IT業界で成功後、カンボジアで学費無料の大学を設立!猪塚武の国境を超える発想法(インタビュー前編)

創業手帳

政治家志望の起業家が、カンボジアを選んだ理由とは

(2017/12/12更新)

カンボジアのリゾート地にあるIT人材育成施設「キリロム工科大学」。この大学を含めた地域を「リゾート学園都市」にするために奮闘している日本人がいることをご存知でしょうか?東京工業大学大学院出身の起業家、猪塚 武氏です。
「もともとは政治家を目指していた」と語る猪塚氏。そんな猪塚氏が、どのようにしてカンボジアで学校を運営するというビジネスにたどり着いたのでしょうか?
前編となる今回は、起業家になったきっかけや、数ある国の中でもカンボジアを選んだ理由について、お話を伺いました。

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猪塚 武(いづか たけし)
キリロム(vKirirom Pte. Ltd.)創業者 兼 CEO /キリロム工科大学学長
1967年、香川県出身。早稲田大学理工学部物理学科、東京工業大学大学院理工学研究科修了。アクセンチュアを経て1998年に株式会社デジタルフォレストを設立。会社を売却後、2010年に日本を離れ、4年間のシンガポール生活を経て、2014年よりプノンペンに移住。
同年、キリロム工科大学を中心とした約1万haの広さの「vキリロムネイチャーシティ」を設立。世界的な起業家組織EO(Entrepreneurs’Organization)の日本支部会長・カンボジア支部会長・アジア理事を務める。2018年4月1日より日本人起業家のグローバルネットワークである一般社団法人WAOJE 代表理事。東京ニュービジネス協議会から 2016年国際アントレプレナー賞 最優秀賞 受賞。
VKIRIROM PTE. LTD.は「デロイト 2017年 アジア太平洋地域テクノロジー Fast 500」で28位を獲得(日本・アセアン地域内1位)。

政治家になりたくて始まった起業家人生

ー元々政治家を志望していたと伺いましたが、どうして政治の道を志そうと思ったのでしょうか。

猪塚端的にいうと「日本の将来に危機感を持ったから」です。大きな借金を抱えて今なんとかしなければ未来は暗いものになると思って「政治家になろう」と大学院の博士課程を中退しました。そこで、「まずは就職しなければ!」と思い、初任給が高かったアクセンチュアに入社しました。

ですが、アクセンチュアに入社した後も「出馬したい!」と周りに言いまくっていたら、怒られてしまいました。それなら!と思い、アクセンチュアを退職して、実際に立候補しました。一新塾創設者の大前研一氏が応援演説に来てくれましたが、結果は落選でした。

ー今は「政治家になりたい」とは思わないのですか?

猪塚:友人に現役の政治家が何人かいますが、話を聞いていると「起業家の方が世界を変えるのに貢献しているな」と思いました。今がいち都市の市長のような仕事をしているので、満足もしていますし。

ー政治家志望から起業家になった経緯をお伺いします。

猪塚:当時は、落選した後も出馬したいと思っていました。ですが、政治家を志望していたので就職先もありません。そこで「選挙に出るための会社をつくれば良いんだ!」と思って、デジタルフォレストという会社を起業しました。1998年のことです。

その時は、IT分野での技術力があれば、仕事がたくさんあった時代でした。東工大時代にスパコンを扱っていた経験があったので、※アフェリエイトプログラムをつくりました。1999年にリリースしたアフィリエイトプログラムはなかなかうまくいかなかったのですが、何度か方向転換を繰り返して、最後にリリースした「Visionalist」というアクセス解析ソフトがブレイクして、2013年に軌道に乗りました。

※アフェリエイトプログラム:アフィリエイト広告を利用する為に必要なプログラムのこと。
アフィリエイト広告とは、広告をクリックして広告主のサイトに訪れた人が、サイト内で商品購入や資料請求などのアクションを起こした時点で、成果報酬が発生する広告のこと。
そのため、どのアフィリエイト広告から、何件の成果が発生したのかを正確に把握し、成果報酬額を集計するシステムが必要になります。そのシステムが、アフィリエイトプログラムです。

カンボジアを選んだ理由

ーその後、今のビジネスにつながると思うのですが、その経緯はどのようなものでしたか?

猪塚:先ほどもお話した通り、アクセス解析ソフト「Visionalist」がブレイクして、事業は軌道に乗りました。ですが、Googleが同様のサービスを無料で全世界に提供してきたことにより、対抗することが難しくなってきました。

そんななか、NTTコミュニケーションズからの買収の話を持ちかけられ、最終的にはデジタルフォレストを売却しました。大企業の子会社の社長となったわけですが、大企業は起業家にとって、とても窮屈でした。

そこで会社を退職し、第二の起業を目指してシンガポールに拠点を置きました。起業家を歓迎してくれる環境でしたし、子供達の英語教育の場としても最適だったからです。ここから、新規事業を始める地を選びました。

外国人が他の国でビジネスをやるのって大変ですよね。外資の規制の問題が特に大きいと思います。最初に「これで起業しよう!」と思っていても、そのビジネスモデルで最後までうまくいった人はすごく少ないです。苦労して次のビジネス、次のビジネス、と探している。そんな具合です。

