リセ 藤田美樹|企業間紛争を1つでも減らすために。弁護士が立ち上げた契約書レビュー支援AIクラウド

創業手帳
※このインタビュー内容は2024年04月に行われた取材時点のものです。

備えれば避けられるリスクは多い!スタートアップも意識したい取引時のポイント


株式会社リセは、契約書の作成支援やチェックを迅速に行うAIクラウド「LeCHECK(リチェック)」を提供している会社です。

LeCHECKは、代表の藤田さんが弁護士時代に感じた「法務にコストをかけられない会社が、契約のリスクにさらされる」という課題を解決するために立ち上げました。

今回は、四大法律事務所でパートナー弁護士を務めていた藤田さんが起業に至った経緯や、LeCHECKに搭載しているAIの特徴、スタートアップが契約時に意識すべきポイントなどをお伺いしました。

藤田 美樹(ふじた みき)
株式会社リセ 代表取締役社長 弁護士(日本・NY州)
東京大学法学部卒業、Duke大学ロースクール卒業(LLM)、司法試験合格、司法修習を経て、2001年西村総合法律事務所(現西村あさひ法律事務所)入所。
米国留学、NY州法律事務所勤務を経て2013年パートナー就任。 2018年退所、株式会社リセ設立。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計200万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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法律の面白さに惹かれて弁護士に


大久保:藤田さんは東大の法学部を卒業後、弁護士として18年以上働かれた実績をお持ちです。弁護士を目指した背景からお伺いできますか?

藤田:法学部へ行ったのはなんとなくだったのですが、大学で学ぶうちに「法律は面白い」「これを仕事にしたい」と思うようになりました。

大久保:「法律が面白い」という感覚は、私にはないかもしれません。むしろ法律といえば、「怖いもの、退屈なもの、とっつきにくいもの」というイメージです。藤田さんから見た法律の世界を教えていただけますか?

藤田:例えば「自分の家に生えてる竹からできたタケノコが、隣の家の敷地内に出てきてしまったら、そのタケノコは誰のものか?」とか、「家の柿の木の実が、隣の家の敷地内に落ちたとき、柿の実は誰のもの?」とか。

そういったケースもすべてが法律で決まっているんです。面白いと思いませんか?

大久保:そんなに細かいところまで、法律で決まっているんですね。

藤田:私が一番感動したのは、犯罪がらみの出来事に適用される「刑事訴訟法の仕組み」でした。この法律で何よりも重視すべきとされているのは、「人権」です。

犯人を捕まえるのも大切ですが、それよりも「何もやってない人が逮捕されないこと」を大事にしています。

だから、10人中9人が「この人が犯人だ」と思うくらいではダメなんです。10人全員が「普通に考えたら絶対この人が犯人だ」と考えるレベルまで証拠が積み上がっていなければ、有罪にはできません。

同じように10人の被疑者がいて、そのうちの9人は必ず犯人である場合。「1人無実の人」がいるのであれば、その1人が誰かわからない限り全員が無罪になります。

大久保:9割ではダメなんですね。

藤田:おっしゃる通りです。今の自由な社会や生活は、そのようなルール・法律に守られているんだなと。そこに面白さを感じて、法律の世界に入りました。

アメリカのリーガルテックとの出会いが起業のきっかけ

大久保:弁護士として働くなかで、起業のきっかけがあったのでしょうか?

藤田:アメリカのリーガルテック商品を知ったことがきっかけでしたね。

私の勤めていた弁護士事務所には、「4年働くと留学できる」という制度があったので、それを使って2年間アメリカにいきました。

それが2006年ごろからですので、今から17年以上前ですね。そのときに、アメリカではリーガル領域でもかなり電子化が進んでいることにびっくりしました。

どれほど違ったかというと、日本では調べないといけないことがあったときは、弁護士が事務所や弁護士会の図書館にある本を片っ端から探していました。

ところがアメリカではすでに全部がデータ化されていましたし、関連情報を集約しているサービスが存在しました。だから、本で調べる必要がなかったんです。

そんな世界に「なんて便利なんだろう」と感銘を受けました。でもその当時は、検索や電子化のみだったので「探し物に役立つなあ」くらいの認識でしたね。

大久保:その後、リーガルテック商品に出会われたんですね。

藤田:そうですね。2018年にアメリカのリーガルテック企業からスカイプで日本の事務所宛の営業を受けて、その存在を知り衝撃を受けました。

大久保:リーガルテック商品のどのようなところに衝撃を受けたんですか?

