役員報酬って変更できるの? 決め方や相場、税金について創業手帳の代表が解説します!

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役員報酬の適正金額とは?

【保存版】株式会社設立の「全手順」と流れをどこよりも詳しく解説!
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会社を設立して最初に気になるのが、仕事を始める自分(代表取締役)や家族(取締役)にいくら給与を支払わなければいけないか、ということです。

給与を支払いすぎると、資金繰りが回らないのではないか。
少なすぎると、会社の利益が大きくなりすぎるのではないか。
税法上、役員の給与には厳しい規制などがあるのではないか。

など、さまざまなことが気になるかと思います。
会社が取締役などの役員に支払う給与である「法人役員報酬」は、会社の損益計画や税金にも関わってきます。
この記事では、創業手帳の創業者の大久保が、会社の経営経験や、専門家のアドバイスを基に、法人役員報酬の決め方や注意点について解説します。

また、人を雇うことには、給与の支払い以外の業務が発生します。冊子版の創業手帳(無料)では、人事・労務の仕組みを整備する方法について解説しています。なかでも特に理解の難しい、公的保険制度についてはさらに詳しく解説しています。

この記事の解説者 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計100万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。資金調達コンサルティング(無料)も受付中。

※この記事を書いている「創業手帳」ではさらに充実した情報を分厚い「創業手帳・印刷版」でも解説しています。無料でもらえるので取り寄せしてみてください

この記事の目次

そもそも役員とは?

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日本の会社法第329条により、株式会社の役員が定義されています。役員とは、取締役・会計参与・監査役のことです。

取締役

株式会社における取締役とは、業務執行に関し意思決定する者のことです。会社法が施行される前は、取締役を3人設ける決まりがありましたが、現在は1人でも問題ありません。
なお、代表取締役とは、会社を代表とする取締役のことです。代表取締役だからといって、社長にならなければならない決まりはありません。

会計参与

会計参与は、会計書類などを作成・保管・開示する役員のことです。なお、会計参与になるには、税理士や公認会計士の国家資格が必要です。

監査役

監査役とは、取締役の職務を調査し報告するための役員です。株式総会で選任され、不正の報告や差止請求をできる権限があります。

法人役員報酬と給料って違うの?


それでは、法人役員報酬と給料の違いは何なのでしょうか。法人役員報酬の決め方を知る前に、これらの違いを知っておく必要があります。法人役員報酬と給料の明確な違いは、損金算入による税金の扱いの違いです。

法人役員報酬

法人役員報酬とは、会社から支払われる報酬のことです。給料と法人役員報酬の両方をもらうことはできません。増額や減額は、年度始の株主総会で決める必要があります。

また法人役員報酬は、不相当に高額になるのを防ぐため、損金に算入できる条件が決められています。全額損金に算入できると、大きな損失が見込まれる前に法人役員報酬を増やし、法人税を減らす対策ができるためです。損金として認められる法人役員報酬は、定期同額給与・事前確定届出給与・利益連動給与があります。

給料

給料とは、会社が従業員に対し労働の見返りとして支払うお金のことです。全額損金に算入ができ、増額や減額も自由です。

法人役員報酬はどうやって決めるの?

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それでは、次は法人役員報酬の決め方を見ていきましょう。

役員報酬を決める時期

法人役員報酬はいつまでに決めないといけないのでしょうか。実は、設立の日から3か月以内に決めなければいけません。例えば4月1日に設立の場合は、6月30日までに役員報酬の金額を決めます。

6月30日は報酬額決定の期限なので、それ以前の4月中に金額を決めて4月から報酬を支払う、5月中に金額を決めて5月から報酬を支払うといったことも可能です。

役員報酬の決め方

法律上、法人役員報酬は社長が勝手に決めてはいけません。会社法では、役員報酬は「定款または株主総会の決議によって定める」と決まっています。※定款とは会社設立時に作成した会社のルールを定めたものです。
では、実務上はどのような形式で役員報酬の金額を決めていることが多いのでしょうか。役員報酬の金額を決める流れは次のとおりです。

  1. まずは「株主総会」で役員報酬の総額を決めます。役員ごとの内訳は「取締役会または代表取締役」で決めるよう一任します。
  2. 「取締役会」で「株主総会」で決めた総額の範囲内で各取締役の役員報酬の金額を決定します。

それぞれ議事録を作成し残しておく必要があります。議事録は税務調査などでも確認する場合があるので、必ず作成しましょう

株式会社にとって「株主総会」で重要事項を決め、「取締役会」で細部を決めるということはよくあるため、議事録の作成・保存について意識しておきましょう。

役員報酬の税務(税法)上の取扱いは?

