マイクロ法人を設立しよう!メリットとデメリット、作り方を徹底解説
税金・社会保険対策にもなるマイクロ法人とは?
近年、オンラインを介して個人で仕事を受注するフリーランスという働き方を選択する人が増えています。
また、業務委託で仕事をする働き方も増えていることから、ライフスタイルに合わせた方法で仕事がしやすくなっていることがわかります。
そのような環境の変化の中で、「マイクロ法人」という言葉を見聞きする場面が多くなってきました。
今回は、税金・社会保険対策にもなるマイクロ法人について解説します。
「マイクロ法人」とは?
マイクロ法人は、フリーランスで働いている個人事業主が税金や社会保険料を節約するために設立するケースが多くあります。
一般的には個人事業主だけが在籍しており、社員やほかの株主が基本的には存在しません。つまり、個人事業主のための法人がマイクロ法人です。
マイクロ法人の設立を考えるケースも増えているため、気になっている人もいるのではないでしょうか。マイクロ法人に見られる形態や個人事業主との違いは以下のとおりです。
マイクロ法人に見られる形態
マイクロ法人の形態は、株式会社もしくは合同会社となります。株式会社のほうが社会的な信用度は高くなる点が魅力です。
一方、合同会社は、設立するためのコストを抑えられることが大きなメリットです。
一般的な株式会社と比較してみると、事業や株主の利益を拡大させる必要がありません。マイクロ法人は、あくまでも税務上のメリットを受けることが目的です。
社長やその家族のみで構成されていることから、プライベートカンパニーと呼ばれる場合もあります。
マイクロ法人と個人事業主との違い
マイクロ法人と個人事業主の大きな違いは、税務上のメリットを得られるかどうかという点です。仕事内容などは個人事業主の頃と変わらないケースが大半を占めます。
しかし、中には個人事業主としての活動は継続しつつ、別の事業をマイクロ法人で行うケースもあります。
このようなやり方は、二刀流と呼ばれるものです。この時、節税対策をするなら別の事業で行わないと、両方まとめて課税されてしまう場合もあるため注意が必要です。
マイクロ法人を設立する4つのメリット
マイクロ法人を設立することにより、メリットを享受できます。続いては、個人事業主からマイクロ法人になると、具体的にどのようなメリットがあるのかを紹介します。
節税対策ができる
最初に紹介するメリットは、節税対策ができることです。事業を行っている人にとって節税は大きな課題になります。
なぜマイクロ法人になると節税対策になるのでしょうか。
法人税率は稼げば稼ぐほど有利に
個人事業主としてビジネスを行うよりも、法人化したほうが支払う税金を抑えられます。個人の所得税は累進課税なので、所得の高さに比例して税率が高くなる仕組みです。
一方、法人になると、基本的に税率が一定の法人税を支払うことになるので、稼げば稼ぐほど有利です。
例えば、1億円の利益が出たと仮定すると、個人事業主の場合は1億円×55%の税金がかかるので約5,500万円を支払わなければいけません。
しかし、法人の場合は、1億円×35%で税金が計算されるため、納税額は約3,500万円となり、個人事業主と比べて2,000万円の節税につながります。
経費の範囲が広い
法人化すると、経費計上できる範囲も広がります。個人事業主と違い、家賃や出張手当、生命保険も経費として計上可能です。
家賃を経費にできるのは、法人に社宅制度があるためです。出張旅費規程などを整えていれば、合理的な金額の範囲内で出張にかかった経費も計上できます。
また、すべてというわけではありませんが、生命保険は保険料の一部を掛け金に応じて損金できる場合があります。
所得分散効果を活用できる
所得分散効果を活用できることも、マイクロ法人になると得られる大きなメリットです。
個人事業主が家族に事業を手伝ってもらった場合、生計を同一にする家族への給料支給は専従者給与となるので認められません。
しかし、マイクロ法人であれば、家族を役員にすると役員報酬や賞与を支給できます。役員報酬などを支払えば、所得分散効果は活用可能です。
所得税は累進課税なので、ひとりに支払うよりも複数で分けたほうが税金の支払い総額が少なくなるので検討する価値は大きいといえます。
欠損金を10年間繰り越せる
