インフレ時代の資金繰りはどう行うべき?資金繰り対策や価格設定のコツを解説

資金調達手帳

インフレの影響で倒産しないために自社の資金状況と適正な価格設定を知ろう


デフレ状態にあった日本では2021年頃からインフレ率が上昇し、インフレ状態にあるといわれています。
インフレが中小企業に与える影響は大きく、資金状況の把握と適正な価格設定ができていなければ倒産に追い込まれてしまうかもしれません。

そこで今回は、インフレ時代を乗り切るための資金繰り対策や価格設定のコツについて解説していきます。
これからの時代に合った経営に役立つ対策方法を知りたい方は、ぜひ参考にしてください。

創業手帳では資金調達方法や資金繰りについて解説した「資金調達手帳」を無料でお配りしています。事業にお金は必ず必要となるものなので、全体像を把握しておく必要はあります。ぜひこちらもあわせてお読みください。

※この記事を書いている「創業手帳」ではさらに充実した情報を分厚い「創業手帳・印刷版」でも解説しています。無料でもらえるので取り寄せしてみてください

インフレがもたらす企業への影響


インフレとは、お金の価値が下がり物価が上昇する状態のことです。
日本では数十年にわたってデフレ(お金の価値が上がり物価が下落する状態)が続いていましたが、近年は物価が上昇している状態です。
インフレは企業にも様々な影響をもたらします。ここでは、インフレがもたらす企業への影響について紹介します。

原価の上昇

商品を作るための原材料の仕入れるに必要な原価が、インフレの影響で上昇する場合もあります。
商品の値上げを発表する際に、「原材料の高騰」を理由に挙げる企業は少なくありません。

原価が上昇すればこれまでと同じ金額で仕入れても以前より手に入る原材料が減ってしまい、作れる商品の数も減少することになります。
また、同じ数量を作ったとしても、原価が上昇していることで企業の利益も減少してしまいます。
こうした状況を回避するためには、商品の値段を高く設定しなければなりません。

電気代やガス代などの上昇

インフレは電気代やガス代にも影響をもたらしています。
エネルギー供給が増えている中で、世界的な天然ガス・石炭の価格高騰により燃料価格が全般的に値上がりしました。

また、インフレや電気供給量の不足などを理由に、政府は電気・ガスの価格変動を緩和するための対策を取っていましたが、2024年6月以降は補助がなくなりました。

人件費の上昇

日本は少子高齢化の状態であり、どの業界でも人手不足の状況が続いています。その影響を受けて、人材を確保しようと賃金の引き上げが行われるようになりました。
インフレの影響で物価が上昇しているため、政府は最低賃金の上昇を図っています。
人件費が増えても利益が出れば問題ありませんが、現場で活躍できるまでに育成するためには一定の時間が必要です。

また、現在は社会保険制度の値上がりもあり、賃金を増やしても従業員の手取りがほとんど増えないケースもあります。

物流コストの上昇

賃金が値上がりしたことで、物流コストも上昇しています。
2024年4月から、トラックドライバーにおける時間外労働時間の上限規制と改正改善基準告示が適用され、ドライバーの労働時間は短縮されました。
輸送能力の不足によりモノが運べなくなる可能性が危惧され、「2024年問題」として取り上げられています。
物流会社では輸送能力不足を改善しようと、トラックドライバーの賃上げや設備投資などを積極的に行っていますが、経費が多く発生し送料の値上げなどにつながっています。

ITサービス費の上昇

インフレによる賃上げはITサービスにも影響を及ぼしています。近年、Microsoft365やGoogleワークスペースなど、法人向けのITサービスが値上がりしています。
ほかにも、IIJ(インターネットイニシアティブ)やNSSOL(日鉄ソリューションズ)、NTTコミュニケーションズのクラウドサービスなども、2024年に入ってから値上げを行いました。

企業の倒産

値上げの影響を受けて、倒産の危機に陥る企業は増えています。
帝国データバンクの「倒産集計」では、2023年1月1日~12月31日までの倒産件数は8,497件でした。
前年の6,376件と比べて33.3%も増加しており、増加率はバブルが崩壊してから最も高い数字となっています。

また、インフレを要因とする倒産件数は2023年で775件発生しており、特に建設業・製造業で急増しています。
2024年以降も物価高によるコストの増加に加え、人手不足やゼロゼロ融資の返済負担もあることから、さらに倒産リスクが高まるかもしれません。

