レアジョブ 加藤 智久|上場時のメリットとリスクを語る

創業手帳
※このインタビュー内容は2016年08月に行われた取材時点のものです。

レアジョブ代表 加藤智久さんインタビュー

(2016/06/24更新)

格安のマンツーマンオンライン英会話サービスを中心に、英語を「話せるようになる」サービスを提供するレアジョブ。新興国に子会社を置きながら2014年にマザーズ市場上場も果たした。これまで2回に渡り、起業までの経緯や創業期に工夫したマネタイズ方法について等、代表 加藤氏のインタビューをお届けした。最終回となる第3回は、上場についてお話を伺った。
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加藤智久(かとうともひさ)
1980年生まれ、千葉県出身。一橋大学商学部卒業。外資系戦略コンサルティングファームに勤務後、2007年に株式会社レアジョブを設立。2014年東京証券取引所マザーズ市場上場を果たす。2015年株式会社レアジョブ代表取締役会長に就任。

上場時最大の困難は税務リスク

ー業務が拡大してくると、上場も踏まえフェーズに合わせて様々な問題が出てくると思います。一番苦労されたのはどんなことですか?

加藤:海外、特に新興国にこれだけビジネスに密接な子会社があって上場できた会社というのは、あまりないのではないかと思います。特に上場で苦労した部分は、法務や経理面ではなく、税務面でした。

新興国の法律は曖昧なものが多く、プロフェッショナルでも聞く人によって返ってくる答えが全く違います。そんな中で、自分たちの会社にどんな税務リスクがあるのかを把握し、一般株主の権利を守らなければならない。そこは一番苦労したところです。

ー確かフィリピンだと税金の優遇等がありますよね?認証を取られたのですか?

加藤:弊社は厳密にはそれは取れないのですが、一つの大変だった要因ですね。新興国の税務署の方というのは、基本的には自分のところの営業成績を最大にする為に、拡大解釈してでも取り得る税金を全部取るという考えの方が多いように思います。

私たちはフィリピンの発展に直で貢献できるビジネスだけれどもなと思いつつも、そんなことは考慮されません。

ー海外だと中には怪しいブローカーもいそうですね。

加藤:私たちはブローカーに頼らず、自分たちの力だけでやってしまったというところが、良くも悪くもだと思います。逆に言うと我流でやってきてしまったところもあります。それを上場の目論見書の数字にまで落とし込むというのは結構大変でした。

ーキャッシュポイントも早いことでそこまで苦労されなかったのかなという印象を受けました。資本政策について、今振り返って苦労された時期はありますか?

加藤:フィリピンの税問題があった時は、予期せぬ厳しい時期がありました。弊社の場合、上場目論見書を見ていただくと、講師の報酬の源泉税負担損失引当金という項目で一度大きな赤字を出しています。

キャッシュアウトしたわけでは無いのですが、BSで見ると結構大変なことのように見えます。ちなみに、資金調達は上場前と直後に二度、3億円程調達しています。

ー資金調達の目的はこの源泉税が理由でしたか?

加藤:その時はまだ源泉税の件は把握していませんでした。
その時は、アベノミクスで為替が激変した直後でした。うちは講師のサービスを日本円でいただいて、フィリピンペソを講師に支払うという純輸入産業です。

円のいただき方も、毎月5000円を継続するというパターンなので、円とペソの為替リスクを長期で抱えます。その時は大変ではありましたが、なんとか乗り切りました。

要件定義を絞り込んで上場責任者を採用する

ー上場準備の責任者は、最近では採用が難しいと言われています。当時はいかがでしたか?

加藤:当時も難しかったと思います。3年ぐらい探しても見つからず、ようやく見つけました。今の副社長の藤田がその責任者です。

ただ、重要なのは要件定義だろうなと思います。一度他社で上場準備をしたことがあることが重要なのか、その経験が無かったとしたら何が必要なのか。例えば、海外の子会社をマネジメントした経験が必要なのかとかですね。

当然全部兼ね備えている人ということになりがちなのですが、実際にはそんな人はいないし、いたとしてもなかなか来てはくれません。むしろ、それを複数人で分担することの方がより現実的です。そして「トップに絶対なきゃいけないものは何なのか?」という1個か2個をどう絞り込むかということが重要です。

経験上、採り難いポジションの人を採用する時は、要件定義があいまいだと絶対に採用できません。要件定義をしっかり絞り込んだ瞬間に決まるというケースが往往にしてあります。採りたい人を採ることよりも、採りたい人って誰なの?誰が原石で誰が採り得るの?というところを見定めることが重要だと思います。

上場する最大のメリットは信頼度を上げること

ー上場するにあたり、メリット、デメリットがあると思います。上場を目指すことを決定した理由は何でしょうか?

