海外で普及し始めている「代替肉」とは?需要増加の理由や最新の海外情勢

創業手帳
※このインタビュー内容は2020年11月に行われた取材時点のものです。

海外で激増する代替肉。最新の海外情勢を食品事業を手掛ける田中氏に聞きました


2020年現在、海外では「代替肉」として、インポッシブルバーガーのような「植物由来の肉」や、可食部の細胞を組織培養する「培養肉」が注目されています。

日本では代替肉に抵抗感のある方が多く、普及し始めているとは言い難い状況ですが、海外では「意識の高い食材」との見方も広がっているそうです。

今回は、海外在住の起業家で食品事業を手掛ける田中氏に、「代替肉の海外情勢・日本情勢」「代替肉の市場動向」「代替食品事業の可能性」この3つのポイントについて詳しく聞きました。

田中 良尚(たなか よしたか)Grit Capital Pte Ltd. Founder & CEO・CDO

大学院卒業後、富裕層向け不動産のマスターリースや不動産オークションビジネス、外資系不動産ファンドにてアセットマネジメント業務に従事。
副業として、自らも資産運用として不動産投資をメインに企業投資、保険商品投資や株式など様々な投資を実践。
2013年に視野を広げるために、シンガポールに家族で移住。日系大手デベロッパーのマレーシアでの商業施設開発事業で飲食店誘致の責任者をしていたことがきっかけで日本国外では、ハラールやベジタリアン、ヴィーガンなど『食の制限がある人々が多い』ことに気づく。
2017年に独立し、不動産や飲食店投資及び食の制限がある人々向けの商品開発や開発コンサル業務食関係をメインにビジネスをしている。また、エンターテイメントビジネスとして、カナダ人落語家『桂三輝』によるブロードウェイ公演のサポート及びワールドツアーのエグゼクティブダイレクターに就任。
現在は、日本でマレーシア政府認定ハラール認証を取得したセントラルキッチン『楽』の運営、ハラール兼植物由来のカップラーメンの商品開発(来年初旬に販売スタート予定)をはじめ、今一番注力しているのが、投資しているカシューナッツ農園の生産効率を上げるための農業テックの導入や、収穫されたカシューナッツを使った代替乳製品の開発、フードテックビジネスへの展開戦略立案。

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代替肉の海外情勢とは

ー代替肉は海外で普及し始めていますか?

 
田中:プロテイン摂取源の多くが肉である、欧米や中国を筆頭に普及してきていると思います。また宗教や環境保護、動物愛護の観点に加え、健康意識から海外では普及してきていますね。

代替肉が普及されてくる前からベジタリアン、ヴィーガン、ペスカタリアンなど様々な食の制限をしているマーケットがあるのも、需要増加の理由として大きいかと思います。

ー食の制限をしているマーケットからも注目されている?

田中:そうですね。マーケットリーダーとして、情報発信力があるヴィーガンやベジタリアンである有名人・投資家が多くいます。

さらに代替肉を含むフードテック業界のスタートアップへのテック系、資産家やセレブリティによる投資が盛んであることも、代替肉の普及に貢献していると思います。

(敬称略)ビルゲイツ、リチャード・ブランソン、テニスプレーヤーのセリーナ・ウィリアムス、音楽家のJay-zなど。

ー代替の肉の普及には、海外メディアも関係しているとの話ですが・・・

田中:NETFLIXの『GAME CHANGERS』や『食品産業に潜む腐敗』など、業界団体からの反発を招きかねない番組を制作できる「オンデマンドメディア」の影響が大きいと思います。

GAME CHANGERSを見て「できるだけ動物性プロティンでなく、植物性プロティンを摂取しよう」と決意した人が相当存在すると思われるほど、インパクトが大きい番組です。

このフードテックの分野は、凄まじいスピードでスケールしてくると思います。ちなみに、私のいる多民族国家のシンガポールでも、ここ1年くらいで代替肉や植物性プロティンを使った店が増えてきました。

代替肉の日本情勢とは

ー日本では今後どうなりますか?

田中:日本の食文化におけるプロティン摂取源は、肉がメインでないことがポイントです。

日本人は元々肉よりも、米やパン、麺類でプロティンを摂取しています。大豆ミートなど、代替肉の開発やマーケットはありますが、アレルギーとかではない限り、あえて食の制限をしている人が少ないでしょう。

また畜産産業と環境問題、さらには海外のように食の制限についての意識が低いことから、海外よりも代替肉の普及は緩やかだと思います。

ー日本ではあまり普及しない?

田中:健康問題やインバウンド対応を考えると、ホテルや飲食店などにおいては、最低限「対応可能」にしないといけないことから、代替肉や植物性ミルクなどを普及させたいと思います。

実際に、不二製油や大塚食品、日清食品ホールディングスなど大手食品メーカーをはじめ、日系会社も代替肉の開発を進めています。

日本の美味しい牛肉や食肉に限りなく近いテクスチャの「塊肉」製品を、技術や情報を持っている大手食品メーカーとスタートアップが組んで、作り上げることができたら、健康問題に敏感な日本人マーケットでも爆発的に普及するかもしれません。

そんな日がぜひ来てほしいと思います。

ー正直なところ美味しいですか?
慣れていないと「まずい」「不気味」みたいなイメージもあります・・・

田中:まず、既製品の感想です。インポッシブルバーガーなど、彼らが開発した肉の風味に近づけるヘム(※)により、ハンバーガーとして十分美味しいですね。食べた後のお腹への負担が少なかったのも良かったです。

