IKEAジャパン ヘレン・フォン・ライス|女性社長が語る、スウェーデン流の会社哲学

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※このインタビュー内容は2016年12月に行われた取材時点のものです。

イケア・ジャパン代表取締役社長ヘレン・フォン・ライス氏インタビュー(後編)

(2016/12/12更新)

2016年8月に、初の女性社長を迎えたイケア・ジャパン。前編(初の女性社長が起業家へ提案する”イケアの価値”とは)では、就任して間もないヘレン・フォン・ライス氏に、日本でのビジネスについてお伺いしました。

後編では、お客さまだけでなく従業員にも愛されるイケアの職場環境について伺います。その中には、日本の企業経営に役立つヒントが隠されています。

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Helen Von Reis(ヘレン・フォン・ライス)スウェーデン マルメの出身。ルンド大学(マーケティング専攻)を卒業後、1998 年にエルムフルトにて、イケアカタログを発行する IKEA Communications に入社。イケアの商品開発の拠点である IKEA of Sweden で2007年までインフォメーションマネジャーとして勤務後、IKEA Communications の執行役員に就任。2011年に中国の深圳に店長として赴任をし、2013 年から現職であるアメリカ法人の副社長に就任。 趣味は料理で、日本の言語、文化とともに和食を学びたいと考えている。二人の子どもを持つ「子育てママ」の一面も。

イケアは“great place to work(素晴らしい職場)”

ー職場環境も重要だと思います。イケアでは福利厚生など、働く環境は整っているのでしょうか?

ヘレン: はい。イケアは“great place to work(素晴らしい職場)”を常に考え、よりよい職場環境づくりに取り組んでおり、従業員が安心して幸せに働ける環境をとても大切にしています。出産に関しても、女性が出産後も復帰できるように会社がサポートをしています。

たとえば、この敷地内にはIKEA Tokyo-Bay, コールセンターと本社のコワーカーが利用できる“ダーギス”と呼ばれる事業所内保育所があります。

私が子供を育てながら働いていることは、コワーカー全員にとってもよい例になるのではないでしょうか。

ー従業員をなぜ“コワーカー”と呼ぶのですか?

ヘレン: コワーカーとは共に働く仲間、という意味です。どんな立場であっても、私たちは一緒に働く仲間として、互いのことをコワーカーと呼びます。もちろん、私も1人のコワーカーです。この、共に取り組む、という概念は、日本と少し似ている気がします。個人主義ではなく、グループになって一緒に何かをするのです。それが、フラットな組織の基盤でもあります。

ーイケアの機能的かつリーズナブルな製品にも、フラットであるという意識が反映されているのでしょうか

ヘレン: その通りです。イングヴァル・カンプラードがイケアを創業した頃は、スウェーデンにはまだ貧しい人がたくさんいました。家具は高価で、なかなか購入することはできませんでした。しかし、誰にでも家具を購入してもらいたいという思いから、優れた機能とデザインを兼ね備えた手ごろな製品を開発し続けたのです。その精神が、今も受け継がれています。

ー確かに、とても機能的でデザインに優れていますね

ヘレン: それには、スウェーデンの歴史が関係しています。19世紀の画家カール・ラーションとその妻のカーリン・ラーションによる、ホーム・ファニシングス(家の服飾)という思想があります。カーリンは、家庭におけるアーティストとして、家庭で使う家具やテキスタイルをデザインしていました。カールが自分たちの家の中を描いた絵画やそこに描かれた家具デザインがスウェーデンの家具に与えた影響は大きいと思います。

 その後、時代は工業化を迎え国が少し裕福になっていきました。当時のスウェーデンは第二次世界大戦には参加していませんが、小さな国ですから女性も働かなければなりませんでした。女性が働くためには、家庭内の料理などの家事の効率を上げなければなりません。そのような背景があり、おのずと家庭の中が機能的になっていきました。スウェーデンは歴史的に、社会と家が一緒に育ってきたのです。

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日本企業にも活かせる、スウェーデンの文化

ースウェーデンには、どのような企業文化があるのでしょうか?

ヘレン: 産業としては、デジタルの輸出が多いと思います。音楽、ゲーム、メディアクラフトに関連する起業家はとても多いですね。

 それにはスウェーデンの教育や習慣が影響しているのではないでしょうか。スウェーデンでは小さい頃から、クリティカルシンキングというものを身につけます。何ごとも深く考えずに受け入れるのではなく、「なぜなの? どうしてそうなるの?」と考えることで学びを得るという教育を受けます。

 また、スウェーデンでは子供をとても大切にしており、食事は子供が最初に食べます。お腹を空かしている子供にきちんと食べさせてあげるというのが、スウェーデンの考え方なのです。食事に限らず、子供の権利をとても重要視しているというのも特徴です。

ースウェーデンの文化で、良いと感じるものを教えていただけませんか?

ヘレン: たくさんありますが、もっともすばらしいと思うのは“equality(平等)”の考え方ですね。男性も女性も子供も関係なく、何に置いても機会が平等に与えられることはとても大切なことです。国が栄えるために必要な意識だと思っています。なぜなら、人口の50%である男性だけが経済を支えるというのは、やはりおかしいからです。男女が平等に教育を受け、働くことが大事です。

 よくさまざまなランキングで、子供を育てるにはスウェーデンが一番だという結果が出ますが、それは“equality(平等)”の精神があるからだと思います。

ーその精神は「フラットな職場」であるイケアの哲学に凝縮されているようですね

ヘレン:その通りです。「イケアの企業精神はスウェーデンで生まれた企業だからなのか、イケア独自のものなのか」と聞かれますが、やはりスウェーデンで生まれたことが大きく影響していると感じます。

ーイケアの企業理念には、スウェーデンの文化が反映されているのですね。そのスウェーデンから見て、日本の起業家・創業者の方々にアドバイスをいただけないでしょうか

ヘレン: まずは、“ダイバーシティー”を大切にすることですね。“ダイバーシティー”とは、性別や人種に限らず多様な人材を積極的に活用することです。それにより、企業が強くなり、賢くなります。

 そして、女性にきちんとマネージメントの役割をまかせること。これが、成功の鍵だと思っています。もちろん女性が働くためには、家庭とのバランスが取れるように福利厚生などを会社がきちんと提供する必要があります。

 具体的にどのように女性をサポートすればいいのかわからなければ、女性本人に「どんなサポートが欲しいの?」と聞けばよいだけですよ。それほど変わったリクエストは出てこないはずです。基本的なニーズを聞き出し、それに対応して職場環境を整えていくことが会社の成功に繋がるでしょう。

image6(取材中、子供から電話が!家庭とのバランスを大切にするイケアならではの光景)
ー日本では、子供を2人も育てながら社長を勤めるのはなかなか難しいという気がします……

ヘレン: 女性経営者にとって大切なことは、サポートしてくれるパートナーや家族の存在です。

 そして子育てに関しては、夫婦ともに、子供を信用してあげることが大切です。放任主義ではなく、子供が安全に暮らせる環境づくりをすること。しかし過保護になりすぎず、子供は必要な時には親にきちんと連絡を入れるはずだと信用してあげると、仕事との両立がしやすくなりますよ。

イケア・ジャパン代表取締役社長ヘレン・フォン・ライス氏インタビュー(前編)
元アルバイトからイケア・ジャパン代表ヘ。初の女性社長が起業家へ提案する”イケアの価値”とは

(取材協力:イケア・ジャパン 株式会社/ヘレン・フォン・ライス)
(編集:創業手帳編集部)

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