事業年度はどのようにして決める?決め方のポイントや法人税との関係も解説

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事業年度は決算期を区切る大切な期間。その決め方や、法人税の納付にどのように関係するかなどを解説します

事業年度はどのようにして決める?決め方のポイントや法人税との関係も解説

事業年度は、一定の時期に対する決算書を作成するために区切る年度を指します。事業年度の決定は、個人事業主と法人で異なり、法人の場合は自由に決められます。
決算書(財務諸表)の作成は、法人税を納めるにあたって不可欠なもの。事業年度はきちんと決めておくと良いでしょう。
今回は、事業年度の決め方や法人税の納税との関係性について解説します。

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事業年度とは何か


事業年度とは、決算を行う期間を一定に区切ったものです。個人事業主と法人では、事業年度の考え方が異なるため、注意が必要です。
こちらでは、個人事業主と法人それぞれにおける事業年度の概要を説明します。

事業年度と決算期について

事業年度は、期間を区切ってその期間内における収益や費用、資本などの動きについて計算し、経営状況や実績を公開するために設定します。
事業年度の経営状況や実績を数値化して確定させる作業が決算であり、この作業を行う事業年度末の期間が決算期です。

一般的には、事業年度の期間は1年とすることが多くありますが、1年以内であれば事業年度の制限は特にありません。

個人事業主と法人の事業年度の決め方

個人事業主と法人では、事業年度の決め方が根本的に異なります。以下では、個人事業主と法人の事業年度について説明します。

個人事業主の場合

個人事業主においては、事業年度は1月1日~12月31日までの1年間と決められています。そして、翌年の2月16日~3月15日に 、前の事業年度の確定申告を行います。

これは、個人事業主の所得税の計算が、暦での区切りによって行うことと税法で定められているためです。
この点から、個人事業主は事業年度を自由に設定できません。

法人の場合

・基本的には自由に決められる
法人の事業年度は、基本的に会社の都合などにより自由に決められます。つまり、1年に限らず何カ月で設定しても問題はありません。

ただし、会社法では1年を超えない範囲とされており、例外として事業年度を変更した年において、最長1年半以内まで延長可能です。
4月1日~3月31日までであった事業年度の最終日を9月30日に変更するとき、この1年半の期間をまとめて事業年度とすることが認められています。

一方、税法上では事業年度は1年で区切る旨が記載されており、上記の例だと4月1日~3月31日までを1期、次の4月1日~9月30日を1期と考えます。

・定款によって定められる
法人の事業年度は、会社設立の際に作成する定款に記載します。ただし、事業年度の記載は定款においては任意的記載事項であるため、記載の義務自体は発生しません。
とはいえ、定款は会社の法律であり、決算を正しく行うことを示すためにも、定款で事業年度を定めるのが基本です。

・定款に事業年度を定めない時
上記のように、定款に事業年度を定めていない時は、会社設立から2カ月以内に税務署に届け出ることで事業年度を決定できます。
しかし、この時に税務署に届出がなかった場合、税務署が事業期間を設定して会社に通知します。

・1年半以内であれば途中で変更も可能
上記のように、会社法では1年半までであれば、事業年度を変更できます。

事業を進めていく上で、当初決めた事業年度では問題が生じることも少なくありません。このような場合に、事業年度の変更が行えます。
事業年度を定款に記載している場合、定款の内容を変更しなければなりません。この場合、下記のような手順を踏みます。

1.株主総会で決議を行う
株主総会を開き、定款の変更について決議を行う必要があります。定款には事業年度の最終日がいつになるのかを、附則で明確にしておきます。

2.株主総会議事録に内容を記載する
株主総会における決議の内容を、議事録として残します。

3.税務署に届出を出す
会社の住所を管轄する税務署および都道府県税事務所に、事業年度の変更を届け出ます。

・開業してから、組織変更してからの事業年度の数え方
開業してからの事業年度開始日は、会社設立日とします。この会社設立日は、一般的には登記を行った日であり、各種許認可が必要な業種では、許認可が降りた日です。

また、事業を進め別の会社となった場合や形態が変わった時のように、組織変更が行われた際には、変更後の会社を登記した日にかかわらず、変更前の会社から事業年度を引継ぐものとされます。

・会社が解散した時の事業年度の考え方
事業年度の途中で会社が解散した時、前の事業年度から一定期間を設定してその期間の決算を行います。この期間を「みなし事業年度」と呼びます。
なお、みなし事業年度の確定申告に関しては、吸収合併などで事業を引継ぐ会社がある場合、引継いだ会社が行います。

