【第四回】異色の起業家・リモノ伊藤慎介社長 「日本の底力を活かせばイノベーションは起きる」

創業手帳
※このインタビュー内容は2015年08月に行われた取材時点のものです。

株式会社rimOnO(リモノ) 代表取締役社長 伊藤慎介氏インタビュー

【第三回】元役人の起業家が語る 「創業者が役所を効果的に活用する方法」

元経済産業省の官僚という異例の経歴をもつ伊藤慎介社長は、なぜ15年というキャリアを捨てて起業の道を選んだのでしょうか。そこには、国の未来に対する強い思いと、官僚ができることの限界がありました。「官僚もどんどん起業すればいいんですよ」。そう語る彼の目に、日本の未来はどう見えているのでしょうか。そして自動車はどう変わるべきでしょうか。お話を伺いました。(全四回)

前回を見逃した方はこちら>>
【第一回】「なぜ経産省を辞めて起業したのか?」リモノ伊藤社長の挑戦
【第二回】元官僚の起業家が描く未来の自動車社会 「今の自動車社会では高齢化時代に対応できない」
【第三回】元役人の起業家が語る 「創業者が役所を活用する方法」

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伊藤 慎介(いとう・しんすけ)
京都大学大学院修了後、通商産業省(現経済産業省)に入省。自動車、IT、航空機、などに関連する業務に従事。その後、省内でできることの限界や電気自動車の可能性を感じ、15年の勤務を経て同省を退官。2014年9月、工業デザイナーの根津孝太氏とともに株式会社rimOnO(リモノ)を設立。代表取締役社長に就き、新しいコンセプトの電気自動車開発に尽力している。

 第3回では、ベンチャー企業が社会を変えるためには公的機関や大企業との連携が不可欠であり、そのためにはステレオタイプでの見方をやめ人に注目しなければならないと語られた伊藤氏。

 最終回の今回では、今後、どのように社会を変えようとしているのか。そして、これからの日本でイノベーションは起きるのかについて伺いました。

「こんなにすごい部品を作ったんですが、何かに使えませんか?」

ー方向性としてはファブレス経営(※工場を所有せずに製造業を行う企業)になりますか?

伊藤:そうですね、ファブレスでやろうと思っています。

日本には優れたモノづくりの基盤がありますので、我々自身が工場を持たなくても、大手サプライヤーとか中小企業とか職人とか、いくらでも我々よりも優れたものを作れる人がたくさんいます。

むしろそういう人たちの力を活用した方がより魅力的な商品ができると思っています。

日本の中小企業の多くは大企業からの仕事さえあれば会社が経営できていましたが、徐々にそれでは成り立たなくなってきています。そのため新しいことに挑戦しなければならないという問題意識はあるのですが、何をやればよいのかと悩んでいるケースが多いように感じます。

そこで、我々の方からやってほしいことをお願いできないかと考えています。

多くの中小企業には優れた技術やノウハウがありますので、「こういうことをやりたい」「こういうものを作りたい」「あなたの会社の技術をこういう風に使いたい」と言えば、我々が想定していた以上のアウトプット出してくれると思います。

そこが日本の面白いところですね。お願いしたこっちが想像していたより良い物が出てくる国って、日本以外にはなかなかないと思いますよ。

3Dプリンターなどが出てきたこともあり、これからの時代は誰もが簡単に試作品を作ることができるようになります。

素人でも「こういう物を作りたい」というイメージをある程度具現化することができれば、メーカーとして起業することも夢ではないです。それをアメリカではメイカーズ・ムーブメントなんて言っています。

でも、仮に試作品ができたとしても、実際に量産して世の中に送り出すには、それを作ってくれる人が必要になりますよね。実はその時に日本のモノづくり基盤が活かせるのではないかというのが私の考えです。

新しい物の構想を持っている人と、それを実際に作ることができる人がコラボレーションしながら、世の中にはないけど消費者には面白いと思ってもらえるプロダクトを次々と世の中に送り出していく。

我々がやろうとしていることもそういうことです。そのための最初の取り組みが超小型の電気自動車なのです。

実際に、少し前に中京地域の中小企業の経営者がうちのオフィスに来られて、「自分たちの技術を磨いて、こんなにすごい部品を作ってみたんですけど。何かに使えませんか?…」と言われました。

