元入金とはどのようなもの?概要や計算・仕訳方法を解説

資金調達手帳

元入金(もといれきん)は、個人事業主が使用する勘定科目。元入金とは何なのか、計算や仕訳方法について解説します。


個人事業主の会計で必要となる勘定科目のひとつに、元入金があります。法人における資本金と似ていますが、個人事業主の元入金とは多少性質が異なります。
そして、起業したての個人事業主にとっては、そもそも元入金が何なのかを理解しづらいかもしれません。

今回は、元入金に関する事項を説明します。

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元入金とは何か


元入金は、個人事業主の事業において開業時の資金や年ごとの損益に加え、プライベートに使用した金額の入出金を踏まえて計上する金額です。
資金については、単純な運転資金のほかに社用車などの固定資産や売掛金や在庫などの資産をすべて包括するものです。
そして、その資金から買掛金や借入金のような負債などを差引き、残った金額を元入金と考えます。

元入金は、下記の3つの性質を持ちます。

・開業資金
開業する際に供した資金のことです。

・年ごとの損益を計算した金額
事業を進めるにあたり、年ごとの利益および損失を計算して来期の期首に繰越すものも元入金とします。

・事業主勘定を含める
上記に加えて、プライベート用の金額を事業用に組込むもの(事業主借)、事業用の金額をプライベートに使用するもの(事業主貸)も計算に入れます。

元入金の計上はなぜ必要か


元入金を計上する目的は、事業用の資金とプライベート用の金額をきちんと分けることにあります。
個人事業主の場合、事業用資金とプライベート用の金額を流用する機会が多いため、その線引きを明確に数値化しなくてはなりません。
つまり、元入金は個人事業主ならではの特徴により、用いる勘定科目だと言えるでしょう。

開業資金が少ない場合にも元入金は計上すべきか

個人事業主の事業の中には、少ない開業資金で行えるものもあります。
このようなケースでも、元入金はしっかりと計上するべきです。これは、青色申告特別控除を受けるための複式簿記に欠かせない勘定科目であるためです。
複式簿記による貸借対照表を作成する際、借方と貸方の金額を一致させなければなりません。

この時、事業にかかる経費をプライベート用のお金から捻出し、会計処理していない場合、借方と貸方の金額が合わない可能性があります。
そのため、金額を問わず元入金は開業時に計上しておくほうが無難です。

元入金と資本金の違いについて


個人事業主における元入金は、法人でいうところの資本金に該当するものです。しかし、元入金と資本金にはいくつかの相違点があります。
下記では、主な相違点についてあげていきます。

性質の違い

・開業手続き
個人事業主が税務署に開業届を出す際には、資金をあらかじめ用意する必要はありません。
そのため、元入金は帳簿上計上するものであり、実際に開業する際には0円でも可能です。

一方、法人の開業の場合は、税務署に提出する法人設立届出書に加え、法務局に会社設立登記の申請を行います。
この時、適切な資本金が事業用口座に振込まれているかを確認されるため、資本金は開業に必ず用意するものです。

・社会的信用度
個人事業主においては、元入金は帳簿上の数字であり、実際に入金が証明されていなくても問題はありません。
一方、資本金は会社設立時に事業用口座に存在することが認められるものです。
つまり、金融機関からの証明を得られるかという点で、元入金は資本金より社会的信用に乏しいことは否めません。

処理上の違い

・損益の計算
元入金は、その年の損益などを含めて来年に持ち越されるため、会計上の計算は簡便です。
法人になると、その期の損益は来期には資本金に組込まれず、利益剰余金として計上される点も、双方の違いのひとつです。

・金額が変わるか否か
事業で出た損益はその年ごとに変動し、元入金はその金額をそのまま来年に組込むため、金額は毎年変わるのが通常です。
一方、法人の場合は上記のように、利益剰余金と資本金とを区別します。そのため、資本金はしかるべき手続きにより増資・減資を行わない限り、金額は変わりません。

・会計処理
元入金の会計処理にあたっては、その年に赤字が出た場合にマイナスが出るケースがあります。
資本金は、そもそも金額に変動が出ないため、マイナス処理は行いません。

元入金は2つのタイミングで増減する


前述のように、元入金の金額は毎年増減しますが、そのタイミングは下記の2つです。

・開業のタイミング
開業する際には、元入金として新たに計上を行うため、この時点で元入金は増えます。

・年が変わるタイミング
その年が終わった時、損益や事業主勘定を足し引きして計算します。この時点で算出された金額が来年の元入金として振替えられるため、毎年元入金に増減が生じます。

