BuddyCompass 高石 大地|「ブランディング」で価値を高め、企業や地域を元気に
個性を生かす「ワンピース経営」で、自ら成長する環境づくりを実践
株式会社BuddyCompassは、ブライダルや地方の価値を高める「ブランディング」を手掛ける会社です。
創業から3年を迎えた同社の大きな特徴は、漫画のワンピースを参考にした「自分らしさを出しつつ1つのチームとして働く」経営スタイル。「ワンピース経営」と呼ぶその方針のおかげで、年200%以上の成長を達成しました。
そこで、株式会社BuddyCompass代表取締役社長の高石さんに、リクルートでの修業期間を含む起業までの経緯やブランディングサービスの内容、ワンピース経営で実践していることなどをお伺いしました。
株式会社BuddyCompass 代表取締役社長 CVOチーフバリューオフィサー
サービス業界のブランディングエージェンシー/ワンピース経営/株式会社BuddyCompass代表取締役/サービス業で全国に喜びと感動を提供するディライト株式会社取締役CSO・CHRO/観光・宿泊業・ブライダル業/組織・企業ブランディング・HR戦略家/https://instagram.com/daichi.buddy
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
友人のために起業を決意し、リクルートで2年間修業を積んだ
大久保:大学生のころから起業をお考えだったんでしょうか?
高石:大学生のころは、まったく考えていませんでした。それどころか、「卒業後も友達と遊べる、残業のないホワイト企業に行くぞ」と決めて就活をしましたね。そして実際に、ホワイト企業ランキングで1位だったNTT系の会社へ就職しました。
しかし、会社に入ってから思ったのは、「やりがいを感じにくい環境だな」ということです。
きっかけは、出社前の社員が作る品川駅からオフィスまでの行列に衝撃を受けたこと。毎朝8時50分に見られる光景なのですが、全員が下を向いて歩いていたんです。
大久保:全員が下を向いている行列は、インパクトがあるかもしれないですね。
高石:そうなんです。自社の上司や先輩方が、パートナー企業や下請けの企業に対して冷たい対応をするのも、見ていてつらかったですね。社会人になって1年目の冬くらいからは、「もっと良い働き方ないのかな」と考え始めていました。
大久保:就職された会社はホワイト企業ランキング上位とのことでしたが、実態は違ったのでしょうか?
高石:いいえ、いい会社だったと思います。残業時間も少なくて毎日17時半には帰れましたし、給与も良かったですし、人間関係で悩むこともありませんでした。
ただ僕は、その会社の年功序列の組織モデルを「やりがいがない」と感じましたね。
うつ病を発症した同期を励ましたくて「起業しよう」と言った
高石:しかもちょうどそのころ、一番仲の良かった同期がうつ病を発症して休みに入ってしまったんです。
「今朝から連絡が取れないんだけど、彼がどうしているか知らないか?」と会社の人から連絡が来て彼を探し回った日のことは、今でも忘れられません。のちに話を聞くと、仕事がしんどくなって自転車で飛び出してしまったということでした。
社会に対して熱い想いを持っていた優秀な彼のことを、友人として尊敬もしていました。そんな彼のつらそうな姿を見て、勢いで「起業しよう」と言ったんです。
大久保:友人を励ましたくて、「起業しよう」と伝えたのですか?
高石:「仕事がつらいなら、面白くすればいい」という発想でした。だから、最初は本気で起業したいというより彼が元気になればいいなくらいの気持ちでしたね。それから彼の休職期間中は、毎週末2人で起業アイデアを出し合っていました。
その後、彼は元気になり会社にも復帰できたのですが、起業のアイデアを出しているうちに、僕の中で「起業したい」という思いが本当のものになっていったんです。
大久保:その彼は、今の会社のメンバーなのですか?
