ABEJA 岡田 陽介|AIと想いが未来を「実装」する。AIのプロが考える起業で大事な3つのこと

創業手帳
※このインタビュー内容は2018年10月に行われた取材時点のものです。

株式会社ABEJA 代表取締役社長 岡田 陽介インタビュー(後編)

(2018/10/09更新)

前編では自身の半生や人工知能との出会いについて話してくれた株式会社ABEJA 代表取締役社長 岡田 陽介氏。後編では経営者としての岡田氏の思いや、起業家に必要な資質、これから起業を目指している人へのアドバイスを伺いました。

前編はこちら→10歳でプログラミング!?AI時代の旗手が「今だから言える」起業の話

岡田 陽介(おかだ ようすけ)
株式会社ABEJA代表取締役社長。1988年愛知県名古屋市出身。10歳からプログラミングをスタート。高校でCGを専攻し、全国高等学校デザイン選手権大会で文部科学大臣賞を受賞。大学在学中、CG関連の国際会議発表多数。その後、ITベンチャー企業を経て、シリコンバレーに滞在中、人工知能(特にディープラーニング)の革命的進化を目の当たりにする。帰国後の2012年9月、日本で初めてディープラーニングを専門的に取り扱うベンチャー企業である株式会社ABEJAを起業。2017年には、ディープラーニングを中心とする技術による日本の産業競争力の向上を目指し、他理事とともに設立し、日本ディープラーニング協会理事を務める。AI・データ契約ガイドライン検討会 委員 2017年12月-2018年3月、Logitech分科会委員 2018年2月〜継続中(2018年8月末時点)

インタビュアー 大久保幸世
GMOメイクショップ取締役として同社を、後発事業者の立場から、法人向けECシステムで導入22,000社の日本トップシェアまで押し上げる。2014年にビズシード社(現:創業手帳)創業。豊富な事業運営・経営支援の経験を生かし、日本中の創業者へ「明日使える実践的な経営ノウハウ」を届け、日本企業の廃業率の低下・起業成功率の向上を通じて経済を活性化させることを使命としている。これまでに数百回に及ぶセミナーやTV出演の実績あり。ビズシード社創業後もベンチャーイベント・大学・ビジネススクールでの講演多数。

キャッシュ数万円(!)からの復活でやったこと

大久保:経営を続ける上で、やりがいを感じるのはどんな時ですか?

岡田:もちろんお金を稼ぐ、資金が増える、ということにやりがいを感じますが、それよりも人が集まってくれたことが格別に嬉しいですね。自分の考え方に共感してもらえて、ともに闘ってくれる仲間なわけですから、本当に心強いです。

経営者だからこそ人の力の大切さは感じますし、組織が大きくなればなるほど仲間を守っていかなければならない責任感も増すわけですから、やる気にも繋がりますよね。初めての社員が入ってくれたとか、20人まで増えたとか、その度に嬉しくなりますし、またそうした仲間が、個々の能力を生かして成果を出した時は、自分のことのように嬉しくなってしまいます。

また時として味わう困難も、私にとってはやりがいの一つとして捉えています。例えば、会社が掲げるフィロソフィーが厳格化できておらず、人がパラパラと辞めていってしまった時期がありました。ネガティブな雰囲気が連動して何をやってもうまくいかず、気付いたらキャッシュが数万円しか残っていない、という状況もありました。

それでも、どうポジティブに打開・変革するか、それしか方法はないんですよね。アイデアを出し合って少しずつ成果を出していく。そのプロセス自体が本当に貴重な経験ですし、自分を成長させてくれるものなので、今後も経営を続けていきたいと思わせてくれる原動力になります。

大学の講義は無償で登壇

大久保:岡田さんはイベントやセミナー、講演会等にも積極的に登壇されていますよね。そこにはどんな思いがあるのですか?

岡田:依頼があれば積極的に行って話す、というのが信条ではあるのですが、それには主に二つの理由があります。

一つ目は、イベントや展示会のように企業や技術者、学者などが集まるような会は、かなりの人とお会いし、お話することができるので、自社のブランディングやマーケティングにおいて有効だからです。

他にも大学や高校、中学校でも話す機会があるのですが、こちらは無償でも必ず行かせてもらっています。話を聞いてくれる学生や子供たちの将来にかけているからです。
起業家が増え新しい産業を生み出し、雇用を増やす。そして、新しいチャレンジをしようとしている次の世代に投資をするというエコシステムが成長しないと日本経済はどんどん縮小してしまいます。将来の起業家の卵が出てこなければ、10年後、20年後の日本経済に必ず影響が出てしまいます。

一方で、国内で起業家が増え、新しい産業が育つとともにグローバルに活躍する企業が増えれば、日本の税収も増えて日本経済は成長していきます。未来の人材に投資をするということが今の日本には必要だと思っているので、呼んでもらえればどんなに遠くても必ず行きます。それが二つ目の理由です。

大久保:かなりお忙しい中でご対応されていると思いますが、どのように時間を作っているのですか?

岡田:時間がないときは徹夜してでも資料作りや話す内容を考えています。結局、起業家が大量に生まれる社会を作らなければ、ゆたかな世界は創れません。私たちは「ゆたかな世界を、実装する」というフィロソフィーを語っているので、やらなければ言行一致しませんよね。

ゆたかな世界を、実装する

ネガティブに思考してポジティブに行動

大久保:これから起業する方へのアドバイスをお聞きしたいのですが、経営を進めていく上で気をつけておきたいことはなんですか?