元入金はどのように計算されるか


その年の元入金の計算式は、以下のように示されます。

前年の元入金+当期純利益(売上げ-経費・青色申告特別控除適用前)+前年の事業主借-前年の事業主貸

この計算式で用いられる、事業主勘定である事業主借・事業主貸について、下記で説明します。

元入金の計算で使用する事業主借・事業主貸とは

・事業主借
事業主借は、事業と個人の立場を分けて考えたときに、事業用資金を個人用(プライベート)の金額から借りる流れを指すものです。

例えば、プライベート用の金額を事業用資金として銀行口座に振込んだ時や、個人用の現金で事業用の備品を購入したなどのケースで、事業主借を適用します。

・事業主貸
事業主貸は、事業主借と逆の流れで、事業用資金の中から個人用(プライベート)で使用する金額を貸すものです。
事業主貸のケースでは、事業用資金の銀行口座から個人用の生活費を引出した時や、事業用資金から所得税の税金を支払った場合などがあげられます。

双方の関係性について

事業主借と事業主貸は、その年が終了する時点で双方が相殺され、その差額が元入金に振替えられます。
その年の終了時点で、事業主借が事業主貸より多ければ差額はプラスとなり、年始めの元入金と所得を足した金額に元入金として上乗せするが可能です。
一方、事業主借が事業主貸より少なかった時は、差額がマイナスになるため、年始めの元入金と所得からその金額を差引き、元入金は減少します。

元入金にプラス・マイナスが出ることもある

上記で説明したように、元入金の金額はその年ごとに変動します。そして、必ずしもプラスになるわけではなく、マイナスに転じることも考えられる金額です。
そして、会計上では元入金がマイナスになることは十分にあり得ます。
もちろん、大きな利益が出た場合には翌年の元入金はプラスになり、損失が多ければマイナスになるでしょう。

また、元入金がマイナスになる時は、損失が多く赤字になる場合に加えて、事業主貸の金額が利益を上回っている場合にも起こります。

元入金のマイナスが出た時の問題点

元入金がマイナスになることも想定はできますが、そのままにしておくと事業を進める上では多少問題があります。
前述のように、元入金がマイナスになる要素には、以下の2点が考えられます。

・事業で赤字が出ていること
この場合、事業を軌道に乗せるために事業を立て直すための計画を練り直さなくてはなりません。

・事業主貸が多すぎること
事業主貸が多いということは、プライベート用の家計に事業用資金を流用しすぎていると想定できます。
事業用資金と個人用の生活費などを合わせてやりくりを行う個人事業主は、事業がうまくいかない場合と、家計が苦しい場合のいずれも事業の継続が難しいかもしれません。
そのため、個人事業主は事業と個人の生活のバランスの見極めが重要で、その指針のひとつとなるのが元入金の増減です。

さらに、銀行からの融資を考えている場合、個人事業主の場合は元入金の金額で信用度を測られるでしょう。
つまり、元入金がマイナスになっていると、経営力に疑いを持たれ信用度が下がる可能性があります。

もし、元入金がマイナスになった場合は、財務諸表を確認してどこに問題があるのかをチェックし、改善策を立てることをおすすめします。

元入金はどのように仕訳処理をするか


ここからは、元入金の仕訳方法についてタイミングごとに説明しましょう。

開業した時

・資金の仕訳
開業時に資金を用意した時、これを元入金として計上します。例として、事業用資金を10万円として、その仕訳方法を下記に示します。

日付 摘要 借方 貸方
勘定科目 金額 勘定科目 金額
2021年1月1日 開業資金 現預金 100,000 元入金 100,000

 
・固定資産を取得した時
社用車やPCなどの固定資産を開業時に購入した時、また、個人用として持っていた備品を事業用の固定資産とする時も、その取得価額を元入金として計上します。

この場合の固定資産とは、取得価額が10万円以上かつ使用年数1年以上のものです。

例えば、100万円の社用車を開業時に用意した際には、勘定科目「車両運搬具」を使用し、以下のように仕訳してください。

日付 摘要 借方 貸方
勘定科目 金額 勘定科目 金額
2021年1月1日 事業用車両 車両運搬具 1,000,000 元入金 1,000,000

 

