「仕事のプロの時代」を生き抜くためにやるべきこと 守屋実氏インタビュー(後編)

創業手帳
※このインタビュー内容は2019年07月に行われた取材時点のものです。

守屋実氏考える、「今後求められる仕事への関わり方」について、創業手帳代表の大久保が聞きました

(2019/07/12更新)

2019年5月15日に「新しい一歩を踏み出そう―会社のプロではなく、仕事のプロになれ!―(ダイヤモンド社)」を上梓した守屋実氏。起業・投資のプロとしてキャリアを積み、これまで立ち上げた事業の数は50にのぼります。

前編では創業手帳代表の大久保が、守屋氏から新規事業を成功させる秘訣を聞きました。後編では、これからどんな働き方が求められる時代がやってくるのか、新規事業を立ち上げる人間に必要な資質は何かを問います。

〈前編はこちら〉
50歳で50事業立ち上げ 「新しい一歩を踏み出そう」著者が語る新規事業成功の心得

※この記事を書いている「創業手帳」ではさらに充実した情報を分厚い「創業手帳・印刷版」でも解説しています。無料でもらえるので取り寄せしてみてください

守屋 実(もりや みのる)
1969年生まれ。明治学院大学卒。1992年に株式会社ミスミ(現ミスミグループ本社)に入社後、新市場開発室で、新規事業の開発に従事。メディカル、フード、オフィスの3分野への参入を提案後、自らは、メディカル事業の立上げに従事。2002年に新規事業の専門会社、株式会社エムアウトを、ミスミ創業オーナーの田口氏とともに創業。複数の事業の立上げおよび売却を実施後、2010年、守屋実事務所を設立。設立前、および設立間もないベンチャーを主な対象に、新規事業創出の専門家として活動。投資を実行し、役員に就任して、自ら事業責任を負うスタイルを基本とする。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計200万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

これからは仕事のプロの時代

大久保:守屋さんから見て、働き方について時代背景が変わってきているなと感じるのはどういう所でしょうか?

守屋:A. 昭和の時代は終身雇用が当たり前でした。頑張れば会社も大きくなって、個人にも良いことがあった。

平成は転職が当たり前になった時代でした。令和はどうかというと、もう大企業でさえ終身雇用制度は終わるのではないでしょうか。平成よりもっと自立しないといけない時代だと思います。定年まで一つの会社にいられるか、という問題もありますが、人生100年時代で定年後の時間も長くなってきています。

著書の中でも書きましたが、僕は、世の中のビジネスパーソンを「会社のプロ」と「仕事のプロ」に分けることができると思っています。「会社のプロ」とは、組織の中で評価されることに長ける人材で、「仕事のプロ」とは、何かの分野で専門性を発揮してプロフェッショナルとして活躍する人材です。今の時代、僕は、仕事のプロになるほうが時代に合っているし、人生をかけて取り組めるのではないかと思います。

もちろん、もしあなたが、「会社のプロ」として生きていくと決めるのであれば、それはそれでありです。ただし、そうなると組織の中でのサバイバルゲームや出世争いで負けないことが必須になってきます。

昔は、組織の中でゲームに負けて出世コースから外れても、価値がゼロになったり、会社から不要者扱いされることはありませんでした。右肩上がりの時代だから、常に子会社が増え、人が増え、役割が増えていたので、一つの組織の中で負けても会社から次の役割を与えてもらえました。

でも、今は組織も横ばいですから、そんな役割を与えられる状況には無いわけです。だから「会社のプロ」として、同じ会社だけでずっと生きていくなら、組織の中で負けない事が必要です。これはこれで一つの生き方ですが、結構つらい生き方かもしれないですよね。

こんな時代だからこそ、どうせであれば「仕事のプロ」になった方が面白いと僕は思います

大久保:その他にも、時代の流れが従来と変わってきていると感じる所はありますか?

