起業1年目にかかる税金・社会保険とは|見落としやすいポイントも解説

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個人事業主・法人それぞれの違いや、赤字でも発生する負担、資金対策まで網羅!


起業すると、売上や経費だけでなく「税金」や「保険」といった支出も自分で管理する必要があります。
特に初年度は思わぬ支払いが発生しやすく、資金繰りに影響を及ぼす可能性もあるかもしれません。

本記事では、起業初年度にかかる主な税金や社会保険料、その注意点についてわかりやすく解説します。
「起業したら税金や保険はどれくらいかかるのか?」「初年度は赤字でも税金を支払ったほうが良いのか」など、疑問や不安を持っている人はぜひ参考にしてください。

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起業初年度にかかるお金についての疑問


そもそも起業初年度にかかる税金と社会保険はどのような違いがあるのか、個人事業主と法人で金額や加入義務などは違ってくるのかなど、疑問に感じる部分は多いかもしれません。
そのような疑問を解決するために、まずは起業初年度にかかるお金の疑問についてお答えしていきます。

税金と社会保険の違いとは?

税金と社会保険はどちらも国に納めるお金ですが、目的や使い道が異なります。
税金は国や自治体の公共サービスに使われるのに対し、社会保険は医療や年金など、将来の自分や家族の生活を支えるための制度です。

また、税金は多岐にわたる租税から徴収されているため、一人ひとりの負担を個別に調整することはできません。
社会保険の場合は料率や所得の上限などによって負担額が細かく設定されており、一人ひとりの状況に応じて負担の調整がしやすくなっています。

個人事業主・法人で違いはある?

では、個人事業主と法人でそれぞれどのような違いがあるのでしょうか?税金と社会保険の加入義務の違いについて解説します。

税金の違い

個人事業主と法人では、納める税金の種類と節税のしやすさが異なります。まず、個人事業主と法人の納める税金の種類は以下のとおりです。

  • 個人事業主:所得税、個人住民税、個人事業税、消費税(売上1,000万円を超えた場合)
  • 法人:法人税、法人住民税、法人事業税、消費税(売上1,000万円を超えた場合)

例えば、所得税と法人税では税率が異なり、所得税だと最大税率が45%になる超過累進課税が適用されていますが、法人税の場合は最大税率が23.2%です。

また、個人事業主と法人では経費として認められるものの範囲も異なります。
例えば、以下の項目は個人事業主だと計上できませんが、法人だと経費として認められています。

  • 自分に対する役員報酬や賞与、退職金など
  • 福利厚生や健康診断などにかかった費用
  • 契約者が法人になっている生命保険料
  • 出張時の日当
  • 社宅(会社名義で借りた、または購入した物件)の家賃

社会保険の加入義務の違い

社会保険に関しては、加入義務に違いがあります。個人事業主は従業員5人未満であれば加入義務がありません。
一方、法人の場合はたとえ1人だけの会社だったとしても社会保険に加入する必要があります。
そうなると、会社が社会保険料を半分負担しなくてはいけなかったり、書類の届け出を準備する手間が増えたりするなどのデメリットが生じてしまうので注意が必要です。

個人事業主が初年度に支払う税金と保険


個人事業主は初年度にどのような税金と社会保険を支払うことになるのでしょうか。ここで詳しく解説していきます。

所得税(所得に応じて)

個人事業主は所得に応じて所得税を納める必要があります。所得とはイコール年収ではなく、収入(売上げ)から経費を差し引いた金額です。
毎年1年間で得た所得を計算し、翌2月中旬から3月中旬に確定申告を行い、国に所得税を納めることになっています。
所得額が一定を超えた場合、その超えた分のみ高い税率がかかる「超過累進課税」が採用されているため、個人事業主として事業に成功したとしても超過累進課税により大きな負担となってしまうケースもあります。

住民税(所得に応じて)

住民税は、毎年1月1日に住所事業所を置く都道府県・市区町村に納める税金を指します。
確定申告後に市区町村から住民税課税決定通知書が送られてきます。支払う際には一括または年4回の分割払いを選ぶことが可能です。

住民税額は前年の所得に基づいて決まる「所得割」と、定額の「均等割」の2つから構成されています。
所得割は事業所得から所得控除を引いて標準税率10%をかけた後、税額控除額を差し引くと算出できます。
均等割は納税者の所得に関係なく、平等に課税される金額が決まっているのが特徴です。

個人事業税(所得290万円以上で課税)

個人事業税は地方税法などで定められた法定業者に対し課されている税金です。
課税対象には該当しない業種(漫画家、ライター、翻訳者、農業従事者、アスリートなど)もありますが、所得が290万円以上になると個人事業税が課されるようになります。
個人事業税の税率は3~5%で、各事業によって異なります。

  • 第1種事業(物品販売業、運送取扱業など計37業種):5%
  • 第2種事業(畜産業、水産業、薪炭製造業):4%
  • 第3種事業(医業、公証人業など計28業種):5%
  • 第3種事業(あんま・マッサージまたは指圧・はり・きゅう・柔道整復その他の医業に類する事業、装蹄師業):3%