高石:そうです。彼は後の創業メンバーになりました。
「ルフィのリーダーシップ」を目指して2年間の修行へ
高石:起業しようと考え始めてから読んだ、「ルフィと白ひげ 信頼される人の条件」という本には、非常に影響を受けました。「ルフィみたいなリーダーになって組織を作れたら、社員を幸せにできるんじゃないか」と。
大久保:ルフィのような社長を目指したということですね。
高石:おっしゃる通りです。ルフィのような社長になり、麦わら海賊団みたいな会社を作りたいと、彼にも話していました。
しかし、考えに考えて200個以上作った起業のアイデアが1つも形にならない状況に、このままではダメだと思うようになりました。
たまたま、ワンピースの物語にも「2年間の修行の時期」があります。そこで、「僕自身に力がないから今のままでは起業できない。2年間修行させてほしい」と彼に伝えましたね。
大久保:そのような流れで、新卒で入った会社を辞めてリクルートへ転職されたんですね。
ブライダル業界の課題と向き合えたことが今の財産に
大久保:リクルートで学んだことを、お聞きしてもよろしいですか?
高石:修行するという目的での転職だったので、友人の多い東京ではなく、あえて関西を勤務地に選びました。
さらに、最終面接官であったリクルートの関西責任者に「2年間でトップセールスになったら、東京に返してください」とお願いをして入社したので、最初からチャレンジの機会を与えてもらいましたね。
大久保:リクルートでは、どちらの部署におられたのでしょうか?
高石:ゼクシィです。今もブライダル業界に向き合っていますが、当時ブライダルの現場の課題や苦労に向き合わせてもらえたことが、財産になっていると感じます。
大久保:修行中は、起業の勉強などもされていたんですか?
高石:経営学やマーケティングの勉強をしていましたね。夜中の1時まではリクルートの仕事を、1時から4時ぐらいまでは起業の勉強を、という日々でした。
価値を高めるのが「ブランディング」
大久保:2年間の修行後、起業に至るまでの流れをお伺いできますか?
高石:創業メンバーの彼と約束した2年が経つころ、リクルートで全国のMVPを取ったので東京に帰れることになりました。「東京に戻るから起業しよう」と彼に電話して、関西の家を引き払った日のことは忘れられません。
しかし、東京に戻った時期がコロナが始まった時期とかぶってしまったため、スタートを切りづらい状況でした。そのため、創業最初の半年間はリクルートに在籍していました。
大久保:起業するにあたって、今の業界を選んだ理由を教えてください。
高石:当時から僕がやりたかったのは、「中小企業の価値を高めること」「ブライダル業界や観光産業を盛り上げること」「そこで働く人たちを幸せにすること」の大きく3つでした。
それらのなかで「軸」として取り組めることは何かと考えたときに、「ブランディング(価値を高めること)」だと結論づけてBuddyCompassを立ち上げましたね。
ブランディングは、簡単にいうと「良く見せてあげる」ということ。中身も大事ですが、良く見せて価値をつけることも、同じくらい大事だと思うんですよね。なぜなら、うまくブランディングができれば、企業の価値も、土地や地域の価値も、人材の価値も高めていけるからです。
大久保:その人の「ありたい姿」を明確にしてあげて、実現の手助けをされているのですね。
高石:まさにそうです。
ブランディングで必ず実施するのは「ブランド設計」
大久保:御社では、「ブランディング」をされているということですが、具体的なサービス内容を教えていただけますか?
高石:BuddyCompassは、コンサルティングサービスとブランディングサービスを提供しています。
コンサルティングサービスには、経営コンサルとHRコンサル、ファイナンスコンサルがあります。それらは成果報酬型で戦略を作っていくサービスです。
そしてブランディングサービスは、「ブランド構築サービス」「ブランド戦略サービス」「UXリサーチ&デザインサービス」という、3つのサービスに分かれています。
大久保:それぞれのブランディングサービスは、どのような支援をするのでしょうか?
高石:1つ目の「ブランド構築サービス」は、会社であれば「会社として目指すもの」であるコーポレートブランドを作ります。商品でしたら、商品のブランド名をはじめ、どのようなストーリーにするのか、ロゴは何にするのかを形作っていくサービスです。
2つ目の「ブランディング戦略」は、「このブランドを、どうやって世の中に知ってもらうのか」ロードマップを引いたり、「このようなペルソナに対して、このように攻めていく」と絵を描いたりします。
3つ目の「UXリサーチ&デザイン」は、オウンドメディアの強化が主になりますね。建築とWeb、SNSのPR周りの支援を通して、ときには結婚式場やホテルのリニューアルにも携わっていきます。
大久保:1社1社に深く入り込んでいくのですね。相手によってやっていることがまったく違う印象です。
高石:そうですね。ただ、どのお客様に対しても必ずすることは、「ブランド設計」。つまり「こういうブランドでやってこう」というゴール設定です。
コロナ禍は、さまざまな業界で「会社の再定義」に関わった
大久保:この事業を始めてから、大変だったことと良かったことを教えていただけますか?
