ベター・プレイス 森本新士|中小企業従業員の資産形成と福利厚生を応援!起業成功の鍵はDX

創業手帳
※このインタビュー内容は2025年01月に行われた取材時点のものです。

経験を活かした2度目の起業で「はぐくみ企業年金」を始動


株式会社ベター・プレイスは、おもに企業年金・退職金制度の導入を支援する会社です。

創業者であり現・代表取締役社長の森本さんは、2度の起業の末に「はぐくみ企業年金」を生み出しました。既存の公的年金だけでは将来のお金の心配を抱えがちな中小企業社員の資産形成を、企業年金の形でサポートしています。

ーなぜ企業年金が中小企業の支援になるのか?
今回は森本さんに、起業の経緯や企業年金の仕組み、資産形成ノウハウについて教えていただきました。

ベタープレイス森本代表

森本 新士(もりもと しんじ)
株式会社ベター・プレイス 代表取締役社長
アリコジャパンを経て、スカンディア生命にて長期投資の可能性を学び、2007年に独立系の運用会社を起業するも、力不足でお金が集まらず、自ら設立した会社を追い出される。痛恨の想いを糧に、2011年に株式会社ベター・プレイスを創業。2018年に市井の人たちの資産形成を企業年金DXを通じて応援したいと「はぐくみ企業年金」を設立。同基金は設立約6年半で加入者数8万人・資産残高325億円を突破するまでに成長。公益社団法人日本証券アナリスト協会検定会員、1級DCプランナー。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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起業のトリガーは「ファイナンシャルインディペンデンス」


大久保:起業のきっかけは何だったのでしょうか?

森本:弟が25歳で自己破産してしまったことが大きなきっかけですね。当時、わたしの親が酒屋を経営していたのですが、止む無く倒産してしまい、弟が保証人になっていたんです。当時わたしはサラリーマンをしていたのですが、どうにもしてやれず。「このままサラリーマンとして生きていっていいのかな」と感じていました。

大久保:わたしの親も商売人をしていて幼少期から経営の苦労を間近で見てきたので、わかります。事業を続けるのは、本当に大変なことですよね。

森本:そうですよね。でもそうした経験があったからこそ、わたしも自分の力で生きていきたいと考えるようになりました。

大久保:それから起業まではどういった経緯だったのでしょうか?

森本:実はわたしは2回起業しているのですが、1度目に起業を考えたのは転職先であるスカンディア生命で働いていたときです。

さわかみ投信の澤上さん(当時の「さわかみ投信株式会社」社長)から「ファイナンシャルインディペンデンス(※)」という考えを教えてもらい、目から鱗が落ちました。運用で資産を増やせば、サラリーマンでも経済的に自立できるんだと聞いて、驚きましたね。

※ファイナンシャルインディペンデンス(Financial Independence)…経済的な自立を達成し、労働収入に頼らずに生活できる状態のこと

当時バブルを経験した先輩方の中で生活していましたが、いいスーツを着て、毎週合コンして、六本木に足を運んで…という人が多い中、澤上さんは見た目も質素で通勤は電車、その辺の居酒屋で普通にビールを飲んでいたりするんです。かなり稼いで成功しているのに、なんて飾らない人なんだろうと。その生き方にも惹かれました。

大久保:澤上さんとの出会いが起業のトリガーになったと。

森本:はい。それから澤上さんの下で学ぶようになって、結果として彼に背中を押される形で起業に至りました。個人の資産形成をサポートする独立系の資産運用会社です。

大久保:1度目の起業はいかがでしたか?

森本:立ち上げたはいいものの、なかなか資金が集まらなくて。設立して2年ほどで事業を譲渡することになりました。わたしは追い出されて、無一文に…。

大久保:それは大変でしたね。その後はどのような道を選んだのでしょうか?

森本:もう一度サラリーマンに戻ることも考えましたが、しばらくは知り合いのツテで医療業界のコンサルとして働いていました。それまで培ってきた資産運用の知識と、自分でファンドを作ったという経験が活かせましたね。

大久保:プライベートバンカーのようなお仕事ですね。

森本:まさにそうです。今思えば、そのときの業務内容や経験も現在の事業につながっていると感じます。

知っておきたい企業年金の基礎知識

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大久保:その後、2011年にベター・プレイスを創業されたのですね。現在の主力サービスである「はぐくみ企業年金」についてお伺いする前に、そもそも企業年金について簡単に教えていただけますか?

