Gengo マシュー・ロメイン|日本のスタートアップがシリコンバレーに学ぶべき2つのこと

創業手帳
※このインタビュー内容は2016年11月に行われた取材時点のものです。

「会社が選ぶ」日本、「会社を選ぶ」シリコンバレー

(2016/09/30更新)

クラウド型人力翻訳プラットフォーム・Gengo®を立ち上げたマシュー・ロメイン氏。日本とアメリカにルーツを持つ氏が感じる、日本とシリコンバレーとの違いは何でしょうか。

今回は、起業の仕組みや人材面での日本とシリコンバレーの比較を中心に、人力翻訳と機械翻訳の兼ね合い、そしてGengoの将来展望について取材しました。

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マシュー・ロメイン
スタンフォード大学を卒業後、ソニー株式会社に入社し、オーディオ関連のエンジニアとして勤務。退社後、ウェブ制作会社を立ち上げる。2008年にクラウド型の人力翻訳プラットフォームGengoを公開。2009年に株式会社Gengoを設立。

起業に対して日本はまだ発展途上国

ーシリコンバレーと日本の企業には、どんな違いがあると思いますか?

マシュー:本が書けるくらいありますね(笑)

ーそうですよね(笑)その中で一番感じるのは、どこですか?

マシュー:一つは、歴史っていうのかな。自分で会社を起業して、それが上手く行って、フィードバックを行いますが、シリコンバレーだと、そのフィードバックのループが全く違うと思います。

シリコンバレーのダウンタウンを歩くだけで、上場企業の偉い人もTシャツにジーパンで歩いていて、どこかで知り合いに会ったらその場で「How are you doing?」と会話が始まります。会社の買収の話や、悩み相談、「こんな会社があるんだけど、どう?」という情報共有などをオープンに話しています。

ー起業に関するオープンさが違うということですね。

マシュー:あと、Angel Investingとか、資金調達を始めるときも全然違います。いい結果を得ての上場なのか、買収されたのか。そしてそこからどうやって次の世代の起業家をサポートするかとか、一連の流れですね。

ーなるほど。起業自体の仕組みも違うんですね。

マシュー:日本ではまだ、政府や、ベンチャーキャピタルのサポート体制が確立されていませんから、IPO(新規公開株)をした時に、化ける額も違います。でも、日本もエコシステム自体が良い方向に変わってくるかもしれません。

離職率の高さ=働き方の柔軟性の高さ

ー他に、シリコンバレーと日本を比べて、人材面では何か違いがありますか?

マシュー:あと、時々アメリカに行くと、「日本で、本当に良いエンジニアが雇えるのか」ということを聞かれます。要は、シリコンバレーに飛ぶエンジニアも多いですから、シリコンバレーの方が雇いやすいという考え方を持っている人がいるんです。

でも私は、良いエンジニアを雇うよりも、成長するために人を採用するという考え方が違うだけだと思います。

シリコンバレーだと、良い人を雇っても1年で全員辞めてしまうなど、離職率が高い。あとは、福利厚生というベネフィットも全部フリーで、食事も全部無料とか、洗濯も全部やってくれるというのがありますが、そこで競争するのは難しいです。

ー人材の流動性が違いますよね。

マシュー:日本の場合は、3年、7年、10年と同じ会社にいてもおかしくないという環境なので、自分の会社に引く抜くときには大変なんですけど、成功すれば長く会社に居続けてくれるのではないかという期待ができます。そういう違いがありますね。

日本は、どのタイミングで新卒の人が就職活動をするのかということも決まっていますよね。でも、やっぱり島国だからか、あまり情報を他社と共有したくないという部分があって、それもいいと思うんですけど、結局大切なのは、どれだけ相手にサポートしてもらって、甘い蜜を吸って、成長するかということですよね。だから、多分シリコンバレーと日本は働き方に対する柔軟性が違うのかなという感じがします。

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会社が選ぶ日本、会社を選ぶシリコンバレー

ーシリコンバレーの離職率が高いのは、どうしてだと思いますか?