事業年度を決めるポイント5つ


法人における事業年度は任意で決められるため、どのようにして決めるかは迷うかもしれません。
事業年度を決めるには、決算期をいつにするかが重要な鍵です。決算期を設定すると、そこから逆算して事業年度も決められるでしょう。
こちらでは、法人の事業年度の決め方を5つ紹介します。

資金繰りのサイクルから考える

決算期が終了すると、確定申告を行うのはその後2カ月以内です。そして、速やかに法人税などを納付しなければなりません。
この納税の月に、会社のキャッシュが足りない状態では、資金繰りに苦しむことになるかもしれません。そのため、以下のような対策を行います。

・入金が多い、支出が少ない月を選ぶ
決算期の決定は、売上げ入金が多い月や、借入金の返済がなくキャッシュが潤沢にある月を設定するのが良いでしょう。

・繁忙期前や取引き先の事情を考慮する
特に、繁忙期の前で支出が多くなる月は避ける方が無難です。
また、取引先に公的機関がある場合、それらの機関は3月に予算編成を行い、売上げを3月に入金するケースが見られます。
このような場合、3月直前にはキャッシュが不足することが考えられるため、その月も避けるほうがおすすめです。

繁忙期は含めない

決算期が繁忙期と重なると、以下に示すような様々な弊害が起こります。

・作業に手が回らなくなる
決算の作業には、これまでの取引きのまとめや棚卸し作業など、多くの業務を行わなければなりません。
これを繁忙期に行うと、担当者の作業は膨大になり、処理しきれなくなることが考えられます。

・納税額を見通しにくい
繁忙期は、より利益を得ることができる時期ですが、この時期には利益に変動が出やすいもの。繁忙期が決算期である場合、利益がどれくらいになるか予想しづらいです。
その結果、想定していなかったような納税額の増減が起こりえます。

・節税対策などが行いにくい
決算に向けて、少しでも税金を圧縮するために、前もって準備しておくことが求められますが、繁忙期と重なると節税対策が立てにくいかもしれません。

消費税の免税を考慮する

基本的に、当期の売上げ高が1,000万円を超える会社は、その2期先から消費税の納税が必要です。

会社設立後2期までは、消費税の課税対象となる売上げ高が存在しないため、その期間は免税となる期間です。
会社を設立してから1年後を決算期とし、消費税の納税が発生する期をまるまる2年後とすれば、その分納税の義務が生じない期間が長くなります。
会社設立から6カ月以内に1,000万円を売上げた場合は、上記の免税時期にかかわらず2期目から消費税の納税義務が生じるでしょう。

しかし、設立から決算期が7カ月以下であれば、免税される取決めもあります。
これらの点を考え合わせて、売上げ高の予想も含め、節税のための決算期を考えるのもひとつの方法です。

法人税の納付時期から計算する

上記でも触れましたが、法人税の納付時期は、決算期から2カ月以内です。この時に、キャッシュが枯渇している場合、資金繰りが圧迫されます。
上記のように繁忙期を避ける方法とは少し違い、最も利益が望める繁忙期に納税月を合わせる方法もあります。

確かに、繁忙期前には支出が多くなりますが、繁忙期を超えた時期に法人税の納付を行えば、キャッシュにも影響を与えにくいです。
売上げの増減が見込みやすい業種の場合は、キャッシュが十分に用意できる時期を見定め、そこに法人税の納付時期を合わせて決算期を逆算しても良いでしょう。

役員報酬の支払い時期から決める

役員報酬は、事業年度の開始日から3カ月以内に金額を決定します。
役員報酬には毎月定額を支払う定期同額給与のほかに、事前に支払う時期を決める事前確定届出給与、業績に応じて給与額を変更する業績連動給与があります。
基本的に、これらの役員報酬の金額は決定すると変更できないため、支払い金額や時期が決まっているはずです。

そこで、法人税の納付時期を、役員報酬の支出が跳ね上がる時期から外す方法がこちらです。
ちなみに、役員報酬を決定する際には、前期の決算の結果から利益予想を立て、損金計上できる金額と役員個人の所得税が膨らみすぎない金額をよく考慮すべきでしょう。

事業年度と法人税納付の関係性


法人税は、各事業年度の所得に応じて課税されるものです。そのため、事業年度と法人税の納付についての関係性をよく知っておくと良いです。
以下では、事業年度における法人税の考え方について説明しましょう。

法人税の課税対象となる時期

法人税は、前事業年度の所得に対して課せられます。この時の所得は、税法上の益金から損金を差引いた額で計算します。
この場合、会計処理における利益に税務調整を行って、課税所得を算出します。

