起業家 成田修造|会社員こそリスク。起業や小さな会社で「自分で稼ぐ力」を磨けば、人生はもっと面白くなる
クラウドワークスの元副社長を務めた成田修造さんが次に目指すビジネスとは?
大学4年生で株式会社クラウドワークスの役員となり、その後副社長として全事業を統括した成田修造さん。成田さんは10代で父親の失踪と母親の病に見舞われ、苦しい経済状況の中、経済学者の兄・成田悠輔さんのある助言で起業家を目指したそうです。
2022年にはクラウドワークスを退社され、現在は複数企業の社外取締役を務めながら次の起業に向けて取り組んでいます。「もっとリスクを取って、起業にチャレンジしてほしい。変化が激しい今の時代は起業家精神こそ必要です」と語る成田さん。今回は起業までの経緯やこれからチャレンジしたいことについて、創業手帳代表の大久保がインタビューしました。
起業家・エンジェル投資家
1989年東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部に在学中からアスタミューゼ株式会社に参画。その後アート作品のメディアサイトなどを手掛ける株式会社アトコレを起業。2012年に株式会社クラウドワークスに参画し、大学4年生で執行役員となる。株式上場後は取締役副社長兼COOとして全事業を統括、2022年には取締役執行役員兼CINO(最高イノベーション責任者)として新規事業開発や投資に携わる。2022年12月クラウドワークスを退社、起業など新たな道を切り拓くことを決意。著書は「14歳のときに教えて欲しかった起業家という冒険」(ダイヤモンド社)。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
10代の経験で、自分の人生を真剣に考えるようになった
大久保:著書でも成田さんの幼少期のお話がありましたが、あらためて生い立ちから起業まで、お聞かせいただけますか。
成田:僕は東京都北区で生まれ、4人家族で4つ上の兄(編集部注:経済学者である成田悠輔氏)がいます。僕が14歳の時に父親が失踪してしまい、結局帰ってこなかったんです。家計のことなど本当に母は大変な思いをしていました。この経験で、人生を真剣に考えるようになり、勉強を始めました。
勉強とはいわゆる学校の英国数理社ではなくて、社会の勉強です。本にも書きましたが兄から読むべき36冊のリストをもらい、そこからいろいろな本を読むようになりました。さらに映画や音楽に触れたり、美術館へ行ったり、大学の授業に潜ったり、そういう中で少しずつ世の中が見えてきました。これが今の自分のベースになっていると思います。
その3年後にショックな出来事がありまして、僕が17歳の時に母親が脳出血で倒れてしまったんです。命はとりとめたものの、後遺症が残り仕事や家事ができない状態になってしまいました。家事や介護を担うことになりましたが、10代でこういう経験をしたので、生命力というか生活する力はついたと思います。その後奨学金を得て、慶應大学に入りました。
大久保:大学生ですでに起業されていますが、起業に関心を持ったきっかけは何でしたか?
