副業やフリーランスで「柔らかい組織」を作る意味  加藤夏裕氏インタビュー(後編)

創業手帳
※このインタビュー内容は2019年04月に行われた取材時点のものです。

創業手帳大久保が、朝♪クラ~Asa-Kura~の代表・加藤夏裕氏のサービス・組織づくりを聞きました

(2019/04/26更新)

KATO MUSIC & CREATIVE ENTERTAINMENT 株式会社の代表取締役・加藤夏裕氏へのインタビュー。前編では、創業手帳代表の大久保が、加藤氏のスポンサーを獲得できるサービス作りの秘訣や、会社員から独立する上で抑えるべきポイントについて聞きました。

「成功を前提としない事業立ち上げ」で独立! 加藤夏裕氏インタビュー(前編)

後編では、加藤氏が行ってきた「柔らかい組織づくり」に迫ります。

加藤氏はこれまで、正社員ではなく、フリーランスや副業を行っている人に事業に参画してもらうことで、必要なリソースを補ってもらうという形で事業を進めてきました。

フルコミットの正社員で固めるのが「硬い」組織構造だとすると、副業などハーフコミット、部分コミットのメンバーで構成する組織は「柔らかい」構造といえます。

変動が激しい立ち上げ期の会社でメンバーを増やしたいと思った時、正社員の雇用はコストやミスマッチのリスクがあります。起業したてで知名度や資金力がないケースでは、代表や経営幹部以外の社員を採用したくても、人手不足のためなかなか難しいという状況もあるでしょう。フルコミットでない人材の協力を柔軟に仰ぐ形は、人材の確保の点においてもメリットがあります。

一方で、柔らかい組織はメンバーの自主性、自発的な協力が前提となるので、やりがいやビジョンなどで巻き込んでいく組織づくりを行う必要があります。加藤氏は、これまでどんな信念と方法で事業を展開してきたのでしょうか。

加藤 夏裕(かとう なつひろ)
KATO MUSIC & CREATIVE ENTERTAINMENT代表取締役。大学卒業後、リクルートや大手広告会社などの企業での勤務を通じてマーケティング・広告・広報・SPなど幅広い業務を経験。前職在籍時には、社内で新規事業を立ち上げ、責任者としてサービスを運営。昨年12月に独立し、「KATO MUSIC & CREATIVE ENTERTAINMENT 株式会社」を設立。現在、エンタメ系の4つのサービスラインを運営しながら事業を展開している。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計100万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。

副業経験を活かし、多様性、色々な背景を持った会社づくりを

大久保:加藤さんは、ご自身も大企業に属しながら副業を通じてプロジェクトを実現してきたという経験がありますよね。今後、企業で副業の流れはどうなっていくと考えますか?

加藤:欧米から入ってきたダイバーシティ(多様性)というワードが定着しつつある昨今、企業の副業容認の流れはこれからも続くと考えています。

典型的な日本企業は、“金太郎飴組織”で、一括採用で同じような経歴、考え方の社員で固めるわけです。時代の変化が激しくない時代は金太郎飴で良いですが、変化の激しい時代は、多様性、色々な背景を持った会社の方が強い。なので、副業を認めることは、企業のダイバーシティを高めるという側面もあるのです。

一方で、旧来型の終身雇用をベースにした副業禁止の企業も多く残っているのも現実です。私は副業をすることで確実に仕事の幅も広がりますし、副業を通じて得られる知識や経験は代えがたいものがあると信じているので、当社の経営スタイルが世の中の一つのスタンダードとなっていくよう、違ったものの見方ができる人が集まる強い組織を作るとともに、働き方について社会に発信していけたらと思います。

大久保:社外での経験でスキルが上がる面もあるということですね

加藤:はい、そうですね。

社外の活動を通じてしか得られない知識や経験は確実に存在します。知識や経験を上げるために、一般的にはお金を払ってセミナーやスクールに通うことを検討する方も多いでしょう。もちろんそこで得られるものは大事ですが、起業を志す方であれば、これだけでは足りない印象ですね。起業したときのためのシミュレーションはセミナーやスクールでは学べません。

百聞は一見に如かずで、副業をして実践でしか得られない経験や人脈を得られるので、起業前は実際に副業で自らお金を稼ぎながら経験を積む。これがベストだと思います。セミナーやスクールに通うのとは逆で収入を得ながらにして起業のための準備ができるわけですから、大変魅力的だと思いませんか?

大久保:個人的には「お金のための副業」、例えば普通に仕事をして、コンビニでバイト数万円稼ぐのって大変ですよね。市場価値も上がらないし、むしろ疲れてしまって市場価値が下がるかもしれない。

そういうお金のための副業ではなくて、知識や経験を上げる、極端な話、お金はいらないか謝礼程度でも、経験やスキルが上がる副業であれば個人の価値だったり、場合によっては所属している会社にも貢献できると思いますが、いかがですか?