高石:弊社が携わる「ブランディング」は、1つのプロダクトを作って大量生産するというビジネスではありません。それぞれの社員の提供する価値が上がるほど売上も増えるので、売上を立てる人材に偏りが出やすい点に苦労しましたね。
良かったのは、コロナのタイミングで「コーポレートブランドを見直そう」と考える企業が多かった点です。コロナによって社会情勢や価値観がガラっと変わったため、多くの会社を「再定義」する作業に関わりました。そのおかげで、いろんな業界や事業の課題や葛藤を一気に知ることができましたね。
1つの業界だけにとどまらず多くの価値観を知ったことが、シナジー効果として、現在企業成長を進められている糧になっていると感じます。
広告費を搾取されプロダクトや人件費に回せない
大久保:今支援されてる業界の課題を教えていただけますか?
高石:僕が関わっているブライダルやホテル業界は、どうしても広告宣伝費を搾取される側です。広告費に投資をしなければならず、プロダクトや人材にお金を投資できないという課題がありますね。
原因は、日本では広告プラットフォーム系の企業が力を持っているためです。それが、コロナで一気に倒産してしまった一因でもあると思います。
大久保:プロダクトや人材に投資できないのは大問題ですね。
高石:そうなんです。例えば、人材に投資できないと魅力的な人が集まりづらいですよね。そのため価値も上がらないという悪循環が起きている状況です。その循環をうまく切り替えていくのが僕たちの仕事だと考えています。
大久保:そもそも「会社として何を発信したいのか」ゴールが曖昧なまま、広告費だけかけても効果は出ないですもんね。
高石:おっしゃる通りです。特にブライダル業界は、「ゼクシィ」が業界をひっぱっているので、事業者側は「何かあれば、ゼクシィさんに聞いてみよう」と、ゼクシィに頼りっぱなしなんです。
コロナ禍という誰も答えを持っていない未曽有の事態でも、考えることから逃げ、「ゼクシィさん事例教えてください」「どうしたらいいですか」の横行になっています。
大久保:事業者側に主体性がないという課題もあるんですね。
高石:そうなんです。本来、会社によってしたいことは違うはずで、それによって取るアクションも変わるはずですから。
カルチャー×意思決定が何よりも大事
大久保:ブライダルやホテル業界の課題をお聞きしましたが、業界に共通している点はありますか?
高石:「カルチャー×意思決定」が何よりも大事な点は、どの業界や会社にも共通していると感じました。カルチャーを軸に意思決定し続けられる会社と、し続けられない会社で勝敗が分かれたためです。
具体例を挙げますと、僕たちが2年で20億円の業績を上げたサービス事業会社の再生案件があります。その案件も、「カルチャー×意思決定」を社長や経営陣にさせてあげられたことが成功の理由でしたね。
大久保:正直、会社が「カルチャー×意思決定」をするのは当然だと感じます。第三者が手伝わないとできないことでしょうか?
高石:当たり前のように感じますが、実践するのは難しいんです。
小さい会社は、社長の近くに社員がいるので第三者が入る必要はないかもしれません。
しかし組織が大きくなると、全社員に理解してもらえるように「言語化」しないといけなくなります。社員に「こういう理由で、これをしています」と納得感を持ってもらうだけで、会社のパワーが加速するためです。
特に中小企業の社長は、センスやカリスマ性を持つ優秀な方が多い一方で、「言語化」をしてこなかったという方も多いんです。しかし事業規模が150人以上になると、言語化作業が重要になってきます。だから僕たちは、言語化のお手伝いをしているんです。
麦わら海賊団のような会社を目指す「ワンピース経営」を実践
大久保:ブランディング事業でさまざまな会社に入り込んでいる御社ですが、御社自体はどのような組織づくりをされているのでしょうか?
