地銀再編とは?起業家に与える影響や備えておくことについて徹底解説!
地銀再編とはどういうこと?どんな影響があるのかを考えてみる
地方経済の再生を重視する菅政権。
政府からの補助金支給、日銀による支援制度、独禁法の特例を設け、政府主導で地方銀行の経営統合・合併を進めようとしています。
そこで、ここでは、
- なぜ地銀の再編が問題になるのか?
- 地銀の再編はなぜ進まないのか?
- 地銀再編の起業家への影響は?
- 地銀再編に備えて何に気を付けておけばいいのか?
について、分かりやすく解説していきます。
起業家にとって、資金調達の問題は、本業の事業展開と同様の重要性を持ちます。地銀再編の問題について、起業の視点から考える参考にしてください。
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この記事の目次
なぜ地銀の再編が問題になるのか?
菅政権は、なぜ地銀の再編を推し進めようとしているのでしょうか?
地銀に求められる役割とは?地銀再編の必要性とは?地銀再編のメリット・デメリットとは?といった観点から解説します。
地銀に求められる役割とは?
地銀とは、特定の地域を中心として営業活動を行う銀行のことを指します。
銀行の基本的な役割は、企業や個人から預金という形で集めたお金を、必要とする企業や個人に貸し出し、金融システムの安定を図ることです。
預金金利と貸出金利の差で利益を得ることで収益をあげています。
預金金利と貸出金利の差を利ざやと呼びます。
地銀の強みは、地域に密着していることから、地域のニーズや情報の把握がしやすいことにあります。
地銀は、
- 地域の雇用を守るため、有望とみられる企業に融資することで、金融面から支える。
- 顧客の企業同士のニーズを把握して情報提供し、顧客企業に新たな取引先や提携先を紹介することで、顧客企業の経営力向上に結び付ける。
- ビジネスモデル改善のための支援やコンサルティング
など、地域経済を支える重要な役割を担っています。
地銀再編の必要性とは?
2016年に日本銀行がとった「マイナス金利」政策という言葉を耳にしたことはあると思います。
マイナス金利導入により、銀行が日本銀行にお金を預けると金利が付き、各銀行は損をするため、企業などへの貸し出しが増えることを期待されました。
しかし、低金利による利ざやの縮小は、銀行の収益環境を悪化させることになりました。
また、地方の人口減少に伴う地域経済の低迷や、企業がリスクを恐れ、積極的な投資を控える環境の中で、銀行の収益を確保することが難しくなっています。
そういった環境の中で、地方銀行は、収益源を多様化すること、有望な貸出先を新たに見出すこと、経営基盤を強化することなどを求められているのが現状です。
地銀再編による規模の利益で、低迷している銀行の収益力悪化に歯止めをかけたいという狙いで、地銀再編の必要性が取り上げられているのです。
地銀再編のメリット・デメリットは?
では、地銀再編のメリット・デメリットはどういう点にあるのでしょうか?
メリット
マイナス金利導入により低迷している銀行の収益力向上のために、経営基盤の強化の観点から、コスト削減というメリットが考えられます。
- 地銀再編によりバックオフィス業務の共同化
- 有能な人材の共有
- ライバル減少により、貸出金利の値下げ交渉が減少
デメリット
- 地銀再編には、コストがかかる
- お互いの戦略のすり合わせが不十分だと、プラスの相乗効果が生まれない
地銀の再編はなぜ進まないのか?
地銀再編の議論は、今までにもされてきました。
にもかかわらず、地銀の再編はなぜ進まないのでしょうか?
