Gigi 今井了介|「絶対売れない」と否定される曲・事業こそ爆発的ヒットを生む

創業手帳
※このインタビュー内容は2022年08月に行われた取材時点のものです。

安室奈美恵など一流アーティストを手掛けてきた今井氏。ヒット曲を企画するように事業を構想する方法とは?

安室奈美恵やTEE、三浦大知、Little Glee Monsterなど、一流アーティストに楽曲提供などをしてきた音楽プロデューサー、今井了介氏。自身が運営する音楽プロダクション・タイニーボイスプロダクション所属作家のBTSへの楽曲提供は、アメリカビルボードチャートで一位を獲得するなど、音楽業界で数々の実績を残されてきたことで知られています。

音楽業界でトップレベルの仕事を残されてきた今井氏が今、ビジネスを始め、「ごちめし」などのサービスを展開するGigi株式会社を創業するに至ったのは、なぜなのでしょうか。また、音楽でもビジネスでも爆発的ヒットを生み出すための発想の根源はどんなところにあるのでしょう。創業手帳の大久保が聞きました。

今井 了介(いまい りょうすけ)Gigi株式会社 Founder & CEO
作曲家・音楽プロデューサー。起業家。安室奈美恵『Hero』や、TEE/シェネル『ベイビー・アイラブユー』などを手がける。作家・プロデューサーのエージェンシー(有)タイニーボイスプロダクションを創業・主宰。2018年、WEBギフトサービス「ごちめし」でGigi株式会社を創業。コロナ禍の先払い店舗支援「さきめし」、社食サービス「びずめし」、地域の飲食店を利用する「こども食堂」、法人向けギフト「GOCHI for ビジネス」を運営。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計200万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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音楽家としてのキャリアを考え直した3.11

大久保:まず簡単に、事業概要を教えていただけますでしょうか。

今井:Gigiは、さまざまな想いをお食事券(電子チケット)とともに贈れるギフトサービス「ごちめし」や、行きつけのお店の食券を先払いして購入し、飲食店を支援できる「さきめし」、近場の飲食店を社食として利用することができる「びずめし」などのサービスを展開しているフードテック企業です。

大久保:今井さんはもともと、音楽業界ご出身ですよね。

今井安室奈美恵やリトグリなど、数々のアーティストを手掛けてきました。

もともと、作曲とか作詞の仕事をアシスタントを雇用して個人事業主として10年ほど経験しました。その後、まとまった資金ができたタイミングでタイニーボイスプロダクションという法人を設立しました。その会社が初めての創業ですね。創業時から18期ほど続いてきています。

大久保:なるほど。タイニーボイスプロダクションではどういったお仕事をされてきたのですか。

今井:アーティストの裏方、プロデュースの仕事です。私自身はお金や法律の知識の勉強なども嫌いではないのですが、才能あるアーティストや作曲家にはそういったことに煩わしく思う方も多いので、そうした方々のマネジメントをしてきました。

ほかにも、レコーディングスタジオの運営や著作権関連の仕事など、音楽に関する仕事をさまざまに手掛けています。

大久保:音楽業界で確固とした実績がある今井さんが、なぜフードテックの会社を起業することになったのでしょうか。何かきっかけがあったのですか。

今井私たちは、世代的にもアフリカの飢餓と貧困を撲滅するために当時の音楽界のトップアーティストを集めて作られたキャンペーンソング、「ウィ・アー・ザ・ワールド」に強く影響を受けたと思います。つまり、「音楽の力で社会問題を解決したい」という想いがすごく強い世代かと思います。ほかにも、国境なき医師団や里親制度などに関心を抱いていて、私自身も「社会に対して何かできないかな」とずっと思ってきました。

そんななか起きたのが、2011年3月11日の東日本大震災です。音楽によって社会問題を解決できることもありますが、3.11の際には同じ国内にいながらにして食事すら行き届いていない状況を知りながらも、何もできない自分がいました。すごくショックを受けたのを覚えています。当然ですが、音楽の力によっては、そうした危機のときに食事も提供できないし、家をなくした人に住む場所も提供できない。