藤田:弁護士は微妙な言葉のニュアンスを扱う仕事なので、それほどテック化はできないだろうと思っていたんです。

ですが実際の商品を見て、「法務の領域もテック化の波を避けられないのか・・・」と驚きました。そして、「法務の世界も変わらざるを得ないんだったら変える方をやりたい」という気持ちが芽生えたんです。

中小企業もリスクに備えてほしくて起業を決意


大久保:ほかにも何か起業のきっかけがありましたか?

藤田:もう1つ動機になったのが、中小企業の法務に対する課題感です。

前の法律事務所時代は企業間紛争という分野にいたので、多くの種類の争いごとに関与しました。

特に事務所を辞める前の数年は、ホームページの問い合わせフォームにきたさまざまな規模の会社さんの対応をしていました。

大久保:藤田さんが所属していたのは大手の事務所なので、お客さんは大企業がほとんどだと思うのですが、ホームページには企業の規模関係なく問い合わせがあったんですね。

藤田:そうですね。ある個人事業主から「海外から物を買ったんですけど、全部に不具合がありました。400万円ぐらい損しちゃったんですけど、どうしたら取り返せますか?」という相談を受けたこともあります。

そこで課題に感じたのは、中小企業・個人事業主と大企業との「備え」の差です。大企業には弁護士や法務部があり、ノウハウも豊富なため、契約において備えていなかったせいで争いが起こることは少なくなります。でも、中小企業や個人事業主はそうではありません。

つまり、大企業以外の日本の会社は、「ちゃんと契約書を備えれば避けられた争い」に巻き込まれているという現実を知ったんです。しかも、私のところに相談にきた段階では事後なので、契約内容は変えられません。

費用倒れになるため諦めざるを得ない案件がほとんどで、悔しい気持ちを共有しましたね。

大久保:中小企業は、備えていないために損を被ることが多い現実があるんですね。

藤田:ですから、「次に取引があるときは私が契約書を見ましょうか」と言ったこともありました。ところが、事務所から怒られるぐらい値引きをしても相手と費用感が合わなくて。

何百万単位の取引でもリスクに備えた方がいいのですが、法務にコストをかけられないんですよね。

もちろん私自身も契約書をチェックできる時間は限られますし、マンパワーでやっている限りは解決できないなと諦めました。

そんなとき、リーガルテック商品の存在を知って「これだ!」と。リーガルテックの技術があれば、今まで備えることができなかった人たちも備えることができるのではと考えました。

大久保:中小企業の方でも、きちんと契約のリスクに備えられるように、という考えで開発されたのが、御社のサービスなのですね。

藤田:おっしゃる通りです。弊社が提供しているLeCHECK(リチェック)は、専門弁護士の知見とAIなどの最先端技術を掛け合わせ、合理的な価格で提供をしています。

LeCHECKに契約書をアップロードすると、利用する企業の立場に応じたリスク箇所についての解説文や修正条文案や、抜けもれが提示されます。例えば「あなたの立場だったらここが不利ですよ」とか「この条文抜けてますよ」といったものですね。

もちろんコメントに基づいて契約書に反映するかを決めるのも、交渉をするのも利用する企業が決定しますが、少なくとも「リスクがあること」を知らずに契約をする事態は防げます。

法務AIに求められるのは95%超の高い精度


大久保:LeCHECKに搭載されているAIの特徴を教えていただけますか?