年をまたぐ時

年の最後(期末)である12月31日から、翌年の始め(期首)の1月1日にまたがる処理をする時、期末時点での仕訳を貸借対照表に反映させ、その後に繰越処理を行います。

貸借対照表に反映させる

貸借対照表は、繰越処理を行う前に帳簿の数値から作成します。
例として、当期の元入金を300万円とした場合、貸借対照表では以下のようになっています。

日付 摘要 借方 貸方
勘定科目 金額 勘定科目 金額
2021年〇月〇日 前期繰越 現預金 3,000,000 元入金 3,000,000

 

繰越しの仕訳

次に、翌年に繰越すための仕訳を行います。

こちらでは、期末の金額を以下の条件としました。

  • 売上げ500万円
  • 売上げ原価200万円
  • 光熱費10万円
  • 当期の元入金300万円
  • 事業主借200万円
  • 事業主貸100万円

・利益、事業主借、事業主貸を元入金に振替える
上記の条件で、初めに売上げに対する損金を相殺し、利益を算出します。

日付 摘要 借方 貸方
勘定科目 金額 勘定科目 金額
2021年12月31日 商品売上 売上 5,000,000 売上原価 2,000,000
電気代 光熱費 100,000
利益 2,900,000

次に、上記で計上した利益を元入れ金に振替えます。

日付 摘要 借方 貸方
勘定科目 金額 勘定科目 金額
2021年12月31日 振替仕訳 利益 2,900,000 元入金 2,900,000

 
そして、事業主借・事業主貸もそれぞれ元入金に振替える仕訳をします。

日付 摘要 借方 貸方
勘定科目 金額 勘定科目 金額
2021年12月31日 振替仕訳 事業主借 2,000,000 元入金 2,000,000

 

日付 摘要 借方 貸方
勘定科目 金額 勘定科目 金額
2021年12月31日 振替仕訳 元入金 1,000,000 事業主貸 1,000,000

 
これで、期末の利益・事業主借・事業主貸がすべて元入金に振替えられました。ここで、前述した翌年の元入金の計算をします。

前年の元入金300万円+当期純利益290万円+期末の事業主借200万円-期末の事業主貸100万円=690万円
つまり、翌年に繰越す元入金は690万円です。そして、翌年に新しく記帳する際には、上記で計算した元入金を仕訳します。

日付 摘要 借方 貸方
勘定科目 金額 勘定科目 金額
2022年1月1日 前期繰越 現預金 6,900,000 元入金 6,900,000

 
・固定資産を減価償却する
開業時に購入した100万円の社用車(固定資産)を減価償却する際は、法定耐用年数に応じた減価償却費を経費計上します。
この社用車が軽自動車だった場合、法定耐用年数は4年です。
個人事業主の場合、固定資産の減価償却は基本的に定額法(毎年同額で減価償却する方法)が適用されるため、毎年計上する減価償却費は以下の金額です。
100万円÷4年=25万円

この金額を減価償却する際は、以下のように仕訳します。

日付 摘要 借方 貸方
勘定科目 金額 勘定科目 金額
2021年12月31日 事業用車両の減価償却 減価償却費 250,000 車両運搬具 250,000

 

確定申告の白色申告から青色申告に移行する時

確定申告を、白色申告から青色申告に移行する場合、移行前の資産と負債をそれぞれ引き継ぎます。
ここでは、資産と負債を以下のように仮定しました。

・資産
現預金30万円+売掛金20万円=50万円

・負債
買掛金10万円

まずは、資産を元入金とする仕訳を行います。

日付 摘要 借方 貸方
勘定科目 金額 勘定科目 金額
2022年1月1日 前期繰越 現預金 300,000 元入金 500,000
前期繰越 売掛金 200,000

