社内ベンチャーと起業の違いって?成功のカギは“小さなファクト”にあり

創業手帳
※このインタビュー内容は2016年12月に行われた取材時点のものです。

bizocean(ビズオーシャン)代表取締役 堀 貢一氏インタビュー

(2016/11/28更新)

社内ベンチャーの立ち上げを目指す人の中には、「普通の起業と違う点はなんだろう?」「どういった所に気をつければ良いんだろう?」と悩んでいる人も多いのではないでしょうか。

今回は、外資系ベンチャー立上げ経験後、ミロク情報サービスに入社し、同社の新規事業部から「株式会社bizocean(ビズオーシャン)」を創業した代表取締役・堀氏に、社内ベンチャーを成功させるためのコツや、一般的な起業と社内起業は何が違うかについて、取材しました。

bizocean

堀 貢一(ほり こういち)
1995年に明治大学を卒業し、共同ピーアールに入社。IT企業のプロモーションに従事する。1999年に外資系のベンチャー企業の設立に参画し、同社のマーケティングマネージャーを経て、2005年に株式会社ミロク情報サービスに入社。新規プロジェクト「bizocean(ビズオーシャン)」を立ち上げ、2016年に分社。現・株式会社ビズオーシャンの代表取締役社長。K.I.T虎ノ門大学院・MBAプログラム在学。

スタートアップ挑戦のきっかけは“火中の栗”体験

ーまずは、堀さんの経歴を教えていただけますか。

:1995年に大学を卒業して、共同ピーアールを経て1999年に外資系のベンチャー企業の立ち上げメンバーに入りました。2005年にミロク情報サービス、2016年からビズオーシャンを経営しています。

ー共同ピーアールから外資系ベンチャーの立ち上げに参加されたのはどうしてでしょうか。

:実は、新卒で入ったとき、「使えない!」と毎日上司に怒られていたんです。企画書はいつもボツでした。転機は、入社2年目です。たまたま、大手IT企業の案件がきたのです。1997年頃なので、まわりにはITに詳しい人がいませんでした。先輩たちが誰もやりたがらないので、「自分に担当させて欲しい」と手を上げたんです。すると、その企画書が通ったのです。社内では「今年一番の番狂わせ」と話題になりました。

ーそこに挑戦できたのには、何か理由があるのでしょうか。

:当時、IT業界に友人がたくさんいたからです。彼らといっしょに知恵を絞れば、よい企画が出せるのではと考えました。すぐに作戦会議を開きました。みんなで手分けをして、IT業界でのイメージ調査や競合分析をして、そこで考えた戦略を企画書に落とし込んだんです。絶対に負けると誰もが思った案件を勝ち取ったので、厳しかった上司も、手のひらを返すように「優秀だ」って言ってくれました(笑)。

ーその成功体験が、スタートアップの挑戦のきっかけになったということですか。

:そうですね。「人生の岐路に立った時、いつも困難なほうの道を選んできた」という岡本太郎の言葉があります。みんなが嫌がるところに無理やり行くことが、こんなにも世界を変えるんだというのが、原体験になりました。1999年になると、Yahooや楽天などが出てきていよいよITの時代になりました。外資系のベンチャー企業の日本法人を設立するプロジェクトに誘われて、「困難なほうの道を選べ」ということで一念発起しました。

ーベンチャーを卒業後、ミロク情報サービスを選んだのはなぜですか。

:最初は、代理店として広告を売って、ベンチャーのときは広告を買って、今度は作ってみたいと思いました。ちょうどミロク情報サービスが中小企業向けのオウンドメディアを立ち上げるからと誘われて、広告について「売る、買う、作る」の全部を経験してみたいという思いで参加しました。

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社内ベンチャーの2つの形態

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ー社内ベンチャーの立ち上げに携わる中で、一番大変なことは何だと思いますか。

:社内ベンチャーには、アンゾフのマトリクスでいうと2つタイプがあると思います。

AorB:現業の延長線分野に挑戦する
C:現業と全く関係のない新規分野に挑戦する

私が立ち上げたのは、Cなんですけど、基本的にこれはビジネスとして悪手なんです。現業の強みや経験などのアドバンテージがありませんから。

ーそれなのに、選んだのはなぜですか?

:まずは先ほどの「困難なほうの道を選べ」という原体験があるからです。そして、ベンチャービジネスとは、ゼロ・トゥ・ワンを生み出すことという信念があるからです。ミロク情報サービスが築き上げたビジネスモデルの延長では社内ベンチャーの意味がありません。新しい価値を作りあげることが求められていたこともあります。しかし、これは本当に厳しかったです。振り返ると地獄の道だったなと思います。

ビジョン重視?ファクト重視?

ーベンチャーを立ち上げるときは、社内であれ独立であれ、お金を確保することが必要ですよね。資金面では、どのようなことを気にしていましたか。

:「大きなビジョンと小さなファクト」ですね。投資をしてもらうには、将来のビジョンが面白くなければなりません。と言っても、絵に描いたモチだとそれはそれで怒られてしまうので、小さなファクトをどうやって積み上げていくかという点が大切だと思います。

「大きなビジョンと小さなファクト」の2つが揃わないと人は口説けないと思います。そしてこれは、社内でも社外でも、基本的には変わりません。

ー基本的には同じということですが、社内ベンチャーと、普通のベンチャーでの違いはありますか?