守屋:A. 世の中の変化のサイクルが短くなっていますよね。社会もそうだし、商品やサービスもそうです。昔はそもそもモノが足りなかった。物が不足していることが前提の社会だったんです。だから、作っている人が貴重で、生産者優先でした。つまり、モノを作って行き渡らせるために、世の中ができていたんです。

でも今は違いますよね、あらゆるモノが溢れています。第一選択肢以外は「いらない」という時代です。

僕は、そこに大きなチャンスがあると思っています。当たり前のものは行き渡ったけど、まだまだ世の中には不便だったり、不足しているものもあります。その原因は、規制だったり、テクノロジーの不足だったり、古い慣習だったりとさまざまですが、皆が挑戦しないエリアって意外と残ってるんです。

昔のように、「不足している物を作る」ことに比べると、あいまいで道なき道を行くことになります。でも、スタートアップだって、大企業だって、新しい道を切り開かないと生き残ってはいけません。「会社のプロ」になったとしても、会社に未来がないと将来がありませんから、会社からの指示を待つだけではやはり駄目なんです。今後、大企業にとってもスタートアップにとっても、不確かな領域がチャンスになると思います

達人の知恵

時代は変わっている。常識も変えてみよう
まだ挑戦者がいない領域にチャンスがある

シミュレーションはほどほどに。まず自転車に乗ってみる

大久保:起業したいけれど踏み出せない人もいますよね。なにかアドバイスはありますか

守屋:妄想しても仕方がないですよね。前編でも述べましたが、事業を行う上で重要なのは「はじめの一歩を踏み出す」ことです。自分で事業をやってもいいし、プロボノ(プロのスキルを活かしたボランティア)になるなど、今は事業に対していろいろな関わり方があります。
実際に動き出してみると、思いのほか、簡単かもしれない。逆に思ったより難しくても、実態を理解することができます。自転車の乗り方を妄想するより、乗ってみれば分かる、みたいな話です

同じ流れで、シミュレーションもほどほどにしないと、優秀な人ほど、考えつづけて動けない人になってしまいます。やらないと不安になる。不安が不安を呼んで実態のない「わからないおばけ」が出て動けなくなってしまうんです。実際は存在しないものに怯えてしまうわけですね。「よしこれだ!」ととりあえず決めてやってみればいいんですが、優秀なサラリーマンほど失敗した時などのシミュレーション出来すぎてしまうという問題があります。

大企業でも「なんとか準備室」という名前の組織ができて、人が集められているけれどなかなか物事が進まない、ということはよく起きます。最初の一歩が踏み出せないで、足踏みする現象は、個人でも企業でも起こりがちです。

しかし、現実は何が是で何が非かは割り切れません。デジタルの世界では0か1かしかない情報に対して、アナログの世界には無限の段階があるように、実際の事業には無限のグラデーションがあると思うんです。0か1かで駄目だと割り切らず、2回転、3回転とトライしてみれば、見えるものがあると思います。リアルの世界に触れることで事業に対する解像度が上がり、情報のビット数が桁外れに上がるんです。

リアルで動くと情報の量と質が格段に上がる。その豊富で良質な情報の中で、物事を判断すればいいと思います。

達人の知恵

リアルに動くことで、情報の解像度が格段に上がる

大久保:日本での創業の現状について感じることはありますか

守屋:例えば、中国には1兆円規模のファンドがあったりします。日本にも1000億円規模の郵政のファンドがあるので、人口10倍の中国なら不思議ではないのですが、やはり規模感がすごいですよね。巨大な成長国家がすぐ隣にあるように、海外に目を向けると日本では考えられないような大きな動きがあります。

一方で、日本でも、サービスをローンチしたばかりのスタートアップが10億円を調達した、なんてすごいニュースがしょっちゅう聞こえてくるような時代になってきました。

日本にいても、「仕事のプロ」であれば、面白い事はいくらでも起こせる時代になってきていると感じます。

会社から敷かれたレールで未来が決まっているという生き方もありますが、自分で未来を作っていくという生き方もありますよね。

大久保:ご自身が仕事をする時に、気をつけていることやポリシーはありますか

守屋:「面白い案件が次々にくるからといって、手を広げ過ぎない」ことです。自分自身はありがたいことに、色々な所からお声がけいただいて、やりたいことリストがいっぱいです。ネタが尽きることはありません。