成田:起業に関心を持ったのは、兄に勧められた2冊の本ですね。大前研一さんの「企業参謀」と、保田隆明さんの「企業ファイナンス入門講座」という2冊です。それまで哲学やアートなどの本を多く読んでいたのですが、この2冊を読んで自分にはこっちの方が合っているかもと思い、ビジネス方面に進むことにしました。
それから大学1年生の時、国際ビジネスコンテストを運営する起業サークルに入りました。ここではいろいろな起業家の先輩たちと出会い、ビジネスの基礎を学びましたね。起業前のユーグレナの出雲充さんや、ラクスルの松本恭攝さんと出会ったのもこの時です。起業家の方だけではなく、GEジャパンやリクシルの代表を務めた藤森義明さんなど、いろいろな方と知り合うことができました。
当時から起業は考えていましたが、どちらかというと小さい会社を大きくしていくところに興味があったんですよね。そこで大学2年生の時にアスタミューゼという会社にインターンシップで入りました。社員20人くらいの会社で、知的財産や特許などの情報プラットフォームを手掛ける他、人材事業や研究開発支援なども展開していました。
その会社で2年間がむしゃらに働き、勢い余ってインターンから正社員になりました。学生をしながら、正社員として上場させるため頑張っていましたね。ただリーマンショックの直後でしたし、いろいろあって自分で起業しようと思ったんです。そこで会社を辞めて、他の学生3人と一緒にアトコレという会社を立ち上げました。
もともと僕はお金儲けより、社会にインパクトを残すことがしたいと思って起業に惹かれていました。とはいえ学生なので、大きな資本やコアな技術力はありません。そこで100個ぐらい思いついていたビジネスアイデアの中で、ぽっとアートが浮かんできました。
アートとITを掛け合わせたビジネスを考え、最初はアーティストたちが集まるメディアやコミュニティサービスを作って、広告やアートの売買に広げたいというビジョンでした。
ただアートはすぐ儲かるわけではないので、資金調達が必要になりまして。やや大きな金額で資金調達しようという時、あらためてアートで行くのか別の領域にするか、考えたんです。最終的に自分の実力不足を感じ、会社の代表を降りて別の道に行くことに決めました。
大学3年生でしたので、就職活動をして大手から内定をいただいていました。そんな時にクラウドワークスの代表である吉田浩一郎さんから声をかけていただき、クラウドワークスでインターンを始めたんです。
正直最初はクラウドワークスに入りたいというわけではなく、勉強させてもらおうという感覚でした。その後吉田さんのシリコンバレー出張についていってアメリカのスタートアップを見て刺激を受けたんです。何度も吉田さんから「一緒にやろうよ」と声をかけていただいたこともあって、クラウドワークスに就職しました。
クラウドワークスは勢いに乗って成長していきましたし、僕自身も仕事をする中で成長を感じられました。3年後に上場、そこから僕は副社長になり、10年近く経営に関わりました。
常にアンテナを立たせ、情報を「自分事」と捉えればチャンスは舞い込む
大久保:お話を伺っていると、成田さんは面白いことへのアンテナが常に立っていて、ご自身でチャンスを切り開いている感じがします。
成田:そうですね。現体験としては2つあります。1つは僕が高校生だった2007年にスティーブ・ジョブズがiPhoneを発表した動画を見た時です。もう1つは「プロフェッショナル仕事の流儀」という番組で、MITメディアラボの教授をしていた石井裕さんが、新しいユーザーインターフェイスの開発をしている姿を見た時です。
どちらもすごくインパクトがありました。世の中にない価値を届け、それが人の暮らしに大きな影響を与える。そういうものを生み出す仕事があることを知ったんです。
そこから、今もですが、アンテナを立たせて生活しています。漠然と生活していると、見逃すことも多いじゃないですか。毎日入ってくる情報を常に「興味ある」「興味ない」と判別しています。それがチャンスの舞い込むきっかけになったのかな、という気はしています。
大久保:学生の時から起業家や大企業の社長とも交流があったということですが、そういった方々からも大きな刺激を受けたのではないでしょうか?
成田:そうですね。例えばユーグレナの出雲充社長は当時からインパクトがありましたね。ミドリムシでベンチャーを立ち上げただけではなく、バイオジェット燃料で飛行機を飛ばすなんて言っていましたから。
周囲の方々も出雲さんの面白さやすごさは知っていたと思うんです。ただ僕は当事者意識をもって聞いていました。そこが違いではないかなと思います。
あとは、そういうすごい人たちを遠い存在として見ないようにしていましたね。本当にすごい先輩たちに囲まれていたので、あの人ぐらいになればこうなるんだっていう感覚は身についていると思います。僕の場合は兄もすごい人でしたから、たまたま家族にそういう人がいたことも影響しているかもしれません。
大久保:起業を目指す方や起業直後の方に向けて、こうすると視野が開けるよ、というアドバイスがあれば教えていただけますか?