相方の根津に見せたら、「この技術はすごく面白いですね! 何かに使えないか考えますよ」とワクワクしていました。

日本にはこういう会社がたくさんあるんですよね。そういう会社が業界や系列などの壁を越えてモノづくりができるようになると本当に日本は変わると思います。

例えば、東京都内でも、渋谷や六本木にあるITやアプリの会社が大田区のモノづくり系中小企業とコラボレーションするとすごいことが起こるんじゃないかと思います。あるいは墨田区でもいい。

でも、渋谷や六本木の人たちは「大田区は大田区で違う世界だよね」と見えてしまっているから、なかなか蒲田に行ってコラボしようということにならないわけです。

ところがシリコンバレーではこれからはモノづくりが面白いと言って、ITとかソフトウェアの分野で活躍していた人たちがこぞってモノづくりに挑戦し始めています。

でも、残念ながらシリコンバレーには大田区、墨田区、東大阪など想像を超えるアウトプットを出せるモノづくりの産業基盤がないので、日本と同じようなことはできないはずです。

ー日本は恵まれた環境なのでしょうか?

伊藤:とても恵まれていると思いますよ。Appleの部品なんてほとんど日本製じゃないですか。

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素材を生かす「ものづくりの料理人」

ーベンチャー起業にとってはいい環境ですね。

伊藤:そうですね。私はよく「ものづくりの料理人」が必要と言っています。

最近の料理人は、地方の優れた食材を発掘してきて、その食材を活かした料理をコースに組み込んだりしていますよね。そういう発想はモノづくりにとってもすごく大事だと思っています。

例えば、フルーツのように甘いトマトと巡り合った時に、それを普通のトマトだと思ってサラダやパスタに使うのではなく、あえてデザートに使えば、「トマトのジェラート」のような料理が生まれますよね? 料理やレシピありきで考えるのではなく、“素材”ありきで料理やレシピを考えると、こういう発想が生まれるんだと思います。

モノづくりの世界に目を転じると、「フルーツのような甘いトマト」のような素材は日本全国にがたくさん転がっていると思います。中小企業でも大企業でも日本の会社はそういう“素材”をたくさん持っています。

でも、多くの場合、素材を持っている側はそれをどう使えばよいか分かっていません。一方で、料理を作る方はついつい普段から使っている素材を使いがちです。

新しい素材に出会った時に、その素材を活かせるように作ろうとするものを工夫することができれば、本当に面白いプロダクトが次々と出てくるようになると思います。

そういう新しい出会いが次々と生まれるような環境をこの国に作りたいというのが私の思いです。そのために、まずは自分たちが先陣を切ろうと思っています。

ー「大田区と六本木がくっつけば」というお話がありましたが、そのあたりは役人のときに踏み込めなかった領域なのでしょうか?

伊藤:良い質問ですね。ただ、仮に「この中小企業の技術は素晴らしい!」と思うことがあったとしても、役人の私に何ができるかというと、補助金をつける、何かの賞で選んであげる、どこかの企業に紹介するといったことぐらいなんですよね。

つまり、間接的にお役に立つくらいのことしかできないわけです。それくらい役人にできることは限られているわけですよ。

ですが、我々と一緒に商品を作っていくということになるともっと具体的な話になるので、踏み込み方が全く違いますね。

ー日本製品は「値段は高いけどハイクオリティ」のような印象がありますが、今ではクオリティも海外に抜かれそうになっていますよね。

伊藤:海外にキャッチアップされそうな危機感はありますね。でも、その原因を作っているのはトップ層だと思います。

はっきり言うと、会社のトップや権力の中枢にいる人の多くは、世界レベルで比較するとレベルが低いほうだと思います。上に立つ人が賢くないから海外にやられるんですよ。

一方で、「金属を磨かせたら誰にも負けません!」というような人は、日本にはまだまだ居ますし、世界でもかなう人はなかなかいないと思いますね。

一般的に、手に職を持っている人のレベルは世界的に見ても日本はものすごく高いというのが私の見方で、そこが日本の底力だと思っています。

そういう人たちの潜在的な能力を十二分に活かすようにトップ層が動かないから、全体として海外に太刀打ちできない国力になってしまっているように思います。

更に、海外の人が世界的にも優れた日本の技術や匠のノウハウを活用して日本で新しいモノづくりをやりたいというのであれば、どんどん受け入れる国にしなければならないと思います。

そういうことが起きるようになれば、自ずと日本企業も切磋琢磨されて海外に勝てるプロダクトが生み出せるようになると思います。

サッカーだって野球だってそうだったじゃないですか?日本人選手が世界の選手と同じフィールドでプレイするようになったから、ワールドベースボールクラッシックスで優勝したり、メジャーリーグやヨーロッパの有名クラブチームで日本人選手が活躍したりするようになったんですから。

