電力ビジネスをもっと知ろう!事業の流れや今後を解説
電力ビジネスとは?新規参入する方法や今後の展望を解説します。
2016年に、電力の小売り自由化がスタートしました。それ以降、様々な企業が電力ビジネスに参入し、顧客は自由に電力を購入する企業を選べるようになっています。
いわゆる「新電力」と呼ばれる企業の電力ビジネスは、参入する企業の業種は問わず、さらなるビジネスの拡大につながる可能性があります。
社会的インフラ事業に参入するには、どのようにすればいいのでしょうか。今回は、電力ビジネスの概要と新規参入におけるポイントを解説します。
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この記事の目次
電力ビジネスとはどのようなものか
この章では、近年注目されている電力ビジネスの概要について説明します。
電力ビジネスについて
電力ビジネスとは、大手電力会社にとどまらず、一般企業が他企業および個人に広く電力を提供し、対価を得るビジネスです。
このシステムが実現したのは電力の小売り自由化が背景にあり、大手電力会社にしかできなかった電力供給を一般企業でも行えるようになりました。
電力ビジネスの3つのカテゴリ
電力ビジネスのカテゴリは、主に下記の3つに分けられます。
発電・調達する
電力を販売するには、発電するシステム、もしくは調達するシステムが必要です。
一般企業が電力を発電・調達するには、大手電力会社の手を離れた発電事業者と提携するか、事業者自身が発電事業者になるかが求められます。
発電・調達の方法について、一般企業が電力を調達するには、以下のような方法があります。4つの方法を見てみましょう。
・自家発電した事業所の余剰電力を利用する
メガソーラーなどで自家発電を行っている事業所から、余剰電力を購入して調達します
・一般の電気事業者から卸売りしてもらう
卸売りを行っている電気事業者から、再生可能エネルギーで発電した電力を購入する方法です。
・企業自身で発電システムを整備する
企業自身が、再生可能エネルギーで発電するシステムを整備し、電力を調達するものです。
・JEPX(日本卸電力取引)から購入する
JEPX(ジェーイーピーエックス)とは、国内で電力の卸売りの取引きを行う唯一の機関であり、売り手企業と買い手企業を仲介する立場にあります。
JEPXでは、時間ごとに電力の約定価格と総量が決定され、売り手・買い手ともに入札を行って取引きが成立します。
送電・配電する
上記のようにして発電・調達を行った電力を販売するには、顧客のもとまで送電・配電しなければなりません。
この送電・配電システムには、変電所も含めて企業自身で用意することはできず、送配電会社が所有するシステムの利用料(託送料金)を支払って利用します。
小売りする
発電・調達した電力を送配電し、一般企業は他企業や個人宅などに電力販売を行います。
この時、発電・調達・託送料金を含めたコストに対して、いかに利益を得るかを考慮した販売価格の設定が必要です。
電力の価格変動のリスクや、電力の市場価格を鑑み、顧客の需要を満たしながら利益を得るための方法をコントロールすることが求められます。
電力ビジネスが通常のビジネスと異なる点
大規模な設備を要する
幅広い顧客に電力を発電・調達・送配電するには、大規模な設備が必要です。
こうした形態を装置産業と呼び、コストはかかりますがビジネスが軌道に乗れば一定以上の利益を得られます。
公益的部分を担うビジネスである
電気は、法人・個人問わず生活や事業活動に欠かせないものであり、その電力を供給することは公益的部分にあたります。
電力ビジネスを始めるには経済産業省からの認可が必要であり、利益を出しづらい顧客に対してもコンスタントに電力を供給する義務を負います。
在庫を残せない
発電した電力は、在庫として所有できません。そのため、発電・調達した電気はすぐに販売しなければならず、そのタイミングを計ることができないビジネスです。
電力の価格を問わず恒常的に販売を続けることが求められ、需要と供給のバランスを取るのが難しいビジネスともいえます。
どのような事業者が参入しているか
・通信業
電話回線をもともと持っていたり、回線を利用してインターネットサービスを提供したりする事業者は、電力と同様にインフラ事業に関わっています。