その体験を経て、人間が生きていく上で重要な「衣食住」という領域で、何か事業を起こして、「より社会にダイレクトに貢献できることはないか?」という思いが生まれました。

大久保:なるほど。それがきっかけでビジネスを起業しようと思われたのですね。

今井:そうですね。でも、3.11後すぐに起業したわけではありません。食にまつわるいろいろなサービスを思いついてはインターネットで検索して、フードテック領域で手垢のついていないサービスを探す日々が続きました。

あるとき、「飲食店のメニューをそのままギフトにできたら、面白いのではないか」と思いつき、その「ごちめし」のアイデアをもって2018年9月にGigiという会社を創業しました。「ごちめし」のサービスがあれば、3.11のような緊急事態でもチケットを送って支援ができると思ったんです。「ごちめし」のサービス自体は2019年10月末にスタートしました。

大久保:「社会問題を解決したい」という思いがどちらかといえば強いのでしょうか。

今井:「社会問題の解決」というと大きすぎますが、食を通してみんなが笑い合える世界を作りたい。そのためのプラットフォームを作りたい。というのがモチベーションです。

誰かが喜ぶと、経済が動く

大久保:今井さんは音楽でも、ビジネスでも成果を残されていますが、二つの業界で共通する部分はあるのでしょうか。

今井誰かが喜んでくれるようなモノやサービスを作ると、人々の感情が揺さぶられて、自然と経済が動く、という点は共通しているかと思います。

音楽も夢のある仕事のように見えますが、すごく経済性に敏感な業界です。「いい曲が書けた」と自分で思っていたり、レコード会社がプロモーションしたとしても、結局売れない曲は売れません。最終的に「いい曲かどうか」を決めるのは消費者=リスナーです。人の心が動いて初めて利益が出る構造ですね。

そういった業界で揉まれてきたので、「人が喜べば経済が動く」という感覚が、私の発想の根元にあります。

大久保:確かに、それは音楽・ビジネス両業界に共通して言えることですね。

今井「これならみんなが絶対喜んでくれる」と確信できるような、いわゆる「三方よし」のビジネスを考えるようにしています。そういうビジネスであれば、最初は理解されなくとも、じきに受け入れられるはずだからです。

だからGigiでは“Your Happiness is My Happiness.”(あなたの幸せは私の幸せ)というビジョンを掲げています。

「ごちめし」のアイデアはどこから生まれた?

大久保:そもそも、ギフト市場ってどの程度の規模感なんでしょうか。

今井:ギフト市場全体で11兆円の市場規模です。引き出物やお中元、お歳暮なども含めてです。アメリカなどの欧米にもギフトカルチャーはあるので、ギフトビジネスは普遍的なモノだと思います。また、近年トレンドとなっている「ソーシャルギフト」市場は2500億円。

私としては、今のギフト市場をより進化させていきたいという思いがあります。

例えば、フルーツ大福4つが1箱になったギフトをもらったとします。見た目も美しく、味も美味しいので、「嬉しい」とは思います。しかし、私は独身なので、フルーツ大福が4つあってもその日のうちに食べきれないですよね。このように、美味しい食のギフトであるほど、タイミングというものも重要になってきます。

例えばこのフルーツ大福4つを私が好きなタイミングでもらえるチケットをもらえたほうが嬉しいでしょうね。さらにチケットにすれば、ほかの人にお渡しすることもできます。

もらって嬉しいけれども、持て余してしまったり、食べ過ぎたりしてしまう今の食のギフト市場をより進化させたい。そのために「ごちめし」を企画したということです。

大久保:「ごちめし」のアイデアは、今井さんがゼロから企画したものなのでしょうか。

今井:いえ、元ネタはありました。

イタリアのナポリ地域にあるカフェ発祥の「Suspended Coffee (サスペンデッド・コーヒー)」という仕組みがあります。日本語だと「保留コーヒー」という意味ですね。例えばコーヒー1杯が5ユーロだとして、10ユーロ支払い、5ユーロは自分用、あとの5ユーロはほかの人用にお店に預けることができるんです。この5ユーロはお店の裁量で、お金がない人のために使ってOKなんですね。だから外で凍えている人に「このコーヒーは、さっきの人からの贈りものです」といってコーヒーを贈ることができます。いわゆるペイ・フォワード(恩送り)の精神に基づいた助け合いの仕組みですね。

