ジョブ型雇用ってどんな制度? 働き方の多様化で注目をあびる理由

創業手帳

ジョブ型雇用の概要や導入のポイントを解説します

(2020/06/19更新)

新型コロナウィルス感染症(以下、新型コロナ)の影響によって、テレワークや時間差勤務など働き方の多様化が進んでいます。柔軟な働き方を整える企業が増える中で、「ジョブ型雇用」という雇用制度に注目が集まっています。

ジョブ型雇用は、職務や勤務形態を限定し、定めた範囲の中で人材を評価する制度です。これまで日本で一般的だった雇用制度と比べて、どんな違いがあるのでしょうか。概要と、注目を浴びる背景、導入する際のポイントなどについて解説します。

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ジョブ型雇用とは

ジョブ型雇用とは、従業員に対して職務内容を明確に定義し、労働時間ではなく成果で評価する雇用制度です。欧米諸国で広く普及しています。

ジョブ型雇用との対比で用いられるのが、「メンバーシップ型雇用」です。職務内容や勤務地を限定せず、スキルよりも会社に合う人材を雇用する制度のことで、日本ではメンバーシップ型雇用が一般的です。

メンバーシップ型雇用が「会社に人を合わせる」という考え方をベースにしているのに対し、ジョブ型雇用は「仕事に人を合わせる」制度と言えるでしょう。

なぜジョブ型雇用が注目されているのか

ジョブ型雇用が注目されている背景の一つに、働き方の多様化があります。

多くの企業がメンバーシップ型雇用を行っている日本では、出社して働くことを前提に、労働時間に応じて給与を支払うという考え方が主流でした。しかし、新型コロナによって、テレワークや時間差勤務など、柔軟な働き方が求められるようになり、従業員を一律の時間で管理・評価することが難しくなりつつあります

ジョブ型雇用は、仕事の内容や評価基準を細かく定義した上で採用を行うので、従業員の管理や評価が仕事の成果に直接結びつきます。場所や時間にとらわれない多様な働き方を取り入れる企業にとって、相性の良い制度なのです。

新型コロナの影響を受けて、資生堂、日立製作所、富士通などの大企業が、今後ジョブ型雇用を積極的に取り入れていくことを示しました。在宅勤務専用の正社員採用を開始する企業や、社員全員を原則在宅勤務にする企業も出てきています。ジョブ型雇用へのシフトは、今後も進んでいくことが予想されます。

ジョブ型雇用の主な特徴

ジョブ型雇用の主な特徴をまとめました。

ジョブ型雇用 メンバーシップ型雇用
仕事内容 専門性があり、限定的 明確な業務内容や範囲が定められていない
キャリア 基本、転勤や異動がない 転勤や異動を伴うことが多い
給与 業務の成果に応じる 役職や勤続年数で総合的に決まることが多い
教育 自主的なスキルアップを求められる 社内で教育
人材の流動性 高い(転職・解雇が普通) 低い(長期的な勤続を想定)

職務内容が職務記述書で定められる

ジョブ型雇用の採用は、職務記述書(ジョブディスクリプション)にのっとって行ないます。職務記述書とは、業務の詳細を記した書類のことです。該当するポジジョンの職務内容・職務の目的・責任範囲・必要なスキル経験などを、細かく具体的に定めるために作成します。

職務記述書を作り込むことで、採用のミスマッチを防いだり、人材を正確に評価したりすることができます。

基本的に異動や転勤がない

ジョブ型雇用の人材は、専門性が高く、業務内容や責任範囲が限定されます。そのため、異動や転勤は基本的に発生しません。

給与は業務の成果に応じる

給与の判断は、職務記述書に記載されている業務を達成できたかどうかによって決まります。人事評価と報酬の関係を客観的に把握できる点が特徴です。

人材の流動性が高い

ジョブ型雇用では、職務内容や待遇が明確に定められているので、ミスマッチが生じた場合の対応もスムーズです。そのため一つの企業で長く働くことを想定しているメンバーシップ型雇用に比べて、人材の流動性が高くなる傾向があります。

ジョブ型雇用のデメリット

ジョブ型雇用には、弱点や懸念点もあります。導入を考える前に抑えておきたいポイントを解説します。

会社都合で人材の配置換えができない

ジョブ型雇用は、従業員の職務を限定するため、基本的には職務記述書にない仕事を任せることができません。また、仮に事業の中でその職務が不要になった場合、従業員を解雇する必要が出てきます。会社側の都合で、社内の人材の配置換えなどをすることは難しくなります

組織の柔軟性が損なわれる可能性がある

ベンチャー企業や中小企業などでは、組織の中で複数の業務をこなし、柔軟に動く人材を必要とする場合も多いものです。ジョブ型の採用だけに絞って、専門的な職務をもつメンバーが集まった組織を作ると、事業で不測の事態が起きたときなどに、融通の効く対応を取りにくくなる可能性があります

明確なルールを設けないと、トラブルにつながる可能性がある

勤務地限定正社員や職務限定正社員など、ジョブ型雇用の特徴を持つ正社員を導入する企業が増えています。一方で、運用にあたって画一的なルールが定められているわけではなく、労働契約の内容の確認など細かな部分が曖昧なまま導入している企業も多いのが現状です。

2019年5月、内閣府がジョブ型正社員の雇用ルール明確化に向けての提言を公開しました。

  • 現状、労働契約の書面での確認は義務付けられていない
  • 勤務地等の限定が労働契約や就業規則で明示的に定められていないことが多い
  • 使用者が曖昧な運用をすると、労使間の合意範囲の認識に齟齬が生まれる可能性がある

といった懸念が指摘されています。企業側は、ジョブ型雇用の明確なルールを作ってから運用に入らないと、労務のトラブルなどにつながりかねません。特に、ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用どちらも行う企業は、慎重に線引きする必要がありそうです。

ジョブ型雇用の広がりは未知数

ジョブ型雇用の概要とポイントを紹介しました。先に紹介した日立製作所は、これまで管理職のみに適用していたジョブ型雇用を、一般社員にも広げる方針を打ち出しました。資生堂も、対象はオフィス勤務の一般社員としています。

一部の専門的、限定的な人材採用への活用にとどまっていたジョブ型雇用が、今後どのような形で普及していくかは、まだ予想がつきません。導入を考えている経営者は、他社の事例なども参考に、適切な運用を模索する必要がありそうです。

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(編集:創業手帳編集部)

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