そんななかで事業をうまく方向転換できる国(外資規制が緩い国)をASEAN諸国の中で探したら、シンガポールとカンボジアしかありませんでした。シンガポールはたくさんの起業家が進出していますので、事業を方向転換する場合のことを考えて、カンボジア一択になりました。

カンボジアは安全で、親日です。そして、※「EO」がなかったことも決め手でした。「EO」の支部があるということは、すでに大物の起業家がたくさんそこにいるということです。カンボジアにはないので、これからだという可能性を考えました。

日本は今、近隣諸国との関係や、財政面などで様々な問題を抱えています。なので、平時は現地で支援を行い、緊急時に逆に日本を支援するようなビジネスモデルを作りたいと思い、今の事業をスタートしました。

※EO(Entrepreneurs’ Organization):起業家・創業者の世界的ネットワーク組織のこと。

ーそういう経緯があったんですね。では、今ビジネスをしている、カンボジアについて詳しく教えてください。

猪塚:カンボジアって暑いと思われがちですが、我々のプロジェクトの場所であるキリロムはとても涼しいんです。日本でいうと長野の軽井沢のような気候です。キリロム工科大学がある場所は首都のプノンペンから2時間、100キロメートルほどの場所にあります。エアコンが必要ないのが良いですね。

ーあまり暑くない、というのは意外ですね。では、「カンボジアで大学をつくる」というビジネスモデルはどのようなきっかけで生まれたのですか?

猪塚「カンボジアには何が必要か?」をずっと考えていました。キリロムはリゾート地ですが、可処分所得がマイナスなので、余暇を楽しむ余裕がありません。切り詰めて生活しているので、リゾートなんていらないんです。

全員が何を望んでいるかを分析すると、「お金持ちになりたい」ということでした。自分はお金持ちではなくても、息子や娘にはお金持ちになってほしい。そのためには教育が必要だという結論に達しました。

ーお金を稼ぐための知識と技術を教える、ということですね。

猪塚:何か事業を始めようにも、人材レベルが日本に比べてあまりにも低く、かつ、その人材を取り合っている状況でした。大学がきちんと機能していないのに、大学生を卒業後に採用しても仕方がないので、学生採用はやめました。

そこで、「高校のIQが高い人だけを全部集めて、4年間新入社員の研修みたいなものをやったらいいんじゃないかな?」っていうのが元々のコンセプトでした。いろいろ大変なことはありましたが、みんながあまりにも幸せそうなんで、やってよかったなと思います。

学費は無料。驚きのビジネスモデル

ー生活を切り詰めている中で、大学に通ってもらうとなると、学費はどうしているのでしょうか?

猪塚:1円ももらってないですよ。

ーえっ、もらってない?どういうことですか?

猪塚学生から学費をもらわない代わりに、卒業生の就職先から1人あたり2万ドルほどいただく、というシステムにしています。

お金がある人は勉強しないんですよ。ハングリーな人ほど勉強します。

ー工科大学のカリキュラム、力を入れている分野を教えてください。プログラミングなどでしょうか?

猪塚実は、「プログラミングはするな」と最初に言っています。経営者やCTO(最高技術責任者)になってほしいので、まずはプロジェクトマネジメントやビジネス、アカウンティング、マーケティングを学んでもらいます。その前に英語ができないといけないので、※TEDなどを採り入れています。

※TED:学術・エンターテインメント・デザインなど、様々な分野の第一線で活躍する人物を講師として招き、定期的にカンファレンスを開催しているグループ。
カンファレンスの模様は、TED Talksという動画アーカイブとしてインターネットを通じて全世界に無料で公開されている。

1年生はITがそんなにできないので、リゾートマネジメントのインターンをします。次にオープンソースのソースコードを見る訓練をします。いきなりプログラミングを作ったところでろくなものはできないですからね。

そして、最後の3、4年生になってやっとプログラムを解禁します。日本人に向けて教育するのとまったく変わりませんね。だから、今度は日本人の学生を受け入れたいと思っています。

ー日本人の学生を受け入れるんですね。

猪塚:そうですね。現地の学生はかなり優秀ですよ。ITだったら東大生よりも勝っていると思います。ですから、これを日本人にやったら、もっと良くなるんじゃないかと思っています。英語がペラペラになって、ITができるようになったら、かなりいいですよね。まさかの「カンボジア留学」です。

本当のイノベーションは、アイディアを吸収して、消化する、という仕組みだと思います。どこでも教えていないことを学ぶ、というのは、理論を頭で構成し、仮説、検証できる人でないと作れません。そのようなことを学生たちには学んで欲しいですね。

【後編はこちら】一つのことに固執せずに、視野を広げるためにやっておきたいこと
日本人は世界で活躍できるチャンスがある。キリロム工科大学 猪塚 武が実践する「海外で成功するための考え方」(インタビュー後編)

(取材協力:キリロム工科大学学長/猪塚武)
(編集:創業手帳編集部)

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