消費税(売上1,000万円超で課税)

個人事業主の場合、課税売上高が基準期間(通常は2年前)に1,000万円を超えていた場合は、消費税の納税義務が発生します。この場合、売上にかかる消費税から仕入れなどにかかった消費税を差し引く「仕入税額控除」によって納税額を計算します。

なお、初年度とその翌年は、原則として免税事業者となりますが、インボイス制度の開始により、取引先の要請で課税事業者として登録するケースも増えています。免税事業者を選ぶか、課税事業者としてインボイス発行事業者に登録するかは、事業方針や取引先との関係性を踏まえて慎重に判断する必要があります。

国民健康保険・国民年金

個人事業主が必ず加入しなくてはならない社会保険は、国民健康保険と国民年金です。
国民健康保険は、すべての国民が加入している公的医療保険です。国民健康保険は保険料が全額自己負担となり、前年の所得に応じて算出されます。
なお、一定の条件を満たすことで、退職後2年間は会社勤務の頃に加入していた健康保険を利用できる「任意継続健康保険」などもあります。
任意継続健康保険を利用すると保険料は退職時の標準報酬月額によって決まることから、所得が増えたとしても一定額の保険料で問題ありません。

また、国民は20歳以上60歳未満であれば国民年金に加入する必要があるため、個人事業主も同様に加入する必要があります。
国民年金の保険料は2025年度だと1カ月あたり17,510円になります。
支払方法をまとめて前払いにすると、割引されるので少しでも金額を抑えたい人は前納を選択してください。

法人設立した場合にかかる税金と保険


法人を設立した場合、個人事業主とは異なる税金と社会保険料を支払うことになります。続いて、法人設立した場合にかかる税金と保険について解説します。

法人税・事業税(利益に応じて)

法人が事業活動で得た所得には、法人税が課されます。また、法人が行う事業に対して課されるのが法人事業税です。
法人税は国税に分類されますが、法人事業税は地方税に分類されます。

法人税

法人税は、法人の所得に対して課される税金です。1年間の課税所得に法人税率の23.2%を乗じ、さらに税額控除分を差し引くと法人税額が算出できます。
法人税が課されるのは以下の法人です。

  • 株式会社や合同会社、合資会社などの「普通法人」
  • 農業協同組合やNPO法人、学校法人などの「その他の法人」

逆に法人税が課されないのは、以下の法人が挙げられます。

  • 公益社団法人や公益財団法人などの「公益法人」
  • 日本年金機構・地方公共団体などの「公共法人」
  • マンション管理組合やPTAなどの「人格がない法人」

法人事業税

法人事業税は、法人が事業活動を行う中で使用する公共サービスの維持費について、法人にも一部を負担させるという目的から課されている税金です。
法人事業税の税率は法人の種類・資本金額・所得額などで変動します。例えば、資本金1億円以下の法人を運営している場合、課税対象と標準税率は以下のようになります。

  • 年400万円以下の所得:3.5%
  • 年400万円超800万円以下の所得:5.3%
  • 年800万円を超える所得:7.0%

法人住民税(赤字でも均等割あり)

法人住民税は、法人が事業所を置いている地域の自治体に納める地方税です。
主に道府県民税と市町村民税に分かれており、東京都だけ法人都民税と呼ばれる独自の税制を設けています。

法人住民税は法人税割と均等割の2種類から構成されており、法人税割は法人税額に税率をかけて求められ、均等割は資本金額や従業員数によって計算されます。
法人税割に関しては決算時に赤字だと課税されないものの、均等割に関しては資本金額や従業員数によって算出されるため、法人を継続する限り納めなくてはいけない税金です。

消費税(売上1,000万円超で課税)

消費税は、商品・サービスなどの取引を行った際に課される税金です。国内の消費行動に関わる取引に対して消費税が課されます。
法人が納める消費税は、売上げにかかった消費税から仕入れにかかった消費税を差し引き、仕入税額控除を行って算出します。

消費税を納めなくてはいけない事業主を課税事業者と呼びますが、基準期間または特定期間における課税売上高が1,000万円を超えた法人・個人事業主は課税事業者です。
一方で、課税売上高が1,000万円以下であれば消費税の納税が免除される免税事業者になります。

社会保険(一人社長でも加入必須)

法人は個人事業主とは違って、従業員のために社会保険へ加入する必要があります。
ただし、従業員を雇用しておらず、一人社長だったとしても一定以上の報酬を受け取っていれば加入しなくてはなりません。
社会保険への未加入が発覚すると、過去2年間に遡って保険料を徴収したり、罰則を受けたりする可能性もあるので注意してください。

起業初年度にやりがちな「見落とし」ポイント


起業初年度に支払う税金・社会保険について解説してきましたが、いくつか見落としやすいポイントもあるので注意が必要です。
ここで、起業初年度にやりがちな見落としポイントについて解説します。

赤字でも支払う税金・保険がある

赤字になると支払いが免除になる場合もありますが、そうでない税金・保険もあります。
例えば、法人だと赤字になったとしても住民税の均等割(最低年7万円)は納めなくてはいけません。
また、法人の場合は必ず社会保険に加入しているため、売上げ・利益に関係なく報酬額に応じて毎月支払う必要があります。