マシュー:あと、日本の会社員は自信がない気がしますね。日本人は、会社が人を選びますが、シリコンバレーは人が会社を選びます。だから、離職率が高いんですよ。

また、シリコンバレーはエンジニアの転職率が高いですね。これによって、すごいスピードで成長している会社の中で学んだ技術を次の会社に持って行けますから、次の会社がすごいスピードで成長するんです。こうやって知識を回していくスピードが速いほど、ベンチャーの市場が広がっていくスピードも速いんですよね。

だから、トップクラスのエンジニアをおさえるより、市場のことを考えるともっと情報共有をした方が、メリットが大きいと思います。

ー日本ももっと人材の流動性を高めたほうが良いですね。

マシュー:日本は保守的なんですよね。例えば、テスラがパテントとかもオープンにしたんですよね。テスラとしては、会社としておさえておくほうが良いのですが、市場を広げるためには、共有するほうが良い。たとえ、競合会社が出てきても、それは良いことだと考えられるかという点が違いますよね。

ポイント
  • ①優秀な人材に”選ばれる”会社になる
  • ②スタートアップ企業全体で”積極的な情報共有”をする

言語の壁をインターネットで超える

ー話は変わりますが、Gengoの直近2~3年の目標と、長期的な目標を教えていただけますか?

マシュー:一つは、海外から来るお客様がスムーズに会話できるようサポートすることですね。2020のオリンピックのおかげで、海外からの観光客も増えるでしょうし、そのために翻訳のニーズも増えていくと思いますから。

また、このサービスを立ち上げた時、インターネットの人口は15億人だったんです。当時ももっと増えると思っていましたが、今は既に40億人弱。Youtubeを見ていると、世界中、田舎にもとても才能をもっている人がいるのがわかります。こういった才能は、世界各地平等に存在するはず。でも、機会はそうではありません。国の違いや、インターネットの普及、パソコンの有無によって情報にアクセスできるかどうかが変わりますよね。

だから、翻訳できるバイリンガルの方がどこにいても、同じ機会を与えられるような市場を作っていきたいと思っています。インターネットのおかげで道筋は見えてきましたから、今は翻訳にフォーカスしている部分を、もっと広げていきたいですね。

ー翻訳に限らず、あらゆるコミュニケーションをサポートしたいということでしょうか。

マシュー:会社としてのミッションは「Communicate freely.」ですから、マルチカルチャーを理解している人が、自分の経験や言語の壁を超えたいお客様をサポートできる場を作っていきたいです。

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機械が発達しても人力翻訳は無くならない

ー今は、機械翻訳も発達していますよね。そういったところとの棲み分けはどう考えていますか?

マシュー:「Communicate freely.」は、人間だけを対象にしたものとは考えていません。機械翻訳はあくまでツールで、パソコンや計算機をツールとして使うように、機械翻訳も人力翻訳のプロセスの中でうまく使えるようにすれば、共存はできるかな。

そもそも機械翻訳は人力翻訳があるからこそ進化しているんです。つまり、人力翻訳のデータを元にして機械翻訳が発展しているので、これらを分けては考えていないんですよね。

ーいくら機械翻訳があっても、人力翻訳は常に必要ということですね。

マシュー:言葉は生きているものですから、時代によって使う言葉も変わります。新しい言葉もでてきますから、人力の必要性はなくなりません。いろいろな機械翻訳も登場していますが、私たちもデータを提供しているので、機械翻訳と人力翻訳は分けられないんです。

ー文脈を読めるのは、人間しかいない気もしますよね。

マシュー:そうですね。あと、カジュアルなコンテンツが翻訳されることが多いのですが、これには流行語や口語がたくさん含まれます。これらを機械翻訳にしてしまうと、ちょっとおかしくなってしまうんですよね。

創業メンバーは“人脈”と“共感”で探す

ーシリコンバレーでは、福利厚生やコミュニケーションなどさまざまな角度から人材を集めるそうですが、ソニーを退社して創業した直後、最初のメンバーはどのように集めましたか?