岡田:そうですね。一社目を潰した経験から申しますと、主に3つあります。

まずはフィロソフィー、ビジョン、ミッションを掲げることですね。これらの方針がないと、個人の無限の可能性を頼りに人を集めただけで経営を進めても、組織はまとまりません。まず、会社の価値観としてのフィロソフィーがあって、その枠組みの中に会社の目指すものとしてのビジョンがある。さらにその囲いの中に我々は何を成し遂げるべきかというミッションが生まれます。それが更に、どのような事業に取り組むのか、どのような組織でやるのか、そして個人は何をすべきか、というレベルに落ちてきます。ですので、一番大枠となるフィロソフィー、ビジョン、ミッションなどの経営の方向性を示さないと、組織は「何をやりたいのか」が不明瞭になり、うまく機能しなくなってしまいます。1社目の起業の際、その点をあまり明確に定めないまま進め、失敗した経験から、経営の方向性・枠組みという意味でのフィロソフィー、ビジョン、ミッションを定めることは非常に重要だと思っています。

二つ目は、どうやってお金を稼ぐかというビジネス感覚です。いくら技術的にも、サービスの内容的にも完璧であっても、歴史もブランドもないベンチャー企業の商品は、はじめのうちは、なかなか売れません。多くの日本の企業は、「いいものを作れば売れる」という考えがあって、それで苦労しているのだと思います。理想を高く掲げることは必要ですが、現実とのギャップを埋められなければ会社経営を続けることは厳しいです。

そして三つ目は、覚悟です。精神論的な意味ではなく、先に挙げた二つの注意点をしっかりとクリアにした上で、最後まで経営し続ける「強い意志」が必要です。例えば「軌道に乗るまでは無給でやろう」とか、「オフィスは借りずにやろう」とか、苦しい中で我慢して乗り切ろうという気持ちもわかりますが、必要なものは揃えて社員には給料を払う健全な体制でやりぬくという覚悟を持った方が結果的にうまくいくと思います。社員もボランティアでやるわけではないですから、精神論だけではだんだん能率も悪くなりますし、どこかに歪みが生じてきて結局やるべきことにコミットしないという悪循環に陥りやすいです。

大久保:それでもやはり退路を絶つには、とても勇気がいると思います。そこで一歩踏み出せない人には、どのような考え方が必要になりますか?

岡田:確かに、いくら計画性を持っていたとしても成功が保証されるわけではありませんから、とても勇気がいることですよね。ですが、そういう意味では日本はとても起業しやすい国ではあると思います。

なぜなら、なんだかんだ日本では食べていけるからです。美味しいものが200〜300円で食べられますし、アメリカに比べ相当物価が安いです。また最低でも1人あたり30万円くらいの給与があれば生きていけます。社会保障制度もしっかりしていますし、退路を絶ったとしても生死に関わることはほとんどありません。

事業が失敗する、自己破産に陥るなどの悪い状況は、誰でも頭によぎるものです。ですが、経営は最悪のケースまで想定し対応案を考えた上で、ポジティブに実行するということが鉄則だと思います。なので、ネガティブな思考は持ちつつも、最後は覚悟を決めて、ポジティブに前に進むしかありません。私も失敗を一度経験していますし、その経験があったからこそ今の経営に役立っていますから、何も怖がる必要はありません。行動しない方がもったいないです。

海外と違って日本では死なない。大丈夫。トライしよう。

起業家は素直であれ

大久保:それでは実際に経営を進めていく上で、起業家に求められる資質はなんでしょうか?

岡田私は素直であることだと思います。過去の成功体験や自らの考えに固執するのではなく、良いものは良いものとして素直に取り入れる柔軟な姿勢が必要です。

例えば、ディープラーニングが2012年にアメリカで話題になった当時、日本では普及までに時間がかかり、ものすごく乗り遅れたという感がありました。英語の論文を翻訳して読めば誰でも手に入れることができた情報だったのに、そうはならなかった。日本では起業家や研究者が、既成概念や権威主義にとらわれ、過去の研究や成功体験を捨てきれず、ディープラーニングという新しい技術を受け入れることができなかったからだと思います。対して、アメリカの技術者や起業家は、これまでやってきた研究や実績なんかも捨ててしまって、圧倒的な成果を出しているディープラーニングを良いものとして素直に取り入れることができた。

特に創業当初は、事業仮説が間違っていることも多く、その度に軌道修正を迫られることになるはずです。スピーディーに意思決定をしなければならないのが企業経営ですから、良いものはすぐに取り入れて、いらないものはすぐに捨てる柔軟性のある意思決定ができることが大切です。2、3ヶ月もぐだぐだ迷っていたら当然生き残ってはいけません。

もちろん何でもかんでも頭ごなしに良いと言われたものを鵜呑みにするのは違います。あくまでも、会社の方針から逸脱しない中で、「どこまでも素直であれ」という資質が求められてくると思います。

迷っていたら生き残れない。ダメならすぐ変えれば良い。

(取材協力:株式会社ABEJA 代表取締役社長CEO兼CTO 岡田 陽介)
(編集:創業手帳編集部)



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