法人も個人事業主も、赤字だった時は欠損金として翌期以降に繰り越しできます。そうすることで、利益と相殺して税金を算出できる仕組みです。
欠損金の処理は、マイクロ法人でも個人事業主でも同じなので、大きな違いはないように思うかもしれません。
しかし、青色申告をしている個人事業主が繰り越しできるのは3年間です。それに対して法人は10年間繰越しが可能となっています。
これも、マイクロ法人になる大きなメリットです。
消費税免除を受けられる可能性も
売上げが1,000万円を超える場合は、翌々年から消費税の支払い義務が発生します。しかし、1,000万円以下に抑えていれば消費税は免除されます。
これをうまく活用できれば、売上げの一部をマイクロ法人に移し、消費税を免除してもらえる可能性が生まれることになるでしょう。
ただし、2023年10月から始まるインボイス制度により、消費税免除のメリットが薄れてしまうケースも少なくありません。
インボイス制度についても理解を深める必要があります。
社会保険料を節約できる
マイクロ法人の設立により、社会保険料が節約できる場合もあります。なぜなら、加入する公的保険の種類が変わるためです。
加入するのは、個人事業主の場合は国民健康保険と国民年金、会社員の場合は健康保険と厚生年金です。
マイクロ法人として役員になると、役員報酬を受け取ります。役員には原則として健康保険と厚生年金をかけるとされているため、保険料が抑えられる可能性が高まります。
「代表取締役社長」の肩書が得られる
「代表取締役社長」の肩書が得られる点も、マイクロ法人を設立するメリットとして挙げられます。合同会社の場合は代表社員となりますが、基本的な意味は同じです。
ほかの社員が在籍していない会社であっても、代表取締役を名乗ることは可能です。
社長の肩書を名乗れるようになると、事業の信頼性が高くなるので新規顧客の獲得もしやすくなる可能性が高まります。
そうすると、良い外注先も見つかりやすくなるので、事業を成長させるためにも有益です。
マイクロ法人を設立する2つのデメリット
マイクロ法人を設立することによって、様々なメリットを享受できます。しかし、メリットだけではなくデメリットがあることも忘れてはいけません。
どのようなデメリットがあるのかを紹介します。
手続きが難しい
マイクロ法人は、個人事業主と比べると手続きが難しくなってしまうのがデメリットです。個人事業主なら1年に1回の確定申告で完結します。
しかし、マイクロ法人になると、決算申告をしなければいけません。
決算報告書のほかに、勘定科目内訳明細書や法人事業概況説明書などの書類を提出する必要があります。
これらの書類は税理士に依頼するケースが多いようですが、コストがかかってしまいます。
設立・維持に費用がかかる
マイクロ法人を設立する際の費用や維持していくための費用がかかることも忘れてはいけません。株式会社と合同会社のどちらにするかによって必要な費用は異なります。
株式会社の場合だと約23万円、合同会社の場合だと約6万円かかります。
また、会社運営を正しく行うため、経理などの業務をサポートしてくれる税理士を依頼する場合、その分の費用も必要です。
個人事業主とマイクロ法人の二刀流を目指しているなら、なおさら維持コストがかかります。
マイクロ法人を設立する際のやり方&流れ
マイクロ法人のメリットとデメリットを踏まえた上で設立を決めたのであれば、どのような流れで準備を進めるのか知っておく必要があります。
最後に、マイクロ法人を設立する際のやり方と流れを説明するので、ご参考にしてください。
1.法人用印鑑を作成する
登記手続きをする場合、申請書に会社の代表印を押印します。代表印は、登記申請をする際に一緒に提出するので忘れないようにしてください。
印鑑はスピード作成も可能ですが、会社の大切な印鑑のため、文具店やはんこ専門店で製作することをおすすめします。
お店に依頼した場合、完成までに時間がかかる場合もあります。それを加味し、早めに準備しておくと安心です。
類似商号のチェックが完了する頃から準備を始めるのが理想的です。
2.定款を作成する
定款の作成も法人設立には必要不可欠です。定款には、必ず盛り込まなければいけない絶対的記載事項があるため、作成前に確認しておくことをおすすめします。
絶対的記載事項に漏れがあると、せっかく作成したものが無効になってしまうので注意してください。
