コトラ 大西 利佳子|プロフェッショナル人材の採用支援で社会に好循環を生み出す

創業手帳woman
※このインタビュー内容は2023年05月に行われた取材時点のものです。

多様な働き方を生み出すには「企業」と「働き手」の両者へサポートが必要


働き方改革やコロナ禍などの様々な要因により、企業が働き手に求めることも、働き手が企業に求めることも徐々に変化しています。企業と働き手の両者へサポートをしつつ、社会に好循環を生み出しているのがコトラの大西さんです。

そこで今回は、大西さんがコトラを創業するまでの経緯や、スタートアップ企業が人材採用に成功するコツについて、創業手帳の大久保が聞きました。

大西 利佳子(おおにし りかこ)
株式会社コトラ 代表取締役社長
1997年 慶應義塾大学 経済学部卒業後、日本長期信用銀行入行。証券業務、法人営業、営業企画業務に従事後、2002年10月、28歳で株式会社コトラを設立し、代表取締役就任。以来、プロフェッショナル層、リーダー層を中心に多数の企業の人材紹介、人的資本経営コンサルティングに従事する傍ら、株式会社東和銀行、株式会社ベルパーク、株式会社キーストーン・パートナース、マテリアルグループ株式会社、株式会社マーキュリアホールディングスの5社で社外取締役を務める。さらに、慶應義塾大学で学んだ創業経営者の集い「ベンチャー三田会」幹事、内閣府大臣官房政府広報室 政府広報アドバイザーでもある。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計200万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

※この記事を書いている「創業手帳」ではさらに充実した情報を分厚い「創業手帳・印刷版」でも解説しています。無料でもらえるので取り寄せしてみてください

日本長期信用銀行を経て「コトラ」を創業

大久保:これまでのご経歴と、起業までの経緯を伺えますでしょうか?

大西:大学卒業後、日本長期信用銀行に入行し、経営者から様々な相談を受ける仕事をしてきました。

金融危機が起き、会社の形が変わっていかなければいけない時に、気づいたことがあります。

それは「企業が成長していくためには、人が変わらなければいけない」ということです。この気づきをきっかけに、人材ビジネスに興味を持ち、起業を決めました。

大久保:銀行から人材関連の領域で起業したのはなぜでしょうか?

大西:お金は経営にとって大事なものなので、銀行員は経営者から相談を受ける、大変やりがいのある仕事でした。

でも銀行での経験から、人のほうがより経営者にとっては重要度が高いのではないかと思い、人材ビジネスを始めることにしました。

実際に人材ビジネスをはじめて、人の話をする際に熱くなる経営者の姿を見て、経営には「ヒト・モノ・カネ」が重要だというけれども、この並び順には意味があって、重要な順に並んでいるのではないかと思いました。

起業の際には、人材関連の会社を経験せずにはじめましたが、それには二つの理由があります。

一つ目は、看板がなくてもお客様のためになることをすれば、お金をいただけるのではないかと仮説を持っており、それを自分で実証してみたかったからです。

二つ目は、一度就職してしまった場合、起業時にはそこの会社のノウハウや顧客に触れてスタートせざるを得ません。商売倫理上、それを避けたいと思い、自分自身でゼロから獲得する知識と経験とお客様でビジネスを始めたいと考えました。

何も無い状態で始めましたが、経営者にこの思いを伝えると、仕事を発注してくださる方もいて、周りの方々にはたいへん助けていただきました。

創業時に受けた心に残るアドバイス

大久保:過去を振り返って、やっておけば良かったこと、やらなければ良かったと思うことはありますか?

大西:起業時、周りに相談すると「難しい」「できない」という意見がある中で「みんなどうせうまくいかないんだから、やってみればいいじゃないか」という知り合いの経営者から頂いた言葉には勇気づけられました。

逆に、やらなければ良かったと思うことは、女性は出産・育児があると、仕事をセーブしなければいけないという風潮があり、私自身セーブしていた時期もあります。

しかし、今思うとそれは無駄で、全力でアクセルを踏んでおけば良かったなと思っています。

大久保:これまで一番大変だった時はいつでしょうか?

