Craif 小野瀨隆一|がんのリスクを早期発見できる技術で、メイドインジャパンの良さを世界に示したい

創業手帳

文系出身ながら、世界で注目されるヘルステックベンチャーを創業できた理由とは


「日本人の2人に1人が生涯でがんと診断される」といわれる時代。政府も「誰一人取り残さないがん対策」を推進しています。

こうした中、「がん」リスクを早期発見できる検査で注目されるのが、Craif(クライフ)株式会社です。この会社の創業者であり、現在も代表取締役CEOを務めるのが小野瀨隆一さん。2021年には、世界的な経済誌「Forbes」のアジアを代表する30歳未満の人材に選出され、今では世界中から注目されています。

文系出身で、起業するまで医学論文を読んだこともなかったという小野瀨さん。なぜ医療分野で起業したのか気になるところではないでしょうか。今回は起業の経緯や成功のポイントについて、創業手帳代表の大久保がインタビューしました。

小野瀨 隆一(おのせ りゅういち)
Craif株式会社 代表取締役CEO
早稲田大学国際教養学部在籍時にカナダのマギル大学に交換留学。大学卒業後は三菱商事に入社、シェールガスを日本に輸入するLNG船事業に従事する。

2018年に三菱商事を退職し、Icaria株式会社(現在のCraif株式会社)を創業。がんとの戦争に終止符を打つことをミッションに、がん医療の改革を目指す。2021年「Forbes Asia」よりアジアを代表する「30歳未満」に選出。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計200万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

※この記事を書いている「創業手帳」ではさらに充実した情報を分厚い「創業手帳・印刷版」でも解説しています。無料でもらえるので取り寄せしてみてください

副業で民泊に挑戦、これがきっかけでスタートアップに関心を持った


大久保:幼少期に海外にいらしたそうですね。海外で過ごした経験が起業につながっているのでしょうか?

小野瀨:今グローバルに挑戦しているのは、確かにアメリカにいた経験が影響していると思います。僕は2000年から2005年まで、小学3年生から中学1年生の間ニューヨークに近いコネチカット州に住んでいました。当時はメイドインジャパンの全盛期で、日本のメーカーや日本製のものが現地で高く評価されていたんです。子どもながらに、すごく誇らしかったですね。

でも20年経った今は、だいぶ変わりました。もちろん今でも海外で活躍する日本の会社はたくさんありますし、日本製が素晴らしいことは変わっていません。でも中国や韓国など他国のメーカーも質を上げてきていますし、日本では急激に研究者の数が減っていて技術が海外に出てしまっています。

今が日本にとって、分岐点だと思うんですよ。最後のチャンスだというくらいの危機感を持って、僕はやっています。かつてのメイドインジャパンの良さを示したい、いいものでもう一度世界を驚かしたいという気持ちは、子どもの頃の経験が大きいですね。

大久保:その後小野瀨さんは大学卒業後、日本の商社に就職されましたね。商社を選んだのはなぜですか?

小野瀨:当時の僕は、漠然と大きなビジネスをしたいけれど、何をやりたいのかよくわかっていませんでした。だからとにかく大きな仕事ができそうだなと思って、商社に入ったというのが正直なところです。

大久保:商社でのご経験は、起業してから役立っているのではないでしょうか。

小野瀨:そうですね。商社にいて起業を志した時は、スタートアップについて何も知らない自分に絶望したこともあったんですよ。でも実際に起業してみると、商社での経験が活きる場面は多かったですね。商社でビジネスの基本を叩き込まれましたし。

商社の人って、イノベーションとかゼロを1にするところは弱いかもしれません。僕も最初はすごくきつかった。一方で、周りの人を巻き込む力は強いと思うんです。実際、資金調達でも商社での経験はすごく役立ちました。そういう意味で、いいファーストキャリアだったと思っています。

大久保:なるほど。商社にいた頃は副業もされていたとお聞きしました。

小野瀨:民泊をやったんです。この時たくさんスタートアップの記事を読みましたし、ゼロベースでやっていくことを学びました。

商社にいた時は総コスト何兆円というプロジェクトも担当しましたが、当然ながら自分が直接稼ぐわけではありません。ですから自分でお金を稼ぐ経験をしたいなと思って、民泊を始めました。初めて700ドル振り込まれた時は、すごく嬉しかったですね。

大久保:民泊は、本格的に起業する前の腕試しという感じだったんですか?