地銀再編によるコスト削減効果、収益力向上、地銀の真の競争相手はどこなのか?という観点から解説します。
地銀再編によるコスト削減効果は限定的
地銀再編の目的は、低迷している銀行の収益力悪化に歯止めをかけたいということです。
しかし、マイナス金利による貸出金利の低下による利ザヤの縮小で、地銀の再編で得られる規模の利益はほとんど働かなくなりました。
大規模金融緩和によって、メガバンクでさえも預貸業務が成り立たない現状で、地銀再編が行われたとしても、大胆なコストカットが行われなければ、大きな効果は期待できません。
しかし、各銀行はリーマンショック以降の業績悪化に対応し、銀行の後方事務を正社員からパート社員に切り替え、店舗の統廃合を行うなど、すでにコスト削減に取り組んでいます。
このような現状の中で単に地銀の再編が行われたとしても、もたらされる効果は限定的と考えられるでしょう。
地銀再編による収益力向上の明確なビジョンが描けない
地銀再編が進まないもう一つの理由には、地銀再編による収益力向上の明確なビジョンが描けないということも考えられます。
既に統合した地方銀行の経営は難航しています。
企業文化の違う銀行同士の再編には、人的にも経済的にも大きなコストが必要となります。
地銀が統合することによって、いかに企業価値が上がるかどうか?統合によるコストを上回る企業価値の向上につながるビジョンが見えてこないのです。
DX企業などの新興勢力に対して、そもそも再編で対抗できるのか?
フィンテック事業者の参入によって、送金や決済というシステムは、銀行独自の物ではなくなりました。
フィンテックとは、金融のファイナンスと技術のテクノロジーを組み合わせた造語です。
金融サービスと情報技術を結びつけて、新しいシステムが次々に生み出されています。
銀行に行かなくても、スマートフォンさえあれば、オンラインで取引が出来る時代です。
地方銀行は、預金を集めて貸出すという従来の発想を転換し、新たなビジネスモデルの構築が必要になってきていると考えられます。
地銀の競争相手は、送金、決済、家計簿、資産運用などのサービスをデジタルで提供する、楽天などのDX企業となっています。
DXとは、デジタルトランスフォーメーションの略で、データとデジタル技術を活用して、製品やサービス、ビジネスモデルを変革することを意味します。
DX企業や異業種の参入が続く現状では、地方銀行同士の再編議論を超えて、新しいビジョンの創出が求められていると考えられます。
起業家への影響は?
地銀再編は起業家へどのような影響を与えるのかを解説します。
借り入れ先減少のリスク
地銀が再編され数が減れば、地方の中小企業の資金調達先としての銀行の数が減ることになります。
銀行の融資の条件は、地銀同士であっても必ずしも同じではありませんから、自分の取引銀行が再編されることで、今までと融資の条件が変わることもあり得ます。
場合によっては、今まで受けられていた融資が受けられなくなることも考えられます。
借り入れ条件の厳格化のリスク
地銀は、地方経済の基盤を支えるという公共的な機能を持つと同時に、営利企業である以上は収益を上げなくては成り立ちません。
地銀の財務基盤が弱まり、自分が倒産してしまっては、地方経済を支えていくことは出来なくなってしまいます。
貸出先の返済能力の程度によっては、銀行側が抱えるリスクが大きくなるため、融資の審査では、業績や企業の信用力を重視します。
再編直後の地銀は、リスクにはより消極的にならざるを得ない状況から、借り入れ条件も厳格化する可能性があるでしょう。
地銀の資本力増強につながれば、地方の金融システム安定化へ
地銀に求められる本来の役割は、地方の金融システムの安定化です。
しかし、日銀による低金利政策の下で経営基盤が弱くなっている地銀が、今後地方の中小企業を支えきれない事態も起こりえます。
地銀の再編が、地銀の資本力増強につながるのであれば、地方の金融システムの安定化につながるでしょう。
そうなれば、地銀の再編によって、地方の中小企業の経営を支えるという地銀本来の役割が発揮できるようになるはずです。
地銀再編に備えて何に気を付けておけばいいのか?
起業家は、地銀再編に備えて、何に気を付けておけば良いのでしょうか?
