ヒット商品連発の秘密は「感動」ドラマ×商品の発想 平野 秀典インタビュー(前編)
「ジョブズは人に聞いてiphoneを作ったわけではない」リサーチを超えたヒット商品を生み出す発想
(2017/12/19更新)
「自社商品・サービスの魅力を伝える」ということは、起業家にとって大切なことですが、非常に難しいとされています。色々な情報があふれる時代に、「伝える力」を養うには何が大切なのでしょうか。
そこで今回は、感動を生み出す表現力を向上させる専門家として、数々の著書を出版している、感動プロデューサーの平野 秀典氏にインタビューを敢行。前編では、自身が起業した経緯や、モノが溢れている現代で、伝えるために意識していきたいことをお話いただきました。
異質の組み合わせ=イノベーション
平野:もともと、私は子どもの頃から「異なるものから共通する部分を探す」ということに非常に興味がありました。例えば、陸上競技と空手を一緒にやっていると、一見関係がないようにみえますが、「体の使い方」が同じだという発見があり、うれしさを感じていました。
演劇をやっている時も同じで、「これは、仕事の役に立つのではないか?」という風に見ていました。その考えが、今につながる出発点だったと思います。
平野:そうですね。それがまさにイノベーションのアプローチと同じだと思いました。経済学者のシュンペーターが、異なるものを統合することで新しいイノベーションが生まれるという「新統合」という言葉を使っています。あのアップル創業者のスティーブ・ジョブスも「創造性とは、異なるものをつなぐだけだ」という言葉をのこしています。
これらは大人になってから知った言葉ですが、私はたまたま、子どもの頃から、異なるものをつなぐのが得意というよりも大好きだったので、そういう視点を大切にしていました。
平野:それも後で知ったことですが、その通りだと思っています。
企業にいたときのことですが、業績が落ちていて、改善が必要だという時期がありました。会社組織というのは、内部や業界内でいろんなアイデアを生み出すことが求められます。そんなときに、私はさっきの思考が出たのです。
「全然関係ないように見えるものの中で、共通するものってなんだろう?」と。
要するに、すごくいいものを作っているメーカーでも、物の良さがお客様に伝わらなければ意味がありません。それなのに、開発陣がどんどん良いものを作り、営業部門は「何でもっと売れるものを作らないんだ」と開発部門にプレッシャーをかける。その結果、高機能・多機能になっていってしまうだけで、お客様に良さが伝わらないという事態になってしまったんです。
演劇の経験がビジネスにつながると感じた瞬間
平野:当時、私はサラリーマンでしたが、エンターテイナーでもありました。そんな状況が続いた時に、気付いちゃったんです。
「ちょっと待てよ?エンターテイナーって、お客さんの反応が悪かったらちょっと考えるよな?」って。
エンターテイナーにとっては、伝わっているかどうかというのはすごく重要です。ですが、企業はあまりこの点に気付いていませんでした。
良いものを作り、伝わる、伝えるということは、マスコミの世界ではすごくやっていました。テレビコマーシャルなどの宣伝ですね。
だから、私はそのとき、演劇の手法で商品を表現するやり方を提案しました。結論から言うと、それが大当たりして、業績はV字回復しました。元々良いものを作っていましたから、その魅力がお客様に伝わることで、良い結果に結びついた、ということですね。
その出来事を目の当たりにした時に、「これはこの会社・業界だけじゃなくて、様々な業界で活用できるのではないか?」と思い、このプロセスを伝える講演の行い、いつしか年100回以上呼ばれるようになりました。
平野:そうなんです。
量販店で買ってきた「ホームページビルダー」で、1、2ページのページを作って始めました。すると、そのホームページが人気になり、全然関係がない業界の人からも興味を持ってもらえるようになり、講演依頼が舞い込みました。
その後は、トントン拍子で本を出すことになりました。社長の耳にも入ることになり、クビになるかと思いましたが、「社員で本を出したのは初めてだ」と褒められまして。それから、「これをビジネスにしよう」と思って、起業しました。
ニーズを聞き出すだけでは感動につながらない
平野:そうですね。演劇というのは、「相手がどんな風にこれを聞くだろう?」、「聞いてどんなイメージを持つだろう?」ということを常に考えています。
私はマーケティングを学んでいたわけではありません。演劇で培った経験から「現場でどうすれば売れる仕組みができるのか」ということを考えることで、業績を上げることができました。ただモノを売って儲けを産み出すことをビジネスと思っているだけでは、気付けないことだと思います。
そこに観客がいなければ、どんなにいい芝居をやってもむなしいのと同じで、売り上げが下がったときに、「お客様が分かってくれない」と考えてしまっては終わりです。
ですが、ニーズを聞いただけで演劇はできません。幕が開いて「今日どんな演劇を視たいですか?」と言われても、お客様は「え?」となりますよね。
演劇でもビジネスでも、仮説を持って、お客様の期待を上回ることが重要です。「こういうことをしたら、今日のお客様は感動するんじゃないか?」「こういうストーリーと演技で伝わるんじゃないか?」という仮説を常に持って、朝から晩まで稽古を重ねることが、究極のビジネスだと思います。
大きな不満を持っていない日本だからこそできること
平野:そうですね。例えば接客業の場合、日本は接客レベルが高いために、少しでもボロが出ると不満が出ます。今の日本は取り立てて大きな不満はないというレベルの商品で溢れているから、このような状況になってしまうんだと思います。
平野:そうかもしれませんね。そういう役者は、一般のお客様からは不満は出ませんが、ごひいきにしているお客様からは不満が出ます。
お客様の見る目が肥えていくと、厳しい目で見られるようになります。ビジネスでも同じで、「目の肥えたお客様をどう感動させるか?」を考えないといけません。「初めて来た人が感動した、喜んでいた」では続きません。
ちなみに、ヨーロッパの起業家たちはそういう目を鍛えられたみたいですよ。ヨーロッパには貴族がいて、良いものを知っています。今、名だたる世界企業になっている元ベンチャーの人たちは、「目の肥えたお客様をどう感動させるか?」を必死になって考えてきたことによって、力をつけてきたと思います。
日本でも、例えば茶道のような世界観がありますよね。茶道は主客一体になって初めて感動が生まれます。おもてなしをして、それに気付いたお客様にまたその上のおもてなしを・・・ということを繰り返して、お互いにレベルアップしていくことを意識しなければいけませんね。
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(取材協力:有限会社ドラマティックステージ/平野秀典)
(編集:創業手帳編集部)