高石:起業前に「ルフィの麦わら海賊団みたいな会社を作りたい」と考えたとお話しましたが、BuddyCompassではそれを実践しています。
大久保:それが、「ワンピース経営」ですね。
高石:そうですね。僕は社員が400人規模のウエディング・ホテルのオペレーション会社の取締役も兼任して、人事部長としてHRの戦略も立てています。
ただ、大きい会社の仕組みや評価制度では、新しいイノベーションを起こしづらいんです。指示系統を意識した「白ひげ海賊団」のような組織作りでなければうまくいかないんですよね。
だからこそ自分の会社では、それとは真逆の「麦わら海賊団」を作ることを心がけています。
大久保:具体的には、どんなことをされているんですか?
高石:例えば、完全フルリモートを取り入れたり、上下関係を作らないフラットなスタイルを構築したりしています。
本来、弊社のような15人程度の規模でしたら、社長がすべて決める方が効率的ですよね。でも僕は、あえて社員にそれぞれの得意分野の意思決定権を持たせています。
さらに、みんなに夢を持ってもらっています。ですから、パラオで働いている人やお笑い芸人、女優業を目指している人、インフルエンサープロデューサーとして海外で活躍している人もいますよ。
大久保:そのほかにも、ワンピース経営の特徴はありますか?
高石:意思決定をするときには、全てワンピースに例えています。「ここは白ひげだ」「ここは〜村だ」「ルフィならこうしない」など。そうすると、それぞれの意思決定が会社の方針とズレないんです。
お互いを信頼して「耳を傾けすぎない」
大久保:とはいえ、白ひげ海賊団の方がマネジメントしやすいですよね。麦わら海賊団は手間がかかりませんか?
高石:おっしゃる通りです。いいところもたくさんある一方、難しいことも多いです。お互いを信頼して、「耳を傾けない」ようにしないと成り立たないということも、走り出してから発見しましたね。
大久保:耳を傾けるのではなく、傾けない?
高石:はい。耳を傾けすぎると仕組みやルールを作る必要が出てきます。そうやって組織は作られていくんですよね。
しかし、そうすると白ひげ海賊団になってしまいます。だから、例え苦労させることになっても、自分で乗り越えてもらいます。信頼するからこそ過保護にしないんです。ルフィはゾロに手を差し伸べませんから。
大久保:確かにルフィは、リーダーではありますがお母さん役ではないですね。
高石:僕は、「全員が個性を持ち続けられる組織」を作りたいんです。
大久保:個性がある人たちをうまく束ねるマネジメントは、「タレントマネジメント」に近いですね。
高石:そうなんです。だからこそ、社員が「会社にいる意味」を作る必要があると感じています。そうしないと、みんなが独立してしまうかもしれませんから。
「ここにいたい」と、自ら成長してもらう環境づくりを
大久保:ワンピース経営では、自立した個人であることが求められるんですね。「自由だから楽」というわけではないんですよね。
高石:楽ではないですね。過保護なマネジメントができないので、未経験の子たちは苦労してます。
大久保:絶対的なスキルを持つ専門職の人が集まって価値を生み出すというのは、オーケストラのようなイメージでしょうか?
高石:少し違います。そのような専門人材を集めた組織を、僕らは黒ひげ海賊団と呼んでいます。
黒ひげ海賊団と麦わら海賊団は似ていますが、大きく違う点があります。
それは、技術や能力ではなく、人間関係やマインドで仲間を集めているところです。だから、ウソップのような能力がない人もいれば、ゾロみたいに強い人もいるんです。
大久保:心で繋がった仲間なんですね。
高石:そうですね。僕たちは、スキルがなくても信頼できる仲間を集めて、「足手まといになりたくない。ここにいたいから成長しよう」と、思ってもらえるような会社を目指しています。
大久保:自ら成長してもらうんですね。
高石:そのためには、とにかく先頭である僕が早く賞金首にならなければなりません。どんどん次のステップへ行くことが、僕の仕事の1つだと考えています。
その他にも、とにかく「失敗しても笑ってあげる」など失敗しても良い雰囲気作りを心がけたり、いつでも誰かの失敗をカバーできる体制を整えたりしていますね。
(取材協力:
株式会社BuddyCompass 代表取締役社長 CVOチーフバリューオフィサー 高石 大地)
(編集: 創業手帳編集部)