森本:はい。企業年金とは、公的年金を補完する私的年金の一種です。よく3階建ての建物にたとえられるのですが、その3階部分にあたります。

日本の年金「3階建て」の仕組

日本の年金「3階建て」の仕組み

1階部分は国民年金。2階部分は厚生年金。それらにプラスする形で企業が組み立てるのが、3階部分の企業年金です。

企業年金には、企業型確定拠出年金と確定給付企業年金があります。

企業年金で積み立てるお金は非課税財産となります。従業員は税負担を軽減しながら積み立てができるうえ、企業が窓口となってくれるため証券口座の開設は不要。投資のハードルが低い、非常に優れた仕組みです。

アメリカやヨーロッパを見てみると、基本的には私的年金で資産形成をするのが主流です。特にアメリカは、日本よりも公的年金の割合が非常に小さいことが有名ですよね。

日本の場合は真逆で、100%公的年金だけで生活するという方もいますが、大企業だとこれにプラスで企業年金があります。公的年金+私的年金(企業年金)で老後は安泰ですが、中小企業だとこれがほぼありません。

大久保:そもそも年金って税制上有利なんですよね。

森本:おっしゃる通りです。

「企業型確定拠出年金」だと月額55,000円まで非課税で積み立てが可能です。例えば給与が30万円の場合、何もしないと全額課税対象となりますが、月額55,000円を積み立てると課税所得が24万5,000円になり、毎月約14,000円の税金・社会保険料を軽減することができます。*

*選択制(既存の給与の一部を「前払い退職金」に変更し、従業員ひとり一人がその「前払い退職金」の受取り方を選択できる制度)を導入した場合。

※軽減額は東京都、40歳の場合。下記よりシミュレーションが可能です。
はぐくみ企業年金加入効果シミュレーション

かつ55,000円を自分でどういう風に運用するかを決められるため、老後の資産形成を有利に進められるという訳です。

大久保:なるほど。企業年金を導入する企業側のメリットとしては、税制上の優遇にくわえて、人手不足の場合は福利厚生の充実をPRできる点もいいですよね。

森本:まさにそうです。企業年金は、経営者と従業員の双方にメリットがあります。

従業員側はさきほど申し上げた通り、税負担を軽減しながら積み立てができる点です。経営者側は非課税で積み立てをおこなうことによって、万が一の際にそこから資金を捻出できるという財務的な安心感があるほか、従業員の離職率低下に寄与するという理由で導入する企業が増えています。

とはいえ、日本の企業での企業年金普及率は大企業が中心で、特に従業員数30~99名の規模の中小企業における企業年金の普及率はまだ16%ほど(2023年時点)。今後も普及の余地は大きいと考えています。

コロナが追い風に。導入工程のDXで事業を加速

「はぐONE」
大久保:企業年金の仕組みを聞いて魅力的なことがわかりましたが、いざ導入しようと思うと手続きが大変そうです。そういった企業のサポートをされているのが、御社ですよね。

森本:はい。一般的に企業型確定拠出年金は銀行や保険会社が取り扱っているのですが、企業規模が小さいとあまり利益にならないので、50名未満の企業への導入は積極的ではありません。あるいは導入したものの説明会や投資教育がおこなわれず、放置したままというところもあるようです。

それらの課題をクリアしたのが、弊社の「はぐくみ企業年金」です。「はぐくみ企業年金」は企業型確定拠出年金ではなく、確定給付企業年金です。「はぐくみ企業年金」 は50名未満の企業でも加入できるようにし、事務作業の手間を解消するためDXを徹底しています。

提案から意思決定、導入手続き、説明会、掛金の申し込みもすべてDX化し、デジタルで完結するようにしました。このような仕組みの企業年金は、金融機関の中にはあまりないと思います。

大久保:わたしは共済に入っていますが、支払いが口座振替しか選択できず、カード払いができないんですね。レガシーな制度はまだまだ電子化されていないことが多いため、そういった面でも非常に差別化できていると感じます。

森本:はい。おっしゃる通り年金業務は非常にレガシーで、そのような中でわたしたちが生き残れたポイントは、まさにDXだったと言えます。

しかしこのDXは、わたしたちが自主的に進めた訳ではなく、コロナの影響で政府がペーパーレス化を進めていた背景があります。コロナの影響で法律が変わり、DX化が進み、ブルーオーシャン状態の中小企業に売り込みができました。

大久保:DXを進めて、良かった点を教えてください。

森本:制度の導入のため、必要な工程や書面のやりとりが多いのですが、DX前は都度先の見えないラリーをお客様と続ける状態でした。

そこで、企業年金DXシステム「はぐONE」上に手続きの95%を集約しDX化することによって、ガイダンスにしたがって操作できるようにしました。はぐONE上でお客様が常に工程を視認・理解できるため、手続きの迷子になるお客様がいなくなり、クレームの低減につながりました。

