元サッカー日本代表・AuB 鈴木 啓太| バイオで起業!「腸」とアスリート的仕事論

創業手帳
※このインタビュー内容は2020年03月に行われた取材時点のものです。

鈴木啓太氏はなぜ起業?アスリートのコンディション作りがきっかけに。

(2020/03/13更新)

元サッカー選手の鈴木啓太氏。浦和レッズで長年活躍し、オシムジャパンでも活躍した日本を代表するJリーガーでした。ところが2015年に引退後、バイオベンチャー”AuB”の社長となっています。しかも事業テーマは便、つまり”うんち”です。

自身の経験から「便とコンディションは密接な関係がある」という体験が事業化のきっかけでした。
500名、1000検体を超えるアスリートの便を集め研究を続けた結果、アスリート特有の傾向を発見。アスリートだけでなく一般の方も使える腸内細菌の傾向を発見しビジネスを加速させています。

最近では京セラなど大手ともコラボし、大型の資金調達も果たしたバイオベンチャーAuBを率いる「ビジネスアスリート」鈴木啓太氏の現在について、創業手帳代表の大久保が聞きました。

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鈴木啓太(すずき けいた)
AuB株式会社 代表取締役
元プロサッカー選手。高校卒業と同時に、Jリーグ浦和レッズに加入。2015シーズンに引退するまで浦和レッズで活躍。2006年に日本代表に選出され、以後、オシムジャパンとしては、唯一全試合先発出場を果たす。現在は自身の経験から腸内細菌の可能性に着目し、AuB株式会社を設立。腸内細菌の研究からアスリートから一般の方向けまで良好なコンディションの維持、パフォーマンスの向上を目標としたビジネスを行っている。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計100万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。

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アスリートとしての経験から「お腹の中」の可能性を確信

大久保:なんで腸内フローラを調べようとしたんですか?

鈴木:自分が現役選手の時には、自分の便がコンディションの指標になっていました。お腹の調子が悪いなとか、出づらいときとか、快便のときとか。そういう自分の体験から、腸の中の環境に興味を持ち出したんです。

人間の腸内には、腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)というものがあります。腸の中の微生物の生態系のようなものです。乳酸菌、ビフィズス菌、とか人間の健康に影響をあたえる菌がいるわけです。

その腸の細菌は、なんと1.5キロ、100兆個以上もある。1キロで1リットルの牛乳パック一つ分ぐらいですから、そんなにたくさん菌がいるということです。びっくりですよね。そして菌のバランスは一人ひとり違うんです。そんな腸内の細菌と人間は共生しているんです。

人間は食べたものでできていますよね。腸の中の菌が人間のコンディションにも影響を及ぼします。一般生活者の方とアスリートでは運動強度や、食生活が違います。その腸内環境を研究し続けて、学会でも発表しています。

免疫機能の7~8割が腸にあります。この腸の状態が整っていることが免疫力に関わってきます。免疫が高いと、風邪や今流行っているウィルスなどに感染するリスクが減らせる可能性があります。仕事や日常にも良い影響があります。

つまり、全ての人にとって腸が基本、要なわけです。さらに、筋肉をつけたいとか、やせたい、リハビリしたい、というニーズにも腸が関係あります。

また、腸と脳の相関というのも分かってきています。一見関係なさそうですよね。でも、大事なプレゼンの前におなかを下すとか、そういう経験をしたり、聞いたりしたことがある方は多いと思います。これは脳のストレスが腸に影響を及ぼしている例です。

実は離れているように見えてつながっているんです。例えば幸せホルモンと言われるセロトニンも腸が影響しています。セロトニンは幸福感を感じるホルモンですから、人の幸福にとって腸がいかに大事かわかると思います。

赤ちゃんの健康をお母さんがうんちで見ている。技術はそれを数値化できる

大久保:アスリートは何が違うんでしょう?

鈴木:1000の検体を研究して分かった結果、アスリートの腸内の細菌は多様性があるんです。

お腹の菌の多様性は健康の指標でもあります。例えばアスリートは酪酸菌の保有率が高い。これは免疫を司っています。

今は、菌を調べる技術的な進歩もあり、いろいろわかってきています。

例えば健康状態を測定する場合、体重計に乗ったり、血液を調べたりしますよね。でも、体重や血に現れるのは、お腹の中に食べ物が入り、消化され吸収された後ですよね。まず食べ物が入った直後に関わるお腹の中を調べると見えてくるものがあります。

お母さんは、赤ちゃんが生まれると、うんちを見てますよね。昔から、もともと人間はそうやって大事な人の健康を見ていた。それを現代の技術を使って、どの菌がどれくらいいて、というのを数量的にやっています。

「頭がおかしくなった」と思われた。でも何かがあるという確信があった。

大久保:うんちをもらうのは抵抗があったのでは?

