デザインの力で農業を変える! ファームステッド長岡淳一の農業ブランド革命

創業手帳
※このインタビュー内容は2021年10月に行われた取材時点のものです。

生産者の思いや商品を理解し、見える化することからスタート。農家の強みを引き出すブランディングと仕掛け術

農業は地域のつながりや食への関わり、そして経営など、奥が深くやりがいがありますが、ブランディングや採用、高齢化や後継者など課題も多い事業といえるでしょう。そんな中、自らの商品をしっかりとブランディングしたいと考える生産者の支持を集めるのが、株式会社ファームステッド / クリエイティブディレクターである長岡淳一さんです。

生産者の商品に対する思いをロゴやパッケージのデザインに最終的に落とし込んでいきますが、単なるデザインではなく、その農場の本質を整理することが重要だといいます。その過程に半年、1年かけることも珍しくないそうです。

最終的に、その農場の本質を絞り出し、形にし、削ぎ落とし、あらゆるものに統一感を持たせていきます。その結果として、販売や、採用、承継などにも良好な効果があるそうです。小手先のマーケティングやデザインではなく、バラバラであったり、埋もれた価値を整理して伝えて形にすることで農場の問題を解決しようとする長岡淳一さんを、創業手帳代表の大久保が取材しました。

長岡 淳一 (ながおか じゅんいち)
株式会社 ファームステッド代表取締役・クリエイティブディレクター
1976年北海道帯広市生まれ。専修大学経済学部卒。世界各国を回った経験を生かし、地元北海道十勝にてアパレル・飲食事業などを立ち上げ、その後、2013年「地域にこそデザインを」をコンセプトとした、株式会社ファームステッドを設立。
農業と食と地域をデザインブランディングで発信するモデルを作り、現在は日本全国からの依頼を受け、ブランド戦略のトータルプロデューサーとして活躍中。講演活動も全国各地から依頼を受け多数開催。グッドデザイン賞など受賞歴も多数。農林水産省 六次産業化エクゼクティブプランナー。著書に『農業をデザインで変える』『農と食と地域をデザインする-旗を立てる生産者たちの声』。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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農業がこれからも素晴らしい憧れの仕事であるために

大久保:本日はどうぞよろしくお願いいたします。まず、どういった経緯でこのような仕事をすることになったのでしょうか。

長岡:祖父が帯広の開拓農家で、帯広で育ったので、元々農業に対する憧れがありました。帯広の農家は開拓の大農場なので、年収も比較的農家にしては高かったり、日本の他の地域に比べるとわりと恵まれた環境にあったんです。農業を間近で見て、農業の良い面や大変な現実も見ながらも、農業に対する良い思いというものがずっとありました。

その後東京の大学に行って、アパレルの仕事をしていたりしましたが、農業用の服のデザインを手掛けたことから、ブランドづくりや、ロゴマーク制作などの仕事が増えてきました。農業でそういった課題を持っている方が多く、仕事が広がっていき、今では200ほど農場のデザインを手掛けています。

やはり自分が得たブランディングやデザインの力が農業には、まだまだ普及していないかもしれません。農業がブランドやデザインによってよりよくなればと思います。

大久保:幼い頃から、農業と関わりを持っていたことが今の仕事への思いにつながっているのですね。具体的には、どんな方からの依頼があるのですか?

長岡「自分達で自分たちの商品・農作物を売っていきたい」「自分たちの商品や農作物をブランド化したい」という人です。例えば農協自体は必要とする方は多いですが、今のシステムだと、単に「北海道産」というくくりになる。本当は北海道産より帯広産、あるいは自分の農場産というブランドで勝負したいという方も多いのではないでしょうか。それによってより高い単価を設定することができたり、働くことの誇りにもつながってくると思います。

若い方だけでなく年齢の高い農場主の方も相談に来ます。「自分たちの商品をブランド化したい」という思いを、若い方も年齢が高い方も、多くの農場主さんが持っています。このままではなく、長期的に存続していく農業を確立しようという思いや課題感のある方に共感していただいています。

販売、採用、承継を考える前に、まずはブランドを整えよう

大久保:現代の農家にはどういう課題がありますか?

長岡:農業の課題は、商品の販売、採用、承継など色々あります。「食べてもらえば分かる」と思っているような生産者の方も多いのですが、残念ながら昔のように商品だけで売れるわけではなく、そこにブランドやパッケージでしっかり「伝える」ことをしないと売れないという時代です。

また昨今の農家の人不足で、その農場の良さが伝えられていないというケースもあります。そして自分達がやっていることや強みを見える化していかないと、事業承継もなかなか難しいところがあります。普段なんとなくやっていることや意識していることを整理して、ロゴやパッケージ、場合によっては農場の理念などに落とし込んでいきます。

ロゴはいってみれば戦国時代の武将の旗印(はたじるし)のようなものです。旗印からあるから進む方角が見えてきます。

大久保:具体的にどういうステップで変革していきますか?

長岡:次の4つのステップで進めていきます。

①最初に信頼・背景を知る
まずは信頼関係からです。半年から1年ほど準備期間をかけることも珍しくありません。農場の社員と家族のような付き合いをしている自分たちがやらないといけない、という責任感を感じています。
農業自体が1年サイクルですし、土作りから含めて10年単位の仕事です。動きの早い東京の仕事に慣れているとさじを投げてしまいますが、長い時間をかけて、根底の思いや背景を共有して、デザインにつながるさまざまなディテールを洗い出していきます。この準備期間が農業に関わるデザインをする上で、他の業態と大きく違うポイントです。

②想いを形にする
次に、徹底的に洗い出した想いや要素を自分やデザイナーが形にしていきます。やはり、形にしないとイメージが湧きません。また、このデザイン部分は、外注していません。仕事を増やすことや手間を考えると、外注する方が合理的ですが、ここは農場関係を専門に手掛け、その農場のことを1年がかりで見てきて、そこの社員と家族のような付き合いをしている自分たちがやらないと良いものができません。

③削ぎ落として重要な要素だけ残す
形にしたら、今度は削ぎ落とすという過程があります。
無駄なものを省いていくことでシンプルになり、デザインが洗練されるだけでなく、一番重要なものが残ります。

④統一し、根付かせる
次は、統一するというステップに入ります。ブランドは統一されていないと威力を発揮しません。
ロゴ、パッケージ、看板、ユニフォーム、社是、ホームページ、SNS、はては車のラッピングまで徹底的に統一していきます。
自分たちの旗印だという感覚になると、自分たちで積極的に使ってくれるようになりますね。

自分たちのブランドで勝負したいという農家は多い

大久保:1社に対し、実に多くの時間をかけて取り組んでいらっしゃるのですね。どういう事例があるのかぜひ見せていただきたいです。

長岡:例えば船方農場、西製茶の事例を見てみましょう。
バラバラだったデザインを統一するだけで、向く方向が定まるのを実感していただけるでしょうか。

▼「船方農場」の例

▼「西製茶」の例

大久保:統一するという意味がよくわかりますね! パッケージデザインと言えども、見た目だけではなく、生産者の方たちの精神的な旗印となるのが理解できました。最後に、読者へのメッセージをいただけますでしょうか。

長岡:これから農業にチャレンジされる方、農家を変革したい方が読んでくださっているといいなと思いますが、課題が多い一方で、いろいろな可能性がある、自分にとっては憧れの業界が農業でした。「デザインとブランドの力」を活用して、これからも発展し続ける農業を作っていきましょう。

大久保:興味深いお話をありがとうございました!

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(取材協力 : 株式会社 ファームステッド代表取締役 長岡 淳一
(編集: 創業手帳編集部)



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