商品ではなく価値を売れ!【西村氏連載その4】
ネット通販・超入門!通販コンサルタントの西村公児氏直伝
「顧客のファン化」について、重要であることはわかっても、具体的な方法についてお悩みではありませんか?
創業手帳代表・大久保が「通販コンサルタント&プロデューサー」の西村公児氏にお話をうかがう連載企画。第4回となる今回のインタビューでは、自社の通販事業を10億円規模まで成長させていくために欠かせない、売上げアップのための考え方についておうかがいします。
コロナ禍を期に通販事業を始めたはいいものの、具体的に事業を拡大していくためのビジョンが不透明で、不安に思われている事業者の方は必見です。
株式会社ルーチェ代表取締役
年商600億円の大手通信販売会社で販売企画から債権管理までを16年経験。その後、化粧品メーカーの中核メンバーとして5年間マーケティング業務に従事し、顧客企業の販促支援でレスポンス率を2倍にアップするなど成果を上げる。
株式会社ルーチェを設立し、「デジタルコマース実践道場」を主宰。テレビ番組、経済情報コンテンツなどメディア出演多数。
平成28年に「一般社団法人インターネット通販協会」を設立し、理事長に就任。『伝説の通販バイブル』(日本経済新聞出版社)、『小さな会社ネット通販 億超えのルール』(すばる舎)など著書多数。現在、多摩大学経営情報学部の非常勤講師として「ビッグデータの活用法」について学生に教える。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
顧客は「価値提供」によってファン化すべし
大久保:第2回では中小企業ならではの戦略について聞きましたが、今回は「お客様のファン化」についておうかがいしたいと思います。ファン化というと、第2回のインタビューでも仰っていた「価格競争」だけではなく「価値提供」も行うということでしょうか?
西村:そうですね。「価値提供」で差別化されされてお客様が「好き嫌い」で判断しやすくなります。「この会社だったら応援したい」という気持ちに繋がりやすいんですね。
大久保:そんなに簡単に、お客様に「応援したい」と思ってもらえるものでしょうか。
西村:「クラウドファンディング」という言葉を知っていますか?「この企業を応援したい」と感じた方が、「買って応援」「食べて応援」「使って応援」といった支援方法を採るケースを、コロナ時代に見た方も多いと思います。実はこれって、日本人ならではの消費の仕方なんですよね。企業側が、お客様に価値提供していないと、なかなかそうなりません。
大久保:海外では見られない、日本人特有の現象なのですか。
西村:特有ですね。それは日本の素晴らしい文化だと思います。海外は「メリット・デメリット」「お金」「コスト」「合理主義」などで判断しますから。
大久保:カスタマーレビューなども、最高の宣伝素材ですよね。集合知・ファンの声とも言えるし、お客様の視点に立っているので消費者にも伝わりやすいですし。
西村:そうですね。Amazonのレビューなどで、意図的に悪いレビューが入れられたりしても、しっかり価値提供していれば、自分たちのお客様にはどのコメントが本当のことを言っているのか、わかっていただけると思います。
大久保:確かに、一度ファンになっていれば、そのようなメリットもありますね。では、具体的にお客様にファンになっていただくために、どのようなブランディングをしていけばいいのでしょうか?
西村:そうですね。さらに、商品に付加価値を加え、効果的にブランディングを行おうとする場合は「ストーリーブランディング」の手法を取ることもできます。
「ストーリーブランディング」では、商品に「人」の性格を与え、ストーリー形式でお客様に商品の価値を効果的に提示します。
大久保:ストーリーブランディングを行う場合、どのような手順を取ればいいのでしょうか?
西村:それは「5つのC」と呼ばれる手順ですね。「①バックグラウンドを集める」「②ブランドを正確づける」「③見込み客を性格づける」「④登場人物同士を結合させる」「⑤ストーリーを完成させる」の5つです。
まず①は「集める(Collect)」のCで、必要な情報を収集します。前回、UVPを作る際に過去の「栄光」「挫折」の経験から「教訓」を導き出しましたよね。そのステップがこれにあたります。
②が「性格づけ(Characerize)」のCです。具体的には、ストーリーの登場人物であるあなた自身(=人)と、商品をうまく同化させることです。これにより商品ブランドがお客様の悩みを解決する「道標」のようになり、共感を得やすくなります。
大久保:すでにUVPを作成していると、ストーリーブランディングにそのまま転用できる部分も多いのですね。
西村:そうですね。しかし、③では再び「性格づけ(Characerize)」のCが来ます。これは商品ではなくお客様の性格付けですね。このステップでは、自社がどのような課題や悩みを抱えているお客様をターゲットとするのかを分析し、理解することになります。
④は「結合(Connect)」のCです。お客様がブランドに抱く好意や憧れは、お客様が抱く信念や価値観が、商品が提供価値が結合した時に発生します。それが長期的に持続すると、お客様がリピート客に変わるのです。
具体的に言うと「〇〇と言えば、△△ですよね」と言うセリフの空白部分を埋めることで、このステップは完成します。
そして最後となる⑤のCが「完成(Complete)」です。ストーリーの登場人物に感情移入できるよう、商品とお客様の外層同士・内層同士を、双方向から結合・シンクロさせるよう意識しましょう。それでいて、リアルでお客様に訴求するストーリーであることを意識すれば、ストーリーブランディングの完成です。
完成したストーリーは、同梱物や保存用のガイドブックにすれば、より効果的に商品の魅力をお客様に伝えることが可能です。
小さな会社ほど「情緒的価値」が重要
大久保:『ネット通販 億超えのルール』で紹介されている「精神的価値」「情緒的価値」「機能的価値」のピラミッドが、お客様の価値の例としてわかりやすいですね。お客様のファン化は「情緒的価値」に当てはまるのでしょうか?