北海道の帯広に本間さんという方がいます。この方は帯広が地元で一度東京に出て数十年仕事をして、また帯広にUターンされました。

本間さんは帯広の食材が好きで、昔よく食べていたのに、久しぶりに帰った帯広には地元の食材が食べられるレストランなどがないことに気づき、ご自身で食堂を作られました。

「子どもたちにも地元の食材を食べてほしい」と思っていたけれど、お店に子どもたちが来てくれない。そのときに本間さんは「Suspended Coffee (サスペンデッド・コーヒー)」の仕組みに出会い、その仕組みを「ゴチメシ」と称して、そのまま転用されました。お店の常連さんなどが預けていってくれたお金を「ゴチメシ」用のお金として置いておき、そのお金で店のカレーやうどんなどを無料で食べられるようにしたんですね。そこでようやく、子どもたちが来てくれるようになり、地元の食材の美味しさを知ってもらえる機会ができた、ということなんです。

この「ゴチメシ」の仕組みを知った私は、さらにこれを進化させて、どのエリアにいても「ゴチメシ」ができるようにしたら、より可能性が広がるんじゃないかと考えました。インターネットで検索してみると類似サービスもなかったので、「よし、創業だ」となったんです。

大久保:古きよき善意の仕組みを進化させているのですね。

今井:まさにおっしゃる通りですね。昔からあったギフトという素敵な体験を、さらにもらう側の都合を考えたものに進化させたいんです。

ギフトのなかでもやっぱり「食はいいなぁ」と思っています。例えばタオルやコップなどは確かにもらって嬉しいですけれども、「たくさんもらっても仕方ないな」と思うこともあるじゃないですか。その点、食事は必ず消費できるのでいいですよね。単にギフトカードなどを贈るよりも、贈る側のセンスや気持ちも表現できますし。とくに日本の食文化は、海外でも勝負できる数少ない日本コンテンツだと思います。

飲食業界の手数料構造を変えたい

大久保:「ごちめし」の集客はどのようにされているのでしょうか。

今井:基本的にはインターネットで飲食店の方々がご自身で申し込む形です。泥臭い営業をすることもありますが、基本的に飲食店から申し込んでいただく形にしています。

大久保:手数料はどのようになっているのでしょうか。

今井加盟する飲食店から手数料は一切取らず、ごちる人(お食事券を贈る人)が飲食代 + 10%の手数料を支払う形です。

大久保:予約、デリバリー、レビューなどのフードテックサービスでは、飲食店から手数料を取るのが一般的です。なぜ飲食店から利用料を取らないのですか。

今井:そもそも、他業界ではサービスを利用して便利さを享受した人がサービス料を負担するのが一般的ですよね。例えば、タクシー配車サービスを使ったときに、ドライバーやタクシー会社が手数料を支払ってくれるわけではない。だから本来、サービスを利用する人がサービス利用料を支払うべきです。

日本の飲食店は世界的にもレベルが高く、非常に安く楽しめます。それだけに、努力されている飲食店の方々から手数料を取るのは違う気がしています。本当の意味で、「三方よし」にしたいんです。

弊社のサービスのように、手数料を取らなければ、飲食店側もより私たちのパッションを受け取ってくれて、よりサービスが広まるスピードが速くなるのではないか、と思ったというのもあります。

創業時に、金融機関の融資申し込みに行ったときには、「飲食店から手数料を取らないなんてありえない」と門前払いされました。でも私は、「誰もやっていないことをやろうとしているんだ」と思って俄然燃えました。

大久保:フードテック領域ですと、コロナ禍で大変だったのではないでしょうか。

今井:弊社の場合、自分が応援したい飲食店に向けて先にチケットを贈れるサービス「さきめし」を始めて、すごく喜んでもらえました。このサービスによりむしろプラスになった面も大きいです。

