所得税と消費税の確定申告は違うの?インボイス登録した個人事業主が初めての消費税の確定申告をする方法

創業手帳

消費税の確定申告では何をすればいい?所得税との違いは?を解説します。


消費税のインボイス登録をした個人事業主は、2023年の10月分から12月分までの消費税の確定申告を2024年に行わなければなりません。消費税は所得税とは全く異なる仕組みの税金であるため、税金の計算方法も違います。確定申告のために免税事業者にはなかった作業も加わるため、早めの確認が必要です。

今回は2024年の消費税の確定申告に向けて、消費税の仕組みや税金の計算方法、経理処理の方法、確定申告の手順について解説します。

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個人事業主の所得税と消費税の違い


最初に、個人事業主の所得税と消費税の違いについて解説します。

所得税 消費税
課税対象 所得 消費税の課税取引
確定申告が必要な人 課税所得のある人 消費税の課税事業者
税率 5%から45%の7段階の超過累進税率 標準税率10%
軽減税率8%
確定申告の期間 課税対象の翌年の2月16日から3月15日 課税対象の翌年の1月1日から3月31日

所得税と消費税の課税対象

所得税と消費税はそもそも課税の対象が異なります。所得税の課税対象は1年間に得た所得であるのに対し、消費税は取引に対してかかります。

所得税の課税対象は所得

所得税は、個人が1年間に得た所得に対してかかります。個人事業主の場合、売上から経費や控除を差し引いた課税所得に対して課税される仕組みです。所得とは、収入から経費を差し引いた儲けの部分のことです。

課税所得は1年分の総所得から、生命保険料控除や医療費控除のような各種所得控除を差し引いて求めます。差し引く経費や控除が多いほど課税所得が少なくなり、かかる税額も抑えられるわけです。

課税所得の計算式は、以下のとおりです。

課税所得 = 収入金額 - 必要経費- 各種所得控除

消費税の課税対象は取引

所得税が所得に対してかかるのに対し、消費税の課税対象は取引です。所得税は納税者が直接税金を納めますが、消費税は消費者が負担した税金を事業者が納める間接税です。以下のような、ほとんどの商品やサービスに対して課税されます。

  • 資産の譲渡
  • 資産の貸付
  • 役務の提供

物品の販売や飲食・運送のような対価を得て行う取引のほとんどが課税の対象であり、外国から商品を輸入する場合も対象となります。

所得税と消費税の確定申告が必要な個人事業主

個人事業主は所得税、消費税ともに確定申告によって納税します。しかし、それぞれ申告が必要な人は異なります。

所得税の確定申告が必要な人

個人事業主は、事業収入があれば原則として所得税の確定申告をしなければなりません。ただし、1年間の所得が48万円(基礎控除額)以下であれば、申告不要です。

消費税の確定申告が必要な人

消費税の確定申告をする義務がある事業者を「課税事業者」、確定申告が免除される事業者を「免税事業者」といいます。

個人事業主は、2年前の課税売上高が1,000万円を超えた場合に消費税の納税義務が発生します。課税売上高とは消費税の課税対象取引の売上高から、その取引に関する売上返品、売上値引きや売上割戻にかかる金額の合計額を差し引いた残額のことです。2023年であれば、2021年の課税売上高が1,000万円を超えた事業者は消費税を納めなければなりません。

インボイスを発行できる「インボイス発行事業者」は、課税事業者しかなれません。課税売上高が1,000万円以下の免税事業者でも、「消費税課税事業者選択届出書」を税務署に提出すれば課税事業者になることができます。ただし、課税事業者になると、消費税の申告義務が発生します。

所得税と消費税の税率

所得税と消費税は仕組みの異なる税のため、税率も異なります。

所得税の税率

所得税は所得が高いほど税率が高くなる、超過累進という方式が採用されています。

課税される所得金額 税率 控除額
1,000円~194万9,000円 5% 0円
195万円~329万9,000円 10% 9万7,500円
330万円~694万9,000円 20% 42万7,500円
695万円~899万9,000円 23% 63万6,000円
900万円~1,799万9,000円 33% 153万6,000円
1,800万円~3,999万9,000円 40% 279万6,000円
4,000万円以上 45% 479万6,000円

出典:国税庁「所得税の税率」

消費税の税率

消費税は国税と地方税に分かれていて、それぞれ標準税率と課税税率の複数税率となっています。軽減税率の適用対象は、「酒類、外食を除く飲食料品」および「週2回以上発行される新聞(定期購読契約分)」です。

消費税の税率の詳細は、以下のとおりです。

区分 標準税率 軽減税率
消費税率 7.8% 6.24%
地方消費税率 2.2%(消費税額の22/78) 1.76%(消費税額の22/78)
合計 10.0% 8.0%