小野瀨:いえ、わりと本気でやっていて、スケールすることも考えていたんです。ただやっているうちに、もう少し社会の課題解決につながることをしたいなと思いまして。そこで民泊の会社の株は当時一緒にやっていた友人に全部渡して、僕は完全に外れました。

起業への情熱と社会へのインパクトがあったから、周りを巻き込めた


大久保:その後、現在の事業を立ち上げたのはどんな経緯だったのでしょうか?

小野瀨:新しいことをやりたいと思っても、1人で事業アイデアを考えるのは難しいですよね。僕の場合、友人が平日の夜と週末を捧げてくれてアイデアの壁打ちをしてくれました。この時の友人は、その後弊社のメンバーになってくれました。

ただ壁打ちしていろいろな事業を考えたものの、なかなかこれぞというのがなくて。ただ僕はもうこの時点で会社に辞表を出したんです。起業は簡単じゃないことはわかっていたし、もうやるって決めていたので。

その覚悟を知った友人から「結局何をやりたいんだ?」といわれまして。やりたいことをあらためて整理したら「がん」というテーマが出てきたんです。

僕は祖父母をがんで亡くしているんです。祖母の時は、がんに対して何もせず経過観察という医療方針でした。僕はその方針に違和感を持って、セカンドオピニオンを取ろうと考えたんです。でもセカンドオピニオンを取るとなると、他の病院にも通わなければいけない。祖母は高齢で他の病気もありましたし、足も悪かったので、結局断念しました。

そこで「がん」のセカンドオピニオンがウェブでも取れたらいいなと思って、事業計画を作って投資家の方に持っていきました。そこで安井先生(編集部注:名古屋大学大学院准教授の安井隆雄先生)の論文を見せていただいたんです。医学論文なんて読んだこともなかったんですけど、それを読んで、他にも関連する論文も読んだらすごく面白そうだなと思って。実際に安井先生にお会いしたら意気投合して、一緒にCraif社を創業することになりました。

大久保:会社を辞めて本気で取り組むという想いが、周りを巻き込む力になったんでしょうね。

小野瀨:そうですね。本気度と、あと僕の場合は「がん」でしたが、社会にどれだけインパクトを与えられるかということも大きかったと思います。情熱と方向性があったから、周囲がサポートしてくれたんだと思います。

がんのリスクを早期発見できる技術を開発、コストを下げる工夫にも取り組む


大久保:御社の検査の仕組みを、わかりやすく教えていただけますか?

小野瀨:がんは早期発見が重要なので、早い段階でがんが発する何かを検知する必要があります。とはいえ今までは、例えば画像だとある程度大きくならないと見えないですし、腫瘍マーカーもがん細胞がある程度発達しないと出てきません。早期発見しづらいという課題がありました。

一方で、僕らの技術は「マイクロRNA」という物質をもとに、がんのリスクを早期発見するものです。マイクロRNAはがん細胞が直接出すシグナルで、人間でいうeメールのようなものです。

がん細胞は増える時に栄養をたくさん必要とするので、栄養をくださいっていうシグナルを出します。周りの細胞にもシグナルを送って「がん化」させることがわかってきました。つまりこのシグナルを検出すれば、がんを検出できるわけです。

マイクロRNAは健康な細胞も出すものですが、がん細胞が出す特有のマイクロRNAがあることが、これまでの研究からわかってきました。さらにマイクロRNAは、がんの種類によって違う特徴があることもわかってきたんです。つまり肺がんなのかすい臓がんなのか、マイクロRNAを見ればわかるというわけです。

つまり僕らのプロダクトは人の尿に含まれるマイクロRNAを調べて、がんリスクがあるのか、さらにがんリスクがあるならどの種類の「がん」なのかを見るというものなんです。

マイクロRNAは「エクソソーム」というカプセルみたいなものの中にあるんですが、エクソソームの仕組みが解き明かされたのが2008年頃です。それまでゴミと思われていたエクソソームが、重要な役割を果たしていることがわかってきました。

エクソソーム研究で世界の3本指に入る1人が、日本の落谷孝広先生なんです。落合先生のおかげで、日本ではこの分野の研究が進んでいます。その成果をベースに、僕らが実用化したという流れですね。

大久保:正確性についてはいかがですか?