加藤さんも、お金というより経験やスキル、個人の価値の幅が広がるような活動を選んできたのかなという印象があります。

加藤:おっしゃる通りで、一括りに副業といってもお金のための副業は将来の起業のために役立つ見込みがないものであれば全くおすすめはできませんね。アルバイトのように、与えられてそれをこなすような仕事をするのでなく、自分のアイデアやスキルを活かしていかに“主体的”に副業をできるかがポイントになると思います

私も、得られる金銭的メリットは二の次で、起業に向けて経験やスキルを積むことができるかどうか、という点が副業に着手する上での大きな判断基準になっていたということは間違いありません。

副業メンバーの自主的性を引き出すブランドづくりが大事

大久保:起業家にとって、副業のメンバーに協力してもらうメリット、デメリットを教えてください

加藤:そうですね、副業が向いている会社、向いていない会社も当然存在すると思います。個人の知識や熟練が必要か、仕事のスパンが長期か短期か、というのもあるでしょう。

その上で、社員主義ではないメリットは、やはり柔軟性にあります。正社員主義の場合は、ミスマッチ時にカンタンには変更できない。今後、変化の激しい起業シーンでも、社員以外の働き方が増えてくるでしょう。

以下、正社員を主戦力にした場合、副業・フリーランスを主戦力にした場合のメリット・デメリットをまとめてみました。

正社員を主戦力にする 副業、フリーランスを主戦力にする
メリット 長期のプロジェクトが多い企業/個人の知識の蓄積や熟練が必要とする企業 短期のプロジェクトが多い企業/個人の知識の蓄積や熟練を必要としない企業
デメリット ミスマッチ時の雇用者の採用・労働コストの消耗/簡単に雇用契約を解消できない 長期的な視点で育成をしながらの労働力確保には向いていない
大久保:社員ではない方に働いてもらうわけですが、自主性に任されている面もありますよね。どうやったらパフォーマンスを発揮してもらえると思いますか?

加藤:事業を経営する上で、メンバーのモチベートというところが一番大切な要素であると思います。そこに注力していれば自主的に事業が育っていく仕組みが作れると思います。

単純に賃金をこれだけあげるからこれをやってくれ、というやり方ですとメンバーの自主性を育んでいくことができません。

モチベートについては、ブランドの価値や魅力を高めて愛着を持ってもらえることに尽きますね。このブランドのプロジェクトに関われることが楽しかったり、誇りに思えたり、そういう環境を作っていくことを常に考えています。

大久保:社員以外で優秀なメンバーを捕まえる、というのはなかなか難しそうですが、加藤さんはどうやって見つけているのですか?

優秀な副業メンバーを見つける方法ランキング

方法(例、イベント、知り合いに声を掛ける、など)
1位 自らイベントに参加してダイレクトスカウティング
やはり自社の事業を拡大するためのメンバー選定は自分でするべきもの。狙ったターゲットが来るイベントに参加し、自らの目で自社に適合しそうな魅力的な個性やスキルを持った方を探し、見つけたら直接アプローチをして事業に巻き込んでいきます。
2位 自社のメンバーからの紹介
メンバーに自社のブランドに愛着を持って取り組んでいただけると、そのメンバーから組織に必要な人材を紹介してもらえることも多く、非常に貴重な人材発掘の機会になっています。こういったプラスの連鎖を作るためにも自社サービスの魅力を高める努力が非常に重要であると考えています。
3位 日々の商談の時間をスカウティングの機会に
日々の業務に追われる中、人材発掘に掛けられる時間資産は限られていることが多いのが現状です。見落としがちですが、有効なスカウティングチャンスとして、日々の取引先やパートナー企業などとの打ち合わせがあります。彼らの中から必要に応じて自社事業への巻き込みを画策することも可能で、そのチャンスも伺っています。
大久保:副業メンバーの成功例、失敗例を教えてもらえますか?

加藤:当社には、ブランドの設立当初から長きにわたってジョインしているメンバーも多く、それだけ愛着が持てるサービスを作ってこれたのかと思います。

お金だけでコミットするのでなく、あくまで自社ブランドへの愛着でコミットする。それが成功の秘訣です。

一方、メンバーの得意分野もしくは関わりたい分野の仕事で関わってもらうことも重要な要素なんですが、いくらブランドに愛着を持ってジョインしてもらっても自分の得意分野が活かせない場合はうまくはまらないことが多いです。

ただ、このようなミスマッチも正社員で雇用した場合と違い、すぐに方向修正が可能ですから大きな問題にはなりませんね。

起業には勢いだけでなく、しっかりした準備と計画を

大久保:今後はどういう展望を考えていますか?

加藤:創業初年度の今年、まずは当社で展開しているサービス一つ一つを軌道に乗せることが目標です。そして、目標としている売上と利益を確保することが短期的な展望です。

今は当社が展開する各種ブランドラインの可能性を探るフェーズだと思っています。中長期的には、多角化しているブランドの中から、事業の絞り込みを行っていきたいと考えています。

対外的には、インパクトがあって社会に大きな影響を与えるようなプロジェクトを展開し、それが認知されることで当社と同じような経営スタイルにチャレンジする企業がたくさん現れるようになり、働き方の多様化がこれまで以上に進んでいくといいですね

大久保:最後に、創業手帳の読者へのメッセージをお願いします

加藤:巷では起業は勢いでやるべき、という無責任な言葉がちらほらと聞かれます。なかなか行動に移せない方に向けては背中を押してくれる言葉だと理解すれば一理ありますが、そうした流れで起業した方がどれだけ成功しているでしょうか。

起業には勢いだけでなく、しっかりとした準備と計画が必要だと考えます。幸い、現在は副業をしながら起業に向けての準備を進めることや周囲の創業経験者やWEBなどからさまざまな経験や知識を事前に入手することが可能です。創業手帳のように、資金調達や起業の進め方などさまざまなサポートを受けられる場所もありますし。

いずれにせよ、成功のためには行動を興すことが必要です。十分な準備をした上で、機が熟したそのとき、「起業する」というハードルを乗り越えて成功を掴んでいってもらいたいものです。

(編集:創業手帳編集部)



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