成田:動画も本も、いろいろ取り入れていいと思います。ただし情報をインプットするだけではなく、自分のキャリアや人生を整理しないとダメかなと思います。
自分の得意なことややりたいことを理解して、それと情報を連動させることが大事だと思います。常に入ってくる情報に対して、自分はどう思うかを考える。そういう癖をつけてほしいですね。
大久保:全て自分事という前提があるからこそ、ヒントが見つかるわけですね。
成田:そう思います。ヒントを感じ取れるかが大事です。ユーミンの「優しさに包まれたなら」という曲に「目に映る全てのことはメッセージ」という歌詞がありますよね。まさにその通りなんです。
大久保:私がラクスルの松本さんとお会いしたのは青山の喫茶店で、松本さんが隣の席でECサイトの話を電話でしていたところ、声をかけました。今思えば怪しいですが、それが知り合うきっかけでした。
成田:まさにヒントがそこにあったという感じですよね。面白いなと思う人についていくことで、チャンスが生まれます。それに面白い人と話せるようになろうと思って勉強すれば、自分自身も面白くなってくるんですよ。僕が起業した時もそうでしたし、今もそうです。
もちろん話すのが得意な人もいれば苦手な人もいると思うので、得意なことをすればいいと思います。話すのは得意ではないけれど、製品やサービスを作ることが得意な人もいるはずですから。
自分たちで動かしている手触り感を得られるのは、間違いなくスタートアップ
大久保:今は上場してクラウドワークスも大きくなりましたが、成田さんが入った頃はまだ立ち上げ間もない頃でしたよね。小さな会社だったからこそ、いい経験になったということはありますか?
成田:上場前のクラウドワークスは、自分たちで動かしている感覚があってすごく楽しかったです。仕事の難易度や結果を出さなければいけない状況は、どのスケールでも基本は一緒だと思うんですよ。ただ、そこで自分たちが動かしている感覚は、絶対にスタートアップの方が得やすい。もちろん、サービスが受け入れられている前提ですが。
僕は小さい会社に行った方がいいと思うんですよ。これが今回本を書いた理由でもあります。みんなリスクだと捉えすぎているんですよね。でもリスクではありません。小さな会社で失敗したら、次の小さい会社に行けばいいだけですから。最初から大きい会社に入るよりも、小さい会社が大きくなるところを経験する方が、人生においてずっと貴重な経験ができます。
会社が大きくなればやるべきことがどんどん増えて、結果的にたくさんのことを学ばなければいけない。だから勉強する。特に若い人は、そういう環境に行くことが大事だと思うんですよね。
大久保:成田さんがクラウドワークスへ入った当時は、新卒でスタートアップに就職する人は珍しかったと思います。最近では一般的になってきましたね。
成田:スタートアップが当たり前の選択肢になりつつあるのは、喜ばしいことです。でも、もっとムーブメントを起こしたいなと思っています。起業家が1番かっこいい職種になってほしいですし、小さい会社に入ることがかっこいい時代になってほしいですね。
もちろん得手不得手はあるので、官僚や政治家を目指す人がいてもいいと思います。ただ普通に会社員として就職する時、多くの優秀な人たちが「安全だから」「親が喜ぶから」という理由でなんとなく大きな会社に入るのはもったいない。
若い時こそエキサイティングな場所、自分たちが動かしている感覚を得られる場所に行くと、人生が大きく好転していくと思います。
ソフトウェア系のクラウドワークスとは異なる領域でチャレンジしたい
大久保:成田さんは2022年にクラウドワークスを退社されましたが、次はどんなことにチャレンジされるのでしょうか?
成田:クラウドワークスの仕事はすごく良かったんですが、僕自身で作りたい会社のイメージが出来上がってきたので、まずそれを実現したいですね。あとは海外にも広がる製品や事業を、自分の手で作ってみたいと思っています。
大久保:多くのスタートアップの成長過程を見ていらっしゃるので、イメージしやすいのではないでしょうか?