所得税と消費税の確定申告期間

個人事業主の所得税と消費税の確定申告(申告・納付)の期間は、以下のとおりです。

  • 所得税の確定申告期間:課税対象の翌年の2月16日から3月15日
  • 消費税の確定申告期間:課税対象の翌年の1月1日から3月31日

個人事業主の所得税と消費税の計算方法


所得税と消費税は計算方法も全く異なります。ここでは、それぞれの計算方法を解説します。

個人事業主の所得税の計算方法

所得税は以下の計算式で求めます。

所得税額=課税所得金額×税率-控除額

課税される所得が1,000万円の場合、所得税額は以下のように求めます。

1,000万円×33%-153万6,000円=176万4,000円

個人事業主が所得税を節税するには経費をもれなく計上し、小規模企業共済などに加入して所得控除を増やすなどの対策が考えられます。

個人事業主の消費税の計算方法

消費税には、一般(本則)課税と簡易課税という2種類の計算方法があります。また、免税事業者がインボイス発行事業者の登録をし、課税事業者となった場合には「2割特例」を選択できます。

一般課税

一般課税は原則的な消費税の計算方式です。事業者が売上の際に受け取った消費税から仕入で支払った消費税を差し引いた差額を納付します。

一般課税の納税額の計算式は、以下のとおりです。

消費税の納付税額 = 課税売上にかかる消費税額 – 課税仕入にかかる消費税額(実額)

簡易課税

基準期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者は「簡易課税制度」を選択できます。基準期間とは納税義務の判定の基準となる期間(個人事業主であれば前々年)を指します。簡易課税が認められるには、事前に「消費税簡易課税制度選択届出書」の提出が必要です。

簡易課税では、仕入にかかる消費税を売上にかかる消費税に一定の割合を乗じて求めます。この割合のことを「みなし仕入率」と言い、みなし仕入率は事業の種類によって以下のように決められています。

事業区分 該当する事業 みなし仕入率
第一種事業 卸売業 90%
第二種事業 小売業、農林漁業(飲食料品の譲渡に係る事業) 80%
第三種事業 農林漁業(飲食料品の譲渡に係る事業を除く)、建設業、製造業など 70%
第四種事業 飲食店業など 60%
第五種事業 運輸・通信業、金融・保険業、サービス業 50%
第六種事業 不動産業 40%

出典:国税庁「消費税のしくみ」より

簡易課税の計算式は、以下のとおりです。

消費税の納付税額 = 課税売上にかかる消費税額 - 課税売上にかかる消費税額 × みなし仕入率

通常は簡易課税を選択したほうが有利なケースが多いと考えられます。しかし、仕入にかかる消費税額が売上にかかる消費税額を上回れば還付を受けられるなど、一般課税が有利なケースもあります。簡易課税を一度選択すると、2年間継続しないとやめられない点に注意が必要です。

2割特例

「2割特例」とは、インボイス制度を機に免税事業者が課税事業者となった場合に選択できる特例です。基準期間の課税売上高が1,000万円を超えている人など、インボイス発行事業者の登録に関係なく課税事業者となる人には適用できません。

2割特例は、2023年10月1日から2026年9月30日までの課税期間の消費税の申告に適用できます。また、一般課税でも簡易課税でも、申告時に選択可能です。

2割特例の計算式は、以下のとおりです。

消費税の納付税額 = 売上にかかる消費税額 - (売上にかかる消費税額×80%)

2割特例は、多くの業種で簡易課税よりも消費税の納税額を少なくできます。

消費税の経理


免税事業者だった個人事業主がインボイス制度を機に課税事業者になった場合、消費税の経理処理を考える必要があります。

消費税の経理処理には「税抜経理方式」と「税込経理方式」がありますが、免税事業者は税込経理方式しか選択できません。ここでは、消費税の経理について解説します。

不課税取引と非課税取引

消費税には課税取引と消費税のかからない「不課税取引」と「非課税取引」があります。

不課税取引

不課税取引とは消費税の対象にならない取引のことです。
以下のような取引が、不課税取引に該当します。

  • 給与や賃金
  • 無償による試供品や見本品の提供
  • 株の配当など

非課税取引

非課税取引とは本来は消費税がかかるが法律で消費税を課さないこととしている取引のことです。

非課税取引には、以下のようなものがあります。

  • 居住用住宅の貸付(貸付期間が1カ月未満のものは除く)
  • 商品券、プリペイドカードなどの譲渡
  • 株式や国債などの譲渡など

インボイスの発行と保存

適格請求書発行事業者の登録が完了した事業者は、買い手である取引先からの求めに応じてインボイス(適格請求書)を発行しなければなりません。また、発行したインボイスの写しを保管する必要があります。

反対に買い手である課税事業者が仕入税額控除を受けるには、売り手からインボイスの交付を受けて保存しなければなりません。ただし、買い手が消費税申告で簡易課税制度または2割特例を選択する場合、売り手がインボイスを交付しなくても仕入税額控除は可能です。
なお、インボイスの写しの保存期間は、7年間です。

