個人事業主が従業員を採用する時の手続きは?メリットデメリットや求人方法も解説

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個人事業主でも従業員を採用できる!


法人化していない個人事業主であっても、従業員を雇用できます。しかし、人材の外注のほうが適しているケースもあります。
時間や場所を決めて長期的に働いてもらえる場合には、直接雇用も検討してみてください。この記事では、個人事業主が従業員を採用する時の手続きを紹介します。

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個人事業主が知っておくべき採用のポイント!


個人事業主が自分だけでは仕事が回らなくなった時や、人手が欲しい時の対処法はいくつかあります。従業員の採用もそのひとつです。
従業員を採用すべきかどうか判断する時のポイントをまとめました。

従業員を採用したほうがいい個人事業主

個人事業主が従業員を採用したほうがいい場合として、これから事業拡大や大きな成長を目指す時が挙げられます。
従業員を雇用することで本業に集中できるほか、新しい知識や経験を取り入れることも可能です。
また、資金面が安定してきたタイミングでもあるので、法人化を検討してみてください。

従業員を採用しないほうがいい個人事業主

継続して負担する保険料が資金繰りに大きく影響するようなケースでは、従業員の採用はおすすめできません。
従業員をひとりでも雇用すれば労災保険への加入が必須となり保険料が発生します。また、従業員を雇用すると保険の加入や税金の支払いなどの手間も発生します。
人材不足と解消しつつ、費用や手間などのコストを減らすのであれば、業務委託や外注を利用することがおすすめです。

個人事業主が従業員を採用した後の手続き


個人事業主が従業員を採用した場合、複数の手続きが必要となります。
業務委託であれば業務委託契約書を交わすのみですが、正規や契約、アルバイト、パートを雇用する時には手続きが必要です。
契約内容や手続きに不備があればトラブルになるかもしれないので、手続きや手順に間違いがないようにしてください。

また、社会保険の加入基準を満たす場合には、社会保険の手続きも発生します。手続きに遅れがないように準備をしておいてください。

労働条件の通知

従業員を雇用する時には、労働条件を通知しなければいけません。
賃金や労働時間などの労働条件は、「労働条件通知書」として通知するように労働基準法に定められています。
労働条件は、労働基準法や各種法令に反する内容は含められないので、不安がある場合には社会保険労務士に相談してみてください。

労働条件通知書に決められた書式はありませんが、厚生労働省のホームページではテンプレートを公開しています。
テンプレートを使えば、項目や内容に漏れが出ることもないので安心です。

労災保険の手続き

ひとりでも従業員を雇用すれば、労災保険に加入しなければいけません
労災保険は、正式には労働者災害補償保険と呼ばれ、業務中や通勤中の事故、ケガに対して適用される公的保険です。

労災保険の保険料は事業主が全額負担します。労災保険に加入するためには、労働基準監督署で必要書類を提出してください。
保険関係成立届は従業員を雇用してから10日以内の提出、概算保険料申告書は雇用した翌日から50日以内の提出がそれぞれ必要です。

雇用保険の手続き

雇用保険は、労働者の雇用の安定や就職の促進に資する目的の保険で労災保険とあわせて労働保険と呼ばれています。
労災保険は、雇用形態に関係なく強制加入ですが、雇用保険には以下の条件が設けられています

①1週間の所定労働時間が20時間以上であること
②31日以上の雇用見込みがある

雇用保険の保険料は、事業主と従業員の双方が負担します。
雇用保険適用事業所設置届は雇用した日の翌日から10日以内、雇用保険被保険者資格取得届は雇用した日の翌月10日までに提出してください。

税務署への届け出

個人事業主が従業員を雇う時には、税務署への届け出も必要です。
従業員を雇用して給与を支払う時には、給与に応じた税金を事前に差し引いて源泉徴収するよう義務付けられています。

「給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書」は、従業員の給与から所得税分をあらかじめ天引きして預かっておいて、代わりに納税する源泉徴収を行うためのものです。
国税庁が記入例と用紙を用意してくれています。従業員を雇用した日から1カ月以内に提出してください。