小野瀨:僕らが今まで学会等で発表してきたデータでは、がんの種類によってばらつきはありますが、平均すると90%前後くらいです。

大久保:新しい技術を使ったプロダクトとなると、コストがかかりそうですね。

小野瀨:おっしゃる通り、コストはかなりかかります。僕らの検査は53,900円(税込 ※2023年9月時点)で販売していますが、一般の方からすると高く見えますよね。ただ研究を知っている方からは「よく5万円で出せるね」っていわれるんですよ。

価格を下げるために、効率良く検出する方法を編み出しました。効率良く検出できれば、試薬量が減り1検体あたりのコストは下がりますから。あとはたくさん同時に測定することで、コストを下げることも可能です。

大久保:なるほど。 この検査は健康保険が使えるものなのでしょうか?

小野瀨:現在販売している「miSignal®(マイシグナル)」は、予防に近いスクリーニング用途なので自由診療の扱いです。もちろん検査ラボの運営に関しては厚生労働省が定めた基準を満たして、監査を受けて、都道府県の保健所の認定を受けた上で販売しています。

一方で健康保険が適用される検査についても承認を得るべく準備を進めていて、来年から国内で臨床試験が始まる予定です。

1年半で400を超える医療機関と提携できた理由とは


大久保:最近は尿の匂いなどで「がん」を判別するサービスも聞きますが、全く別のものなのでしょうか?

小野瀨:そもそもの仕組みが違います。尿の匂いで判別するタイプのものは、代謝物で見ています。ただ代謝物の場合、がんの種類の見極めや早期発見はメカニズム的に難しいとされています。僕らはがん細胞が発するものを直接見ているという点で違いがあります。

偽陽性の問題もありますが、これについてはどんな検査でも100%の精度はあり得ません。僕らとしては、検査後のネクストアクションが提示できるかという点を重視しています。

先ほどお伝えしたように、僕らの技術では、どのがんのリスクがあるかを提示できます。あとは400以上の医療機関と提携していますので、例えば「あなたは胃がんのリスクが高いので、次はこの検査を受けて医師と相談してください」というように、次のアクションを明確に示すことができるんです。

大久保:提携医療機関がすでに400以上あるとのことですが、どのように広げていったのでしょうか?

小野瀨1つはいわゆる「ザ・モデル」(※)ですね。僕らって、成約率が高いんですよ。医療機関にとっては初期費用もかかりませんし、皆さん困っているので、多くの引き合いをいただいています。

あとはこの分野に強い会社と組んだ営業も進めています。弊社が上場するまでには、3,000以上の医療機関と提携したいと考えています。

※ザ・モデルとは、新規開拓からアフターサービスまでを一連の営業活動と捉え、顧客プロセスごとに分業化する手法。

大久保:医療機関の方にとっては、どんなメリットがあるのでしょうか?

小野瀨:医療機関によって使い方は異なるのですが、一般的な病院ではソリューションの1つとして使っていただいています。

例えば婦人科さんの場合、卵巣がんが心配という患者さんがいても、これまでは「経腟エコー」という体に負担の大きい検査しかありませんでした。これは疑いがない状態で行うものではありません。ですからちょっと心配という状況では、医師としてすすめるものがなかったんです。現在はこういう場合に僕らの検査をおすすめしていただいています。

あと健康診断の際にオプションとして医療機関からおすすめしていただいたり、ユーザーさんの希望で追加していただいたりすることが多いですね。

海外にも展開して、将来は世界のスタンダードながん検査にしていきたい


大久保:現在、課題と感じていることはありますか?

