Helpfeel(旧Nota) 洛西一周|「みつける」「つくる」「とどける」ツール開発で本当に必要な知識をユーザーが活用できる世界に

創業手帳
※このインタビュー内容は2022年07月に行われた取材時点のものです。

Gyazoなどの人気Webサービスを手がけるHelpfeel洛西氏。最初のサービス失敗からの転換の経緯


「Gyazo(ギャゾー)」というアプリをご存知の方は多いのではないでしょうか。スクリーンショットを簡単に撮影でき、気軽にシェアできるアプリ。この分野では世界トップシェアを誇る人気Webサービスです。

この「Gyazo」などの複数Webサービスを開発しているのがHelpfeelです。代表取締役/CEOの洛西一周氏は、高校生のときから個人開発を始め、当時作った「紙copi」というアプリが100万ダウンロードを記録したことがきっかけで、起業を志すことになります。
しかし、個人開発で成功したのとは対照的に、Helpfeelの最初のプロダクトは鳴かず飛ばずだったそう。
一時期は破産寸前の状況にまで陥ったとか。そこから方向転換し、Gyazoなどの大ヒットサービスを生み出すまで成長されました。

まさに波瀾万丈といったその起業家人生について、創業手帳の大久保が聞きました。

洛西 一周(らくさい いっしゅう)
Helpfeel株式会社(旧Nota株式会社) 代表取締役CEO
1982年生。人間味あるソフトウェアづくりを掲げて、高校時代に知的生産アプリ「紙copi」を開発し、3億円のセールスを記録。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了後、2007年より渡米してNota Inc.を設立、世界向けのアプリやウェブの開発を手がける。5年間の苦心の末、米国・欧州マーケットでのシェア獲得に成功し、現在は、Gyazoがスクリーンショット共有で月間1000万UU、世界トップシェアを持つ。2003年度経産省IPA未踏ソフトウェア創造事業天才プログラマー認定。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計200万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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起業のきっかけ


大久保:起業のきっかけについて教えてください。

洛西高校時代に「紙copi」というフリーソフトを作ったことがきっかけですね。それが大ヒットして、100万ダウンロードを記録しました。

大学2年生のときに有料版をインターネットで販売し始めると、初年度から1000万円以上も売れてしまいました。一般的なサラリーマンより稼いでしまったので、就職の選択がなくなり、そのまま独立することになりました。

大久保:「紙copi」のサービスは現在でも続いていますよね。

洛西:そうですね。細々と続いています。結局、10年間販売して3億円ほど売り上げました。

大久保:大学ではプログラミングを勉強されていたのでしょうか。

洛西:いえ、あくまでプログラミングは趣味としてやっていました。法学部でしたから。

プログラミングを学ぶ学校に行ったわけではなかったものの、2003年度に経産省IPA未踏ソフトウェア創造事業で天才プログラマーに認定されてから、プログラマーの友達が増えていきました。
そのなかで出会ったプログラマーの先輩が、Googleに就職したんですね。そこでシリコンバレーに私も遊びに行ってみたら、すごく楽しそうだったんです。
「自分も行ってみたい」と思い、シリコンバレーで起業しました。

社名にもなったNota。なぜ普及しなかったのか


大久保:起業するときに、「紙copi」とはまた別のアプリを作られたんですよね。

洛西:そうですね。社名にもした「Nota」というアプリを作りました。そのときのアイデアや技術が今の会社のサービスにもつながっているのですが、そこまで普及させることはできませんでした。

「Nota」はブラウザ上でコラボレーションしながらコンテンツを作成・編集できるアプリで、今でいうGoogle Slideのようなツールです。

Notaはラテン語で「ノート」の意味で、最初からグローバル展開を狙ってこの名前にしました。「もっと普遍的な、次世代のノートを作るんだ」という気持ちでした。

大久保:Google Slideに数年先駆けて同じようなアプリをやっていたわけですね。世に出すのが早すぎたのでしょうか。

洛西:そうかもしれません。まだ、梅田望夫さんが「Web2.0」について語り出した頃で、Webアプリがおもちゃっぽい時代だったんですね。mixiやFacebookなどのSNSが出てきた頃で、他のビジネス用途のTo B向けSaaSも出てきていない状況。ツールや環境がまだ整っていなかったんです。

私自身もどうやって「Nota」を使ってもらうか用途が定まりきっていませんでした。今思えば、それが敗因かもしれません。

大久保:確かに、用途が広すぎるとどう使っていいのかわからないかもしれません。

洛西:「Nota」に打ち込んでいたのですが、お金がなくなってしまって一旦グローバルで成功させることを諦め、日本に戻ることにしました。会社はほぼ破産状態に近かったですね。2010年頃のことです。

受託開発と自社サービス開発の最適なバランス

大久保:「Nota」というサービスを諦めて、次にどのようなアクションを取られたのですか。

洛西創業当初より、川田尚吾氏をはじめさまざまな投資家の方々からご支援いただいていたので、「ここで終わらせるわけにはいかない。成功させないと」という思いがありました。そこで生き延びるために受託開発をしていました。

大久保:受託開発をメインでやられていたのでしょうか。

洛西:いえ、あくまで受託開発は10%くらいに留めて、新サービス開発に注力していました。しばらくすると、増井がアメリカで開発した「Gyazo」というサービスが伸びていって、アクティブユーザーが300万人ほどになりました。それまでは全て無料でサービス提供していたのですが、そのタイミングで有料化に踏み切り、ようやく会社が息を吹き返した、という経緯です。