藤田ものすごく精度が高いのが特徴です。

例えば、世の中には80〜90%の精度で十分なAIサービスもありますよね。しかし、法務は95%の精度でもまだ低いと言われるような分野です。

大久保:95%でも精度が足りないと言われる分野とは、非常に大変ですね。

藤田:そうですね。契約書なので、例えば20個出たコメントのうち1つでも間違えていたら、精度が低いと感じるお客様もいらっしゃいます。

しかも、そこまでの精度が求められながら、契約書の微妙なニュアンス、表現の揺れにも対応できなければなりません。それが大変ではありますが、逆に私たちの価値の出しどころですから、やりがいも感じています。

大企業も中小企業も契約への意識が変わっている


大久保:先ほど「中小企業では小さい取引のリスクに備えられない」というお話が出ました。

ですが、大きな金額の取引も口約束で行うこともまだまだあるように思うのですが、いかがでしょうか?

藤田:いいえ、その点はだいぶ変わってきたと思います。

確かに今から20年以上前、私が弁護士になったばかりのころは、契約書についての企業側の意識はもっと低かったと思います。

例えば、かなり規模の大きい上場企業同士が大きな金額を取引するような件でも、契約書がたった2枚というような件もありました。

その後トラブルが起こってプロジェクトは中止されましたが、「中止するときにはどうするか」すら契約書に書いていなかったんです。その決着をつける案件に携わり、契約書の中身に驚いたのを覚えています。

ただ、その5年後ぐらいには上記のような事態はありえない世界に変わりました。

大久保:今では大企業であれば、しっかりした契約書を作るのが当たり前なんですね。

藤田:今なら、先ほどご説明したような件では、50ページを下らない契約書を作って、もちろん中止するときにはどうするかもぎっちり書くと思います。

そのように大企業には15年以上前から「契約書を作る」ということが浸透してきました。そして現在は、中小企業の意識も変わってきています。

大久保:中小企業もですか?

藤田:ネットで情報が得られるようになりましたし、実際にいろいろな案件を見る中で、中小企業の権利意識も変わってきたと感じます。

起業家に知ってほしい「契約における交渉の大切さ」


大久保:今の契約書に「辞めるときのことが書かれてる」という点、起業家も意識すべきだと感じました。

起業家は基本的に攻めの思考ですが、どちらかというと商売はうまくいかないことの方が多いですから。予想通りじゃなかったときのことも契約書に書いておいた方がいいですよね。

藤田:起業家の方に向けて話をすると、株主間契約はきっちりやるべきだと思います。

後ろ向きなことを交渉するのは楽しくありませんが、途中で辞めたときの規定もしっかり定めた方がいいですね。

大久保:何かをはじめるときより、辞めるときの方が揉めるんでしょうか?

藤田:そうですね。うまくいっているときは前向きなので、多少イレギュラーがあっても話し合いで解決できちゃうことが多いです。一方、うまくいかなかったときには、そうはいきません。

大久保:うまくいかなかったときのことこそ、事前に一緒に考えておくべきなんですね。

藤田:契約書に書いてあれば、お互いに「しょうがないな」と諦めがつくんですよ。

同じ額を払うとしても、「契約書に書いてあるから払う」のと、「契約書には書いてないけれど、交渉で負けたから払う」のとでは、圧倒的に前者の方が揉めません。

前者なら「しょうがない。契約書に従って処理して終わりにしよう」とスムーズに解決できることが多いですし、その後関係が継続して取引できる場合もあります。

しかし、契約書に書いてないことで揉めてしまうと、話し合いをしてもお互い不満が残ります。これは弁護士時代、企業間紛争を担当してきて感じたことです。

大久保:少し疑問に思ったのですが、契約書を作った方がよいとは言っても、法務体制が整っている企業のほうが有利になってしまいませんか?

例えば、法務体制が整っていないことの多いスタートアップが、自社のリスクを把握せず、契約書をかわしてしまったために損を被るケースはないのでしょうか?

藤田:そういう側面もあります。

法務体制が整っている大企業は経験もノウハウもありますから、特に重要な部分や揉めやすい部分に対して、自社に有利な契約書の雛形を備えています。

自分たちが売主のときは売主が有利になるように。買い主のときは、買い主が有利になるように設定した雛形を活用されますね。

大久保:それをそのまま受け入れると、損になると?

藤田:そのまま受け入れてしまっても、うまくいっている限りは問題ありません。

問題は揉めたときです。

大久保:では、契約書に対する要望は伝えていくべきですか?