インフレで倒産を回避するための資金繰り対策


インフレによる倒産を回避するためには、コストの増加に備えた資金繰り対策が必要です。ここからは、資金繰り対策の方法について解説していきます。

資金繰り表の作成

資金繰り対策でまず実践したいのが、資金繰り表の作成です。資金繰り表は、企業が一定期間において現金の収入または支出を記録する管理表を指します。
毎月の収入や支出、預金残高を正確に把握すれば、資金不足に陥るタイミングがわかります。

作成するメリット

資金繰り表を作成するメリットとして、現金の流れを可視化し、問題を把握できるようになる点が挙げられます。問題がわかれば対策を講じることも可能です。

また、会計上は黒字になっていても手元に現金がないことで支払いができず、倒産してしまう「黒字倒産」のリスクも防止できます。
黒字倒産のリスクを回避するためには、常にキャッシュフローを把握し、滞りなく支払いが行えるよう管理しなくてはなりません。
資金繰り表を作成すれば管理もしやすくなり、黒字倒産のリスクからも免れやすくなります。

キャッシュフロー計算書との違い

キャッシュフローを確認できる書類は資金繰り表だけではありません。キャッシュフロー計算書も現金の流れや資金状況を把握できます。
ただし、資金繰り表とキャッシュフロー計算書には大きな違いがあります。
資金繰り表は現金の流れを予測するものであるのに対し、キャッシュフロー計算書は過去の現金の流れを確認するものである点です

資金繰り表は、将来現金がどのように動くのかを予測するために作成します。予測することが目的となるため、資金不足の状態を前もって防ぐこともできます。
一方、キャッシュフロー計算書は1年間の資金状況を確認するための書類です。現金がどのような要因で増減したのかを把握でき、現在の資金状態を把握できます。

資金繰り表を作成するために準備すべきもの

資金繰り表を作成するためには、以下のような書類を準備しておく必要があります。

  • 月次試算表
  • 現金出納帳
  • 預金出納帳(預金通帳)
  • 手形帳
  • 借入金返済明細書

いずれも現金や預金、借入金などお金の流れを把握できる資料です。
月次試算表は、貸借対照表と損益計算書を月単位で集計した書類であり、勘定科目が一覧で確認できるため、経営管理において便利な書類です。

創業手帳では会員登録していただいた方がご利用できる様々なテンプレートをご用意しています。テンプレート集の中には資金繰り表もありますので、ぜひご活用ください。


借入金の見直し・借り換えの検討

資金繰り対策として、借入金の見直しや借り換えを検討してみてください。資金繰りに悩んでいる場合は借入金の見直しから始めてみましょう。

借入本数が多くないか確認する

資金繰りを改善させたいなら、まずは借入本数の見直しを行ってください。借入本数が多くなれば、毎月の返済額も増えてしまいます。
借入があれば金融機関からお金を貸してもらいやすくなりますが、借入本数が増えれば負担も大きくなります。
場合によっては、同じ金融機関から複数借入れているケースもあるでしょう。

借り換えなら一本化できる

借入本数が多ければ、借り換えによる一本化を検討してみてください。借り換えとは、ほかの金融機関から融資を受けて借入れをひとつにまとめることを指します。
借入本数が多ければ、複数社の返済期日に合わせてそれぞれ資金を用意する必要があり、その結果支払い管理が難しくなります。
支払いを忘れてしまった場合には遅延損害金が発生するリスクもあるため、一本化がおすすめです。

また、低金利のローンに一本化できれば毎月の返済負担を少し減らすことも可能です。
ほかにも、借入金額に対して金利が下がったり、総量規制の影響を受けなかったりするなどのメリットもあります。

借り換える際の注意点

借り換えによる一本化を行う際に注意したいポイントは、以下の2点です。それぞれの注意点について詳しく解説していきます。

手数料がかかる

借入本数を一本化する場合、これまで借入れていた金融機関と借り換え先になる金融機関の両方に手数料を支払うことになります。
借入金額によって変動しますが、基本的には約10万円の手数料が発生します。手数料の負担がどれくらいになるのか把握した上で、借り換えを行うようにしてください。

借り換え元と取引きできなくなる可能性がある

別の金融機関を利用して借入れを一本化する場合、借り換え元と今後取引きできなくなってしまう可能性があります。
その理由として、ほかの金融機関に借り換えることは借り換え元を裏切ることになり、借り換え元との関係性が悪化するリスクがあるためです。
そのため、今後融資を受けたくても「また借り換えをされるのではないか」と考えられ、取引きを断られるケースが考えられます。
今後の取引きについてもしっかりと考えてから借り換えを行うかどうか検討してください。