さて、上記のような段階をふまえて法人役員報酬を決定するとはいえ、実際は、経営者が役員報酬を決めていることが多いです。ただし、税法についての意識が漏れている事が多いため、確認をする必要があります。

役員報酬が税法上認められないとどうなる?

法人税法では、役員報酬はある一定のものしか損金(経費)として認められていません。
法人税法を考慮せずに決めた役員報酬が、損金(経費)として認められないとどうなるでしょう。

会社は損金(経費)が減り、利益が増えるため納める法人税が増えます。役員報酬を支払っているのに法人税も多く納めないといけないため、資金繰りも悪化します。

しかも会社の損金(経費)にならなくても、社長にとっては報酬をもらっているので、損金(経費)となっている給与と同様に、源泉所得税がかかります。これでは役員報酬を支払う意味も半減してしまいます。

役員報酬が税務上損金として認められるための3つの支払い方法

では、法人が支払う役員報酬のうち、法人税法で損金として認められるのはどのようなものでしょうか。一般的に使うもので主なものは次の3つです。

定期同額給与

毎月の給与のことです。1か月以下の一定期間ごとに支払われ(定期)、各事業年度で支払われる報酬金額が同額である給与のこと。税務署への特別な届け出は不要です。

事前確定届出給与

役員に対する賞与のことです。役員に支払う賞与について以前は損金として認められていませんでしたが、現在は以下のような条件で損金にすることができます。

  1. あらかじめ所轄の税務署に「事前確定届出給与に関する届出書」を提出する
  2. 届出書とおりの支給日に記載金額を支払う

なお、届出には提出期限が決まっているので注意しましょう。通常の提出期限は次の日のうち、いずれか早い日です。

  • 株主総会などの決議をした日から4か月以内
  • 会計期間開始の日(事業年度開始の日)から4か月以内

ただし、新設法人の場合は設立日以降2か月以内に提出することになります。

利益連動給与

同族会社以外の法人が、利益に関する指標を基準にして業務執行役員に支払う給与のこと。「利益に関する指標」は有価証券報告書に記載されているものに限ります。株主が社長一人だったり、奥さんと二人だったりする場合は「同族会社」なので、この方法を使うことはできません。

法人税の申告で提出する書類に「勘定科目内訳明細書」というものがあります。これは、現金や普通預金などの貸借科目の期末残高や、支払った地代家賃など一部の損益金額の1年間の明細を記載するものです。

この中に「役員報酬手当及び人件費の内訳書」があります。1年間に支払った役員報酬や従業員への給料の金額を記載しますが、上記の3つの給与について金額を記載する箇所があるので、内容を理解しておきましょう。
また、上記3つの給料以外で損金(経費)になるものとして、退職金やストックオプション、使用人兼務役員の使用人部分の給与などがあります。

役員報酬を決める際の注意点

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会社にとって、役員報酬は大きな費用です。上でも少し触れましたが、役員報酬は会社が支払う法人税や社長自身の所得税に大きく影響しますし、会社の資金繰りにも大きく影響します。
ここでは、役員報酬の決め方と注意点について見ていきます。

注意点①役員報酬額が少ないほど法人税が多くなる

法人役員報酬は会社から社長個人に支払うものです。別の見方をすると、報酬額を決めることは、会社と社長のどちらの手元に資金を残すのかを決めること。資金をどちらの手元に残すかで納税額は大きく変わります。

これは、経営者が会社の経営戦略とともに重要視しなければならないことです。

役員報酬を支払う前の会社の利益が500万円として考えてみましょう。

①社長個人の手元に資金を残す場合

主に個人で車や住宅のローンを組みたいときなどは役員報酬を多くします。ただし、個人の社会保険料が多くなるデメリットもあります。仮に利益500万円を全額役員報酬で支払った場合の税額は以下のようになります。