西村:そうですね。小さな会社にとって、情緒的価値の影響は大きいですね。情緒的価値は擬態語で表せる価値のことですが、「ワクワク」「ドキドキ」などの擬態語をLPなどのコピーにも入れるべきだと思います。
ですが、情緒的価値はインターネット経由だと伝わりにくいので、プラスでお客様に実体験も提供する必要があります。ネット通販が主戦場だったとしても、お客様が商品を実際に試したり体験したりできる機会を設けることで、年間リピート率も上昇するんですね。
販売している商品を実際に手に取って使ってもらえる教室やワークショップなどを開催することで、商品のよさを実感してもらえたり、使い方のポイントなどを直接伝えることもできるんです。
大久保:なるほど。そのためにも、商品は徹底的に顧客視点で作る必要がありますね
西村:そういうことになります。自分で「こういう商品なら売れるだろう」と考えてしまうと、売れる商品は作れません。商品を作る前に「ネーミング」「お宝キーワード」「2つのベネフィット」について意識する必要があります。
「ネーミング」とは、そのままお客様が商品LPを見て判断する部分です。「お宝キーワード」とは、お客様自身の「悩み」「不安」などに気づいてもらうための言葉ですね。お客様が抱える問題にストレートに響く言葉が盛り込まれていれば、すでにご説明したお客様の「脳内SEO」に引っ掛かりやすくなります。
そして、「2つのベネフィット」についてですが、「商品の特徴・すぐに手に入るメリット」と「商品を使い続けることで得られる未来」です。これら5つの要素が合わさることで、お客様に共感をもたらし、購入行動を促します。
ですから、「お客様が脳内で明確にイメージできる商品」を作るために、顧客視点で商品を設計していくことが大切なのですね。
売上げアップのためには、強みにフォーカスし専門性を深めるべき
大久保:コンサルをされている企業の売り上げが思うように伸びない場合は、まず何から改善策を検討されることが多いのでしょうか?
西村:一番多いのは売り上げを分解して、「数量×単価×回数」で分析することです。まずは、単価が上がっているかを確認します。単価が売上げ悪化に影響しているなら、それは価値提供が足りていないと言えます。数量が上がっている場合は集客の部分は影響しているので、売上げが改善するか否かは、会社が投入できるコストにかかっています。回数に関しては、お客様とのは接触頻度が下がっていないかどうかですね。
まず大切なのは、単価を上げることです。つまり既存のお客様の満足度を上げるための施策にフォーカスすることになります。
大久保:売上げが伸びない場合は、単価を下げて売ろうというふうになりがちですよね。
西村:そうですね。商品の点数を増やすのもダメです。私は「本命アイテム」と「パンダアイテム」を用意する必要があると思っています。パンダアイテムとは、客寄せアイテムのことです。上野動物園だってパンダのシャンシャンがいるから行きたくなりますよね。このシャンシャンに当たるのが客寄せ商品。つまり、フロントエンド商品です。
大久保:「ロングテールキーワード」という言葉を聞いて、商品点数を増やす人もいますけど、そうではなく、強みを絞れということでしょうか。
西村:はい。ロングテールはあくまでもインターネットでで検索されるキーワードになるので、ひとつの商品をどれだけ多くの切り口から見ることができるかの方が大切です。単なる商品・サービスを増やしても効果はありません。
大久保:小さい会社の場合は、特に絞り込んで専門性にフォーカスすることが大事なのですね。本質的な価値提供ができる物に専念する。と
西村:そうですね。商品戦略もありですが、自分の価値を提供できるものだからこそ、売上げに貢献します。ターゲットが経営者なのか、主婦のお母さんたちなのかでメッセージを強弱つけて変えればいいのです。基本は価格戦略から価値戦略に振っていくということですね。
大久保:強みのある部分のみをやっていくと、スタッフの人たちも熟練度が上がりますよね。
西村:そうですね。社長の意向が伝わりやすくなりますから、抽象度の高いことでも共有できるようになります。
大久保:飲食店に例えると、ひと昔前の食堂はなんでも出てくるけど、どれもあまりおいしくない。でも、一品しかないラーメン屋はおいしいいみたいなイメージでしょうか(笑)。
西村:まさにそうですね!通販ビジネスでもメニューを絞ったほうが美味しくなると思っています。
大久保:商品戦略においては、「特化して攻めろ」ということですね。ありがとうございました。
次は「お客様のリピート率を上げるには」というテーマについて、お話をうかがいたいと思います。
(次回へ続きます)
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(取材協力:
株式会社ルーチェ代表取締役 西村公児)
(編集: 創業手帳編集部)