絶対的記載事項は以下の項目です。
-
- 事業の目的
- 商号
- 本店の所在地
- 設立に際して出資される財産の価額もしくはその最低額
- 発起人の氏名もしくは名称及び住所
- 発行可能な株式の総数
これらをしっかりと盛り込んだ定款であれば問題ありません。
3.定款認証を行う
定款が完成したら、認証を行います。これは、記載されている内容が正しいかチェックするためのフェーズです。会社の本社所在地を管轄している法務局内の公証役場で行われます。
定款は紙ベースでも問題ありませんが、PDFの電子定款でも認証してもらえます。
紙の場合は収入印紙代として4万円必要になりますが、電子定款であれば不要です。コストを抑えるために電子定款を採用するのもおすすめの手段です。
4.資本金の払込みと払込証明書を取得する
次は資本金の払込みを行います。資本金は1円でも良いとされていますが、それは現実的ではありません。
目安となる資本金は業種によって異なるので一概にいくらといえないものの、200万~1,000万円
ほど用意しておくようおすすめします。
資本金を払い込んだ証明となる書類が払込証明書で、会社を設立する際に必要です。
払込みを証明するためには、出資代表者の個人名義の通帳にある明細ページを利用します。
必要な書類をまとめた時に契約書が複数枚になるのであれば、差し替えられることを防ぐために契印を押すことも忘れないようにしてください。
5.登記書類を作成する
登記申請に向けた書類の作成を次は行います。基本的に必要となるのは以下の書類です。
-
- 登記申請書
- 登記事項などを記載した別紙
- 印鑑届書
- 定款
- 発起人の決定書
- 就任承諾書
- 選定書
- 設立時代表取締役の就任承諾書
- 印鑑証明書
- 本人確認証明書
- 出資の払込みを証する証明書
- 資本金の額の計上に関する証明書
登記書類のサイズはA4に統一して製本します。印鑑証明書以外の書類を重ね、左側をホチキスで止めるだけなので面倒な作業ではありません。
いつでも相談できる専門家を探しておけば、わからなくなった時もすぐに対応してもらえます。
6.登記申請を行う
準備が整ったら、法務局で会社を設立するための登記申請を行います。
登記申請は、資本金払い込み後2週間以内に行うことと代表取締役が行うことがルールになっています。
申請自体は、本社の所在地を管轄する法務局に書類一式を提出するだけなので簡単です。
登記申請をする際は収入印紙が必要です。貼付する印紙は15万円と高額なので、法務曲で確認してもらってから局内の販売所で購入するようおすすめします。
郵送でも申請は可能ですが、その場合書類が法務局に到着した日が会社の設立日になる点に注意してください。
7.登記簿謄本と印鑑証明書を受け取る
会社を設立できたら、登記簿謄本と印鑑証明書を受け取ります。
法務局で印鑑カード交付申請書を作成し、窓口に持参すると印鑑証明書をもらうために必要な印鑑カードが手に入ります。
銀行口座の開設などに印鑑証明が必要になるので、数枚まとめて発行しておくのも良い方法です。
法務局に足を運んだ時に、ほかの用事もまとめて済ませておくと負担を軽減できるので、登記簿謄本も発行してもらってください。
印鑑証明書のように必要なものはありません。登記簿謄本も何かと必要になるので5枚程度もらっておくようおすすめします。
8.各種行政への手続きを行う
会社を設立したなら、行政への手続きも抜かりなく行います。
法務局での手続きが完了したら、税務署に「法人設立届」や「青色申告の承認申請書」、「給与支払事務所等の開設届出書」などを提出します。
「源泉徴収の納期の特例の承認に関する申請書」・「棚卸資産の評価方法の届出書」・「減価償却資産の償却方法の届出書」も税務署に提出する書類です。
そのほかにも、社会保険関係の手続きを年金事務所や労働基準監督署、ハローワークで行います。
厚生年金と健康保険は年金事務所、労災保険は労働基準監督署、雇用保険はハローワークが窓口です。
まとめ
マイクロ法人は、個人事業主と同じように思われるケースが多くあります。確かに似ている部分もありますが、節税効果が期待できるなど異なる点もあります。
マイクロ法人ならではのメリットも多いので、デメリットとなる点も受け入れられるなら前向きに考えてみると良いでしょう。
(編集:創業手帳編集部)