次に、負債を元入金に振替えます。

日付 摘要 借方 貸方
勘定科目 金額 勘定科目 金額
2022年1月1日 前期繰越 元入金 100,000 買掛金 100,000

確定申告における考え方


確定申告を行う時は、順を追って会計処理を行い、適切に申告を行うことが求められます。

確定申告を行うまでの準備

・繰越処理を除くすべての仕訳を行う
まず、繰越処理を行う前に、確定申告を行う年の仕訳をすべて終了させます。

・仕訳を最終確認する
行った仕訳に誤りがないかを確認するために、残高試算表を作成してチェックしましょう。

・貸借対照表、損益計算書を作成する
仕訳した帳簿をもとに、確定申告時に必要となる貸借対照表・損益計算書を作成します。

この時点で、金額や仕訳に間違いがなければ確定申告書を作成し、税務署に提出します。

・繰越仕訳の処理をする
その後、繰越処理によって資産や負債を翌年の帳簿に引継ぎをしてください。

確定申告書への記載方法

青色申告書を例に出すと、決算書の下部に以下の記載項目があります。

・負債、資本の部
1.事業主借 2.元入金 3.青色申告特別控除前の所得金額

・資産の部
4.事業主貸

これを、翌年の元入金の計算式に当てはめます。

2.前年の元入金+3.当期純利益(売上げ-経費・青色申告特別控除適用前)+4.前年の事業主借-1.前年の事業主貸

つまり、青色申告決算書を見れば、翌年の元入金が計算できるようになっています。

個人事業主と法人の違い

個人事業主が青色申告を行って所得を申告する際、損益計算書により最終的な合計金額として所得が求められるでしょう。
この時、元入金の差額は貸借対照表で計算されており、仕組みとしては簡便ですが、利益と所得の違いがわかりづらい面があります。

一方、法人税の確定申告では、損益計算書で利益を求めますが、それとは別に様々な明細書を用いて所得を計算します。
そのため、利益と所得の区別がつきやすく、どちらかが赤字でもどちらかが黒字といった計算もあるかもしれません。

確定申告書作成の際の注意点

では、確定申告書を作成する際には、どのような点に注意すれば良いでしょうか。

前期末残高と期首残高が合っているかを確認する

確定申告時に算出した期末残高と、翌年の期首残高は一致している必要があります。しかし、その中でも事業主借・事業主貸・元入金の残高は注意が必要です。
上記で説明した仕訳により、事業主借と事業主貸は相殺され、期首残高は0になっているはずです。

また、元入金に関しても前述の計算式により、期末残高がそのまま期首残高に繰越されていなければなりません。
この金額が合っていない場合は、繰越処理が正しく行われていません。
その原因は、単純な仕訳ミスのほかに、期末の残高が確定する前に繰越処理を行った可能性も考えられます。

前年度末残高と期首残高が合わない時は

もし、期末残高と期首残高が合わない場合は、期首で修正も可能です。

資産については、期末残高が期首残高より少ない場合は、借方を資産、貸方を事業主借とし、逆の場合は借方を事業主貸、貸方を資産として金額を調整しましょう。
また、負債で期末残高が期首残高より少ない場合、借方を事業主貸として貸方を負債にします。そして、逆の場合には借方を負債、貸方を事業主借として金額を合わせます。

会計ソフトを利用すればほぼ自動計算してくれる


元入金に関わる仕訳は難しく、処理をする際には煩雑でもありミスが発生しやすいかもしれません。そのような時は、会計ソフトを使うとスムーズです。
会計ソフトであれば、仕訳を入力すれば繰越処理まで自動的に行ってくれるため、元入金に振替える作業なども会計ソフトに任せられます。

元入金計算も自動で行える会計ソフトは賢く選ぶ

元入金の計算を自動的に行ってくれる会計ソフトは、自分に合ったものを賢く選ぶことがコツです。以下には、会計ソフトの主な種類をあげていきます。

・クラウド型
クラウド型は、ソフトのインストールは必要なく、インターネットを介してクラウド上で処理できるタイプです。
この形態であれば、インターネット環境があればどこでも利用が可能です。

・無料プランをお試しで使う
多くのクラウド型会計ソフトには有料プランが用意されていますが、まずは使い勝手を試してみたいという時のために、無料のお試しプランがある場合が多いです。
手始めに使ってみたい時は、無料プランをいろいろ試して比較すると良いかもしれません。

・インストール型
インストール型は、PCにソフトをインストールして利用するタイプです。情報を外部に漏らさず、自宅のPCだけで利用したいときには良いでしょう。
ソフトを購入してインストールし、使用します。

・スマホ利用ができるもの
クラウド型の会計ソフトでは、デバイスを問わずアクセスできるタイプが多く登場しています。
特に、スマホと連携できるタイプであれば場所を選ばず、仕訳や確定申告へのハードルも低くなります。

まとめ

元入金は、個人事業主特有の勘定科目であり、開業の際と年をまたぐ際に計上しておくべき金額です。
元入金を計算するにあたって、事業主借と事業主貸との関係性は重要であり、繰越処理などの方法は覚えておく必要があります。
会計ソフトを使えば、繰越処理などを自動で行ってくれることが多いですが、個人事業主自身で仕訳処理を行う場合は、その仕組みについてよく理解しておきましょう。

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(編集:創業手帳編集部)

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