【第二回】元官僚の起業家が描く未来の自動車社会 「今の自動車社会では高齢化時代に対応できない」

創業手帳
※このインタビュー内容は2015年06月に行われた取材時点のものです。

株式会社rimOnO(リモノ) 代表取締役社長 伊藤慎介氏インタビュー(2/4)

【第一回】「なぜ経産省を辞めて起業したのか?」リモノ伊藤社長の挑戦

元経済産業省の官僚という異例の経歴をもつ伊藤慎介社長は、なぜ15年というキャリアを捨てて起業の道を選んだのでしょうか。そこには、国の未来に対する強い思いと、官僚ができることの限界がありました。「官僚もどんどん起業すればいいんですよ」。そう語る彼の目に、日本の未来はどう見えているのでしょうか。そして自動車はどう変わるべきでしょうか。お話を伺いました。(全四回)

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【第一回】「なぜ経産省を辞めて起業したのか?」リモノ伊藤社長の挑戦

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伊藤 慎介(いとう・しんすけ)
京都大学大学院修了後、通商産業省(現経済産業省)に入省。自動車、IT、航空機、などに関連する業務に従事。その後、省内でできることの限界や電気自動車の可能性を感じ、15年の勤務を経て同省を退官。2014年9月、工業デザイナーの根津孝太氏とともに株式会社rimOnO(リモノ)を設立。代表取締役社長に就き、新しいコンセプトの電気自動車開発に尽力している。

 経済産業省における15年のキャリアを捨て、起業の道を選んだ伊藤氏。第1回では、起業するという大きな決断の背景にあったのは、官僚という仕事を通してできることの限界と日本の未来に対する危機感だったと語られました。

 第2回では、2014年に立ち上げた「株式会社rimOnO(リモノ)」で、何に取り組もうとしているのか、その取り組みを通じてどのような日本を実現したいと考えているのかについて伺いました。

原付きと軽自動車の中間に位置する新しいカテゴリー

ー事業内容について教えてください。

伊藤:この会社でやろうとしていることは、小さな電気自動車を作って、世の中に新しい移動手段を提供することです。ただ、自動車を作るのは結構時間がかかるので、勉強会を取りまとめたりするお仕事や、コンサルティングのお仕事など、当面の日銭を稼ぎながら開発を進めています。

なぜ小さな電気自動車を作ろうとしているかというと、国土交通省が原付と軽自動車の間に「超小型モビリティ」という新しいクルマのカテゴリーを作ろうとしていることがきっかけなんです。

原付は一人乗りで軽自動車は四人乗りですよね。その間に、二人乗りの簡便な車を作ろうというのが狙いです。

政府がこういう取り組みを行おうとしている背景には、地方でどんどん過疎化が進んでいて、公共交通機関の維持が難しくなっていることと、都会で高齢化が進み、クルマを運転できない人が増えていくと全ての移動を公共交通機関でまかなうことができなくなるだろうという事情があります。

そこで、多少ご高齢であっても、あるいは運転が得意でなくても、最低限近くを動き回れるような乗り物を作れるようにしようというのがこの制度の狙いですね。

当たり前のことだと思いますが、他の分野と違ってクルマは道路を走りますし、人を傷つけるリスクもあるので多くの規制の壁があります。

ベンチャーが新しいクルマを作るとなると多くの壁を乗り越えないといけなくなるわけですが、そういう時に国土交通省が新しいカテゴリーを作ろうとしているのは追い風だと思ったんですね。

ー今のクルマは2トンもあって、それで60キロの人間を運んでいるのですから、少々無駄が多いですよね。

伊藤:まさにおっしゃる通りで、さすがに自転車のように5kgや10kgを切る重量にすることは難しいと思いますが、できれば200kgを切れるような重量に出来ないかと考えています。

乗る人が男女だったと仮定すると合計で120kgぐらいになるので、人よりちょっと重いくらいの乗り物で人を運ぶことになります。

やっぱり、それぐらい軽い乗り物で動く社会にしていかないと、エコという意味で持続可能な社会は実現できないと思います。

それから、軽く作ること以外に我々は電気自動車にすることにこだわっていますが、それはかつて電力会社で電気自動車を推進していた方の発想にさかのぼります。その方は、ガソリン車にはない電気自動車の大きな魅力は「排ガスと騒音がないことだ」とおっしゃっていました。

確かに今のクルマは相当排ガスがクリーンになりましたし、静かになりました。でも、仮に電気自動車のように静かなクルマのみが街中を走るとしたらどう思いますか? 都心であってもオープンカフェやオープンレストランが立ち並び、天気の良い日はオフィスやおうちの窓を開けたくなると思うんですよ。そういう生活が送れるようになると毎日が豊かになった気がしませんか? 

こういう電気自動車の素晴らしさは、ガソリン車も販売している自動車メーカーはなかなか言いづらいでしょうが、我々のような専業メーカーであれば堂々と言えるんです。

それから、日本が得意とする蓄電池についてもうまく活かせることができないかと考えています。

この数年、太陽光で発電した電気を高値で買い取ってくれる制度ができたことで、太陽光発電が急速に普及しました。でも、電線の容量の問題でだんだん買い取りが厳しくなってきています。

また、高値で買い取った分の負担は太陽光を設置していない人たちが負担させられているので、一般家庭の電気代の上昇も問題になってきています。そもそも太陽光発電が問題なのは、電気を使う人がいなかったとしてもお天気次第で勝手に電気が作られてしまうことです。

そこで、電気が貯められる蓄電池を使って解決しようという取り組みが出始めています。でも、蓄電池は高価なのでなかなか一般家庭には導入できません。

我々は太陽光で発電した電気を蓄電池に貯めて電気自動車で使おうという提案をしようとしています。放っておくと捨てられるかもしれない電気を貯めて普段の移動に使う、これからはそういうライフスタイルがかっこいいと思いませんか?

