才能が活きたり、興味があるところを見極めて配属しています。

良質な本の選び方と読み方とは?重要なのは「興味がある」と「楽しむ」こと

大久保:起業家へのアドバイスとして「良質な本の選び方と読み方」についてお教えください。

大賀:ご自身にとってプラスになる本の選び方と読み方のポイントは2つです。

まず1つ目に「どんなジャンルを選んだらいいのか?」というと、「自分が興味を持っている領域の本を選ぶ」ことをおすすめしています。

人は興味がないものは頭に入らない生き物なんですね。反面、興味があると脳内ではドーパミンが出てきます。そうすると、記憶力や思考力などが格段に上がるのだそうです。

だからこそ、まずは興味を持った領域の本をしっかりと読むこと。その結果として「知」はつながっていきますので、周辺領域にも自然と興味が持てるようになります。これまで大変そうだと感じていた分野の本もどんどん読めるようになっていきます。

「知」を蓄積してヒラメキが生まれやすくするためにも、ぜひ無理なく読書を楽しんでいただきたいと思っています。

大久保:先ほどお話しいただいた要約執筆担当者や従業員の「興味がある領域」でアサインされていらっしゃることもそうですが、確かにあらゆる面で重要なファクターですよね。続いて2つ目についてもお聞かせください。

大賀:2つ目に「どういう本を読むべきか?」についてですが、「世の中の評価が高い本を読む」を判断基準にされるとよいのではないかと思います。

なぜなら、世間で評判の良い本は売れるだけの理由があるからです。

もちろん古い・新しいは一切関係ありませんし、人それぞれ好みがありますので、ご自身の好きなジャンルで世間的に評価が高い本を読んでみてください。

大久保:大賀さんのお話を伺っていると、楽しみながら読書が習慣化しそうな気がしますね。

大賀:おっしゃる通り、読書を習慣化するためには「読む楽しさを覚える」ことが大事なんですよ。

大久保:「本を読んでスキルアップしよう!」というより「まずは楽しもうよ!」なんですね。

大賀:はい、楽しければいくらでも学べますからね。

私にとって「学び」はエンターテインメントというか「快楽」なんです(笑)。だからいくらでも続けられるし、どんどん深めたいと感じています。

人によって知的好奇心の対象は違いますので一概には言えませんが、「楽しいことをしている」くらいの感覚で学べると身につくし、役に立つのではないかなと思います。

目指すのは世界へのサービス展開!ユーザーのためにより良い価値を届ける

大久保:今後の展望についてお聞かせください。

大賀:フライヤーでは創業以来、先ほどもお話しした「ヒラメキ溢れる世界をつくる」をミッションに掲げ、この方向性をずっと継続しています。

現在では本の要約だけでなく、音声・動画・インタビューなどさまざまコンテンツを提供しており、顧客層も個人単位から法人単位にも拡がっています。

この流れを強化しながら、ゆくゆくは世界中にサービスを広めていきたいと考えています。「世界中の優れたコンテンツが、世界中に配信されていく」という世界に近づいていければ。

フライヤーのサービスを進化させながら、今後も「ヒラメキ溢れる世界をつくる」ためにより良い価値を提供していきます。

大久保:最後に、起業家に向けてメッセージをいただけますか。

大賀:起業家はもちろん事業を成功させる必要がありますが、加えて「その企業や創業者ならではの強みを活かせる事業運営を行うことが重要」です。

その会社がなくなったら他の会社によって代替されないような、オリジナリティある存在になることが大切だと思います。

ぜひご自身の会社が世の中になくてはならない、独自性と存在感のある存在になることを目指していただきたいです。

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