個人事業税とは何か?納付・申告の仕方まで詳しく解説

創業手帳

個人事業税の計算方法や控除を知って賢く節税しよう


個人事業主は確定申告で様々な税金を扱うことになりますが、そのうちのひとつが「個人事業税」です。
大まかにいえば、個人事業税は国内で個人事業をする人にかかる地方税のひとつです。

業種によって税率が異なりますが、定義を知っているだけでは実際に納税し、節税することは難しいかもしれません。
本記事では、個人事業税とはどのようなものか、また、納税額の計算方法などを詳しく見ていきます。

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個人事業税とは何か


個人事業税とは、地方税の中にある事業税の一種で、法定業種に含まれる個人事業を営む人が都道府県に向けて納める税金です。
地方税の一種の個人事業税は、所得税・消費税などの国に納める国税とは扱いが異なり、都道府県税事務所が問い合わせ先となります。
個人事業税は事業を行う際に様々な行政サービス、社会インフラを利用していることに由来する税金です。滞納しないよう、正しく納税してください。

個人事業税の課税対象

個人事業税の課税対象になる条件は、下記の2つを満たしている人です。

  • 都道府県内に事業所を設け、法定業種に当てはまる事業を行っている
  • 290万円超の所得(事業所得・不動産所得、個人事業による雑所得)を得ている

後述する例外はありますが、大半の業種が法定業種に該当します。
そのため、主に後者の「290万円超の所得」に該当するか否かが課税対象になるかどうかのボーダーラインとなります。

個人事業税の納付・申告について

都道府県によって差異はありますが、個人事業税は原則、8月末日と11月末日の2回に納付時期が分けられます。

なお、所得税の修正申告で個人事業税に影響が出た場合や年度途中での事業廃業など年度の途中で状況が変わった場合はこの限りではありません。
上記の場合は、届いた納税通知書記載の期限に従い納税する必要があります。

納税通知書が来た後の対応

納税通知書が届いた後は記載に従い、納税の手続きを行います。実際の納税には下記の手段があります。

  • 銀行・コンビニ・税務署に納付書を持ち込み、現金で支払う
  • 口座振替を利用する
  • クレジットカード決済を利用する
  • スマートフォン決済を利用する
  • 地方税共通納税システム「eLTAX(エルタックス)」を利用する

個人事業税の納税額は都道府県税事務所が計算するため、事業者側で計算・申告する必要はありません。納税通知書記載の額をそのまま納税します。

しかし、住民税の申告書、または所得税の確定申告書を提出していない場合、別途「個人事業税申告書」を翌年度の3月15日までに都道府県税事務所に提出しなければなりません。

個人事業税の対象業種と税率

個人事業税の対象となる業種は、地方税法の第72条に定められている法定業種70種です。
法定業種は社会にあるおおよその業種をカバーしていて、第1種事業から第3種事業まで区分されています。
事業の種類によって税率も異なるため、起業前には下の表を確認し、自分の業種にはいくらの個人事業税が課税されるのかを確認してください。

区分 税率 事業の種類
第1種事業
(37業種)
5% 物品販売業 運送取扱業 料理店業 遊覧所業
保険業 船舶定係場業 飲食店業 商品取引業
金銭貸付業 倉庫業 周旋業 不動産売買業
物品貸付業 駐車場業 代理業 広告業
不動産貸付業 請負業 仲立業 興信所業
製造業 印刷業 問屋業 案内業
電気供給業 出版業 両替業 冠婚葬祭業
土石採取業 写真業 公衆浴場業(むし風呂など)
電気通信事業 席貸業 演劇興行業
運送業 旅館業 遊技場業
第2種事業
(3業種)
4% 畜産業 水産業 薪炭製造業
第3種事業
(30業種)
5% 医業 公証人業 設計監督者業 公衆浴場業(銭湯)
歯科医業 弁理士業 不動産鑑定業 歯科衛生士業
薬剤師業 税理士業 デザイン業 歯科技工士業
獣医業 公認会計士業 諸芸師匠業 測量士業
弁護士業 計理士業 理容業 土地家屋調査士業
司法書士業 社会保険労務士業 美容業 海事代理士業
行政書士業 コンサルタント業 クリーニング業 印刷製版業
3% あんま・マッサージ、または指圧・はり・きゅう・柔道整復
そのほかの医業に類する事業
装蹄師業