藤田:そうだと思います。最近は、大企業側も「交渉してくるなら取引はやめる」といった対応をすることはあまりないと思います。

だから言われるがままになるよりは、ある程度交渉した方がいいのではないでしょうか。

大久保:ただ、法務の知識がある人を採用する余裕がない会社もあります。

藤田:おっしゃる通りです。法務にコストをかけられないのであれば、今後もずっと続いていくような重要な契約や投資家との契約だけでも、LeCHECKをご活用いただき契約書のチェックを行ったり、専門家に見てもらったりするべきだと思います。

AIは弁護士の仕事を奪わない?


大久保:御社のLeCHECKは契約書のチェックができるということですが、ターゲットはスタートアップを含めた中小企業になるのでしょうか?

藤田:そうですね。中小企業に導入していただきやすいよう価格も抑えていますし、実際の導入も多いです。

また、導入先の1割強程度は法律事務所になります。すでに200以上の事務所で使ってもらっていますね。

大久保:契約書レビューのサービスを見ると、「弁護士の仕事が取られる」イメージだったのですが、そうではないのでしょうか?

藤田「AIに仕事を奪われる」というよりは、「自分もAIを使いこなせるようにならないと生き残れない」という意識の人の方が圧倒的に多いように感じますね。

大久保:今後も弁護士の仕事は、テックに奪われることはないのでしょうか?

藤田:個人的には、弁護士という職業自体は機械による自動化や代替率が高くないと考えています。

今後代替されるとしても、3〜4割でしょうか。その割合が高まったとしても、8割が代替されることはないのではないでしょうか。

大久保:人がしないといけない業務が多い職業なんですね。

藤田:「人と人の間に入って話を聞く」「感情を汲み取りながら事実を整理する」といった、人の話の微妙なニュアンスを扱う部分が多いんです。そこは機械ができない部分だと思います。

大久保:実は海外の弁護士ドラマが好きでよく見るんですが、ドラマの中では主人公の交渉力も見どころです。そういった部分も機械が代替できないですよね。

藤田:おっしゃる通りです。例えば、訴訟は裁判官を説得できるかが勝負です。

そのための下書きや材料を揃えるところは、機械が助けになる部分だと思います。

でも同じ事実があったとき、どこに強弱をつけるかによって物語の見え方が違ってくるんです。つまり、話し方によって「この人は悪い人だ」と思わせることや、「この人はなんて誠実な人だろう」と思わせることができるかもしれません。

もちろん嘘を言ってはいけませんが、何を強調するか、そして何を書くのか書かないのかによって、裁判官を説得できるかが変わる可能性があるんですね。

それは機械にはできないことですし、弁護士の腕の見せ所です。

LeCHECKで争いごとを1つでも減らしたい


大久保:法律やAIの分野自体もそうですし、起業家にも女性はまだまだ少ないですよね。藤田さんは、女性起業家としてここに至るまでどのようなことを感じましたか?

藤田:女性起業家はめずらしいので、メディアに取り上げられる機会は多かったと思います。

そのおかげでより多くの人にLeCHECKを知っていただけたのは良かったですね。名もない会社にとって「検索すると出てくる」ということは、信用力の担保になりますから。

ただCEOの会は若手の男性の方が多いので、そこには入りにくく感じることはあります。女性起業家が増えてくれると嬉しいですね。

大久保:特に有利、不利は感じておられませんか?

藤田:全く感じていないですね。スタートアップは結果が全てなので、投資家の方々も数字やプロダクトで見ています。

大久保:最後に、今後の展望をお伺いできますか?

藤田:弊社のLeCHECKをたくさんの人に使ってもらい、1つでも争いごとを減らしたいという想いで会社を設立しました。

今も、何を決断するときにもその想いが判断軸になっています。それは一緒にやっているメンバーにも言い続けていることですね。

今後も、弊社のミッションでもある「争いのない『滑らかな』企業活動の実現」にむけて取り組んでいきたいと思います。

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(取材協力: 株式会社リセ 代表取締役社長 弁護士(日本・NY州)藤田 美樹
(編集: 創業手帳編集部)



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