MaaSとは?導入によるメリット・デメリット

創業手帳

MaaS(マース)とは交通や地域の様々な問題を解決する取組み


MaaS(マース)は、地域住民や旅行者の移動ニーズに対する課題を解決するための取組みです。Mobility as a Serviceの略称になります。
複数の公共交通機関やその他の移動サービスを組み合わせ、検索や予約、決済などを一括で行えるサービスです。

観光スポットや医療機関など交通以外のサービスと連携することで、移動の利便性を高めたり、地域が抱える課題を解決したりする効果が期待できます。
今回は、MaaSを導入することのメリット・デメリットや現在の課題点についてご紹介します。MaaSについて詳しく知りたい方は、ぜひ参考にしてみてください。

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MaaSの普及を図る統合レベルとは


MaaSが普及しているか知るための指標は、統合レベルで把握できます。普及度に合わせて5つのレベルに分けられています。
交通サービスがどのくらい統合されているのかによって、普及レベルが変わるので確認してみましょう。

レベル0 交通サービスがそれぞれ独立している状態で、従来の形が残っている場合が該当する。
レベル1 時間や距離、目的地などの移動するための必要な情報は統合されている。しかし、予約や支払方法はそれぞれ独立しているという状態がレベル1に該当する。
レベル2 予約や支払方法が統合されている状態。移動時の発券や予約の手間を省ける。アプリがあれば交通機関の支払いを完了できる状態がレベル2に該当する。
レベル3 予約や支払いだけではなく、複数の交通サービスが統合され、移動が便利な状態がレベル3に該当する。
レベル4 国や自治体規模で交通サービスを統合し、MaaSが普及している状態がレベル4に該当する。

MaaSが導入されるメリット


MaaSを導入することにより、地域が抱えている課題を解決に導くことが期待されています。続いては、導入によって生まれるメリットを8つご紹介します。

1.公共交通機関の利用を促せる

MaaSが導入されると、アプリだけで利用できる交通機関をチェックできます。
従来であれば、地図アプリでルートの検索をしたり他のサイトから乗換案内をチェックしたりする必要がありました。
また、それぞれの公共交通機関のサイトで予約・支払いを行わなければいけなかったため、その分手間がかかってしまいます。

しかしアプリだけで交通機関の状況をチェックできることで、公共交通機関の利用を促すことにもつながります。
交通サービスの使い方がわからない高齢者や土地勘がない旅行者・出張者も利用しやすくなるでしょう。
アプリに慣れていないと難しいと感じる場合もありますが、普段からスマートフォンを使っている人なら問題ありません。

2.混雑を回避できる

MaaSの導入で、混雑を回避できるというメリットも生まれます。
複数の交通手段を選択しやすくなるので、特定の交通機関が混み合ってしまうという事態を防ぐことが可能です。
MaaSの導入によってカーシェアリングが普及すれば、定額で車を利用できる人も増え、必然的に電車やバスが混雑しにくくなります。

また、カーシェアリングの普及や公共交通機関を活用する人が増えることで自家用車が少なくなると、都市部の交通渋滞も改善される効果が期待できます。

3.観光客のサポートにつながる

地方の観光客をサポートできるようになるメリットも期待できます。地方へ旅行する際、土地勘がないと交通手段で悩んでしまうケースも多いです。
そのような中でMaaSが普及すれば、バスや電車といった従来の交通手段だけではなく、1~2名乗りの超小型モビリティや自動運送車も選択肢に入ります。

地方は交通手段が少なく不便だと思われがちです。しかしMaaSが導入されれば、そのような問題も解消につながる可能性があります。
土地勘がないと公共交通機関も効率的に使えない場合があるため、新たな交通手段が視野に入るのは魅力的です。

4.地方在住者・高齢者も移動手段を確保できる

バスの運行も難しい地方に住んでいる方や免許証を返納した高齢者にとって、交通手段の確保は難しい状況にあります。
自動車社会となっている日本国内において、移動を制限されている交通弱者のサポートを行うことも、MaaSの導入で実現しやすくなります。

例えば、乗合タクシーやバスの利用がしやすくなれば、公共交通機関が通っていないエリアでも移動手段を確保することが可能です。
タクシーを活用すれば、足腰が弱っている高齢者の移動も安全性が高まります。家から病院などがドアtoドアになれば、利便性も大幅に向上します。