鈴木:はじめは頭おかしくなったのかと思われていました。でも、「未来のアスリートのため、社会のためになるんだよ」と言って説得しました。

お腹の状態が良いとコンディションも良いという自分の直感があったからです。

人は腹立たしいとか、腹が据わるとか、感情を表す言葉に「腹」を使います。昔の日本人は知っていたんでしょうね。発酵食品とか、微生物に関して、科学ではないけれども経験的な知恵があった。でも、食事やライフスタイルが変わってきて、忘れられているのが「腸」や「菌」の役割です。

人は菌とともに共生して、活用してきた。その菌との共生を現代に合ったテクノロジーで、誰でも恩恵が受けられる形でやろう、というわけです。

妥協せずに徹底的に研究!ギリギリで実現した大型資金調達と商品化

大久保:起業の経緯を教えて下さい。

鈴木:引退してから、現役時代から興味があった腸内フローラの研究をしていました。販売ではなく、研究が先だったんです。だから、今でも研究費の割合が大半の研究開発型の会社です。

最初は手っ取り早く儲かるサプリを売ろうという話もありましたが、自分としてはサプリメントを売りたいとは思わなかったんです。本当の可能性、研究の成果に行き当たるまで、資金調達をしながら研究を続けました。

しかし、3年ぐらいするとキャッシュもなくなってくる。愚直に研究や検体集めをしていたので、お金が莫大にかかる。本当に潰れるかもしれないという時期もありました。

でも、検体数もたくさん集まってきて、学会で発表して、道筋が見えてきた。オリンピック選手から培養した菌が特許も取れそうというところまで来て、自分が納得がいくところまで研究できた。そんな中で、資金調達をして事業化、ようやく商品として販売できるようになりました。

途中で妥協して、中途半端な製品を出さずに粘って本当に良かったと思います。

今後も、アスリートをサポートする中で得られた知見で、一般の方もサポートしていく企業になりたいです。

大久保:今後の展開について教えてください。

鈴木:フードテック、ヘルスケア、菌の特許などをやっていきます。アスリートのデータを持っているというコアコンピタンスを持っています。独占してではなく、さまざまな業種と一緒にコラボしてやっていきたいです。

大久保:大企業ともコラボしていますね。

鈴木:京セラと共同で、京都サンガのユースチームのサポートを1年間やることになりました。コンディショニングに役立ててもらいます。さらに、京セラは最先端のセンシング技術があるので、その技術も活用させて頂きます。他社、大手とのコラボも増えてきています。

「違う人」と組もう!

大久保:読者に向けて、事業を作る時にどういうチーム作りが良いですか?

鈴木相棒は必要ですよね。でも、フェーズフェーズによって必要な人は変わる。いちばん大事なのはこの人とやりたいという感覚じゃないでしょうか。

あとは、自分と同じ発想の人はやめたほうが良い。例えば、男性であれば女性、女性であれば男性。違う発想の人が良いです。

あとは、起業する人が何をやりたいのか、わかりやすく旗をたてると、やりやすい

知り合いに聞くということも大事です。3、4人から「どう思う?」「何か知らない?」と聞いてみる。でも自分の場合は9割ぐらいの人が反対でした。

実は反対が多いほうが良いアイディアだと思います。だから、他の意見をうのみにするのではなくて、他の意見を聞いた上で自分の判断をしていくのが大事だと思います。

スポーツもビジネスも本質は一緒!?「得意分野」に変換してみよう。

大久保:スポーツマンのセカンドキャリアで、起業する方もいます。その方たちにヒントになるようなことを教えて下さい。

鈴木:スポーツとビジネスは、細かいテクニカルなことは違うけれども、本質は一緒だと思うんです。確かに違いはあるのですが、それを変換してみると良いのではないでしょうか。ビジネスとスポーツの言葉を置き換えて考えてみる。

例えば、営業が強い、というのはサッカーで例えると「点が取れる」、管理系はデフェンス向きとか、チームでパスを出そうとかですね。サッカーも、ファンとかサポーターに見てもらいたいとかそういう理念があると思うんです。だからセカンドキャリアでビジネスや起業に挑戦する方は、自分の得意な感覚に転換してみるというのも一つの手ではないでしょうか。

大久保:パフォーマンスを出すには?

鈴木:パフォーマンスを出すにはコンディションを整えることが大事です。アスリートも結果を出すには、コンディションを整えています。

プロはそれが厳しく求められる。だから腸や便にも気を使う。

でも、普通の人でそこまで気を配っている人は少ないですよね。アスリートが使うのに耐えうる知見や技術を一般の人にも役立つようにしたいんです。

睡眠、食事も仕事の結果の上では大事です。そして、テクノロジーが発達してきたので、パーソナライズもできるわけです。

そういう時代の流れやニーズにAuBが貢献できればと思います。

大久保:新型コロナウイルスもあって、リモートワークが急速に進んで働き方が変わってくる。働き方よりも中身が求められる。そんな時代に、アスリート的な考え方や発想を応用できないでしょうか?

鈴木:一般の方々、みなさんもアスリートだと思います。社会に貢献する、仕事をする、パフォーマンスを出すという競技をしているということだと思います。

会社でデスクに時間通り来て8時間やる仕事を、1時間で終わらす。でも、結果を出す、という働き方も出てくる時代になってきたと思います。

アスリートでも自主トレする人、そうじゃない人がいる。努力しなくて結果が出なければ駄目だけれども、かといって練習をしていれば良いわけではない。どちらでも良いが、結果を出さないとクビ。それがプロスポーツ選手の世界です。

働き方改革も、うのみにするのではなく、仕事は自分の人生の目的を達成する手段として考えていくと良いのではないでしょうか。もともと、アスリートとは高みを目指す人という意味です。自分のようなアスリートから起業というキャリアのお話が皆さんの仕事のヒントになれば思います。

まとめ

・ビジネスパーソンもアスリート的な発想が求められる時代

・パフォーマンスを上げるためにコンディションを整えよう

・いろいろな人の意見を聞こう。でも決めるのは自分!

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(編集:創業手帳編集部)



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