サービス提供の仕組みが似ていることから、通信と電力供給をまとめて販売する事業所が多くあります。
・エネルギー産業
ガスや石油などの燃料エネルギーを販売している事業所は、自社のシステムを利用して発電することが可能です。
そのため、設備投資のコストをかけずに電力ビジネスに参入できます。
・旅行会社
例えば、旅行会社と連携する大規模観光施設などでは、自社で発電所を持ち、電力を調達しているケースがあります。
そこに目をつけ、観光施設の発電システム事業所を別会社とし、顧客へのサービスとして電力を販売して旅行業との相乗効果を狙った作戦です。
・家電量販店
家電量販店は家電品を販売する事業者のため、顧客に電力を販売する仕組みもサービスのひとつとなります。
先に述べた、観光施設から別会社化した発電事業者から電力を調達し、購入した顧客へは家電量販店で利用できるポイント付与サービスを提供している事例があります。
・鉄道会社
鉄道会社では、電車の運行に膨大な電力を要するほか、CO2の排出も課題です。
そのため、鉄道会社は環境への負担を軽減する事業として、電力ビジネスに参入しています。
自社で発電設備を設置して電力を自社消費し、環境保全にも努める社会貢献を行うという発想です。
・住宅メーカー
住宅メーカーでは、電力消費の抑制や環境への配慮、エコを重要視した住宅販売が行われており、太陽光パネルを標準設置した住宅も多数建設されています。
そこで、住宅の太陽光発電システムで発電した余剰電力を住宅メーカーが買取り、電力ビジネスと環境保全に努める取組みが行われています。
電力ビジネスの仕組みとは
それでは、電力ビジネスはどのように成り立っているのでしょうか。
電力ビジネスが生まれた背景
従来の大手電力会社が独占していた状態では、地域差などの問題で、全国各地へ安定した電力供給が難しい側面もありました。
そこで、電力の小売り自由化により、全国の様々な一般企業が電力ビジネスに参入することで、各地域へ安定した電力の供給が行えるように変わりました。
さらに、電力の小売り自由化は、電気事業者が低コストで電力ビジネスに参入することを可能にしています。
加えて、一般企業が電力ビジネスへ参入することで、企業のビジネスが拡大するチャンスを提供するという一面もあります。
電力ビジネスで利益を得るシステム
一般企業の電力ビジネスでは、大半は外部から電力を調達するか、自社で発電設備を持っていても小規模であることが多くあります。
そのため、発電設備の維持費はほぼかかりません。コストは、前述の電力調達にかかる売電費用、また、送配電にかかる託送料金などが挙げられます。
これらのコストは、大規模発電設備の維持費よりはかなり安価であり、大手電力会社より安い金額で電力を販売したとしても、十分利益が得られる仕組みです。
顧客を獲得するための施策
顧客にとっては、恒常的に必要なインフラを取り扱う事業者を乗り換えるには、手続きの煩雑さや不安の障壁があるかもしれません。
それを乗り越え、新規顧客を獲得するためには、以下のような施策を取るのが得策です。
電力に付加価値をつける
一般企業の電力ビジネスの強みは、電力販売以外にもともとの本業を持っていることです。
既存事業とうまく組み合わせることで、電力販売に付加価値をつけられます。
例えば、通信業者ガスなどの販売業者は、いずれも生活に重要なインフラを取り扱っていることから、電力販売とセットにしてプラン売りをする方法が考えられます。
家電量販店などが電力ビジネスに参入する場合、企業独自のポイントサービスを付加することによって、顧客はお得感を得られます。
また、再生可能エネルギーを活用しCO2削減を呼びかければ、顧客のエコに対する意識に働きかけることも可能です。
地域に根差したビジネスとして展開する
一般企業の規模から考えて、電力ビジネスは近隣の企業や個人に電力を販売する、いわば地域密着ビジネスとも考えられます。
電力を地産地消することで地域の経済活動を活発にし、顧客に信頼感を持ってもらうことも、一般企業の電力ビジネスのなせる業です。
電力ビジネスのモデル例
それでは、電力ビジネスは具体的にどのように展開していけば良いのでしょうか。
電力ビジネスに用いられる例
ブランディングとチャネル確立
