複数の会社を設立するメリットは?注意したいポイントも解説

創業手帳

節税や事業効率化には複数会社の設立も視野に入れよう


会社を経営していれば、税負担の重さや生産性の悪化など多くの課題に直面します。会社が抱える問題への対処法としてチャレンジしてみてほしいのが複数の会社設立です。
複数の会社を設立することによって事業が効率化して働きやすくなったり、税負担が減ったりと様々なメリットがあります。
企業の成長促進や事業再生の方法として複数の会社設立を検討してみてください。

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複数の会社を設立するメリット


起業してひとつの会社を興したあと、次のステップが気になるという人もいるかもしれません。
ひとつの企業での事業が軌道に乗ったため、新しい会社を立ち上げたいと考える人も多いです。

実際に複数の会社を設立して運営しているケースは多くあります。ここでは、複数の会社を設立するメリットを紹介します。

軽減税率の適用を受けられる

税法の中には金額の制限が設けられている制度があります。具体的には、中小企業の軽減税率が挙げられます。

これは、所得800万円以下については、法人税率を15%、所得800万円超については23.2%(2024年3月現在)にするものです。
つまり、ひとつの会社で所得をまとめるよりも、複数の会社を設立して所得を分散させたほうがより低い税率が適用されることになります。

使える交際費が増える

取引先への接待や贈り物など、接待交際費が発生する会社は多いでしょう。原則として交際費は、全額税務上の経費扱いにはなりません。

しかし、中小企業では年間800万円以下の交際費は全額損金算入できます。年間800万円を超えた部分については損金として算入できません。
ひとつの会社では損金算入できる交際費の枠は800万円となります。しかし、複数の会社を設立することによって損金算入できる枠を増やすことが可能です。

少額減価償却資産の特例を使える

少額減価償却資産の特例は、常時使用する従業員の数が500人以下の会社が対象で、30万円未満の減価償却資産については、年間300万円まで損金に参入できる制度です。

少額減価償却資産の特例も、複数会社を設立することで年間300万円の枠を増やせます。
減価償却資産には、設備や機器、備品や機械装置といった有形減価償却資産のほか、ソフトウェアや特許権といった無形減価償却資産も含まれます。
資産の購入予定がある場合には、複数の会社で分散できないか検討してください。

消費税が免税になる

資本金が1,000万円未満の法人であれば、設立してから最大で2年間は消費税が免税となります。
すでに設立している会社が課税事業者となっている場合、2つ目の会社を設立して免税措置を受けたほうが、支払う消費税の額を抑えることが可能です。
また、課税売上高が1,000万円未満であれば免税事業者となるため、その分の消費税を節税できます。

退職金を計上できる

新しく設立した別の会社に、既存の会社の役員や従業員を転籍させることで退職金を計上可能です。
退職金は損金となるので、利益圧縮効果があり納税額を減らせます
また、退職金は税制の優遇措置が受けられるので、退職金を受け取った役員や従業員も退職金控除で所得税が1/2に軽減されます。

スピーディーな意思決定が可能に

ひとつの会社で様々な事業をまとめて抱えると、会社の構造や利益のあり方が複雑になり過ぎることがあります。
複数の会社を設立して、ひとつの会社ごとにひとつの事業や業態にしたほうが、収益の源泉や事業構造がわかりやすくなるかもしれません。

加えて、市場が未熟なケースや競合他社が多いケースでは、スピードが重要です。
既存の会社で新しい事業を始めようとしても、社内規定などのルールでスムーズに進まないことがあります。

別会社を設立すれば組織がスリム化するため、意思決定もスムーズです。
スピーディーに経営判断できるようになって、事業の成果もわかりやすくなるので、従業員のモチベーションアップにも貢献します。

事業を区分化できる

もともと1社で完結していた事業であっても、製造と販売を分けるなど業務分割することでそれぞれが利益を創造できます。
長く事業をしていれば、ひとつの業種や業態が不況になることは珍しくありません。
あらかじめ利益を分散しておけば、複数の会社のうちどれかがうまくいかなくても複数の会社で互いに支えあいができます。

また、企業が経営難になった時にも、収益性がある事業や成長に期待が持てる事業を切り分けて新しい会社とするケースはよくあります。
不採算部門からの影響を減らすために有効な手段です。

資金調達しやすくなる

複数の会社があれば、それぞれが複数の金融機関から融資を受けられるようになるので、資金調達しやすくなります。
ひとつの会社で資金調達した時よりも、大きな金額を調達できるかもしれません。
また、不採算の事業部門を切り離すことによって、会社本体の収益性が高まれば金融機関から評価が高まって資金調達しやすくなります。

複数の会社を設立するデメリット


複数の会社設立にはメリットが多いものの、デメリットも少なくはありません。
どのようなデメリットがあるかを確認してから2社目以降の会社設立を検討してください。

経費が増える

会社が増えることによって会社を経営するために必要な経費は増えます。
会社が増えるごとに必要な事務処理や手続きが増えるため、それだけ人件費や雑費は増えていきます

電話対応や郵送対応といったバックオフィスの仕事は増えた会社の数だけ増えると考えなければいけません。
経費がかさむことで、ひとつの会社を経営していた時よりも複数の会社になったほうが利益が少なくなる可能性もあります。