出典:東京都主税局ホームページ 個人事業税|4.法定業種と税率

副業が課税対象になる場合も

ここまで個人事業税の基本的な知識を紹介してきましたが、個人事業税は行政に届け出た個人事業主のみに課税されるものではありません。
一例を挙げると、開業届を出していないサラリーマンが副業などで収入を得て、雑所得として確定申告に記載した場合、個人事業税の対象となる場合があります。

確定申告を行った際、その情報は都道府県税事務所にも連絡され、事業実態・所得金額などが審査されます。
そして、都道府県税事務所に副業が個人事業だと認められれば、開業届の有無にかかわらず個人事業税が課税されるため、副業として営む事業も課税対象になりうる点には十分留意してください。

個人事業税の取り扱い


前述の通り、住民税の申告や所得税の確定申告をした場合、個人事業税を改めて申告する必要はありません。
しかし、個人事業税は確定申告で必要経費として計上して節税につなげられます。

以下に、個人事業税の計算方法と確定申告での扱いを解説します。

個人事業税の計算方法

前述の通り、個人事業税の計算は都道府県税事務所が行うため、個人事業主側で計算する必要はありません。
ただし、計算方法を知っておけば納税時期にいくらの出費が発生するかを事前に確認できます。

個人事業税の計算式は下記のとおりです。
個人事業税=(収入-必要経費-個人事業税の計算で適用できる控除)×税率

この式での税率は、法定業種ごとに定められた税率であり、一律ではありません。
なお、個人事業税の計算には、青色申告特別控除や基礎控除などの所得控除が適用できません。あくまで、個人事業税の計算で適用できる控除が適用できます。

個人事業税の仕訳と勘定科目

個人事業税は全額が所得税法上の必要経費となり、勘定科目は「租税公課」を使用します。
租税公課とは、国・地方に納める税金(租税)と公共団体への罰金や会費(公課)を合わせた勘定科目で、事業税は前者の租税に属するものです。

また、個人事業税は「申告納税方式」のため、経費算入時期は「申告した日が属する事業年度」となります。
廃業時の例外規定はありますが、2021年の所得を2022年3月に確定申告し、2022年8月に届いた納付書で個人事業税を納付した場合、2022年8月に納付した個人事業税は2022年分の経費として計上されます。

個人事業税が控除または課税対象外になる場合


前述の通り、個人事業税には青色申告特別控除などの控除が使えない一方、事業主控除として290万円分の控除が適用できます。

最初に挙げた「個人事業税の課税対象」の条件に290万円超の所得という条件がついているのは、事業主控除があるためです。

事業主控除以外にも個人事業税が控除、あるいは課税対象外になるケースはいくつかあるため、詳しく紹介します。

各種控除の適用で所得額がゼロになった場合

前述の事業主控除や給与控除・繰越控除を適用したことで所得がゼロになった場合、個人事業税は課税されません。
よって、所得が事業主控除対象の290万円を超えない限り、個人事業主には個人事業税は課税されません。

ただし、年度途中で起業した場合など、事業を行っていた期間が1年に満たない場合、事業主控除の対象額は月割で計算されます。

前3年赤字繰越がある場合

前項で繰越控除に少し触れましたが、繰越控除は事業の所得が赤字になった場合、翌年以降3年間、事業の黒字と相殺できるものです。

事業の所得以外でも「被災事業用資産の損失の繰越控除」や「譲渡損失の控除と繰越控除」も白色・青色申告の条件はありますが、翌年以降の3年間は黒字との相殺対象となります。

法定業種以外の事業の場合

大半の業種は法定業種になる、と前述しましたが、もちろん例外はあります。
スポーツ選手・ミュージシャン・漫画家・作家・通訳・翻訳・システムエンジニアなどの一部業種は法定業種ではなく、個人事業税の納税義務がありません。

ただし、法定業種の業務を含んでいる、請負業と判断されるなどの場合は課税対象となるケースがあります。
これらが法定業種に該当するか否かは都道府県税事務所の判断になるため、起業前に疑問点があれば事前に都道府県税事務所に相談に行くことをおすすめします。

減免制度を利用する場合

個人事業税には条件を満たせば利用できる減免制度があります。都道府県にもよりますが、東京都では下記の場合などで減免制度が利用できます。

  • 災害などで被害を受けた
  • 生活保護法により生活扶助などを受けている
  • 納税者または扶養親族などが障がいを持っている
  • 高額な医療費の支出があった

減免申請の方法も都道府県ごとに異なるため、事前に確認した上で対応してください。

個人事業主が支払う税金


ここまで個人事業税の詳細を解説しましたが、個人事業主にかかる税金は個人事業税だけではありません。
個人事業税以外の税金の仕組みや控除の知識をつけることで、さらなる節税が可能になります。