なお、我々は自動車を作るって言っていますけど、実際に目指している乗り物は実は自転車に近いものです。

自転車や電動アシスト自転車は本当に優れた乗り物ですが、雨が降ると乗れませんし、二人で一緒に移動したい時や、ご高齢の方など倒れる心配がある自転車に乗るのは不安という方にとっては適さない乗り物です。

また、街中を歩いていると、電動アシスト自転車の前後にお子さんを乗せて駆け抜けていくママさんをお見かけしますが、これはちょっと危ないなと思いますね。そこで、我々は自転車が満たせない「雨が降ると乗れない」「倒れるリスクがある」「こがなければならない」「二人で一緒に移動できない」「少ししか荷物が載せられない」という部分を解決した乗り物を作ろうとしています。

つまり自転車から“あがる”乗り物に挑戦しようというわけです。決して僕らは、軽自動車とか乗用車とか、立派なクルマと頭からケンカするつもりはないんです。そもそも、勝てる相手じゃないですしね(笑)

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小さな企業体としてのメリット

ー自転車に近い立ち位置だけど、二輪ではない。

伊藤:四輪です。実は、それこそ我々が最も議論した点の一つです。

二輪は転ぶリスクがありますし、仮に転ばない二輪にしようと思ってセグウェイのようなジャイロをつけると倒れないために制御し続けることで大きな消費電力が発生してしまいます。

三輪も考えましたが、多くの人は操作に慣れていないだろうということで、結局四輪にしようと考えています。

ーそれはどこを走るのですか?

伊藤:普通の道路というか、車道ですね。歩道を走れると良いと思う方も多いかもしれませんが、今では自転車も歩道を走っちゃいけないんですよね。

だから歩道は、人を除けばシニアカーという時速6キロしか出ない乗り物しか走行を認められていない。シニアカーは「歩行補助器具器」という位置づけになっていて、歩いているのと同じ扱いなんですね。

ースピードはどのくらいを想定されていますか?

伊藤:制度上は最高速60キロぐらいまで走らせられるようになっていますが、そのあたりはお客さんのニーズと作りやすさの観点から決めるんだろうと思っています。

ベンチャーである我々が優位なのは、いろんなお客さんの声を聴いて軌道修正しながら仕様を決められることと、作り方などが決められているわけではないので自由な発想で考えられることですね。そういうことが小さな企業体としてのメリットなのではないかと思いますね。

それから最近、スマホもそうですが、インターネットやITの世界がすごく進化しているので、そういったところで得られた果実は、このクルマにも取り込んでいこうと思っています。

渋谷、六本木など、ゲームやアプリの世界には次々と面白いことに挑戦している人たちがいますが、残念ながら彼らがモノづくりに関与できる余地はまだまだ大きくないように思います。

そういう人たちとコラボできれば、更に面白い乗り物にすることができると思っています。

これからの世代が新しいモデルを構築していかないと我々の生活は維持できなくなる

ー具体的にどのようにコラボレーションしていくのでしょうか?

伊藤:具体的にどうするまでは決めていませんが、例えば自分のスマホやタブレットを持ち込めばそれがそのままナビに使えるとか、クルマのカギを電子錠にして、自分が使えないときは他人に貸せるようにするといったことはできるようにしたいですね。

でも、そんなことよりも更に面白いことを考えてくれそうな人がゲームやアプリの世界にはたくさんいそうなので、コラボレーションすること自体が楽しみです。

ー道路自体も変えるような方向性もお考えなのでしょうか?

伊藤:そういうことも是非やりたいですね。

我々が作ろうとしているのは乗り物ですから、停める場所をどう確保するか、トラックなどの大きなクルマと一緒に走らなくてよいように走る場所をどう区切っていくか、など街ぐるみで解決しなければ、多くの人に喜ばれる乗り物にはならないと思っています。

要は、21世紀に相応しい新しい交通社会を街ぐるみで作っていく必要があるわけです。もしそういうことを一緒にやろうと言っていただける自治体があれば、ぜひ組みたいと思っています。

創業手帳の読者の方が全体的に若いだろうと勝手に想定してお話をすると、これからどういう街を作っていくのか、どういう交通システムにするのか、どういう新しい産業を生み出していくのかといったことを、これからの世の中を動かしていく若い人たちが真剣に考えて取り組んでいかないと、役所も含めて世の中はなかなか変わっていかないのではないかと危惧します。

我々がこういう活動を始めることで、次の世代にとってふさわしい社会を作っていく契機にはしたいと思いますね。

今の世の中の仕組みの多くは団塊世代が構築したモデルが基盤になっていますが、未だに団塊世代が社会を動かす中枢にいるので、それが次の時代に合わなくなっていてもなかなかひっくり返せない状態にあると思います。

ただ、気を付けないといけないのは、今の団塊世代の人たちも彼らが構築してきた仕組みのままで本当に生活を維持できるかどうかがわからなくなってきているということです。

私の親はまさに団塊世代なのですが、駅から20分離れた丘の上の住宅に住んでいます。そういう団塊世代の方は日本全国にたくさんいると思います。

今はまだ若いし元気なので大きなクルマを運転できるから問題ありませんが、徐々に運転することが不安になっていくとどうやって移動の自由を担保するかは大きな問題になると思います。

今更、バス便を増やすわけにもいかないでしょうし。こういうことは日本中いろんなところで起きうる問題だと思います。本当に大変なことになりますよ。

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【第三回】元役人の起業家が語る 「創業者が役所を活用する方法」

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(創業手帳編集部)

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