成田:確かに会社の成長イメージはつきますが、作りたい製品やサービスによって求められる能力も違います。ですからそこが僕のチャレンジですね。
どちらかというと、僕は今までウェブ系のサービスに関わってきました。ただ本当はソフトウェア系よりハード系の方が好きなんです。例えば大学1年生の時に考えた起業テーマの1つが、植物工場でした。これは室内でITやロボットを使って農業をするというものです。これが最適なテーマかはまた別の話ですが、テクノロジーが人の生活に届くようなことをしたいと思っています。
いよいよそこにチャレンジするフェーズに入ってきたかなと思っています。インターネット産業はスマートフォンによって、ほぼ完結してきた気がするんですよ。残っているものとしては、AIですね。
ただAIが本業を発揮するのは、ソフトだけではなくハードに絡むところだと思います。そこに次のチャンスがあるし、大きなトレンドがある。例えばテスラはそれをかなり早いタイミングでやっていたから、今のポジションにいる。こういう動きが他の産業でも進むはずです。
巨大産業をAIやテクノロジーで変革していくようなことをやりたいと思っています。そうなると、ソフトウェア系のクラウドワークスとは事業をスケールさせる方法やお金のかけ方は違いますよね。そういう意味でチャレンジなんです。
大久保:確かにこれまでのスタートアップは、初期投資が少なくて済むネット系が主流でした。ただ最近はスタートアップも資金調達しやすくなってきたので、ハード系にチャレンジしやすくなってきたと言えそうですね。
成田:おっしゃる通りです。僕が起業した2011年では、スタートアップ業界全体の年間資金調達額は500億円ぐらいでした。でも今は8,000億円ぐらいの規模になってきています。つまりこの10年で10倍以上に伸びている。さらに政府は今後3兆円まで伸ばすと言っています。
スタートアップに対する資金が増えているので、ハード系のビジネスに挑戦しやすくなりましたよね。もともと日本はハードに強いですから、その方が日本の強みが活かせると思うんですよ。インターネット産業はグローバルで見ると若干日本は見劣りしているけれど、ハードとソフトを組み合わせれば日本企業にもチャンスがあると思っています。
起業したら、自分が取れる最大のリスクを取ってほしい
大久保:日本は少子高齢化が進み、経済的にも昔ほど豊かではない状況ですが、成田さんは書籍で「スタートアップこそ日本の唯一の希望」と書かれていましたね。
成田:これまで日本で一般的だった年金制度や終身雇用制度、年功序列などの仕組みは限界を迎えていることは確かです。こうした従来の制度を維持することは難しいし、この先インフレや増税もおそらく免れないでしょう。そういう前提で、人生をどう前向きに生きるかを考えなければいけないフェーズに来ていますよね。
そういう中で「起業家精神がキャリアにとって大事ではないか」ということを言いたいんです。会社におんぶに抱っこではなく、フリーランスとか複数の会社を行き来するとか、キャリアの多様化が重要になってくると思います。
起業したり小さな会社に行ったりして、自分で稼ぐ力を磨ければ、日本でもまだまだ人生は面白くできると考えています。
大久保:起業家にとって、すごくポジティブなお話をありがとうございました。最後に創業手帳の読者に向けて、メッセージをお願いできますか?
成田:大きなリターンを求めるなら、それだけ大きなリスクを取る必要があります。もちろん恐怖と隣り合わせですが。起業したら自分が取れる最大のリスクを取って、大きなチャレンジをしてほしい、ということをお伝えしたいですね。
「14歳のときに教えて欲しかった起業家という冒険」成田修造(ダイヤモンド社)
コツコツと仕事をこなして定年を迎える、かつての成功モデルはいまやリスクでしかない。40代でも間に合う「起業」という成長戦略。学歴や職歴は関係ない、行動を起こすものだけが全てを制する。金なしコネなしの普通の学生が、なぜ成功できたのか?本書は起業を通じた人生の指南書。起業・独立・副業でビジネスを展開する時に役立つ思考法、ノウハウを全公開。
大久保の感想
創業手帳冊子版は毎月アップデートしており、起業家や経営者の方に今知っておいてほしい最新の情報をお届けしています。無料でお取り寄せ可能となっています。
(取材協力:
起業家・エンジェル投資家 成田 修造 )
(編集: 創業手帳編集部)
成田さんの場合、本と人との出会いが大きく人生を変えたように思いました。起業家は常にアンテナを張って気付きを得ることが大事です。
また、日本は駄目だ・・と思いがちですが、たとえ悪い状況でも伸びる部分を見つけて成功する人がいつの時代もいることは事実です。
成田さんは日本の将来に対して意外なほど楽観的な感じを受けました。だからこそ普通の人には見えないチャンスを見つけられるのではないかと思いました。