価格設定の基本とインフレ時代におけるコツ


インフレ時代に入ったことで、現在自社が提供する商品・サービスについても価格設定を考え直す必要があります。
ここでは、価格設定の基本とインフレ時代におけるコツについて解説します。

基本となる価格設定の方法

商品・サービスの価格は、原価や製造コスト、需要と供給のバランスなどを考慮した上で設定するものです。
特に重視される基準は、原価・需要・競合状況の3つです。それぞれを基準にした場合の価格設定の方法について紹介します。

原価を基準とする場合の価格設定

原価を基準とする場合、価格をいくらに設定すれば原価分を回収して、なおかつ適切な利益を得られるかがポイントになります。原価が基準の価格設定は、販売者の事情を考慮した価格設定です。
設定方式は以下のように分類できます。

  • コストプラス価格設定方式:製造原価または仕入原価に利益をプラスして価格を決める
  • マークアップ価格設定方式:投入した原価に一定の値入れ額をプラスして価格を決める

コストプラスは、需要よりも供給量が不足している売り手市場や、市場内の競争がそこまで激しくない場合に有効な方法です。
一方、マークアップは流通業界で特に用いられている方法です。

需要を基準とする場合の価格設定

需要を基準とした場合、消費者に対して「いくらなら買ってもらえるか」を考慮しながら価格を決めます。
消費者にアンケート調査やインタビューなどを実施し、どの価格帯が適切かを探っていきます。
需要を基準とする場合の価格設定も、さらに2つの方式に分類することが可能です。

  • 知覚価値価格設定方式:ユーザーが商品に感じる価値(知覚価値)を何らかの方法で測定し、価格を決める
  • 需要差別価格設定方式:需要に差がある各市場セグメントに合わせて価格を決める

競合状況を基準とする価格設定

商品が差別化されていない状態で市場内にある程度の競合が存在する場合は、競合状況を基準に価格設定が行われます。
この方法であれば最初に決まった価格に合わせて原価を調整しなくてはなりません。

市場価格よりも低く設定し需要の拡大を狙う方法もありますが、価格競争を招いてしまい、互いに大きなダメージを受けてしまう場合もあります。
また、市場価格よりも高い価格で設定する場合には、独自のサービスや品質、機能性などの付加価値をプラスして競合の商品よりも優れている点をアピールしていく必要があります。

現在のインフレ時代は価格設定の難易度が上がっている

インフレで物価や賃金が上がることは決して悪いことではありません。しかし、現在のインフレ時代では価格設定の難易度が高いといえます。
なぜなら、景気が後退していることへの不安や長引いたコロナ禍の影響や不安定な世界情勢などを受け、消費者の心身が疲れ切っているためです。
そのため、インフレで物価が上がったからと安易に価格を上げてしまうと、消費者から選ばれなくなる恐れがあります。

「顧客価値による価格設定」がポイント

価格を決めるポイントが「顧客価値」です。
顧客価値とは、商品・サービスが顧客にとってどれくらいの価値があるかを示すものです。
顧客価値を提供することで、顧客ロイヤルティの構築やLTV(顧客生涯価値)の向上にもつながり、リピーターを獲得しやすくなります。

顧客価値から価格設定を考えることで、価格の公平性や透明性をアピールできます。
自社の利益や市場でのシェアを優先した価格設定は顧客離れを引き起こす可能性もあることから、顧客価値を考慮した価格設定を取り入れてみてください。

適切な価格設定と資金繰りでインフレ対策を

数十年にわたってデフレの時代が続いたように、今後はインフレの時代が継続することも十分に考えられます。
インフレ時代を生き抜くためには、適切な価格設定と資金繰りの活用が必要不可欠です。
今回紹介した価格設定のコツや資金繰り対策などを取り入れて、これからの経営に役立ててください。

創業手帳(冊子版)では、今の時代はもちろん将来の経営にも役立つ情報をお届けしています。これから創業・起業を計画している方も、ぜひ創業手帳をご活用ください。

関連記事
短期継続融資とは?メリット・デメリットや利用する際のポイントを解説
インフレで要注意!下請法違反の11の事例を紹介!下請法で禁止されている行為は何?

(編集:創業手帳編集部)

創業手帳
この記事に関連するタグ
創業時に役立つサービス特集
このカテゴリーでみんなが読んでいる記事
カテゴリーから記事を探す
今すぐ
申し込む
【無料】