将来的には唯一紙での提出が残っている厚生局への書面もDX化し、はぐONE上で手続きを完結できる予定です。

また、わたしたちの顧客の約4割が福祉・医療業界なのですが、以前は説明会=必ず対面だったものが、コロナ禍以降オンラインを希望されるようになりました。

大久保:長時間労働を減らそうという社会的風潮があったことも、プラスに働いたのでしょうね。

森本:当社には月に40~50社のご契約をいただいてくる社員がいるのですが、これは対面であれば決してありえないことです。DXのおかげで、可能になっています。

1度目の起業のときはファンド設立後にリーマンショックがあり運が悪かったものの、2度目の起業は運が良かったと思います。起業に関しては、運も非常に重要な要素ですね。

「はぐくみ企業年金」が中小企業に選ばれる理由

キャッチコピー
加入者メリット
大久保:はぐくみ企業年金とよく比較される制度はありますか?

森本中小企業退職金共済制度(中退共)があります。中退共は中小企業のための国の退職金制度です。加入制限がないという利点がある一方で、1年未満に退職すると掛金が戻ってきません。また、2年未満に退職すると掛金全額が戻ってこず、元本割れしてしまいます。さらに予定利率は1%と、昨今のようなインフレの時代には伸び悩んでいるようです。

ほかの比較ポイントとしては、中退共は役員加入ができませんが、はぐくみ企業年金は可能です。

大久保:ちなみに、はぐくみ企業年金の利率はどれほどでしょうか?

森本:規模の経済を発揮できていまして、現在は(期待利回り)2%ほどになっています。

大久保:かなり高いと感じます。御社の取り分はどうでしょうか?

森本:この2%から当社が利益を得るわけではありません。運用手数料は取らず、2%で運用できれば2%がお客さまに還元される仕組みです。

はぐくみ企業年金の利用コストは、年金DXシステムの利用料と、基金へ支払う事務費です。年金DXシステムがひとりあたり月額約500円、事務費が月額490円で、合わせて1,000円ほどです。

大久保:1人当たり約1,000円の手数料がかかるということは、支払っている金額が極端に低いと手数料の方が高くなってしまうので、ある程度の定量を出した方がいいということですね。

森本:おっしゃる通りです。現在はぐくみ企業年金の平均掛金月額は1人当たり22,000円を超えていて、税金と社会保険料の負担が減ることで企業側の経費削減にもつながっています。もちろん、社会保険料の負担を軽減すると将来の年金額が減るといったデメリットについてもご説明しています。このような影響についてお伝えすることで公的年金にも興味を持ち、老後の資産形成を考える金融教育に繋がるという側面もあります。

大久保:金利と税負担軽減効果を他社と比較すると効果がわかりやすそうですね。

森本:各社にオーダーメイドで見積もりを出しているので、そこは安心して意思決定してもらえると思います。

大久保:ほかに特徴的な点はありますか。

森本:はぐくみ企業年金の加入者の約6割は女性です。その理由のひとつに、子育て・介護のタイミングで積み立てのお金を受け取れるという特徴があります。確定拠出年金だと原則60歳にならないと受け取れないですし、中退共は退職するタイミングのみです。

一方で、はぐくみ企業年金は育児・介護休業や休職のタイミングでも受け取れるほか、復職後に再開も可能なので、非常に柔軟な制度となっています。

大久保:それは、ほかにはない制度ですね。

森本:一例を紹介しますと、従業員数3,000人規模の保育関係企業の導入例があります。

その企業は約19%という退職率の高さに悩んでいました。そこではぐくみ企業年金を導入し、勤続年数による企業年金・退職金制度を開始したのです。さらに任意の金額を積み立てられる制度も始めたところ、離職率が15%まで下がりました

実際のところ、はぐくみ企業年金だけの効果とは言えませんが、離職抑制に寄与している部分は大きいと思います。経営者さんが経営者さんを紹介してくれるケースが多いことからも、導入企業の従業員のエンゲージメントにつながっていると実感しています。

大久保:貴重なお話をありがとうございます。最後に起業家に向けて何かアドバイスやメッセージがあれば、ぜひお願いします。

森本:わたしがこれまでの経験から学んだことは、レッドオーシャンの分野で勝負しないこと。競合が多すぎる分野では消耗戦になってしまうだけなので、自分が戦う場所をしっかり見極めることが大事です。徹底的にライバルを分析して、自社の強みを最大限に活かすことを心がけてください。

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(取材協力: 株式会社ベター・プレイス 代表取締役社長 森本新士
(編集: 創業手帳編集部)



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