  • 給与収入 500万円
  • 給与所得控除(給与の額で決まる一定の控除額) 154万円
  • 給与所得 346万円
  • 所得控除 自分に対する基礎控除38万円(仮に扶養親族や社会保険料控除を0で計算しています)
  • 税金計算の対象となる所得 346万円-38万円=308万円
  • 所得税 3,080,000円×10%-97,500=210,500円(所得税の税率は所得金額により変わります)
  • 住民税 (3,080,000円+50,000円)×10%=313,000円(住民税は自分と扶養家族1人あたり50,000円所得が多くなります。税率は一律10%です)

また、会社には、法人税や地方法人税、法人住民税、法人事業税などの様々な税金がかかります。中小企業の場合、税金の目安となる実効税率は売上や資本金にもよりますがここでは22%程度と仮定します。すべて役員報酬とすれば損金として税金を減額できるため、以下のようになります。

個人:所得税210,500円+住民税313,000円=523,500円
会社:- 500万円×22%= – 1,100,000円

②会社の手元に資金を残す場合

金融機関から融資を受けて事業を拡大しようとする場合などは返済能力があるか、つまり会社に返済できる資金が毎年あるかが融資を受けることができるポイントの1つになります。そういった場合は役員報酬の金額を少なくします。ここでは仮に役員報酬を0にし、利益500万円を会社に残す場合の税額を算出してみましょう。

個人:0円
会社:500万円×22% = 1,100,000円

③社長個人と会社の利益を同じにした場合

仮に役員報酬250万円、会社の利益250万円にした場合、法人税額は以下のようになります。

個人: 240,500円
会社:550,000円

このように、役員報酬の金額で税額が大きく異なります。会社の経営戦略と税額を考え、役員報酬の金額を決める必要があります。

このように役員報酬にまつわる税については非常に計算が難しくなっています。このような計算が得意ではない、という起業家も多くいるでしょう。しかし、計算を間違ってしまうと、経営戦略がうまくいかなくなってしまいます。そのようなミスをなくすためにも、役員報酬を考える際には、税理士を活用するのがよいでしょう。また、冊子版の創業手帳では、税理士との二人三脚で経営を拡大した起業家のインタビュー記事を掲載しています。税理士は税務面だけでなく、お金の専門家としての知見を活用して、経営戦略へのアドバイスをくれます。起業時から契約することにより、さらに経営を拡大させられるかもしれません。

注意点②会社の損益計画を間違うと予想外の納税が発生する

設立時だけでなく、毎年役員報酬の金額を変更できるのは原則期首から3か月以内です。そのため、期首に会社の損益計画をある程度、正確に立てなければなりません。

期首にたてた損益計画よりも売り上げが伸びるとその分利益も上がり、納税額も高くなります。売り上げが伸びることは喜ばしいことですが、資金繰りのことを考えると懸念もあります。

売り上げと同時に代金の入金があれば問題ないのですが、翌月の入金や売掛代金を現金ではなく、手形などでの回収することも多くあるため、売り上げは伸びて納税額も高くなるが手元に資金がないという事態も起こりうるのです。

しっかりとした損益計画が必須!

上述したとおり、売上が伸びすぎても資金難に陥る場合もあります。会社の場合、一般的に個人事業主のときよりも扱う金額が大きくなります。しっかりとした損益計画、そしてそれに伴う資金繰りの計画など、「計画」がより重要になります。

計画の立て方はいろいろありますが、例えば

  1. 1年間の売上金額
  2. 1年間の仕入金額や粗利益(売上金額から仕入金額をさし引いた利益)
  3. 1年間の家賃や水道代、従業員の給料などの固定費

の正確な計画を立てることができれば、売上金額から仕入金額や固定費を引いたものが1年間の利益になるため、役員報酬の額について計画を立てることができます。

また、上記の計画を月ごとにおこない、売上の入金や仕入の支払い・借入の返済などの資金の動き(サイクル)を加味すると、月ごとの資金が不足しないかなども把握することができるでしょう。自らの会社にあった、そしてより正確な計画をいかに早い時期に立てられるようになるかがポイントになります。

このような計画を立てるには、資金繰り表を作成すると役に立ちます。冊子版の創業手帳では、資金繰り表の作成術について詳しく解説しています。また、資金繰り表の読み解き方や、その後の対策も一緒に解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。