インボイスの項目

課税事業者が発行するインボイスには、以下のような項目が必要です。

  • インボイス発行事業者の氏名または名称
  • 登録番号
  • 取引年月日
  • 取引内容(軽減税率の対象品目である場合はその旨)
  • 税抜または税込を税率ごとに区分した対価の金額および適用税率
  • 税率ごとに区分した消費税額等
  • 交付先の相手方(売上先)の氏名または名称

税抜き経理方式

税抜経理方式は売上または仕入の都度、本体価格と消費税額を分けて処理する方法です。売上にかかる消費税は「仮受消費税等」、仕入にかかる消費税は「仮払消費税等」として計上します。

期末の決算時にはこの仮受消費税等と仮払消費税等を相殺し、納付額があれば「未払消費税」、還付される場合は「未収消費税」として処理します。

たとえば、税込5,500円で仕入れた商品を税込6,600円で売り上げた場合の仕訳は以下のとおりです。

【仕入時】

借方 貸方
仕入 5,000円 買掛金 5,500円
仮払消費税等 500円

【売上時】

借方

貸方

現金

6,600円

売上

6,000円

仮受消費税等

600円

【決算時】

借方 貸方
仮受消費税等 600円 仮払消費税等 500円
未払消費税等 100円

税込み経理方式

税込経理方式は売上の消費税額は売上金額に、仕入の消費税額は仕入金額に含めて計上し、決算時に消費税額を一括で処理する方法です。決算時には「租税公課」として計上し、還付になった消費税があれば「雑収入」で計上します。

税込5,500円で仕入れた商品を税込6,600円で売り上げた場合の仕訳は以下のとおりとなります。

【仕入時】

借方 貸方
仕入 5,500円 買掛金 5,500円

【売上時】

借方 貸方
現金 6,600円 売上 6,600円

【決算時】

借方 貸方
租税公課 100円 未払消費税等 100円

消費税の確定申告の流れ


最後に、消費税の確定申告の流れについて、2割特例の例で解説します。

消費税額を計算する

2023年10月1日から2023年12月31日までの課税売上高が税込209万円(標準税率)だった場合、消費税額を以下のように算出します。

【課税標準の計算】
課税売上高の税抜金額の千円未満を切り捨てた金額(課税標準額)を求めます。

209万円 × 100/110 = 190万円

【消費税(国税)の計算】
課税標準に消費税の国税の税率を乗じ、消費税額を求めます。

190万円 × 7.8% = 14万8,200円

【特別控除額の計算】
求めた消費税額から2割特例の特別控除額を求めます。

14万8,200円 × 80% = 11万8,560円

【納付税額(国税)の計算】
消費税額から特別控除額を差し引き、納付税額(国税)を求めます。

14万8,200円 - 11万8,560円 = 2万9,640円

百円未満切り捨てのため、納付税額は2万9,600円です。

【納付税額(地方税)の計算】
国税に78分の22を乗じて地方消費税額を求めます。

2万9,600円 × 22/78 = 8,348円

百円未満切り捨てのため、納付税額は8,300円です。

【合計の納付税額の計算】
国税と地方税を合算し、合計の納付税額を求めます。

2万9,600円 + 8,300円 = 3万7,900円

申告書を記入する

上記の内容を申告書に記入します。申告書は一般用と簡易課税用に分かれています。2割特例を利用する場合、「税額控除に係る経過措置の適用(2割特例)」欄に〇を付けましょう。

申告書を提出する

消費税の申告書が完成したら、以下のいずれかの方法で提出します。

  • e-Tax
  • 郵送
  • 税務署へ持参

消費税を納付する

消費税の納付は以下のいずれかの方法で行います。

  • 振替納税
  • e-Taxによる口座振替
  • インターネットバンキングやATMで納付
  • クレジットカードで納付
  • スマートフォンのアプリで納付
  • QRコードによりコンビニエンスストアで納付
  • 金融機関または税務署の窓口で納付

申告書の作成は「確定申告書等作成コーナー」が便利

消費税の確定申告書の作成には、所得税と同様に国税庁の「確定申告書等作成コーナー」を利用できます。確定申告書等作成コーナーでは画面の案内に従って金額等を入力するだけで申告書が作成できます。税額が自動計算されるため、計算ミスの心配もありません。

消費税の確定申告の準備を始めましょう

消費税の免税事業者がインボイス制度を機に課税事業者となった場合、当面は2割特例を利用するケースが多いでしょう。また、経理も税込経理方式を選択すると、比較的手間をかけずに消費税対応ができると考えられます。

ただし、消費税額を正しく把握したい、節税も考えたいなどの場合、一般課税で税抜経理方式も選択肢となるでしょう。いずれにしても課税事業者になると、消費税の申告への対応が今後もずっと必要になります。どのような手続きが必要か、早めに準備を始めましょう。

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(編集:創業手帳編集部)

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