大西:いつも新しい課題が発生しているので、常に「今」が一番大変です。

大久保:逆に一番嬉しかった時はいつですか?

大西:熱量の高い経営者に遭遇した時です。

会社を始めた頃、とある経営者に人材ビジネスの仕事をしている話をしました。

ぜひお願いしたいという流れになり、その方は、ホワイトボードに自分のビジネスを書き出し、熱く語ってくれました。

この時、お金の課題のことより、人の課題に対しての方が、経営者は熱くなるんだなと感じましたし、今でも仕事をする上でのモチベーションになっています。

コトラのサービス理念とは

大久保:サービスはどのような領域に絞って展開されているのでしょうか?

大西:我々の掲げているサービス理念としては「人が変われば企業が変わる。仕組みが変われば人が活きる。」としていますが、私たちの事業の目的は「全力で社会に貢献する人を一人でも増やすこと。」としています。仕事のプロフェッショナルとして自分の能力を全力で使う人が増えることが社会の幸福につながると考えています。

現在は、金融、コンサル、IT、製造業、経営者層などプロフェッショナル人材領域全体に対してサービス提供していますが、当初は、オルタナティブファンド(※1)に絞ってサービスを展開していました。

20年前は、金融業界の中でも新しくできたばかりの領域でした。新しく立ち上がる仕事に向けて、自分たちの能力を最大限発揮して、一緒に仕事をする方に対して、キャリアをより高めていくことにやりがいを感じていました。

大久保:今となっては、ビジネスとして成り立っていると思いますが、当時は勃興期だったと思いますので、人材を送って業界を支援した意味にもなっていそうですね。

大西:人材紹介というのは、会社・業界に人が足りず、発展させる人が足りない、という課題に対して人材紹介で解決させるビジネスです。

もちろん、同じ業界から経験者を採用するお手伝いをすることも重要な仕事ですが、今いる人たちに加えて、新しい業界や新しい職種の人材が入ることをお手伝いすることはたいへん重要なミッションです。なぜなら、違う考えやスキルを持つ人たちが出会って、協業することで組織のイノベーションが起こるからです。

同じ業界同士での転職支援を提供していると、お客様への付加価値が低下していくため、常に新しい業界の情報をキャッチアップしていくことを意識しています。

※1:オルタナティブファンド・・・株式や債券などの従来の金融商品以外の未上場株や不動産などに投資をするファンドのこと

銀行転換期の経験による価値観の変化

大久保:銀行時代に経験したことで、良かった点を教えてください。

大西:価値観が大きく変わる局面に遭遇しました。

当然、そこに長くいた方の中では、価値観の攻防はありましたが、人が変わって価値観が変わって、組織や産業が大きく変わりました。

考えてみれば、歴史を見ても明治維新や戦後も大きく価値観が変わりました。価値観が変わることで世の中は大きく動くのだと実感しました。

そのため、今でも新しい価値観に常に触れているように心がけています。

大久保:人が変わると、価値観が変わるという点について、具体的に何が変わると成長に繋がるのでしょうか?

大西結果は「能力×熱量×考え方」によって生まれると、稲盛和夫さんがおっしゃっていて、まさにそうだなと思っています。

まず、能力の差はたいしたことはない、しかし、熱量のほうがずっと人によって大きな差があります。そして、考え方はマイナスにもプラスにも幅が存在するため、より差が生まれます。

こう考えると、考え方をどう変えるのか、という点が大きく結果に結びついてくると考えています。

働き方改革の影響で人材業界に起きた変化

大久保:働き方改革の影響はありますか?