また、税理士に相談することもおすすめです。もちろん自分でこのような計画を立てられることが望ましいのですが、最初からはなかなか難しいため、最初の数年は税理士と並走してやり方を学ぶというのも有効な方法でしょう。

注意点③定期同額給与はあとから変更できない

役員報酬の中で一番重要なのは、定期同額給与です。これを理解していないと、後で痛い目にあうことがあります。まず定期同額給与を理解しましょう。

定期同額給与の条件

定期同額給与とは上述したとおり、1か月以下の一定期間ごとに支払われ(定期)、事業年度内で支払われる報酬金額が同額である給与のことです。役員報酬は期首から3か月以内なら変更可能ですが、変更後の期間内に支払われる給与はそれぞれ同額でなければなりません

すなわち、期首から3か月間に10万円ずつの給与を支払い、その後役員報酬額を20万円に変更した場合、残りの9か月はいずれも20万円を支払うことになります。基本的に役員報酬は損金(経費)にできませんが、定期同額給与は損金にすることができます。

失敗事例:期中に変更してしまうと・・・

例えば、最初の半年は毎月50万円、資金繰りが悪くなったので残り半年は毎月40万円にした場合、定期同額給与は1年間通じて月40万円とみなされます。最初の半年は定期同額給与40万円にそれ以外の給与10万円がプラスされたとみなされ、

(50万円-40万円)×6か月=60万円は損金(経費)にすることができなくなります。その分利益が増え、税金が高くなってしまいます。

注意点④使用人兼務役員の採択で、納税の選択肢が増える

使用人兼務役員は役員のうち、以下の人をいいます。

  1. 部長、課長など法人の使用人(従業員)としての立場も兼ねている
  2. 常時使用人としての職務に従事している
  3. 代表取締役や副社長などの一定の役員でない

例えば、取締役部長や取締役工場長などが使用人兼務役員に当たります。使用人兼務役員には、役員部分に対する給与(役員報酬)と従業員部分に対する給与(給与手当)を支払うことができます。賞与についても、役員部分に対する賞与と従業員部分に対する賞与を支払うことができます。

役員部分については、毎月の給与は定期同額給与しか認められません。また賞与については、事前に届け出を出した金額しか支払うことができません。しかし、従業員部分については頑張って黒字を出すと、その分賞与を支払うということできます。このように役員に対しての支払額に幅をもたせることが可能です。

※使用人兼務役員は支払いに幅をもたせることが可能なため、税務調査等では注視されます。給与に対する業務内容が他の従業員と同じ水準になるよう注意しましょう。

注意点⑤役員報酬を増やすと社会保険料額が上がる

従業員の給料と同じように、役員報酬にも金額に応じた社会保険料がかかります(社会保険料とは健康保険料と厚生年金保険料の総称です)。役員報酬の金額が高くなればなるほど、社会保険料の金額も高くなります。社会保険料は会社と個人で折半のため、両方に影響します。

社会保険料の金額は都市によって異なるため、
例えば東京都で40歳以上の方 月額30万円とすると、健康保険料 34,620円 厚生年金保険料 53,484円 合計88,104円かかります。

月額60万円だと健康保険料 68,086円 厚生年金保険料 105,185円 合計173,271円かかります
※会社と個人の合計金額です。社会保険料の金額は28年度の料率で計算。

社会保険料の金額は高く、役員報酬の金額を決める際に考慮しないと資金繰りの悪化につながります。役員報酬の金額を決める際には、法人の法人税、個人の所得税、社会保険料を総合的に判断するようにしましょう。

社会保険料の金額は、全国健康保険協会の「平成30年度保険料額表」で確認できます。該当する都市を選択してご確認ください。

保険関係は、社労士に相談すると間違いがないでしょう。冊子版の創業手帳では、創業期に社労士と契約することのメリットについて詳しく解説しています。また、必要な時にだけ依頼できる社労士サービスも紹介していますので、ぜひチェックしてみてください。

注意点⑥役員報酬のひとつ「役員賞与」は原則損金算入が認められない

役員に支払う賞与も、役員報酬のひとつです。ただし、1か月単位で支払う役員給与と臨時で支給する役員賞与は税務上の扱いが異なるため注意が必要です。それぞれ、会計上は役員報酬に位置付けられ発生主義となるのに対し、税金面では両者を区別します。