でも、残念なことに、手に職を持っている優秀な人たちは、「大手メーカーから契約を切られると、会社が潰れるかもしれない」とか、「大手メーカーが海外にシフトしているので、いつ仕事がなくなるかわからない」とか不安を抱かざるを得ない状況に置かれています。

「本当は、海外の企業ができないこともできるんだけどね」と言えるにもかかわらずです。

そこで悶々としている人たちには「だったら新しいことをやりましょうよ」と呼びかけたいですね。もし、それがうまくいったら、大手企業だけに頼らなくても日本で生き延びていけるわけですから。

更に、海外の人が日本に来て「一緒にビジネスをやりましょう」という話になれば最高じゃないですか。

成功するかどうかは誰にもわからない

ー最後に、起業家へのメッセージをお願いします。

伊藤:私自身はまだ起業して間もないので何も偉そうなことは言えません。

ただ、自分自身でも起業しながら思うことは、成功するための鉄則みたいなものは、どこにも無いということです。

起業経験がない人が、「こうやれば成功すると思います」とか、「こういうふうにやらないと失敗する」とか言ってくるかもしれません。でも、そういう話は半分しか聞いてはいけないと思います。

本当に耳を傾けるべきは、実際に体験した人の話です。その人が自らの体験した失敗話や成功話は事実なので100%聞く価値があると思いますが、体験もなく理屈だけで「起業してこうやれば成功する」と言っている人の話はあんまり説得力がないと思います。

そもそも、時代背景も業種もメンバーも会社によって全く違うのですから、成功するための鉄則なんてないと思います。

ー自分で考え、自分なりの答えを探していくことが大事でしょうか?

伊藤:そうですね。起業した人はすべてそう思っていると思います。

たとえば「課題の解決になっていないとビジネスでは成功しない」と言う人がいるわけですよ。でもそれはちょっと怪しい理屈ですよね。

iPhoneには課題を解決してくれる点がないわけではないですが、それが買うことにした直接的な理由ではないですよね。

世の中で売れているもので課題の解決になっているものもありますが、どちらかというと何かわからないけどこれが欲しいから買ってしまったというように消費者の感情で売れている動いていることのほうが多いと思います。

「課題を解決する」ということだけに注目してしまうと、非常に理路整然とした解決策を考えてしまいますが、それだけでは売れないように思います。

ところが起業家向けのセミナーに行くと、そういうことを言うコンサルタントが結構いるんですよ。でも、その人は自ら起業した経験がないからそういうことを言えるんだと思います。ですので、そういう人の話を真に受けてしまうと、事業戦略を間違えてしまうリスクがあるんですよ。

ー創業手帳も成功の秘訣のようなことは書かないようにしています。どうやって成功するかは起業家が考えると思うんですね。だから、落とし穴の部分だけを掲載しています。

伊藤:本当にそう思いますね。

ある勉強会で「facebook」のようなビジネスは仮にビジネスプランコンペティションに出たとしても絶対に優勝できないだろうと言っている人がいました。オンライン交換日記のようなサービスですし、誰でも始めようと思ったら始められそうですからね。

ところが、facebookはIPOまで行ったわけですよね。なぜそこまで行けたかというと、サービス構想そのものよりも、そのサービスを実現しようとしているチームが魅力的で、実際に周囲の人がそのチームを応援したからではないかというのが発言した方の分析でした。

したがって、全く同じ構想で誰かが「facebook2」みたいなことをやろうとしたとしても、チームが悪ければ誰も支援しないかもしれませんし、チームが良かったとしても周囲が悪ければ支援してもらえないことだって十分にありうるわけです。その場合は当然ながらfacebookのような成功は収められなくなります。

成功するか否かは、運の部分はもちろんのこと、チームや人脈の部分もありますし、時代背景も影響すると思います。要するに、成功するかどうかは、やっている本人にも誰にもわからないのです。

むしろ本当に大切なことは、成功だろうが失敗だろうが、実際に経験した人の話を聞いた上でベンチャー企業の経営者自身が自ら悩んで答えを出していくことだと思います。

勝手なお願いですが、そのためにも創業手帳には出来るだけ多くの成功事例、失敗事例を掲載してもらえると嬉しいですね。

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(創業手帳編集部)

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