個人事業主の場合は、国民健康保険や国民年金の保険料を赤字・黒字に関係なく支払うことになります。
このように、所得に関係なく支払わなくてはならない税金・保険もあることを念頭に置いておきましょう。

税金の支払いタイミングを勘違いしている

法人と個人事業主はそれぞれ税金を支払うタイミングが異なります。勘違いしていると期限を過ぎてしまう恐れがあり、追徴課税につながる恐れもあるので注意が必要です。
法人と個人事業主の税金を支払うタイミングは以下のとおりです。

【法人】

納税タイミング 種類
事業年度終了から2カ月以内 法人税、法人住民税、地方法人税、法人事業税、特別法人事業税、消費税
毎月または半年ごと 源泉所得税、住民税(特別徴収)
その都度納税 印紙税、登録免許税、固定資産税、自動車税(軽自動車税)

【個人事業主】

1月 第4期分住民税、第8期分国民健康保険料、12月分国民年金
2月 確定申告、第9期分国民健康保険料、1月分国民年金
3月 所得税、消費税、第10期分国民健康保険料、2月分国民年金
4月 3月分国民年金
5月 4月分国民年金
6月 第1期分住民税、第1期分国民健康保険料、5月分国民年金
7月 予定納税、第2期分国民健康保険料、6月分国民年金
8月 第1期分個人事業税、第2期分住民税、第3期分国民健康保険料、7月分国民年金
9月 第4期分国民健康保険料、8月分国民年金
10月 第3期分住民税、第5期分国民健康保険料、9月分国民年金
11月 予定納税、第2期分個人事業税、第6期分国民健康保険料、10月分国民年金
12月 第7期分国民健康保険料、11月分国民年金

帳簿・経理が曖昧になっている

レシートや帳簿の保管が十分に行われておらず、経費計上できるものを見逃してしまうケースもあります。
帳簿や経理が曖昧な状態になってしまうと、実際の利益や納税額を把握するのが難しくなり、経営状況がどのようになっているのか判断するのも難しいです。

また、青色申告の要件を満たせなくなってしまい、特別控除や赤字繰り越しなどが利用できなくなってしまいます。
ほかにも、税務調査の際に帳簿不備が指摘され、推計課税によって追徴課税のリスクがあることから、帳簿や経理業務はこまめに行っておいたほうが安心です。
なお、推計課税が適用される要件は主に3つ挙げられます。

  • 青色申告者ではない
  • 税務調査を拒否した
  • 帳簿書類がない

資金繰りで困らないための対策3つ


起業初年度は事業でうまく利益が出ていないにもかかわらず、税金や社会保険料の支払いはあるため、資金繰りに悩んでしまう人も少なくありません。
資金繰りで困らないためにも、以下の対策方法を取り入れてみてください。

税金・保険も含めたキャッシュフロー計画

まずは税金と社会保険も含めたキャッシュフロー計画を立てていきます。
月次の売上げや経費予測に加え、税金や保険料を支払う月・タイミングも明記された資金繰り表を作成してください。
予定納税や中間納付など、まとまった支払いがある月を事前に把握できるようになるため、前もって備えておくこともできます。

また、支払い忘れが出ないように納税用の積立口座を準備しておき、売上の一定割合(15~20%)を自動振替で確保しておいてください。
税金・保険料の支払い分を除き、最低でも3カ月分の運転資金が確保されていれば、納税時期に資金ショートを起こすリスクも軽減されます。

納税スケジュールの早期把握

年間の納税カレンダーを作成しておき、いつ、どの税金を、いくら支払うのか可視化することも大切です。
可視化できれば2~3カ月前から準備を進めておくことができ、納税額を早めに確保できるようになります。
また、e-Taxやダイレクト納付で即時または指定した期日に口座から引き落とせるようにしておけば、支払い忘れを防ぐことも可能です。

会計ソフトや専門家の早期導入

クラウド会計ソフトを導入すれば、毎日の記帳が自動化され、効率的に経理業務を行えるようになります。
特に個人事業主や一人社長の場合、1人で経理業務もすべてこなす必要があるため、負担を軽減するためにも会計ソフトを導入するのがおすすめです。

また、会計ソフトだけでなく税理士などの専門家に相談・契約を行い、随時アドバイスや手続きの代行を依頼することもできます。
法人であれば社会保険労務士と契約し、社会保険に関する手続きなどを代行してもらうことも可能です。

会計ソフトや専門家の力を借りて月次決算を行うようにすれば、リアルタイムで経営状況や納税見込み額を把握できるようになります。

まとめ|税金・保険は“払う時期”と“最低額”を把握しよう

起業初年度は事業に専念する人が多く、意外とお金の見通しが甘くなってしまう人も少なくありません。
税金や社会保険の納付が遅れたり、支払えなかったりした場合、追徴課税などのリスクがあるため注意が必要です。
最低限の税金や保険に関する知識を持ちながら、安心してビジネスに集中できる環境を整えることが大切です。

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(編集:創業手帳編集部)

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