顧客の年齢や性別、居住環境やライフスタイルを幅広くリサーチします。
さらに、企業の社会貢献に対する意識も踏まえて、それぞれの属性に合ったブランディングを行ってください。
加えて、顧客属性にフィットした販売形態を設定し、多くの顧客を獲得する施策を立てます。
膨大な顧客情報の分析
膨大な顧客情報を収集し、データベース化して多角的に分析を行って、顧客がサービスに求めるニーズを割出します。
その中で、企業と顧客の接点を見直し、より顧客満足度の高い事業内容を構築します。
他の商品とセットで売る
一般企業の既存事業と組み合わせて、前述のようにセットプラン販売を行う、ポイント制度を活用するなどの施策を提供します。
地産地消
前述した地域に根差したビジネスとしてブランディングするために、電力を地産地消して地域に提供するシステムを展開します。
再生可能エネルギーの利用
販売する電力の発電方法に太陽光や水力などの再生可能エネルギーを利用することで、環境保全に配慮した電力販売を行います。
これにより、エコに対する意識が高い顧客に対するアプローチが実現し、新規販路の拡大にもつながります。
様々な料金プランの提示
電力の卸売りや発電事業者が提示する料金市場への考慮、また、長期契約によるコストダウンにより、顧客の属性に応じた様々な料金プランを提示します。
一定条件を満たした顧客への対価提供
例えば、顧客に対して電力需要ピーク時における利用抑制・蓄電池の利用・料金の前払いなどの要請を行い、効率的な電力供給を呼びかけます。
そして、協力に応じてくれた顧客に対しては、何らかのサービスで対価を提供します。
電力ビジネスへ参入する順序について
1.事業計画の立案
電力ビジネスの事業計画として、以下の観点から多角的に提案を行います。
・電力のニーズ
ターゲットとする顧客、および地域の電力ニーズを把握し予測します。
通常の商品提供とは異なり、電力価格市場や社会・経済の情勢なども考慮した上で、広い視野でニーズを見据えることが必要です。
・供給方法
販売する電力について具体的な供給方法を提案します。例えば、電力の調達方法や発電設備の設置有無や送配電事業者との契約です。
電力ビジネスを行う電気事業者は、電力供給計画について、年間で立案し計画開始の前に経済産業省に届け出を行わなければなりません。
・発電方法
電力供給の方法を決めたら、次はどのように発電・調達するかを考慮します。まずは、自社で発電するか、もしくは外部から調達するかを精査します。
その上で、太陽光・水力・風力などの発電方法を検討し、効率的に調達できる施策を考えましょう。
・送電・配電設備
発電・供給した電力について、どのようにして送配電するかを計画します。
企業や個人に効率的に電力を供給するために、適切な流通の手段を提案することが必要です。
・設備投資のための資金
自社で発電設備を設置する場合、その際にかかる費用を計算し、どれくらい設備投資が必要かを具体的に明示します。
2.発電方法
・水力
水力発電は、水が流れるエネルギーで発電を行うものです。水の利用方法は、貯水池からの供給や川の流れを用いたもの、水を汲みあげるものなどがあります。
・火力
火力発電は、石炭・石油・ガスなどを用いた火のエネルギーで発電する方法です。
方法は、蒸気の力でタービンを回転させるもの、火力で発生したガスの力でエンジンを作動させるものがあり、これらの方法を組み合わせ、さらなる効率化も可能です。
・原子力
核燃料を用いて、燃料の核分裂で起こる熱エネルギーを利用します。大量の発電ができることと燃料の再利用が可能である反面、管理の難しい点が挙げられます。
・太陽光
半導体を利用し、太陽光を当てることで発電を行うシステムです。発電方法としては比較的新しいもので、近年は再生可能エネルギーとして電力ビジネスでも注目されています。
・風力
風によって回転する風車のエネルギーを利用し、発電するシステムです。仕組みとしては単純な再生可能エネルギーですが、設備の設置場所や騒音などの課題も残されています。
3.送電・配電方法
・送電方法
発電所から電力を供給する前に、変電所に送電されます。送電の方法は、大容量の送電が可能な鉄塔からの方法と、地下を巡らせる方法の2つです。
・変電方法