- 資金調達方法の多様化を検討する
- 資金調達コストと自己資本比率の見直しを行う
- DX推進によるコスト削減と経営戦略の見直しを行う
- 地域経済活性化へいかに貢献できるかの視点を持つ
などの方法を提案します。
資金調達方法の多様化を検討すべき
資金調達方法は、銀行からの借り入れだけに限りません。
地銀再編の議論を機会に、他の資金調達方法についても検討してみましょう。
- 国や自治体が設けている補助金や助成金の制度を利用して、資金を調達する方法
- ベンチャーキャピタルから出資を受ける方法
- インターネットを活用して、クラウドファンディングによる出資を募る方法
- 保有する在庫や機械設備、売掛債権などを担保として借り入れを行う動産・売掛金担保融資(ABL)という方法
- 売掛債権を売却して資金を調達するファクタリングという方法
ベンチャーキャピタルは、将来的に成長が見込めるビジネス分野であるか、ビジネスモデルが有望かといったことが、投資判断の目安になります。
銀行の融資の判断とは基準が異なるため、創業間もないスタートアップ期でも、自社の事業の有望性をアピールできれば、資金調達の手段となる可能性もあります。
また、クラウドファンディングは、インターネット上で出資者を募集し、賛同してくれる不特定多数の人たちから出資を受けるという新しい資金調達の方法です。
インターネット上で出資者を募集することから、広告や宣伝としての効果もあり、近年注目を集めている手法です。
資金調達コストと自己資本比率の見直し
自己資本比率とは、総資本に対する自己資本の割合がどれくらいかを示す指標です。
自己資本比率=自己資本÷総資本(自己資本+他人資本)
自己資本とは、簡単に言えば返済の必要のない資金のことです。
総資本とは、自己資本と他人資本を合わせた資金のことで、他人資本とは返済しなければならない資金、借入金のことです。
借り入れには利息が付きます。
自己資本比率が高ければ、利息の支払いも少なくなりますから、財務体質の健全な会社ということになります。
出資による資金調達の場合には、利益が出た場合に利益の分配をすることになりますが、利益が出なければ支払いは必要ありません。
借り入れによる他人資本の比率を下げ、自己資本の比率を上げるなど、自己資本比率を見直すことで、金利などの資金調達コストを下げることが出来ます。
地銀再編に備えて、資金調達コストの見直しもしてみましょう。
DX推進によるコスト削減と経営戦略の見直し
DXとは、デジタルトランスフォーメーションの略で、データとデジタル技術を活用して、製品やサービス、ビジネスモデルを変革することを意味すると説明しました。
このDXの推進は、新しく創業する企業にも有効です。
業務のデジタル技術の活用、効率化により、利益を落とさずに、コストカットが期待できます。
具体的には、
-
- テレワークの導入
- オンラインで会議に参加できるツールの導入
- デジタル技術の導入により紙ベースの事務作業が減少
など、不要な人件費や経費削減につながります。
紙ベースで作成・保存されていた伝票や帳簿などがデータ化されることは、単なる経費削減効果だけではありません。
そのデータをAIが分析・解析することで、新たなニーズの発掘にもつながる可能性があり、収益力の向上に結び付く可能性もあります。
DX推進によるコスト削減と経営戦略の見直しは、これからの企業にとって、非常に重要なテーマと言えます。
地域経済活性化へいかに貢献できるか?
地方の企業にとっては、地域経済の活性化へいかに貢献できるかの視点も重要です。
菅政権は、地方経済の活性化を重視しています。
地方経済の活性化に貢献できる事業であれば、自治体との連携なども考えられますし、地銀からの支援はお金だけに留まらず、情報という支援もあります。
事業の成長が地域経済の発展にも貢献できると判断されれば、地銀からの融資に留まらず、様々な資金援助が得られる可能性もあります。
まとめ
人口減少、低金利政策による収益力低下、巨大DX企業の台頭などによって、地方の金融システムを支えるべき、地銀の財政状態が悪化している現状があります。
そこで、地銀再編の動きがあるものの、地銀再編によるコスト削減効果や収益力の向上の道筋が見えてきません。
業務やシステムの合理化やデジタル化を進め、より収益性や効率性を重視した経営に移行することは、事業拡大のチャンスでもあります。
説得力ある経営計画を策定し、自社の事業に対する信頼を得ることは、有利に資金調達することにもつながります。
地銀からの借り入れだけに頼るのではなく、多様な資金調達方法の可能性を考えつつ、説得力ある経営計画策定により、地銀との協力関係も維持していくことがカギになりそうです。
(編集:創業手帳編集部)