前述したように、役員報酬には定期同額給与・事前確定届出給与・利益連動給与の3つがあります。この3つのうちいずれかに該当すれば損金扱いとなりますが、従業員と同様の形で支給する賞与はどれにも該当しないため、損金算入が認められません。

役員賞与を損金扱いとするためには、役員賞与相当額を年額の12分の1で割って役員給与に上乗せする、賞与支給の旨を納税地の所轄税務署長に届出する、といった方法があります。なお、事前確定届出を出す場合には、定時株主総会にて支給時期と支給金額を定める必要があります。

役員報酬を期中に変更する際の方法・注意点

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期首3か月以内の変更であれば問題なく変更をすることは可能ですが、期中となると特別な理由が必要になります。ここでは、役員報酬の期中の変更方法について見ていきます。

特定の条件下でのみ変更が可能

役員報酬は原則、期首から3か月以内の変更以外は認められていません。これは日本の会社は株主と役員が同じもしくはその家族ということが多いため、役員報酬の変更を経営者の判断で簡単にでき、その年の利益を操作しやすいためです。しかし、どうしても変更が必要な場合は年の途中でも変更することが認められています。減額、増額それぞれのケースで変更可能な場合を見ていきましょう。

役員報酬を減額する場合

役員報酬の変更は次の2つの理由の場合に限られています。

  1. 臨時改定
  2. 業績悪化改定

この中で、減額の場合にあてはまるものを見ていきましょう。

①臨時改定

その役員の職務の内容に重大な変更があった場合は、役員報酬を減額できます。重大な変更とは、次のような場合をいいます。

  • 役員が事故や病気で長期入院した場合で仕事ができない場合
  • 役員が不祥事等をおこしたために減額せざるをえない場合

などです。仕事ができない、または不祥事をおこしたのに法律で役員報酬を減額できないのはおかしいということから、減額が認められています。

②業績悪化改定

法人の経営状態が著しく悪化したことなどの理由による改定です。「著しく悪化」については「売上がいくら下がったか」あるいは「利益が何%下がったか」などの具体的な指標は公表されていません。公表されているのは次の3つです。

  • 株主との関係上、業績や財務状況が悪化したことへの役員としての経営上の責任から、役員給与の額を減額せざるをえない場合
  • 借入金の返済が遅れているなどが原因で、取引銀行との間で行われる借入金返済のスケジュールの協議において、役員給与の額を減額せざるをえない場合
  • 業績や財務状況又は資金繰りが悪化したので、取引先等の利害関係者との信用を維持・確保する必要があり、経営状況の改善を図るため役員給与の額の減額せざるをえない場合

基本的に役員報酬を減額できるのは、会社以外の第3者との関係で減額せざるをえない場合になります。売上や利益の下げ幅などについての具体的な指標が公表されていないため、状況判断を伴います。議事録を作成し、なおかつ税務調査で説明できるようにしておきましょう。

役員報酬を増額する場合

減額の場合でも触れましたが、役員報酬の変更は次の2つの理由の場合に限られています。

  1. 臨時改定
  2. 業績悪化改定

このうち、業績悪化改定は減額の場合のみのため、増額は「臨時改定」に限られます。では、増額のときの臨時改定はどのようなものでしょうか。
これは主に役職の変更です。例えば、取締役から代表取締役になったなどの場合です。仕事量が増えたり責任が重くなったりするので、当然役員報酬は増えるべきです。

この場合も、法律で役員報酬を増額できないのはおかしいため、増額が認められます。ただし増額の結果、役員報酬の総額を超えてしまう場合や他の同じ役職の人に比べて不当に高い金額などは認められません。増額の場合も議事録が必要です。

役員報酬を変更する場合の議事録作成の例

役員報酬を変更する場合は、議事録を作成する必要があります。役員報酬の変更は、株主総会または取締役会で行います。
取締役会設置会社であれば取締役会で、それ以外は株主総会で行います。株主総会であれ、取締役会であれ議事録の様式は大まかには決まっています。