また「びずめし」というサービスも始めました。企業の福利厚生として、従業員の方が街の飲食店を社食として使えるようにするサービスです。最近、NTTが出社を出張扱いにしたニュースが話題になりましたが、リモートワーク前提の社会に変化していくと、社食の形も変わっていくのではないかと考えています。社食を会社内に持っておくことにどんどん経済合理性がなくなっていけば、「びずめし」のサービスが自然と広がっていくはずです。

大久保:素朴な疑問ですが、10%の手数料って、少なくないですか。

今井:個人相手だけですと確かにそうなのですが、「びずめし」ができて法人も取引先にできるようになったので、それなりの収益が上がるようになりました。

ほかのフードテックサービスと比べると、確かに手数料は少ないです。でもその分、サービスが広がるスピードが速くなると思っています。

GoogleやAmazonのように、爆発的に使われる今日的なビジネスは、手数料が多すぎると生まれにくいのかな、と思っています。

東京ではなく福岡で起業した理由

大久保:福岡で起業されていますが、もともと福岡ご出身ですか。

今井:いえ、東京です。音楽の仕事も東京中心でやってきました。

大久保:それではなぜ福岡で起業されたのでしょうか。

今井:食が美味しい場所であること、人間関係が暖かくて見えやすい場所であること、こうしたことを重視して場所を検討していました。さらに、福岡市はスタートアップ支援にも力を入れていることで知られていたので、福岡がいいなと。

大久保:なるほど。住みやすそうでもありますね。

今井:住みやすいと思いますね。

メディアリレーション的にも、東京より福岡でやったほうがお得、ということもあります。東京で面白いことをやっていても競合がたくさんいるので取り上げられづらいですが、福岡だと東京よりはメディアに取り上げてもらいやすい気がしています。最初は地元のテレビ局で放送され、その後話題になれば全国ネットに流れたりもします。そういうことを諸々考えた結果、福岡を選びました。

爆発的ヒットを生むための思考法

大久保:今井さんの発想法の根元を知りたいです。

今井:常に変わったことをしたい、ユニークなものを作りたいという気持ちがあります。

思えば、子どもの頃からそうでした。中学校のとき、肩掛けのキャンバス鞄が男子の標準的な鞄だったのですが、私はそれがすごく嫌でした。デザインも好みではなかったし、汚いし。だから男子のなかで唯一私だけが女子が持つ手提げの革鞄を選んだんです。校則的にはアウトではなかったんですね。協調性を重んじずに、自分の意思で選びました。昔から人と一緒であることが嫌だったのかもしれません。

大久保:やっぱり、人とは違うことを考えないとヒットは生まれないものなのでしょうか。

今井「今こういうものが流行っているから」というマーケティング的な発想法を取る人もいますが、それでは業界全体を揺るがすようなゲームチェンジは生まれません。

例として、音楽業界の話をします。私たちが中高生の時代はアイドルが流行っていて、洋楽的な楽曲制作はそこまで人気がありませんでした。でも自分はそうした洋楽が好きで、「洋楽のスタイルを取り入れた新しい音楽を提示すれば、絶対に日本の音楽シーンのクオリティが上がる」と考えていました。

そこで、DOUBLEというアーティストの『Shake』という楽曲を作ります。「そんな洋楽っぽい曲、絶対売れないよ」とみんなから言われました。しかし結局この『Shake』は、飛ぶように売れました。するとみんな手のひらを返したように「『Shake』のような楽曲を書いてくれ」と依頼してきたことを覚えています(笑)。

ゲームチェンジはそのようにして起きます。「ごちめし」もそうです。企画した当初、理解してくれる人はほぼおらず、一部の人からは(お食事を「ごち」られることから)「出会い系でもやるの?」とまで言われました(笑)。でも今ではどんどんサービスが広がっていっています。「次の時代には、絶対こっちの価値観に行くよね」というものを企画して、諦めずに続けていくことが重要です。

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(取材協力: Gigi株式会社 Founder & CEO 今井 了介
(編集: 創業手帳編集部)



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