ここでは個人事業税から少し視野を広げて、個人事業主が支払う税金4種類を詳しく見ていきます。

所得税

個人事業主にかかる税金のひとつめは「所得税」です。所得税は「収入-経費-所得控除」で計算される「課税所得」に応じて5%~45%まで課税される税金です。
実際に支払う額は、課税所得×税率-所得金額に応じた控除額-税額控除となります。
下記で「所得控除」と「税額控除」の用語の意味を補足します。

所得控除とは

所得控除とは社会保険料や生命保険料など、特定の項目の支出額から規定の額を差し引けるものです。
ここで載せた以外にも所得控除の対象となる支出は様々あります。自分の該当する控除があるかどうか、一度確認してみてください。

また、確定申告の状況に関係なくどのような人でも利用できる48万円の基礎控除もあります。

税額控除とは

税額控除とは課税所得から計算した所得税の額から、一定の金額を控除するものです。

所得控除よりも種類は少ないものの、配当控除や認定NPO法人等寄附金特別控除など様々な対象があるため、国税庁のホームページで一度確認することをおすすめします。

所得金額と税率の関係

所得税は、所得の多い人が多く納税する「累進課税」の思想に基づく制度であり、課税所得の額に応じて税率も増えていきます。

課税所得と税率・控除額の関係は下記の通りです。先々の納税額を見通すためにも、どのタイミングで税率が増えるかをあらかじめ確認してください。

課税される所得金額 税率 控除額
1,000円 から 1,949,000円まで 5% 0円
1,950,000円 から 3,299,000円まで 10% 97,500円
3,300,000円 から 6,949,000円まで 20% 427,500円
6,950,000円 から 8,999,000円まで 23% 636,000円
9,000,000円 から 17,999,000円まで 33% 1,536,000円
18,000,000円 から 39,999,000円まで 40% 2,796,000円
40,000,000円 以上 45% 4,796,000円

出典:国税庁ホームページ|所得税の税率

住民税

2つめの住民税とは、当該地域に住む、あるいは事業所を置く人が都道府県や市町村に納める税金のことです。
住民税の額は、確定申告後にその情報が都道府県や市町村に転送・計算されるため、個人で計算や申告する必要はなく、記載の額をそのまま納税することになります。

また、サラリーマンと個人事業主では住民税の計算方法が異なり、個人事業主は「均等割」と「所得割」の2つで納税額が計算されます。

均等割と所得割

均等割とは、所得額に関係なく地域に住む人に平等に課税される額を指します。

一方、所得割は所得に応じて変化する額のことです。「課税対象額×税率-税額控除額」で決まり、ほとんどの地域では税率は10%となっています。
また、一定の要件を満たせば住民税が非課税になるケースもあるため、住んでいる地域の均等割の額や所得割の税率なども合わせ、地域のホームページで正しい情報を把握しておくことをおすすめします。

住民税の納付方法

住民税の納付方法には「特別徴収」と「普通徴収」の2種類があります。
特別徴収は給与を支払う事業者側が従業員の税金を給与・年金から天引きして支払う制度で、個人事業主の場合は普通徴収が適用されます。
普通徴収は「6月・8月・10月・1月」の年4回支払う必要があり、住民票がある自治体から届いた納付書を使用して納税する仕組みです。

消費税

3つめの「消費税」は商品の購入、サービスの利用に対して課される税金です。
利用者の立場では消費税は事業者に支払うことで間接的に国に納税するものですが、事業者は預かった消費税を直接国に納税する立場です。
消費税の納付額は「消費者から預かった消費税額-自身で支払った消費税額」で求められます。

なお、個人事業主の場合は前々年の課税売上高が1,000万円以下の場合、その年の消費税義務が免除される「事業者免税点制度」が利用可能です。
しかし、前年の特定期間(1月1日~6月30日)の課税売上が1,000万円を超える場合は納税する必要があります。

事業税

最後に「事業税」があります。事業税はここまで説明してきた「個人事業税」と法人にかかる「法人事業税」を指します。

個人事業主が納める税金について、詳しくはこちらの記事を>>
個人事業主が納める税金の種類と計算方法

まとめ

開業届を出す・出さない、実際に支払う・支払わないにかかわらず、個人事業税は事業を始めたら意識すべき税金です。

そして、個人事業税を支払うくらい事業が成長した後も、控除などの知識のあるなしで節税できるかできないかの差が出てきます。
皆さんも個人事業税を詳しく知り、忘れずに申告して可能な限り節税につなげましょう。

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(編集:創業手帳編集部)

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