  1. 開催日時と場所
  2. 主席者 (株主総会の場合は株数等も必要)
  3. 議案 役員報酬の変更
  4. 記名押印

という流れです。

株主総会議事録

株主総会議事録

開催日時 平成○年○月○日午前○時○分より午前○時○分まで
開催場所 ○○県○○市○○町○丁目○番○ 当会社本店会議室

議長に就任した代表取締役○○○○が、本株主総会は以下のとおり出席があり、適法に成立した旨を宣し、定刻に議案の審議に入った。

 発行済株式の総数         ○○○株
 議決権を有する総株主の数      ○○名
 総株主の議決権の数        ○○○個
 出席株主の数(委任状出席を含む)  ○○名
 出席株主の議決権の数       ○○○個

第○号議案 取締役報酬額変更の件
平成○○年○○月以降の代表取締役及び取締役の報酬を次の通り変更する。
議長は、下記の承認を願いたい旨を述べ、その理由を詳細に説明しその賛否を議場に諮ったところ満場一致の賛成を得て一同これを承認可決した。

 1.代表取締役 ○○○○  月額○○万円
 2.  取締役 ○○○○  月額○○万円

議長は、以上をもって本日の議事を終了した旨を述べ、閉会した。
この決議を明確にするため議長及び出席取締役が記名押印する
 平成○○年○○月○○日

             株式会社○○株主総会
              議長・代表取締役 ○○○○     会社実印
                 出席取締役 ○○○○     印
                 出席取締役 ○○○○     印

取締役会議事録

  
取締役会議事録

平成○年○月○日午前○時○分より当会社本店において取締役会を開催した。
議長に就任した代表取締役○○○○が、本取締役会は以下のとおり出席があり、適法に成立した旨を宣し、定刻に議案の審議に入った。

 取締役の総数    ○○名
 出席取締役の数   ○○名
 監査役の総数    ○○名
 出席監査役の数   ○○名

第○号議案 取締役報酬額変更の件
平成○○年○○月以降の代表取締役及び取締役の報酬を次の通り変更する。
議長は、下記の承認を願いたい旨を述べ、その理由を詳細に説明しその賛否を議場に諮ったところ満場一致の賛成を得て一同これを承認可決した。

 1.代表取締役 ○○○○  月額○○万円
 2.  取締役 ○○○○  月額○○万円

議長は、以上をもって本日の議事を終了した旨を述べ、閉会した。
この決議を明確にするため議長及び出席取締役が記名押印する
 平成○○年○○月○○日

             株式会社○○取締役会
              議長・代表取締役 ○○○○     会社実印
                 出席取締役 ○○○○     印
                 出席取締役 ○○○○     印

上記はあくまで一例です。多少、文言等が変わっても問題ありません。代表取締役の印鑑は会社の実印を押印します。他の取締役は認印で問題ありません。

役員報酬の変更は税務署も注視しています。議事録だけでなく、変更になった理由を示す資料も残し、税務調査の際にはきちんと説明できるようにしておくことが必要です。

注意点:期中の減額や増額は不可!

上記の議事録を見てみると、○○月以降の報酬となっています。役員報酬の減額や増額は、あくまでその基となる原因があっておこなうものです。そのため、期首などにさかのぼって変更することはできません。さかのぼって変更すると損金(経費)として認められなくなり、税金を追加で納付することになります。

まとめ

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役員報酬は会社にとっては大きな費用です。しかも、法人に対する法人税、個人に対する所得税、社会保険料と影響するところが多く、金額の設定を間違えるとたちまち資金繰りの悪化などに陥りかねません。それを回避するためには、1年間のしっかりとした損益計画を立てる必要があります。

また、「定期同額給与にしていなかった」「認められていない事由で金額の変更した」など、役員報酬が損金(経費)にならないケースもあります。どのような役員報酬が認められるかを知り計画を立てましょう

計画を立てるということは会社の利益を把握するということです。これは、役員報酬だけではなく、これから会社を大きくするためには必要不可欠なことです。会社の利益を把握し、しっかりとした経営計画をたて会社を大きくする。そして役員報酬も増やしていくことができれば、会社も経営者も成功できるでしょう。

このように、起業直後には気をつけるべきことが多数あります。創業手帳は、起業に必要なノウハウを一冊にまとめた冊子「創業手帳」を無料で送付しております。起業に関する手続きだけでなく、資金調達の方法や、創業支援を行ってくれる機関の紹介、経営に役立つツールの解説など、幅広い視点から起業の役に立つ情報をまとめています。

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教えて先生!Q&A
役員報酬とは何?

(編集:創業手帳編集部)

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