5.排気ガスを削減できる

MaaSを導入して自家用車を使う人が少なくなれば、排気ガスの削減効果も期待できます。公共交通機関の利用が促進されたり、カーシェアリングが普及したりするためです。
都市の大気汚染や地球温暖化は世界的な問題となっており、環境に優しい取組みとしても注目を集めています。

自動車の排気ガスには、温室効果ガスのひとつである二酸化炭素がたくさん含まれています。そのため、脱炭素社会を目指す取組みの推進にも効果的です。

6.物流が効率化される

MaaSを導入すると、鉄道やバスのダイヤ見直しにもつながります。効率的な運行を目指すだけではなく、モビリティの一元管理を行って交通を最適化します。
鉄道やカーシェアリング、公共バス、タクシーといったすべての交通手段が対象です。

さらに、ITを活用したビッグデータの収集と分析を行い、運行ダイヤの最適化や増便・減便の判断をします。物流は、交通渋滞が緩和されるので効率化が期待できます。

7.スマートシティの実現に近づく

MaaSは、スマートシティの実現にも役立つと考えられています。
スマートシティは、IoTやAIなどのデジタル技術を駆使してデータの収集を行い、活用する都市のことです。

MaaSは、交通データや移動サービスを最適に組み合わせ、利便性や快適性の向上を目指します。そのため、スマートシティのソリューションの1つだといえます。
スマートシティの実現には、MaaSの導入も必要不可欠です。

8.各産業が活性化される

MaaSを導入すると、様々な産業が活性化する可能性も高いです。観光地への移動が便利になれば、観光客に需要を満たすことになり、各地の観光スポットが栄えます。
これまで移動を制限されていた過疎化が進む地域の住民や高齢者は快適に移動できるようになるため、市街地に足を運ぶ機会も増えるでしょう。

このように、移動がこれまで以上に楽になることで各種様々な産業が活性化されていきます。

MaaS普及で起こり得るデメリット


MaaSは先進的で魅力的なサービスに思われますが、デメリットもあります。続いては、MaaSの普及によって起こり得るデメリットを3つご紹介します。

1.自動車業界は変化への対策が必須

交通手段が自家用車以外へと変化していく可能性が高まるため、自動車業界は変化に対する対策が必須です。
バスやタクシー、鉄道などの連携が強化されて使いやすくなれば、自家用車を持つメリットは少なくなります。それにともない、車の販売台数が減少する恐れもあります。

自動車メーカーは厳しい状況になるリスクをはらんでいるため、従来のようなやり方ではなく何らかの対策を講じ、業界全体が変わっていかなければいけないタイミングだといえるでしょう。
利益を上げるためにほかの方法を考え、自動車業界の収益構造まで変えなければいけません。

2.個人情報やデジタルデバイド(情報格差)のリスク

MaaSは、移動に関する多くのデータを取得し、AIで解析・分析を行います。データ収集は利便性の向上に欠かせませんが、個人情報を提供することになります。
そのため、個人情報保護の観点から、どこまで情報の提供を認めるのか議論されているのが現状です。

また、MaaSのサービスはスマートフォンアプリを使うケースがほとんどです。
急速に普及していけば利便性は向上していますが、スマートフォンを持っていない人は取り残されてしまいます。
特に高齢者はスマートフォンを持っていない人もいるため、使い方をこれから覚えるとなると時間がかかってしまい、取り残される可能性があります。

3.システム障害が発生すると混乱を招く可能性も

システム障害が発生するリスクもゼロではありません。万が一障害が発生したら、大きな混乱を招く可能性があります。
MaaSは多くのシステムを連携させて行うサービスなので、システム障害の影響は甚大なものになると想定できます。

スマートフォンのキャリアで通信障害が発生すると、多くの人に影響が及んだ時と似ています。
ある程度私たちの生活に根付いた時に、システム障害が発生するのが最も恐ろしい状況です。こうしたシステム障害を最低限に抑える取組みも、必須といえます。

