日体大理事長・松浪健四郎|地方繁栄の175のアイディア

創業手帳

元レスリングのチャンピオン&国会議員で本業は学者の松浪氏にインタビュー

過疎化・空き家など問題も多いですが、チャンスも多いのが日本の地方。地方を栄えさせる175のアイディアをまとめた本を出版したのが、日体大の理事長の松浪健四郎さんです。

松浪健四郎さんは国会で野次った議員にコップの水をかけた「国会水かけ事件」で記憶している人も多いと思いますが、元々レスリング王者からアフガンを研究するスポーツ科学のパイオニア、さらに国会議員に転身して、現在は日体大理事長という異色の経歴です。未だにトレーニングを欠かさず、分厚い胸板とちょんまげがトレードマークです。

そんな松浪さんは世界と日本の各地を周り、国会議員としての経験から地方の活性化策をまとめました。日本と地方を元気にする方策を、松浪さんに聞きました。

松浪健四郎(まつなみ けんしろう)日本体育大学理事長
1946年10月14日生まれ。大阪府泉佐野市出身。日本体育大学在学中の1967年、全日本学生レスリング選手権優勝。米東ミシガン大学留学中の1969年全米レスリング選手権優勝。日本大学大学院を経て、アフガニスタン国立カブール大学に3年間赴任。1979年より専修大学に勤務し、1988年教授となる。1996年衆議院議員に初当選。外務大臣政務官、文部科学副大臣などを歴任し3期務める。2011年より学校法人日本体育大学理事長。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計150万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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自分で集めた情報とメディアの情報、両方を大切にせよ

大久保:松浪さんは面白い経歴ですよね。

松浪:自分は国会で水をかけたことが広く知られていて、今でもベンチプレスで鍛えているから(胸板が厚く現役プロレスラー並みの体型)一言でいうとコワモテのイメージだ。マスコミにもそういう感じで印象操作されちゃう。海外のナショナルチームで鬼コーチだった時もあるから、あながち間違いじゃない。でも本を48冊書いていて、本業は学者なんだ。みんな意外に思いますよね。

確かに元々レスリングのチャンピオンで、その後アフガンに渡って学者になっているんです。荒涼としたアフガンに3年いて、この国に何ができるんだろうと思ったときに国会議員になろうと思ったんだ。アフガンの話は「アフガン褐色の日々」にまとめているが、厳しい風土の中で彼らは生きている。日本に比べると、はるかに生きるのが厳しい環境だ。

一方で日本より貧しいし、イスラムというと偏見を持つものもいるかも知れないが、砂漠で道に迷えば死んでしまうような環境の中で、生き抜いてきたアフガンの人々から学ぶ部分が多かった。アフガンで生活しアフガンの人たちと交流して、日本の政治を通じて国際貢献するというのが自分のテーマになったんです。それで政治の世界に入って外交畑をやってきました。今はまた大学に戻って日体大の理事長をやっています。

大久保:なぜこの本『自治体元気印のレシピ 松浪流、地方創生&再生への提言175項目』を出したんですか?

松浪:昔からアフガンや世界、日本の色々なところに興味があると出かけていく、フィールド主義なんだよ。そして毎朝、新聞5紙を読んでいる。

新聞というと今の起業家はネット専門で重要視しないかもしれないが、新聞には記者が集めた良質な情報が詰まっているのです。
だから自分は毎朝、主要紙をチェックして切り抜きを作る。情報は大事だ。でも、新聞を読むだけじゃなくて、現場を歩いて、いろいろな人から話を聞いたりしている。情報と現場で見聞きしたこと両方必要だが、そこで色々なものが見えてくる。

大久保:起業家も情報とリアル両方大事っていうことですね。

松浪:そう。そういう過程の中で、自分の問題意識である日本の地方に対する思いや活性化策、事例をまとめたのがこの本なんだ。これから地方は問題もある一方で、東京から人口が移動したり、リモート勤務ができるようになったり、昔では考えられなかったチャンスも出てきている。

地方創生というといかにもみんなが使っている言葉なので「自治体元気印のレシピ」という名前にした。皆の逆を行くから「おやっ!」と思ってもらえる、というのも松浪流だよ。

地方活性化のカギはアイディアと行動力

大久保:ネーミングひとつとっても人の逆をいくからリスクもあるけど、リターンも大きいということですね!地方が活性化するにはどうしたら良いですか?

松浪:まず、地方はカネがない、人口が減っている。だから金が落ちて人口が増えるようにしないといけない。どこの自治体も苦労している。でも、そんな中で活性化に成功している自治体や事例もある。

そういうところはどうしたのか?

例えば泉佐野市の千代松大耕市長はふるさと納税で、制度を逆手に取ってアマゾンギフトなどの予想外の返礼品で全国トップの497億円を集めた。違法ではないけれど、制度が想定していないところを突いた。総務省と裁判しているけど、大人しく中央に忖度しているのが良いトップではないと思う。役所もメディアも市長を叩いているけど、頭を使って全国から地域に金を持ってきたのだから自分は立派だと思う。

結局大事なのはトップなんじゃないかと思うね。アイディアと行動力のあるトップ・リーダーが出れば地域を変えることは可能なんだ。特に日本の場合、知事や市長は簡単に首にできないので権限も強く、特色のある運営をやる気になればできる。

前例だったり、中央の顔色ばかり伺っている自治体の首長も多いが、中にはやる気のある社会を変えようというリーダーもいる。

変わり者と見られることもあるけど、そういう人間がいるかどうかだ。補助金や交付金で霞が関の言いなりになっているようじゃダメだ。補助金がもらえるので経済を良くしようと本気で思わない、という地方も実際ある。自分達の地域は自分達で自立させる気持ちがないとダメだ。

その上で、一番本質的な課題はもちろん人口だ。人口を増やすのが一番良いんだけど、これが難しい。女性の社会進出が進むとどこの先進国でも出生率は下がるからね。女性の待遇を良くしていかないといけない。女性はお茶くみ、なんていう昔の感覚でいる地方や組織はもちろん駄目になる。未だに女性を下働きにしか見ていないような会社も多いんじゃないかな。

大久保:地方でどう売り出していけばいいんですかね?