大西:5年ほど前、政府主導で働き方改革が始まってから、働く時間への価値観が大きく変わりました。

その前は転職活動をする方で、残業できませんという方に対しては「それでは転職先を見つけられないため、残業できる状況になったらまた来てください」と言ってもおかしくはない価値観でした。

それが働き方改革が始まってからは「残業があること自体が悪」とすら思う人が増えました。

さらにコロナによって、この流れはより加速しました。

ただ、ここ1年くらいで働き方の考え方も多様性が出てきたと感じています。

私は採用面接の時に話すことがあります。

小学生のときに縄跳びの二重跳びができるようになりたかったら、休み時間・放課後の時間を使ってでも、できるようになりたいと思いますよね?

残業は絶対にダメということは、それを、体育の時間だけで二重跳びができるようになってくださいと言われているようなものです。何かができるようになるためには、できるようになるまで時間を費やす必要があります。

もちろん、ライフイベントなどで時間を費やすことができない時期には無理をする必要はありません。

できるようになるまでやるのか、決められた時間の範囲で対応するのか、それによって仕事の内容は変わるのだと思います。この話をすると多くの人は納得してくれます。

様々な価値観が共存しつつある今は、良い状況になっていると思っています。

プロになるには「やらないこと」を決めるべき

大久保:起業家・プロになりたい人とって活躍するためにはどうすれば良いと思いますか?

大西やらなくて良いということをきちんと特定して、徹底してやらないことが成長に繋がると考えています。

例えば、会社が成長して大きくなるプロセスの中で、仲間を集めてチームで仕事をするフェーズになった時、自分が営業することを止めないと、チームとして成果を上げられるようにならないと気がつきました。

やることを変えようとすると、やらなければいけないことが増え、仕事が回らなくなってしまいます。

そのため、まずはやらないことを特定する大事さを意識するのが良いと思います。

大久保:思い切ったことのように感じるのですが、とても大事だということがわかりました。

大西:創業当時は、人材派遣もやっていましたし、人材紹介もITやコンサルの分野まで広げていました。

ただ、このやり方を続けていても、プロになることはできません。

どこかでフォーカスをして、知見を貯めて、認知されていかなければ、お客様からの信頼が得られないと思い、求人のご依頼も断り、最初はオルタナティブファンドだけをやることに決めました。

そうすることで、その領域でプロとして信頼を獲得できてきて、そこから広げていくこともできるのです。そうして一つ一つ業界を広げて、20年経ち複数の業界での信頼を得ることができてきています。

つまり、信頼を得るためには、一旦絞り、小さい領域でもいいのでどこかでNo.1の評価を得る必要があると思います。

ただしこれにこだわりすぎて、成長のスピードが遅くなってしまうこともあるため、バランスを取る必要があります。

スタートアップの人材採用を成功に導くコツ

大久保:スタートアップに必要な人材、その見極め方について、教えていただけますか?

大西:当たり前ですが、人を採用する際には、具体的にどのような仕事をお願いするのか、どのような成果を期待するのか、そしてどのような人ならできるのかを分かっていない人が採用活動をすると、当然失敗してしまいます。

採用成功確率をあげようと思うなら、採用者自身が具体的な内容をわかっていなければいけません。

大久保:大企業で同じ仕事をしていても、一人でやるのとは訳が違うので、一通り自分でできるようになった方が良いということですね。

大西誰か一人、スーパーマンがきたら、会社の状況が一変するとは限りません。

これを採用時の鉄則として、考えておかなければなりません。

大久保:唯一、劇的に変わるとすれば、社長が変わった時ですかね。

プロフェッショナルを形成する「3つの要素」

大久保:組織を作っていく上で、気をつけていることは何ですか?

