中小企業経営の2025年問題とは? 廃業危機の支援策が、起業のサポートに【桑本氏連載その6】

事業承継手帳

起業を知り抜く公庫総研主任研究員、桑本香梨氏が解説「起業のハードルは、どうすれば下がるか?」

日本政策金融公庫総合研究所では、1991年度から毎年行っている「新規開業実態調査」の結果を基に、毎年『新規開業白書』をまとめています。定点観測的なデータに基づき、「パートタイム起業家」や「少額起業」、副業も含めた自営と勤務の「ボーダレス化」など、研究員の視点からピックアップされるテーマも、今後の動向を占う上でたいへん示唆に富んだものとなっています。

この連載では、長年にわたり中小企業の経営に関する調査・研究に従事する日本政策金融公庫総合研究所 主任研究員の桑本香梨氏と一緒に、創業手帳の大久保幸世が「どうすれば起業のハードルを下げられるか」を考えてきました。最終回となる今回は、やや番外編的に、中小企業を取り巻く事業承継問題を取り上げ、起業希望者や事業拡大したい起業家にとってのM&Aなど、第三者承継という選択肢について考えてみます。

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桑本香梨(くわもとかおり)日本政策金融公庫総合研究所 主任研究員
2004年早稲田大学法学部卒業後、中小企業金融公庫(現・日本政策金融公庫)入庫。近年は中小企業の経営や景況に関する調査・研究に従事。最近の論文に「起業に対してボーダーレスな意識をもつ人々に関する考察」(『日本政策金融公庫論集』2020年5月号)がある。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計150万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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「2025年には中小企業経営者の6割が70歳以上になる」という事実

大久保:現在の日本の中小企業はどういった課題に直面しているのでしょうか? 対策としてはどのようなものが考えられますか。

桑本:大きな課題としてよく言われているのが、事業承継の問題です。経営者の高齢化がだいぶ進んでいる中で、なかなか跡を継ぐ人がいなかったり、継がせたいという人もいなかったりするのですね。中小企業庁による推計では、2025年には中小企業経営者の6割が70歳以上になるといわれ、さらにそのうち約半数の127万人が後継者未定といわれています。この状況が続けば、多くの価値ある企業が廃業を迫られることとなるでしょう。

経営者の高齢化に加え、コロナ禍の影響もあって廃業数はさらに増加傾向にありますから、事業承継はまさに待ったなしの課題となっています。対策としては、親族や従業員でない第三者に対して承継をしていく、第三者承継を進めることが大事だと思います。実際に、小さな会社や個人企業でも第三者に事業を譲り渡した事例なども、たくさん見られています。ですから、「辞める」ことを決断する前に、ぜひ一度「託す」ことを考えていただきたいですね。

大久保:なるほど。その第三者承継というのは、やはり難しいものなのですか?

桑本:そもそも経営者が自分の親族以外の、関係ない人には継がせたくないと思ってしまうケースがあります。また、第三者としてもリスクを負うほどのものなのかという問題があります。それは、起業率がなかなか上がらないのと、根は同じことかと思います。経営者になるリスクをなかなか負いたくないということですね。

事業を承継する場合は、事業基盤があり、必要な人材も揃っているのですが、それでも経営となると、どうしても辛いとか大変というイメージがあるということは否定できません。

第三者承継を活用した創業スタイル「継ぐスタ」を、公庫も支援

大久保:たしかに、少し以前のものですが、2018年6月の日本公庫総研レポート「親族外承継に取り組む中小企業の現状と課題」を拝見すると、第三者承継、つまり社外人材への承継には外部招聘とM&Aの2種類があるわけですが、80年代からの推移を見ても、外部招聘は事業承継全体の約5%だったのが10%強へと微増しているものの、M&Aは3~4%とほぼ変わっていませんね。この2~3年は、もう少し増えたでしょうか。その一方で、激減している親族による事業承継の受け皿となっているのは、社内の役員や従業員への承継などの内部昇格ですね。

このM&Aは近年では、個人が勤務しながら副業として小規模事業を取得して行うような動きも出てきています。起業のし方としては、すでにビジネスモデルができているので、学習塾やウエディングドレスのレンタルなど、ノウハウと既存の固定客ごと譲り受けられれば、かなり敷居が低い状態で事業を始められますよね。

桑本:そうですね。日本公庫でも事業承継のマッチング支援には力を入れています。そのなかでも、小規模事業者を対象とするスモールM&A向けご融資などについて、活用法をホームページで詳しく説明しています。実際、M&Aにおける株式や事業譲渡の対価の支払いに充てる資金のご融資だけではなく、M&Aによって受け継いだ事業の円滑なスタートや、M&Aを契機とした新たな挑戦などのための資金もご融資できるんです。たとえば、老朽化した店舗の内装や設備の刷新をご融資によって行い、リニューアル・オープンをするなどの例が考えられます。

大久保:公庫の国民生活事業で展開している事業承継マッチング支援には、どのような特徴がありますか?