加藤:弊社の場合、上場云々というよりも教育産業でお客様の推奨、口コミが命という側面があります。それを日本に拡散するときに、提供する会社が信用できるかどうかということは非常に重要です。

最初は、KDDIさんやサイバーエージェントさん、三菱グループさんから出資いただくという形で、信頼できる株主をそろえました。しかし、さらなる信用を獲得するため、上場することに決めました。

今後はユーザー様にもレアジョブの株式を買っていただけるように、しっかりやっていかなければいけないと思っています。

ー上場後に変わったと感じることはありますか?

加藤:注目が集まっているので、自分たちの数字というのが常に見られています。ですので、他社と何か提携のような話は、すごく入り易いというメリットがあります。当然口コミも以前より増えています。

一方、デメリットはこちらの動きがある種筒抜けになっている状態になったことです。だからこそ、大道で闘って勝負するしかないですね。私たちの場合は、しっかり説明できるようにするということを、どこよりも真面目にやることで勝っていくしかないと思っています。

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日本×フィリピンから世界へ!

ー日本とフィリピンのオンライン英会話サービス以外に、何か今後のプランはありますか?

加藤:ブラジルでも同じように、フィリピン人講師によるオンライン英会話をやっています。実際に私もブラジルに行き来していて、ブラジルの方たちは日本人以上に英語を求めていると感じています。

それは、英語ができるかどうかで企業の中で昇進できるかどうかが決まっていて、格差の原因の一つとなっているからです。英語ができないと、ある一定以上から登れません。

そうすると、恵まれた家の子どもたちは、小学生あるいは中学生の頃から海外に留学に行かせてもらって英語がペラペラになって帰ってきて、結局、高収入の仕事を得ています。

でも、それができない方たちというのは、授業が崩壊している学校に行って、もちろん英語も話せませないままとなってしまうのです。

それが今、世界中で起きてしまっているということです。だからこそ、自国にいながら話せるようになるサービスというのは、日本以上に求められているなと感じています。将来的にはブラジルだけではなく、他の国でもやっていきたいと思っています。

ー新サービスなどのアイディアもあれば、教えていただけますか?

加藤:「本気塾」というのを始めました。オンライン英会話の良いところは安いところですが、悪いところは個人の自主性に任されてしまっているということです。そうではなく、料金は少し高くなりますが、強制的に学習する仕組みを「本気塾」という形で作っています。

塾生は週に一度オフィスに来ていただき、トレーナーと効率的な学習方法についてトレーニングを行います。日々の学習内容を個別でデータ管理し、より効果的に学習が進むよう、モニタリングを行い、徹底して継続させる仕組みの中で学習していただきます。

これを一人でやるのではなく、学習仲間と一緒にやっていくというプログラムです。もちろん、毎日のオンライン英会話のレッスンは「本気塾」の時間以外にしっかりと受けていただきます。

三ヶ月やるだけで、英語力というのはかなり上がる実感があります。ですので、特にいつまでにこういう目的で英語を話せるようになりたいけれども、一人ではできないという人たちにお勧めです。

ー教育は結構お互い切磋琢磨してというように、モチベーションを保つ意味で学校の存在が大きそうですね。

加藤:そうですね。本質的なのは、切磋琢磨とかモチベーションのところであって、一つ一つの英単語の知識とか英文法とか、それで話せるようになるかというのは、あくまでも結果でしかないわけですね。

オンライン英会話にはない部分を補い、将来はフランチャイズ的に全国に広めていくことも視野に入れて展開していきます。

困った時は素直に頭を下げに行くべし!

ー最後に、創業手帳読者の方へメッセージをお願いします。

加藤:皆さんが悩んだことというのは、大抵既に誰かが悩んでいることであるのがほとんどです。

それは今の私にとってもそうなのです。だとしたら、そういう人たちに「どうすればいいかを教えてください」と頭を下げに行った方が、一人で悩んでいるよりも早いのではないかと思います。日本人は、頭を下げに来たらメリットがなくても教えてくれる人たちが多いという良い民族だと思うからです。

(取材協力:レアジョブ/加藤智久氏
(編集:創業手帳編集部)

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