小野瀨制度の問題もありますが、それ以上に問題なのは、国内でがん検診を受ける人が少ないことですね。企業に属している人でも受診率は40%程度ですし、地方の一次産業中心の町になると、受診率が5%というところもあります。

大久保:確かにがん検診ってハードルが高いですよね。カメラを体内に入れるものもありますし。

小野瀨:そうですね。がん検診を受けない方の理由を調べると、「怖い」とか「面倒」というものが多いようです。

何事もそうですが、問題を解決するまでが仕事だと思っています。いいものを作っても、誰も利用しなかったら意味がありません。使われてなんぼですから、簡便性やユーザーエクスペリエンスはすごく意識しています。

弊社の検査は5万円するので、意識の高い人だけが受けていると思われるかもしれません。ところが実際にはユーザーの60%が「1度もがん検診を受けたことがない、もしくは受けたかわからない」という方なんですよ。これまでの検査と違って、簡単にできる点がやはり大きいと思います。

僕らとしてはもっと気軽にがんの検査を受けて欲しいですし、僕らの検査によって他の検査を受けるきっかけになればいいなと思っています。

大久保:なるほど。今後の展望を伺えますか?

小野瀨中長期的には、予防医療の中核になるものにしていきたいですね。日本では法改正などそもそも仕組みの変更が必要ですが、いずれ3割負担で受けられる検査にしていきたいと思っています。

そのために取り組んでいるのが臨床試験です。日本では来年から始まりますが、アメリカでも今後臨床試験に取り組む予定です。やはりアメリカのFDAで承認されると世界で認められますから。

日本と違い、アメリカでは民間の保険会社が基本的に医療保険を扱っています。ですから予防かどうかは関係なく、検査が有効と認められれば保険の対象になります。

アメリカで広まれば本当に世界のスタンダードな検査になって、世界中で当たり前に使われる検査になるんじゃないかなと思っていますし、そうしていきたいと考えています。すでにアメリカにも社員がいて、現地でデータを集め始めているんですよ。

大久保:海外、特にアメリカは医療費が高いですよね。がんも早期発見できた方が医療費を抑えられるわけですから、海外のマーケットはすごくありそうですよね。

小野瀨:おっしゃる通りです。アメリカでは、トップの医療機関でがん治療を受けられる人は本当の富裕層に限られます。何千万、何億という単位の費用がかかるので。そういう意味では、日本と全く異なるマーケットがあると思います。

大久保:創業手帳は起業直前・直後の方が主な読者になりますが、最後に読者の方へメッセージをいただけますか。

小野瀨:起業直後ってすごく熱量が高いので、ビギナーズラックじゃないんですけど、再現不可能な出会いがあります。こういうチャンスを手にするには、やはり活動量を増やすしかない。ですから、とにかく全力で駆け抜けることが大事だと思います。

一方で、僕の周りでも多いのですが、起業1年目だと社員もいないので生活が乱れやすいんですよね。平日土日に関係なく働くと、逆に平日遅い時間に起きて夜更かししてしまうこともあるじゃないですか。これだと結局のところ、生産性はかなり落ちます。

もちろん僕も週3で徹夜したこともありますし、やらなきゃいけないタイミングはあると思います。でもまずは規則正しい生活リズムと、メンタルを含めたヘルスケア。これが起業家にとって、すごく大事だと思います。健康な心と体を維持した上で活動量を増やしていくと、きっといい出会いがあると思います。

大久保写真大久保の感想

手軽にできるがん検査を手掛けているのが小野瀨さんです。

今後、より量産化されて価格の低下と、検査可能な範囲が広がってきて、かつ医療費の個人負担の高い海外市場に展開されてくると売上が大きく伸びそうです。

がん検査の領域で常に課題になるのが正確性ですが、こうした簡易的にできる検査と医師の検査を組み合わせていくことで、患者や慢性的な人で不足に悩む医師の負担を減らしながら検査率を増やしていく世界が実現していくと良いですね。

関連記事
Medi Blanca 横山佳野|看護師から起業!「Soi Nurse(ソイナース)」で医療的ケア児と家族に寄り添う
Special Medico 中曽根暁子|予防医学分野を改革!「テクノロジー」と「信頼」で医療と人との懸け橋をつくる
創業手帳別冊版「創業手帳 人気インタビュー」は、注目の若手起業家から著名実業家たちの「価値あるエピソード」が無料で読めます。リアルな成功体験談が今後のビジネスのヒントになるはず。ご活用ください。

(取材協力: Craif株式会社 代表取締役CEO 小野瀨 隆一
(編集: 創業手帳編集部)



創業手帳
この記事に関連するタグ
創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
創業時に役立つサービス特集
このカテゴリーでみんなが読んでいる記事
カテゴリーから記事を探す
今すぐ
申し込む
【無料】