大久保:受託開発と新サービス開発を両立させるためのポイントは何かありますでしょうか。

洛西:受託開発と新サービス開発の力の入れ方には気をつけたほうがいいでしょうね。例えば、半分が受託開発、半分が新サービス開発という比重で考えます。すると、受託開発をやっているチームは「俺たちが食わせてやっている」という意識になり、一方で新サービス開発を楽しそうにやっている人たちに対して嫉妬が生まれてしまいますよね。「あいつらだけ楽しそうにして」みたいな(笑)。だからこの2つを上手くバランスさせるには、受託開発の割合を少なくしないといけません。

Helpfeelの場合、私が受託係でした。大手広告代理店の受託開発をやっていて、週に一回代理店のオフィスに通って開発して、なんとか会社を生き延びさせていました。

大久保:社長が受託をやっていたんですね。

洛西「会社に勤めてから起業するか、いきなり起業するか」という議論がありますよね。私はいきなり起業してしまったのですが、大手広告代理店相手の受託開発をやることで、会社勤めのビジネスマナーも学べました。
だからいきなり起業して経験が足りない場合は、受託開発も悪くないです(笑)。

そこでB to Bビジネスのセンスも磨かれたような気がします。

マネタイズを始めるタイミング


大久保:マネタイズを始めるタイミングをいつにするのか、判断するのは難しいのではないでしょうか。

洛西:そうですね。いつから有料化するのかという判断は、非常に重要だと思います。一つ言えるのは、なるべく無料の状態のまま大きくしたほうがいいですよね。

我々は2011年に広告とサブスクの両モデルでマネタイズを始めました。当時アクティブユーザーが300万人ほどいたので、そのうちの1%〜2%程度の人が課金してくれるだけでもかなりのお金になり、受託開発をやめても問題なくなりました。

大久保:マネタイズを始めることについて、社内で反対もあったのではないでしょうか。

洛西:ありました。CTOの増井も、広告を載せることについては反対していましたね。「シンプルなツールだからいいのに、広告が入るとゴテゴテになってしまう」という理由でした。

無料と有料の線引きについては、そのときからずっと議論し続けてきています。将来の成長性や事業の継続性など、さまざまな観点から判断します。

有料化するときと、黒字化するとき、2回ほど大変な時期がありました。有料課金に踏み切ると炎上することもあるので、かなり慎重にならないといけないですからね。
ただ、ユーザーが無料で利用できる機能と有料で利用できる機能を差別化することで、やはり売上は伸びて経営状態はよくなりました。

大久保:反対があったということですが、社内の反対を説得するためにどんなことをされたのでしょうか。

洛西「無料のフェーズは終わってマネタイズに舵を切らないといけない」と伝えることしかないですよね。資金繰りの状況も社内で共有しながらそのようなメッセージを発し続けました。

そのタイミングでVCから2億円資金調達したこともあって、社内の雰囲気が変わっていきました。

ツールを組み合わせて成長を実現するには

FAQシステム「Helpfeel(ヘルプフィール)」

大久保:「Scrapbox(スクラップボックス)」と「Helpfeel(ヘルプフィール)」というサービスもそれぞれ展開されていますよね。

洛西:「Nota」のようなドキュメント共同編集サービスはいつかもう一度出したいと考えていました。CTOの増井が作っていたGyazzというWikiシステムを改良して、「Scrapbox」として2016年にリリースしました。
「Helpfeel」は「Scrapbox」で作成したドキュメントを検索可能にするツールで、2019年にリリースしています。

「Helpfeel」はリリース直後から売れています。従来のFAQでは答えが探せないという明確な課題がありました。
革新的な検索技術で答えが見つかり、誰にでも使いやすい検索型FAQシステムであることが、「Helpfeel」が受け入れられている理由です。価格設定も適切にでき、すごく伸びています。

大久保:「Scrapbox」はどのようなサービスなのでしょうか。

洛西:「Scrapbox」はドキュメントにアイデアを書いて、情報同士を双方向リンクでネットワーク化してつなげるアイディエーションツールです。

アイディエーションツールとは、アイデアの元になる情報の断片をみんなで書いてリンクでつなげていき、それをどんどんブラッシュアップしていくことで、組織の知識として育てていき、文化として根付かせていくことができるようなツールです。社内Wikiや、サービスのFAQ、マニュアルなどを共同で作って共有する、ナレッジマネジメントに向いています。それぞれのドキュメントがカード型になっているため扱いやすいです。

この「Scrapbox」を「Helpfeel」とあわせて使うとさらに便利になります。

「Helpfeel」を使うと、コンテンツの検索精度はとても高くなりますが、多くのFAQの作成の現場では、コンテンツを継続的に更新するための課題を抱えています。
例えば、古くなった情報が何年も放置されていたり、重複した回答がいろんな場所に書かれていて統一できていなかったり、サービスの新機能の説明が反映できていなかったり、用語がバラバラで読み手を混乱させていたりします。このように、検索以前にコンテンツが整っていないという課題に対して「Scrapbox」が解決策になります。Scrapboxは、FAQのようなばらばらになりがちなコンテンツをつなげてまとめることで、様々な問題を一気に解決するからです。
ツールを組み合わせることで、コンテンツの作成と検索の両方に効果的なソリューションを提供できるようになりました。

大久保:これまで作ってきたものがつながったわけですね。

洛西:はい。

大久保:Helpfeelがいいサービスを作れる秘訣などがあれば教えてください。

洛西:弊社には「ドッグフーディング文化」があります。自社製品を自分たちでも絶対に使う、という文化ですね。
全員がツールを使うなかで感じたことをフィードバックして、どんどん製品をアップデートして磨き上げていきます。この「ドッグフーディング文化」が一役買っていますかね。

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(取材協力: Nota株式会社 代表取締役CEO 洛西 一周
(編集: 創業手帳編集部)



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