日本でMaaSを普及させるための課題点


日本国内でもMaaSが普及すれば、生活の利便性は大幅に向上します。しかし、普及させるためにはクリアしなければいけない課題もあるのが現状です。
最後に、どのような課題があるのか確認しておきましょう。

1.法律の整備の必要性

日本でMaaSを普及させるには、法律の整備が必要になります。アメリカでは、一般ドライバーが自家用車で乗客を乗せて運賃をもらう、有償ライドサービスが一般的です。
しかし日本では、自家用車に乗客を乗せて運賃をもらうことは道路運送法第78条で禁止されています。

道路交通法では、タクシー事業を行うためには国道交通大臣の認可が必要です。乗合も認められていません。
また、路線バスは決められたルートしか運行できない決まりになっていることも、MaaSの普及を阻む要素です。

このような現状を変えるための法改正や、新たな法案の施行が必要となります。

2.情報統合に対する抵抗感

デジタル化が進められている現代社会ですが、それにともなう情報統合に抵抗感を示す人も一定数います。
デジタル化によって、それ以前は不要だった情報セキュリティの脅威が生まれるからです。
経済産業省が2021年に実施した「ウィズコロナにおけるデジタル活用の実態と利用者意識の変化に関する調査」によると、デジタル化が進んでいない理由として「情報セキュリティやプライバシー漏洩への不安があるから」と答えたのは全体の約50%という結果になっています。

個人情報の不適切な利用やインターネット上の偽情報の対応、デジタル操作への不安も懸念点です。情報統合への抵抗感は様々な要因が重なって生まれています。

3.現状以上に必要性を感じていない

東京や大阪といった都市部では既に鉄道網が発達しており、タクシーの数も多いです。JRや私鉄の駅の周辺には、タクシー乗り場やバス乗り場が常設されています。
そのため、目的地までの移動で困ることは基本的にありません。

スマートフォンの乗換アプリや地図アプリを活用すれば、いくつかの交通機関を利用した最適なルートも把握できます。
交通系ICカードを使えば、キャッシュレスのスムーズな支払いも可能です。
こういった理由により、交通機関が充実している都市部においては、現状以上にMaaSの必要性をあまり感じられていません。

MaaSを導入するには、どれほど魅力的なサービスか知ってもらう必要があります。しかし、前述したように情報統合に対する抵抗感を持つ人もいるので、簡単に導入できないのが現状です。

4.地方でのニーズが低い

地方では、人口の減少が進んでいます。公共交通機関の業績は悪くなっていて撤退を余儀なくされたり、一部の路線を廃止したりしています。
今後も、公共交通機関の利便性は悪化の一途を辿る可能性が高いです。

一方、自家用車の利用率は高まっています。バスが1時間に1本またはそれ以下といったエリアも少なくありません。
それでは買い物や仕事で出かけることも難しいため、地方で自家用車の所有はほぼ必須となっています。

MaaSは公共交通機関を使った移動の利便性を高めることが目的なので、バスなどが衰退している地方ではニーズが低いです。
地方でサービスを展開するなら、その地域が抱える課題を解決できるような内容を考えなければいけません。

5.キャッシュレス化がまだ浸透しきっていない

MaaSを導入して利便性を高めるには、キャッシュレス決済に交通機関が対応することが求められます。
キャッシュレス決済は徐々に活用できる幅が広がっていますが、日本国内ではまだ浸透しきっていません。
ほかの先進国では40~60%となっているのですが、日本は約20%と非常に低い水準です。

そのような状況下で国土交通省は、MaaSの普及を目指し2020年度からキャッシュレス決済の導入を行う交通事業者に補助金を支給しています。
MaaSは官民一体となって取組みが進められている状況です。実証実験や支援策により、さらなる普及が見込めます。

まとめ

MaaS(マース)は、地域住民や旅行者の移動ニーズに対する課題を解決するための取組みを指します。5つのレベルに分けられていて、それぞれの状況を示しています。

導入によって公共交通機関の利用を促す、混雑を回避できる、物流を効率化できるといったメリットを享受できるので利便性向上に役立つ取組みです。
自動車業界は変化していかなければいけない、個人情報などのリスクがあるといったデメリットもありますが、今後ビジネスにも大きく影響する可能性もあるため、事前に理解しておくことが大切です。

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(編集:創業手帳編集部)

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