送電された電力を、企業や個人宅で利用できるように変圧することを変電といい、変電所で電圧を変換し、配電されます。
・配電方法
変電所から企業や個人宅へ、配電線を通して配電が行われます。
4.料金プランについて
電力ビジネスにおける電力の料金には、電気事業者が決定できるものと、法令で定められた方法で算出するものがあります。
後者には、託送料金に加え、法人税や固定資産税、再生可能エネルギーの買取金額を顧客が負担する再生可能エネルギー発電促進賦課金が含まれます。
電力ビジネスにおける課題とは
電力ビジネスにおいては、解決すべき問題がいくつか存在します。
FIT法改正による売電収入の減少
FIT法は、再生可能エネルギーで発電した電力を固定価格で買取る義務を示した法律ですが、2017年に改正され、電力価格が引き下げられる現象が起きています。
このことから、電力ビジネスにおける収入(売電収入)が得にくくなることが懸念されています。
設備の維持が困難な場合に停電が起きる
売電収入による利益が出せなくなると、おのずと発電設備の維持費や調達にかかるコストを下げなければなりません。
その結果、電力の安定供給ができなくなり、停電が起きる危険性もはらんでいます。
設備維持のコストがかかる
前述したとおり、発電設備の維持にはコストがかかります。特に、自社で発電設備を設置している場合には、設備の修繕費や固定資産税は大きな出費です。
電力ビジネスを安定化するために
電力ビジネスを安定させるために、電気容量に応じて決まった価格を電気事業者が支払うシステム(容量市場)が注目されています。
容量市場では、電気事業者が持つ電気容量により、将来的な電力の供給見込みを立てて料金を設定します。
これにより、安定した電力供給力を持つ電気事業者は、その分リスクの少ない電力ビジネスを展開することが可能です。
注目される価格設定の仕組み
容量市場では、電力広域的運営推進機関(広域機関)により、天候や災害のリスクも考慮して4年後の電力供給力を算出します。
ここで算出した供給力に対応できる発電設備を募り、入札で取引きが決定します。
電気事業者は、4年後の安定した電力供給のための整備を行い、広域機関から金額を受け取る代わりに、供給力を維持する保証として広域機関に金額を支払う仕組みです。
電力ビジネスの今後の展望
今後の電力ビジネスは、どのような方向に向かっていくのでしょうか。
電力の見える化
今後の電力ビジネスにおいては、電力の使用量をデジタルで算出するスマートメーターの存在が重要となります。
スマートメーターでは、その時間帯ごとの電力使用量を確認でき、いわゆる電力の見える化を可能にします。
小規模電源への分散
既存の大手電力会社が電力供給を取りまとめる形態ではなく、全国各地に電気事業者が存在することで、小規模な電源に分散されていくこととなるでしょう。
これには、各地域に安定した電力供給が行えるだけではなく、災害による送配電システムの破損があっても、停電被害を最小限に抑えられるリスクヘッジの一面もあります。
再生可能エネルギーの主力化
前述した容量市場の導入により、再生可能エネルギーの利用において将来的な電気容量を確保する動きが活発になります。
その結果、再生可能エネルギーがさらに普及し、供給の安定に向けた施策の充実が見込めるだけでなく、再生可能エネルギーが発電の主力になることも考えられます。
VPPの導入
VPP(Virtual Power Plant)とは、日本語では仮想発電所と呼ばれます。
これは、発電所や自家発電を行っている企業の発電設備や蓄電池のようなシステムを、IoTを利用して仮想上でまとめて、大きな発電所のように稼働させるものです。
この仕組みは、災害による停電や不安定な再生可能エネルギーの課題を、電力供給・需要双方からのリソース利用で解決できるものと期待されています。
まとめ
電力の小売り自由化により、多くの企業が電力ビジネスに参入するようになりました。
その結果、市場での競争は激化し、新規参入を成功させるためには綿密な事業計画が求められます。
電力ビジネス市場自体も刻々と変化し、その中で競争を勝ち抜くには、自社の電力ビジネスに何らかの付加価値を与えて顧客に提供する必要があります。
市場の動向にアンテナを常に張り巡らせ、安定した利益を得られるビジネスを築きましょう。
(編集:創業手帳編集部)