源泉徴収の準備

源泉徴収は、毎月の給与支払い時に発生します。
基本給と残業代、各種手当などから社会保険料や交通費などを差し引いて手取り額を確定させてから源泉徴収を行います。
また、源泉徴収税額を計算するには扶養家族の情報が必要です。

従業員が記載した「給与所得者の扶養控除申告書」は会社で保管します。
「給与所得者の扶養控除申告書」は毎年記載が必要な書類なので、紛失がないように管理方法も決めておいてください。
また、毎月の源泉徴収と年間の合計所得の差異を解消する年末調整でも書類の提出が必要です。

法定三帳簿の作成と管理

従業員を雇う時には、「労働者名簿」と「賃金台帳」、「出勤簿」3つからなる法定三帳簿を備えなければいけません。
法定三帳簿は、適切に労務管理していることを証明するために大切な書類です。適切に保存するとともに変更があれば遅滞なく訂正してください。

【家族を雇用する場合】青色事業専従者給与の手続きを行う

従業員として家族を雇用する方法もあります。原則として、個人事業主が家族を従業員として雇用しても給与は経費になりません。

しかし、青色申告を選択していれば、家族への給与を青色事業専従者控除として経費計上できます。
青色事業専従者給与の手続きは、経費算入の年の3月15日までに「青色事業専従者給与に関する届出書」を税務署に提出します。

個人事業主が従業員を採用するメリット


個人事業主が従業員を採用することで様々なメリットがあります。どのようなメリットがあるのかまとめました。

本業に集中できる

本業に集中したいのに、事務作業や本業に付随する作業に手を取られてしまう場合には、従業員を雇用して本業以外の仕事を任せる方法があります。
ひとりで仕事を行う場合は、メールや問い合わせ対応、請求書の発送や入金管理など、本業以外の作業も発生します。

従業員を雇用して、問い合わせ対応や経理、人事業務を従業員に任せることで本業に注力することが可能です。
人件費が発生したとしても本業に集中することによって売上げが増えて、利益が増える可能性もあります。

事業を拡大できる

人手が増えることは、事業を大きくするチャンスでもあります。
今まで店舗経営だけで手一杯だったものが、従業員を雇用することで時間的な余裕ができ、新商品の開発やオンラインショップの導入などのチャレンジが可能です。
採用の時には、事業拡大を見据えてパソコンや専門的な資格などを保有している人を雇用することも検討してください。

個人事業主が従業員を採用するデメリット


個人事業主が従業員を雇用することによってデメリットも発生します。どのようなデメリットがあるのか事前に確認しておいてください。

保険料を負担することになる

従業員をひとりでも雇用すれば労災保険に加入することになり、保険料の負担が発生します。
5人以上を常時雇用するのであれば、同様に健康保険や厚生年金保険の事業主負担が増えます。
費用が増える上に事務的な負担もあるため、社会保険の加入義務が生じない範囲での採用も検討してください。

採用や雇用に手間がかかる

足らない人手を補いたいと考えても、実際に採用するまでにも選考の手間があります。
さらに、雇用したくてもなかなかいい人材に出会えない悩みは多くの事業主が抱えています。
採用するまでにかかる時間や手間も考えると、求人サービスを使ったほうがいいこともあるでしょう。

責任と管理義務が生じる

人を雇用すれば給与や保険料が発生するだけでなく、様々な管理が必要になります。税金や社会保険料など、従業員それぞれの内容を計算し管理するように求められます。
具体的には、名簿の作成や出勤管理、給与台帳を用意するほか、税金や保険料の計算と支払い、年末調整など多くの作業が必要です。

個人事業主が従業員を採用する方法


従業員を雇用したいと考えていても、具体的にどうすればいいのかわからない人も多いかもしれません。
ここでは、個人事業主が従業員を雇用する時の方法を紹介します。複数の方法から自社に合うものを選択してください。

ハローワークに求人を出す

求人を出したい時に、よく使われるものがハローワークです。
ハローワークの求人情報はハローワークインターネットサービスでも閲覧でき、求人を掲載することで幅広い年代の人にアプローチできます。