松浪地方はアイディア次第でお宝が眠っている。例えば、野生動物を保護することは大事だ。でも最近は保護をした一方、天敵が減ったので鹿が増えすぎて困っているという地方もある。猟でも保護でも行き過ぎは駄目だということだ。だから、鹿を獲ってジビエとして活用している地方もある。鹿はジビエとして人気だ。

特産品として売り出して成功しているところもある。大切なのは、地方の良いものや余ってしまっているものを売り込む行動力とアイディアだ。

起業家に大切なのは得意技を持つこと、そして別の得意技と組み合わせること

大久保:国会にいる政治家についてはどう思いますか?

松浪:政党も国民も危機意識が希薄だ。地球の温暖化をどうするのか、原子力発電をどうするか、CO2をどうするか、とかは先進国では重要な争点だ。

日本ではCO2の排出とか、安全保障のような大きなテーマは触れずにバラマキ合戦だよね。これは欧米先進国では考えられない日本特有の状況だよ。国会議員と地方議員の最大の違いは外交と安全保障だ。そういう政策を今の政治家はあまり言わないのは残念だよ。

大久保:この人は凄い、と思った人は?

松浪二階俊博先生だね。色々指導してもらいました。二階先生はコワモテでマスコミの憎まれ役だよね。でも自分の経験でいうと、人の痛いところやかゆいところを、説明せずに察して、いつの間にかフォローしてくれる。言わなくても、こいつはここが困っているんじゃないか?ということが分かって動いてくれる。気遣いの人なんだ。意外でしょう?

怖そうに見えても、威張っているだけだと支持されない。生き馬の目を抜く自民党の中で幹事長を長年務めていたのは力だけじゃないんだ人間つき合ってみないとイメージだけでは分からないこともある。色眼鏡で見ないことが大事だ。

大久保:同じレスリングということで言うと猪木さんは?

松浪:アントニオ猪木さんは天才で誰も真似ができない。でも国会議員としては型破りすぎて官僚の受けが良くなかった。普通の人とは思考から発想から全てが違うから、官僚のようなエリートから理解できないし怖い。現場の官僚と上手くやれないと議員としては仕事をしにくい。起業家も同じで、現場の人に動いてもらうには発想力やクリエイティビティも大事だけど、同時に現場の人に仕事をしてもらう力が大事だと思う。

大久保:日体大ではどういう取り組みを?

松浪:日体大というと世間では体育の大学で、バンカラなイメージだよね。でもそういう先入観でくる人は驚いてしまう。近代的な美術大と間違うようにというコンセプトで、先進的なキャンパスを作ったんだ。一流の作家の美術品が随所に置かれていたりする。体育大学で一流の美術品なんて無駄だと思うかもしれないが、これも教育の一環なんだ。

スポーツでは一流の技は無駄がなくて美しい。美術も同じで、無意識のうちに一流のものや美しいものにふれる機会をもうけることで美意識を高めようということだ。すぐには気づかないかもしれないが、一流の選手になったときなど、人生のどこかで生きると良いなと思っている。だから体育大学なのに、キャンパスは美しく整えられているんだ。

大久保:得意技を活かすとは?

松浪:この間のオリンピックで日体大のレスリング選手では文田選手。世界王者で下馬評では金メダル候補だったが銀メダルに終わった。反り投げが得意なんだけど、オリンピックでは相手に徹底的に研究されていた。だから得意技の反り投げを相手に対策を立てられ、封印されて力を発揮できずに決勝で破れてしまったんだ。

逆に柔道で金メダルをとった阿部一二三は得意技の一本背負いに加えて、別の必殺技を組み合わせていた。だから研究しても相手にとって攻略しにくい。

起業家の場合でいうと、まずはこれだ!という得意技を持つこと。でもスポーツでも企業でも、勝ち続けていたらライバルから研究される。だから研究されてひっくり返される前に、次の必殺技を仕込んでおくんだ。相手は得意技を警戒しているから別の技を掛けられると面白いように技がかかる。一つの得意技、会社で言えばヒット商品に頼り続けないということだ。得意技を組み合わせることで長く活躍できるようになるよ。

大久保:起業家とは何でしょう?

松浪起業家とは目の前にいる人を幸せにするということじゃないかな?そのための起業だと思う。自分だけよければ上手くいくという起業は存在しない。チームのためにという自己犠牲の精神が必要だ。

例えば慶應義塾大学も元々は「起業しろ、経済発達をさせよう」という理念だったけど、役所や大企業への就職が当たり前になっている。起業家がいないと国も地方も栄えない。時代が変わっていて新しい仕事を作っていけるのは先見性を持った起業家だ。だから起業家の人たちには頑張ってほしい。

大久保:本日は大変貴重なお話をありがとうございました。課題も多いですが、空き家やさまざまな制度を活用して、魅力も多い日本の地方にどんどん盛り上がって欲しいですね。

起業を目指す人を支援する創業手帳の冊子版では、時代の先を読むキーパーソン、起業家のインタビューを掲載しています。新しい知見の情報源としてぜひご活用ください。

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