大西:コトラではプロフェッショナルとは、高い習熟度、ビジネスコミットメント、成長エネルギー、この3つを持ち合わせることと定義しています。

例えば、高い習熟度を持っていても、成長エネルギーが欠けていた場合、特にスタートアップでは、足を引っ張ってしまう人材になりかねません。

今までこのようにやってきたから、同じやり方でしかしない、というような方は、大企業病と言われたりもします。

習熟度も重要なのですが、ビジネスコミットメントと成長エネルギーがペアになり、かけ合わさることで、習熟度が活きてきます。

大久保:採用する側も、される側も、どちらにとっても重要なことですね。

大西:習熟しているだけでよければ、外部のリソースを使えば良いですから。
人を採用するのとは違ってきます。

プロフェッショナルな職場を増やすことがコトラの役割

大久保:今後の展望を教えてください。

大西全力で社会に貢献できる人を、もっと増やしていこうということを、大きなテーマとしています。

そのために、プロフェッショナルな職場を一つでも増やすことが重要になります。

今ある組織の中に新しい人が入ることが、非常に重要な活性化につながるので、人材紹介の仕事はたいへん価値のある仕事だと思ってやってきました。

これから目指すこととしては、タレントアクイジション(採用)と、タレントマネジメント(活躍)の両軸を確立させ、組織作りの部分もサービスとして提供することです。

そのためには、私たちも成長し続けたいと思っています。毎年130%成長を18年続けると100倍になるので、そのくらい成長する心意気でやっていこうと思っています。

大久保:最後に起業家へのメッセージをいただけますか?

大西企業にとっては「お客様からお金をいただいて、その範囲の中でコストを払って、社員の給料を払って、利益を出して納税する」というサイクルを生み出すことが、社会への重要な貢献の一つだと思っています。

コスト先行で、このサイクルに入るまでに5、10年かかる事業もあると思います。

コスト先行でも、ビジネスに関係するものであれば、周りからも応援されると思います。逆に、そうでないコストであれば、支持されないのではないでしょうか。

この分別のついたスタートアップ事業が日本で増えると、よりスタートアップも周りから尊敬される存在として発展していくと思います。

大久保写真大久保の感想

コトラ大西さんのインタビューで起業家の参考に非常になると思ったのは、
「まずは最初は社長が自分でやってどういう仕事か把握した上で採用する」という点だ。
当たり前のように見えてなかなかできない。大企業の場合は業務が決まっているので細かく把握していなくても、人を入れてなんとかできるが、スタートアップの場合、そもそも仕組みから作り込む必要があり、また、会社によるばらつきも大きい。

まずは、社長がやって把握しないとその業務がなんなのか分からないので適切な採用や指示ができないということだ。
もし自分でやらないにしても、募集するポジションの業務の把握は起業家の場合、大企業の社長かもしくは相当なスキルのいるよほど任せられる幹部がいる場合を除いて、やるべきだ。
あるポジションがあったとして、ある程度理解していないと採用の目利きもできないのでミスマッチが起こりやすい。
一方で一人で背負い込むと組織は成長できない。

大西さんが秀逸なのが、「ステージに応じて切り替える」「任せるタイミングでは任せる」という決断を途中でしたことだ。
まずは把握し自分でやって、次に任せて組織を大きくする。
これが起業の成長のコツなのだろう。
ぜひ、皆様にも実践してもらいたい。

関連記事
Thinkings 吉田崇|企業の採用活動を成功に導く!採用管理システム「sonar ATS」で目指す人材採用の変革とHRテックの発展
Indeed 水島剛|採用に悩む起業家必見!オウンドメディアリクルーティングとは?
創業手帳別冊版「創業手帳 人気インタビュー」は、注目の若手起業家から著名実業家たちの「価値あるエピソード」が無料で読めます。リアルな成功体験談が今後のビジネスのヒントになるはず。ご活用ください。

(取材協力: 株式会社コトラ 代表取締役社長 大西 利佳子
(編集: 創業手帳編集部)



創業手帳
この記事に関連するタグ
創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
創業時に役立つサービス特集
このカテゴリーでみんなが読んでいる記事
カテゴリーから記事を探す
今すぐ
申し込む
【無料】