マシュー:良い質問ですね。もちろん人にもよりますが、人脈などが非常に重要だと思います。私は色んな人の話を聞くのが好きで、ソニーに在籍していたとき、たくさんイベントに参加していました。当時は毎年研究者全員が集まる社内向けのイベントがあって、そこでスペシャルゲストを呼ぶときには、積極的に提案をしていました。

その繋がりで、ベンチャーキャピタリストの伊藤穰一さんと出会ったんです。彼もバイリンガルだし、お互い日本とアメリカに住んだ経験があったので、いろいろ話しました。当時彼が、「インターネットに興味があって、英語を話せて、日本デビューした方のメーリングリスト」を作ってくれました。その中では、「オススメのCMSはどれですか」といった質問もされて、それに色んな人が答えていましたね。

東京で英語を話せて、ウェブ技術に興味がある人という世界は狭かったので、これを通していろんな人と会いました。他にも、毎月自分がやっていることを発表するイベントがあって、それにも積極的に参加していました。

そして「こういうことができる人を探している」ということをメーリングリストに流したり、「一緒にやらないか」と誘ったりして、徐々に人を見つけて広げていったんです。

ーちなみに、声をかけるメンバーの基準は何だったんでしょうか。

マシュー:一緒に働く理由があるかどうかでしょうか。お金で動く人もいるんですけど、やっぱりミッションや人柄で動くもの。お金で動く人であれば、他の会社がもっと良い待遇をすればすぐそちらに行ってしまいますが、ある程度ミッションに共感してくれる人や、「一緒に働きたい!」と思ってくれている人の方が、ついてきてくれる感じがありますね。

だからこそ、この会社にいる半分の外国人も、奥さんが日本人だったり、日本の大学に行ったり、日本にいたい理由があるからここにいるんですよね。

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国内外からの投資でサービスが発展

ーオフィスがとても豪華な感じがあるんですけど、出資は受けられているんですか?

マシュー:2015年の8月にシリーズCが終わっているんです。いままでの合計で25億円くらい調達しています。

8年間かけて、シリーズAからCまで進めてきました。AはイギリスにあるAtomicoというファンドで、そのファンドにいる日本人の方がかなり興味を持ってくれて、投資してくれました。シリーズBがインテルキャピタルというファンド。このときに、NTTにも参加していただきました。シリーズCは、主に国内の投資家。リクルートがリードして、クラウドワークス、SBI、アライドアーキテクツとかから投資を受けました。

ー最初から国内の投資を受けていたというわけではないんですね。

マシューシリーズAのときは日本から資金調達を受けられなくって、500Startupsのデイヴ・マクルーアさんからコーチングを受けて、助けられましたね。だんだん日本でも翻訳ニーズが増えてきて、日本企業からの投資も受けられるようになったという感じです。

創業者へのメッセージ

ー最後に、創業者に向けてメッセージをいただけますか?

マシュー:会社や自分のミッションがあると思いますが、それらは自分ひとりで成し遂げられるものではありません。だから、あくまでも自分のミッションに乗ってくれる方を集めて、頑張っていただきたいですね。

ーミッションに共感できる人を捕まえるということですね。

マシュー:あとは、サポーターと、メンターと、外部で協力してくれる存在を見つけるのも大切です。私たちは“チアリーダー”と呼んでいます。つながりを持つのが大切です。

起業しちゃうと、CEOや社長に誰でもなれてしまうから、結構頭でっかちになりやすいんですけど、人柄が良ければ、みんなサポートしてくれますよ。

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コミュニケーションへ投資し、家族のような絆を築く
ダイバーシティ経営成功のための3つの掟

(取材協力:株式会社Gengo/マシュー・ロメイン
(編集:創業手帳編集部)

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