でも、手を広げすぎると、必然的に一つ一つに割ける時間とパワーが落ちてしまいます。これによって案件を食い散らかしている、みたいな中途半端な状態になると仲間に失礼だし、やってる自分も手応えがなくて面白くない。そうならないように注意しています。投資や参画する側のポリシーの話だとは思いますが。

大久保:事業への関わり方への流儀はありますか

守屋:僕は、創業メンバーとして役員をしている会社が上場しても株を持ち続けます。スタートアップなどに新たに投資する際も、キャピタルゲインや人の資金に頼らないで自分自身で稼いだおカネで投資します。だからこそ、刺激的なんですよね(笑)。

例えば、今まで関わった、ミスミ、アニコム、ブティックス、ラクスルとか、どれも大変なことが多かったです。予防医療事業に挑戦したケアプロにいたっては、当時、既存の5つの法律に抵触していると言われていました。でも、我が国にとって必要なサービスであり、この事業を成功させるのは日本のためなんだ、という信念がありました。その後、法律自体を変えていくことができました。

関わるのであれば、深く関わりたい。大変だけど、手触り感がある方が楽しいし、やりがいがあります

達人の知恵

手を広げすぎない
手触り感がある関わりがいい

企業にとって「ボクシングのセコンド」になる

大久保:今、ダイヤの原石、つまり有望な領域が見えていたりしますか?

守屋:有望かどうかの正確な見極めまでは出来ないですが、量稽古を重ねた市場は、いくぶん土地勘があります。その中で、意味や意義を見出しつつも未着手の事業領域があったりします。

例えば、医療などの分野で今挑戦しているのが、「歯科医師のいない、歯科衛生士だけの予防専門歯科医院」です。
現行法では、本当に歯科医師がいない歯科医院は開設できません。ただ日頃の口腔ケアの大事さが認識されてきた現在においては、歯科衛生士による保険証不要、予約不要、10分1,000円などの「セルフメディケーション(自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調を自分でケアすること)」に関連するサービスが必要になってくるのではないかと考えているのです。

医療費が高いアメリカだと、セルフメディケーションは当たり前です。日本は保険が発達しているので医療にすぐ頼ってしまいますが、セルフメディケーションすることで医療費の高騰を防ぐことは大事なことだと思うのです。

大久保:会社でも集中して前だけ見て推進力になる人と、バランスを取る人が必要ですよね。守屋さんを見ていると、ボクシングのセコンドみたいな役割をされているイメージです

守屋:A. そうかもしれないですね(笑)。社長は全力をかけてやらないといけない。でも全力をかけている本人は視野が狭くなりがちだったりします。だから、異質な人が同じ目標に向かって協力する。個人ではなく法人をやるということは、そういうことだと思います。違う人と人の組み合わせが強いのです。

20代、30代でプロになろうとしている、一歩を踏み出そうとしている人へ

大久保:最後に、これから「仕事のプロ」になろうとしている起業家やビジネスマンに向けて、一言メッセージをお願いします

守屋:「好き」を仕事に出来たら、最高だと思います。なぜなら、時代が変わろうが、会社が変わろうが、「好き」をエンジンとして、走り続けることが出来るからです。だから、アタマで考え過ぎずに、自分のココロに素直に動いてみて、カラダが動く方に進んでみてください。

やり切った先には、必ず、自分らしい生き方が拓けると思います。人生を、自分らしく、楽しみ頑張ってください。自分も、大いに楽しみ、頑張りたいと思います!

達人の知恵

新しい一歩を踏み出そう!
理屈や体裁ではない、自分自身の一歩を

著作紹介

新しい一歩を踏み出そう! 会社のプロではなく、仕事のプロになれ!(ダイヤモンド社)
守屋 実 (著)

会社のプロではなく、仕事のプロになれ!1社で30年働くのは、もう無理!
ブティックス、ラクスルを2カ月連続上場に導くなど、これまでに50の新規事業を立ち上げてきたプロが教える「人生100年時代」を楽しむ、新しい働き方とは?
「人生100年時代」を全力疾走するための勇気とエネルギーとヒントをもらえる指南書。
起業家、起業に興味がある人におすすめの本です。

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(編集:創業手帳編集部)



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