次に、原材料としての感想です。代替ポークを使った餃子などを、投資先のGyoza barで開発しました。こちらもシェフのおかげで非常に美味しくできたため、今後はベジタリアンメニューとして追加予定です。

(写真左より)台湾まぜそば、餃子、坦々豆腐。マレーシアのスタートアップである『Phuture foods』の代替肉を使って豚肉を使った場合との違いについての試食会を実施。

ただし、代替ポークは「肉じゃが」には合わなかったですね。まずくはないのですが、どうしても材料の豆の味が残っていて、好みの味にはなりませんでした。スパイスや調味料で味がカバーできる料理に向いていると感じています。

(※)ヘムとは、大豆レグヘモグロビンの略称のこと。

代替肉の市場動向

ー今後の代替肉の市場動向で注目するポイントは?

田中:フードテック革命(出版社:日経BP)によると、世界のスタートアップや大企業の狙いは「単なる代替プロティン市場」ではなく、世界の食肉市場(約185兆円)に挑戦しています。

どこまで食肉市場を取りにいけるか、もしくは新しい市場を開拓できるかというところです。
 
また、注目ポイントとして「肉塊」が3Dプリンターや培養などを駆使して、牛肉と変わらないテクスチャの代替肉ステーキができたら、大きく潮目が変わると思っています。

技術・市場の初期段階ではコストが高いものの、「原材料の安さ」「高品質」「大量供給可能」の観点から、今後成長が見込まれる市場としてビジネスチャンスを秘めているでしょう。

例えば、優れたチャンピョン牛肉を培養した場合、低価格で美味しい肉を大量に供給できる可能性があります。

ーイスラム・インドでの代替肉の可能性は?

田中:イスラム教は豚肉は食べられませんが、基本的に肉食の方が多いので可能性が大いにあるでしょう。

ただし、若い人口が多く、さらに人口が増えていくことを考えると、「食肉」が優勢であると思います。実際に、イスラム教の友人から「日本にきたらハラール和牛を食べたい」というニーズをよく耳にします。

インドに関しては、ベジタリアン人口が4割程度です。

インドのベジタリアンは、ヒンドゥー教やジャイナ教などの宗教的信条の影響が大きく、子供の頃からベジタリアンなので、あえて代替肉を食べようと思うのかは疑問です。

13億人のマーケットなので、食肉を食べている層に対して、代替肉のマーケット拡大余地は十分あると思いますが、国内食料自給率が100%以上あることや、上記の理由により、浸透するまでに時間がかかるでしょう。

代替食品事業の可能性

ー2020年現在の食系の事業について教えてください。

田中:ハラール・ヴィーガン・ベジタリアン向けの商品開発や販売・コンサルビジネスをしております。それ以外に寿司屋・Bar・スパニッシュの飲食店(シンガポール)に投資していますね。


それ以外に、日本ではインバウンド対応として、日本で初めてマレーシア政府認定ハラール認証を取得した、ハラールセントラルキッチン「楽」の運営及び販路開拓事業をしています。

来年初旬には、日本でローンチできるハラール認証+植物性原材料で作ったカップラーメン「Freedom Noodle」(辛味噌・シーフード・日式カレー)を発売予定です。

日本の外にいるからこそ見える視点から、日本のバリューを上げていく食系事業をしております。何かありましたら、お気軽にご相談ください。

(写真左より)来年日本国内で販売予定のカップラーメン「Freedom Noodle」。ハラールキッチン『楽』の湯銭すればすぐに食べられるビーフカレー。ハラール認証取得した和食商品。

ーそのほか注目している代替食品事業はありますか?

田中:直近で注力しているのは、ちょうど今回のトピックの代替食品の一つである「植物性乳製品」の開発販売事業になります。

カンボジアのカシューナッツ農園を所有しているのですが、収穫したカシューナッツを最大限美味しく、できるだけ消費者にダイレクトに販売できる商流を作ることだけを検討してきました。

そこでカシューナッツから、カシューミルクやカシューチーズ、バターなどの植物性乳製品が作れることを知りました。

それからはフードテックによる代替肉、植物性ミルクをはじめとした代替乳製品やローフードのマーケットを知って、大きく舵をそちらに振りました。

世界の乳製品市場は約78兆円もあるわけなので、全世界をターゲットにビジネスを展開できる可能性があります。

今は、カシューミルクやチーズの試作品を作りながら、ビジネススキームやマーケティングプラン、ブランディングについて一気に作り上げているところです。早く日本でも販売できるようにしたいと思っています。

読者へのメッセージ

ー日本の起業家や食の関係者に向けて、メッセージをお願いします。

田中:食に限らず、日本の大手企業が蓄積している技術やデータ、さらには設備をオープンにし、可能性のあるスタートアップと組んだら面白いですね。

グローバルマーケットを見据えて、一丸となってやっていける仕組みを作れたら、日本にも大きなチャンスがあると思います。

先進国である日本は、率先して地球環境保護に取り込む姿勢が求められる中で、フードテックや農業テックは、日本の経済を大きく飛躍させるチャンスがあるビジネス領域だと思います。

私は、植物性乳製品のスタートアップビジネスをスタートさせたところですが、食レベルが高い日本で、クオリティが高い植物性乳製品を開発していきたいので、興味がある方はぜひお声がけください。

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(取材協力: Grit Capital Pte Ltd./Founder & CEO・CDO 田中 良尚)
(編集: 創業手帳編集部)



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