運営の手間がかかる

会社が増えることによって、運営するための手間も増えます。
法務や税務上の必要書類や備付の帳簿、社会保険の手続きなど運営の手間が大きくなってしまいます。

また、会社ごとに決算をしなければならない点にも注意してください。
決算期を同じにしてしまうと複数の会社で決算業務が発生して手が回らないかもしれません。

租税回避とみなされてしまうことがある

複数の会社設立で、最も注意しなければならないのが税務署からの指摘です。
会社設立が租税回避目的だとみなされてしまえば損金算入が認められないかもしれません。
複数の会社設立で節税する行為は、税務署からは税金逃れと受け取られてしまうことがあります。
複数の会社設立の際には、節税ではなく別会社を設立することが経営的な戦略であると説明できるようにしておかなければいけません。

税務調査では、複数会社間での取引きについても不自然なものがないかチェックされます。
いつ税務調査が入っても問題ないように、日ごろから指摘を受けるような行動は避けてください。

税務調査のリスクが増える

税務署による税務調査は、納税者が提出した各種書類やその内容に誤りがないか確認するための調査です。
正確に申告しているかどうかを確かめる目的なので、日ごろから適切に手続きや会計処理をしていれば問題ありません。

しかし、税務調査と聞くだけで不安に感じる人も多いでしょう。複数の会社を設立することで、それだけ税務調査を受ける可能性も高まります。

分社化の方法は?


分社化とは、ひとつの会社をエリアや事業内容によって区分して子会社を設立することを指します。
分社化は親会社の資産を分散させ、新しい別の会社を設立するのが基本の流れです。
しかし、分社化にはいくつかの方法があるため、会社の状況や目的によって適した方法を選ばなければいけません。
ここでは、どのように分社化するのかを紹介します。

新会社を設立して事業承継させる

分社化の方法として、既存の事業を切り離して新しく設立した会社に移す方法があります。
事業に関する資産や負債を新設会社に事業譲渡して、新設会社の株式を取得します。親会社となる会社は新しい会社の株式を100%保有する完全親会社になる形です。

複数の会社で会社を設立する

分社化は複数の会社で行うケースもあります。複数の会社がそれぞれの事業部門を切り離して、新しい会社に集約させるケースです。
この場合は、資産や不作の状況に応じて新しい会社の株式を親会社が取得します。そのため、分割した会社と新しい会社の関係は親子会社か関連会社になります。

事業を切り離してして別会社に移す

新しい会社を設立しなくても、事業を切り離して既存の別会社に移す方法も可能です。事業譲渡した側は、既存の別会社が発行する株式を対価として受け取ります。
もともとの会社同士の関係や割り当てられる株式数によっては親子会社の関係になる場合もあります。

複数の会社経営を成功させるコツや注意点


複数の会社を設立することは、節税効果や事業効率の面で大きなメリットがあります。
しかし、メリットだけを期待して複数の会社設立をしてしまうと、うまくいかない可能性もあります。
複数の会社を設立して経営する時に成功させるためのコツや注意点をまとめました。

タイミングは慎重に検討する

分社化は思い立ってすぐ取りかかるのではなく、事前に十分な検討が必要です。会社設立のタイミングが悪ければ思ったほどの効果があらわれない可能性もあります。

具体的には、財務状況が変わったり税制改正のタイミングに合わなかったりして、期待していた優遇が受けられないケースです。
会社設立のタイミングは外部環境の変化も踏まえて決めなければいけません。

専門家に相談する

複数の会社を設立するには、分社化の方法や税制上の効果など多角的に判断して実施する必要があります
さらに、財務、税務上の複雑な手続きが必要です。

社内だけで判断するのではなく、実施前に税理士や公認会計士といった専門家にアドバイスを受けるようにしてください。
外部からの意見を取り入れることによって、今まで気が付かなかった見落としやミスが判明するケースもあります。

会社は、設立して終わりではありません。独立した企業として財務や税務など管理部門の立ち上げが必要になります。
管理部門の立ち上げにも、専門家がいれば心強い存在になるでしょう。

赤字はすぐに対処する

複数の会社を設立すると、状況によって複数会社のどれかが赤字になってしまうことがあります。
ほかの会社が安定して利益を出しているからと、赤字の会社が放置されてしまうケースは珍しくありません。
しかし、赤字が続いている会社をそのままにしておけば、人件費や事務コスト、税負担などのランニングコストは増えるばかりです。

こういった場合には、会社をまとめてしまうのも有効な方法です。
複数の会社にした役目を終えたと考えてまとめてしまえば、別々にかかっていたランニングコストが削減され、赤字の縮小も可能になります。

法人間取引は指摘を受けないようにキッチリ行う

会社が複数になった時に問題となりやすいのが法人間取引です。
各会社の間で取引きがある場合、資本のつながりがあるから自由に取引きできてしまうと思われやすく税務調査でも必ず確認されます。

内部コストのシェアや経費精算などで会社間の取引きが発生するケースもあるので、調査を受けても問題がないように取引きの履歴は正確に残してください。
契約書や証憑類、取引きの条件がわかる資料は整えておくようにしましょう。

会社同士の関係が希薄にならないようにする

新しく会社を設立してからも、会社同士や資本関係はあります。しかし、それぞれが独立した法人として存続して事業を行うことになります。
事業面で独立して別の目標を掲げるようになることで、関係が希薄になっていくリスクも考えなければいけません。

関係が薄れてからだと、協力関係を築くのが難しくなることも考えられます。会社同士の関係を維持するためにも、定期的に交流する機会を設けるといった取組みが必要です。

まとめ 複数の会社を設立するメリットを知っておこう

企業が複数の会社設立をすることによって、節税や事業運営面でメリットがあります。
しかし、何のための会社設立なのか、新しい会社の役割は何なのかを把握しておかなければ、いたずらにコストを増やしただけになってしまうかもしれません。
複数会社を設立する時には目的意識をもって手続きや設立後の事業運営に携わってください。

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(編集:創業手帳編集部)

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