桑本:日本公庫国民生活事業のご融資先の約9割が、従業員数9人以下の小規模事業者になりますので、このサービスでも小規模事業者の方のご利用が中心となっています。また、お話にあった、事業を受け継いでスタートする創業も、「継ぐスタ」と呼んで、マッチングさせていただいています。

具体的には、日本公庫の専門担当者がお客様の希望をふまえて、マッチングの候補を探しています。また、マッチング後にもご相談があれば親身に対応させていただきます。譲渡希望・譲受希望いずれの方にも、無料でサービスを提供しています。別途、弁護士等の専門家の支援を受ける場合にはその費用負担は生じますが、マッチング自体は無料ですので、気軽にご相談いただければと思います。

大久保:「継ぐスタ」というのは、いいネーミングですね。

桑本:ありがとうございます。日本公庫が創業を希望している方に実施したアンケートでは、4割近くの方が「継ぐスタ」に関心があると回答されています。メリットとして、ゼロからの創業とは違い、既存の店舗や機械設備等を受け継ぐことができますので、大規模な設備投資が不要になるなど、資金負担を軽くできる可能性があります。創業の前後には、想定外の支出が発生することもありますので、手元資金に余裕を持たせるためにも、有効な選択肢と言えますね。

また、お客様からの信頼や地域での知名度、仕入れ等の取引基盤といった、無形の経営資源を引き継げるメリットもあります。創業に向けて温めてきたアイデアを実現するうえで、この受け継いだ経営資源を活かすことができるのは大きな利点であり、それにより、実現できることの幅を広げることもできるのではないでしょうか。

大久保:なるほど。一方で、デメリットもあるのでしょうか?

桑本:そうですね、既にある事業の中から受け継ぐ対象を探すことになりますので、自分のやりたいことが具体的なほど、当てはまる事業が見つかりにくくなるかもしれません。そのほか、優れた経営資源を持つ事業や高収益の事業等は人気となるため、受け継ぐために提示される条件が厳しくなることも考えられます。

それでも、ゼロからの創業よりはリスクを抑えられ、事業を軌道に乗せやすいメリットというのは大きいと思います。こうしたものを利用して起業する方の裾野が広がればよいですね。

早期に後継者問題を自覚することで、将来への展望も描きやすく

大久保:日本公庫総研レポートを拝見して、AIの活用という事例も見たのですが(2019年12月「中小企業でも始まるAIの活用」)、ああいった最先端の技術を取り入れている企業というのは、中小ではまだ少数派なのでしょうか?

桑本:そうですね。大掛かりになればなるほど、やはり小さなところには難しいでしょう。たしかに人手不足というのもだいぶ大きな問題になっているのですが、それをAIで代替するとなっても、それだけの投資をして回収できるのかが問題です。また、投資をするだけの余力がそもそもないところもありますので、ある程度の規模の企業でないと大きな投資は難しいように思います。

それでも、1~2人とか10人くらいの小さな会社のなかにも、IoTやロボットなどをうまく活用して効率化を図ったり、独自のビジネスモデルを構築したりしている例はあります。

大久保:マニュアル制作の専門家から聞いたのですが、中小企業では事業承継するにも、業務プロセスのマニュアル自体がないケースが非常に多いそうです。職人芸のように社長や部長が現場の業務を手がけていたりするので、その属人的な暗黙知みたいなものを形式知に変換させる必要はあるということです。それができれば、知見やノウハウの承継がやりやすく、また、AIなども導入しやすくなるわけですね。

桑本:そうですね。小さなところになればなるほど、一人ひとりの技能に拠っているところもあったりすると思うので、そこを引き継げないと承継は難しいでしょう。

そこで今、公庫で奨励しているのが、早期に、まだ後継者の必要を感じていない時点から先を見据え、準備をして引き継いでいくことなんです。

大久保:承継の準備を早くからしておくというのはいいですね。社内にAIをどう導入していこうかなど、具体的なイメージが湧きそうですね。

桑本:承継する側も、自分でいろいろ考えるようになると思いますし、新しい観点から経営を見るようになれば、AIやIoTの導入が一気に進む可能性も出てくるでしょう。

大久保:中小企業向けへのそうしたアドバイスは、どのような機会にされているのですか?

桑本:支店のご融資窓口では、お客様の話をうかがったり定期的に話したりする機会がございますので、そういうときにそれぞれの事情に応じてお話をしています。「当社にはまだ早い」と思っていらっしゃる方にも、少しずつでも意識をしていただけるよう支援できればと思います。

大久保:以上、全6回の連載で「起業のハードルは、どうすれば下げられるか」を探ってまいりました。海外と比べた日本の起業の現状や、日本公庫が行っている定期調査からの示唆、パートタイム起業家や少額開業といった近年のトレンドなど、参考になることをたくさんうかがえたと思います。ありがとうございました。

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(取材協力: 日本政策金融公庫 総合研究所 桑本香梨
(編集: 創業手帳編集部)

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