法人税法における事業年度の期間と確定申告

法人税法では、前述でも触れたように1年ごとに事業年度を区切る旨の取決めがあります。そして、1年に加えて端数月があるときは、その端数月で1事業年度とします。
そして、決算が終了し確定申告を行うのは、決算日の翌日から2カ月以内です。

事業年度終了から法人税納付時期までの数え方

確定申告の期限は上記のとおりですが、法人税納付期限についても、決算日翌日から2カ月以内です。つまり、確定申告を行った時は、直ちに納税を行う必要があります。
ちなみに、課税対象となる事業年度の法人税額が20万円超の会社に関しては、次期からは中間申告が必要です。

中間申告および法人税の納付を行うのは、事業年度開始日から6カ月となる日の翌日から2カ月以内です。

事業年度の設定で法人税を節税する方法

事業年度の設定によっては、法人税の節税対策をしっかりと練ることが可能なため、節税業務の余裕やメリットを得られるでしょう。

・法人税の納付時期に十分なキャッシュフローを得られる
事業年度を決める際、繁忙期がある程度見越せる場合、その月を事業年度開始月にすることで、売上げ金の入金時に納税期限を合わせることが可能。
繁忙期前を決算期とすると、資金繰りには注意が必要である一方、以下のような節税対策を講じる際には余裕ができ、適切に法人税を圧縮できるメリットもあります。

【赤字繰越し】
もし赤字が出た場合には、向こう3期まで赤字を繰越し、黒字と相殺できます。

【貸倒引当金を考慮する】
売掛金などで回収できない可能性があるものは、貸倒引当金として損金計上できる場合があります。

【経営セーフティー共済などへの加入】
経営セーフティー共済(中小企業倒産防止共済)とは、連鎖倒産などを防ぐための共済であり、この掛金は損金計上できます。

【使用しない固定資産などの廃棄】
固定資産として計上されているもので、使用していないものがあれば、廃棄証明書を発行した上で処分すると、その分を損金に算入可能です。

・従業員のモチベーション向上につながる
副産物的な効果ですが、その年の中で繁忙期が決まっている場合、あえてその月に決算月を合わせることで得られるメリットもあります。
繁忙期を事業年度末にし、会社の利益をより上げる重要性を従業員に周知すれば、モチベーションが向上して会社一丸となって乗り越えることが期待できるかもしれません。
さらに、キャッシュにも余裕ができるため、納税での支出が資金繰りが圧迫されずに済みます。

リース備品の経費計上で節税する方法

法人税の節税方法として、事業年度内にリース契約した備品のリース料を経費計上する方法もあげられます。
例えば、社用車やコピー機などは、事業運営には欠かせないもの。これらの備品をリースとすると、そのリース料は経費となり節税効果が見込めます。

また、リースの場合は翌年分のリース料を一括での支払も可能なため、その事業年度の所得の圧縮につながるでしょう。

事業年度終了時の決算と公告について


事業年度が終了した際の決算について、法人は国や公共団体などに向けて広く公告しなければなりません。
また、取引き先や融資元の金融機関、出資者にも、決算についての公告は必須です。
こちらでは、事業年度終了時の公告について解説します。

公告の必要性について

公告は、その会社の経営状況を公表し、特に取引き先、融資元、出資者に対して会社の健全性や安全性を周知させる役割があります。
これは、会社を支援する側が経営状況次第で不利を被るのを防ぐためです。また、公告には会社の社会的信用を向上させる目的もあります。

公告を行う時期は、事業年度が終了し決算報告を株主総会で行った後、できるだけ早く行うべきとされています。

公告の方法

公告を行うには、以下の3つの方法から選択します。

・官報に掲載
政府が発行する官報は、予算や法改正などのように国民に周知すべき事項が記載されたもの。費用は、1回掲載につきおよそ6万円です。

・日刊新聞に掲載
日刊新聞は、一般的に毎日発行されている新聞です。ここに公告を掲載する場合、新聞社ごとに設定されている費用が発生します。

・電子公告
電子公告は、ホームページなどWebサイトに公告を行う方法です。掲載費用は、会社のホームページ運営費で賄っているため、実質かかりません。

まとめ

事業年度の決定方法にはポイントがあります。事業年度が終了する月(決算期)をいつにするか迷っている人は、今回紹介したポイントから決めると良いでしょう。

また、法人税の納付との関係性についても注意してください。加えて、事業年度開始や終了時期の設定によっては、節税対策を取りやすくなるため、考慮したいところです。
より賢く事業運営を行うため、事業年度は十分に精査して決めるようにしてください。

創業手帳冊子版では、事業年度の決め方や法人税の納付方法などについて、詳しく解説しています。これから事業年度を決める人、また変更を考えている人は、ぜひ参考にしてください。
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(編集:創業手帳編集部)

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