また、ハローワークであれば求人を掲載するための費用がかかりません。地域に根差した求人が多いため、地元の人を探している時にも役立ちます。
ハローワークでは採用支援も行っているので、どのように求人すればいいのか相談することも可能です。

SNSや求人媒体で募集する

ハローワーク以外にも求人媒体に求人を出す方法があります。求人媒体の中には、地域に特化したものや、無料で掲載できるものもあります。

また、最近ではSNSで求人を出す方法も使われるようになりました。SNSを利用した採用であれば費用もかかりません。
普段からビジネスの内容やサービスを紹介していると、応募する側も仕事内容をイメージしやすくなるでしょう。

採用サイト作成ツールを活用する

ビジネスの内容や将来性をアピールして求人を出すのであれば、採用サイト作成ツールを利用する方法も検討してみてください。
採用サイト作成ツールは、採用サイトと応募管理の2つの機能を持つサービスです。

採用サイトを作成できれば、会社紹介と仕事内容の両方を求職者に訴求できます。
応募管理システムでは応募者対応や選考状況を一元管理できるので、複数の応募者を管理するにも便利です。
 

個人事業主が採用する時によくある質問


個人事業主の採用活動について、わからないことも多いでしょう。ここからは、個人事業主が人を採用する時に疑問が生じやすいポイントをまとめました。

採用に役立つ助成金はある?

個人事業主が人を雇用した時に役立つ助成金は多くあります。
例えば、非正規だった従業員をキャリアアップさせた場合のキャリアアップ助成金や、子育てや介護のサポートを行った事業者を支援する両立支援等助成金です。

助成金は、申請の手間はあるものの返済する必要がなく、個人事業主の資金繰りを改善するために役立ちます
どのような助成金があり、申請要件を満たすにはどのようにすればいいのか確認してみててください。

従業員の給与で気を付けることは?

従業員を雇用する時に課題となることが給料設定です。給料を設定する時には、同業者が支払っている給料や時給の相場を調べてください。

また、各都道府県ごとに最低賃金が定められています。最低賃金を下回る給与設定は違法です。
採用する前に該当エリアの最低賃金を調べてください。

個人事業主が給与を支給した場合、経費として計上できます。ただし、原則として本人や家族の給与は経費にはできません。
青色事業専従者給与の手続きをすることで家族の給与も経費にできるため、手続きを忘れないようにしてください。

従業員をひとりでも採用したら社会保険は必要?

従業員をひとりでも雇用した場合には、労災保険の加入と、条件を満たす場合には雇用保険の加入が必須です。
社会保険は、雇用形態や人数によって任意加入するか選択できる場合と、強制加入になる場合があります。

個人事業主が雇用した加入基準を満たす従業員が5人未満の場合には、任意で社会保険に加入することが可能です。
一方、従業員が5人以上になった場合には、社会保険に強制的に加入することになります。

個人事業主の採用と法人の採用との違い

一般的に、法人のほうが信用力が高く、優秀な人材を集めるには都合が良い場合があります。
社会保険への加入を条件としている求職者も少なくありません。社会保険に加入できる法人に就職したいと考える人もいます。

個人事業主が従業員を雇用する場合、法人化を検討するタイミングかもしれません。
法人化するための手間や費用もあるため、どちらが得になるかシミュレーションすることが必要です。
法人化することによって求人しやすくなることもあるので、採用を考える時にも法人化も検討してください。

まとめ・個人事業主として従業員を採用する時にはお金や保険の手続きをしっかり把握しておこう

個人事業主の新規人材採用は、募集から面接、雇用手続きまで自分で行わなければなりません。
人材採用は、普段から行う仕事ではないので負担に感じることもあるでしょう。

採用にかかわる手続きはお金や保険にもかかわるため、慎重に進める必要があります。
どのような手続きが必要なのか、いつまで行わなければいけないのかを事前に把握しておいてください。
どのように採用活動を進めていくかをハローワークに相談することもおすすめです。

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(編集:創業手帳編集部)

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