普通のベンチャーは、どれだけビジョンが魅力的かという方が重要ですが、社内ベンチャーはファクトベースの説得力が大切という点でしょうか。小さな目標を認めてもらって、それを達成したらイエスと言わせる、みたいな感じです。

大切なものは同じでも、比重が違うというイメージですね。

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メディアビジネスは5年の赤字を覚悟せよ

ーメディアビジネスを考える起業家が最近はとても増えています。これまでメディアを育ててこられた中で、成功した要因をお聞かせ願えますか。

:最初に言えるのは、メディアビジネスは単年度黒字に5年が必要ということです。海外や国内の事例を調査すると、どこも5年かかっています。経営陣から「いつ儲かるんだ」と聞かれても毎年「来年です」とはぐらかしていましたが、実際は5年かかる前提で戦略を練っていました。

だから、これから立ち上げるときに考えて欲しいのは、赤字が5年続いても投資し続けられるか、我慢できるかということですね。ただ怖いことに、投資を続けても当たるか分からない。正直に言って、ギャンブルです。

ーその中で、小さなファクトをどう積み上げていくかということですね。

:はい。逆に、2~3年で成功させようと思うとコンテンツを持たないキュレーションメディア系を考えます。今後は、別の手があるかもしれませんが。

社内ベンチャーの心構え

ーゼロからの起業ではなく、社内事業の責任者になる時には、どんな心構えが必要ですか。

:事業の責任者ですが、最終的決定者ではないということですね。上司も役員もいるので、上手く巻き込んで意思決定に持っていくことが大事だと思います。

ー社内事業の責任者に、アドバイスをするとしたら?

いつクビになってもいいという覚悟でやることですね。そして、他人のせいにして絶対逃げないこと。そのくらい自分を信じてやらないと、部下も上司もお客さまも取引先も、誰もついてきてくれません。自分の意志を貫きながら、まわりを上手に巻き込むということをいかにやってのけるかがポイントだと思います。

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ビジネスで感じた“苦労”がビズオーシャンを生んだ

ー御社のサービス「bizocean(ビズオーシャン)」について、簡単に概要を教えていただけますか。

:日本最大の無料テンプレートサイトです。請求書、契約書、お礼状から企画書まで、ExcelやPowerPointなど約2万点のドキュメントが無料でダウンロードできます。

ーそのサービスを作ろうと思ったのは、何故ですか。

:昔、ナレッジマネジメントというコンセプトが流行った時期がありました。「社内の情報共有を円滑に行いたい」というのが目的でした。しかし、情報共有の範囲は、社内に限られたことではないと考えたのです。社内社外を問わず、みんなで共有したほうが、みんなハッピーになります。

そこで、「インターネットを使って、みんなのドキュメントをみんなで利用しよう」と思って作ったのがbizocean(ビズオーシャン)です。そしたら、それがウケたんですよね。

ーみんなのPCや社内に閉じ込められていたテンプレートやドキュメントを世の中に開放することで、媒体価値が生まれたんですね。

:はい。実はこれに賛同してくれた税理士や弁護士の先生が多くいらっしゃって、たくさんのテンプレートやドキュメントを公開してくれました。テンプレートサービスを始めて約8年となるのですが、無料では品質に限界があると考え、先月、CtoC型のマーケットプレイス機能を公開しました。一部を有料化することで、高品質なテンプレートを提供できるようになりました。

ーCtoCへの転換を図ることで、テンプレートやドキュメントはどう変わると思いますか?

:これまではどうしても、1枚請求書などかんたんなテンプレートが多かったんです。無料では公開できるテンプレートには品質に限界があります。でも、CtoCだとユーザーからオファーがあるものを作者が作るという形になりますから、より難易度の高いテンプレートが掲載されます。それがみんなに提供されていくようになると、もっと面白くなると思います。

ーメインのテンプレート事業以外の部分で、今後会社をどのように発展させていこうと思われていますか。

海外に進出しようと考えています。無料でテンプレートを配るサイトは海外にはないです。あっても、有料のダウンロード型です。なので、海外展開は面白いチャレンジだと思っています。

ーもしかしたら、海外が大荒れになるかもしれませんね。

:最初に経済成長が著しい地域で実績を作って、ゆくゆくは世界中で展開したいですね。ただ、国ごとの商習慣の違いもありますから、そのあたりのカスタマイズも必要です。

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世間は案外優しい。だから失敗を恐れるな

ーこれから事業を始める方、あるいは社内で新しいチャレンジをされる方に向けて、成功するために必要な心がけについてアドバイスをいただけますか。

:起業のやり方は、自分と仲間とのゼロベースや、ある程度の資産が使える社内ベンチャーなどがあります。でも、やっぱり「自分がやりたい」「これをやったら上手くいく」という想いを素直に言えるといいと思います。失敗しても一生懸命やっていれば、色んな人が助けてくれるので。

ー失敗を恐れるな、と。

:失敗するとつまはじきになるとか、誰もお金を貸してくれないとか言いますが、そんなことないです。私の経験では、ダメだと思ったときにこそ、なぜか助けてくれる人が必ず現れます。案外、世間は優しいと思います。

ー「世間は優しい」という言葉に背中を押される人は多いと思います。

始める前は怖いかもしれませんが、やってしまったら意外となんとかなりますよ(笑)。

ーミラクルが起きているみたいな。

:そうです。「ラッキー、俺ツイてる!」みたいな。真摯に向き合っていれば、誰かが絶対に助けてくれるし、神様からプレゼントが貰えると私は思っています。自分と仲間を信じて突き進んで欲しいです。

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事業を成長させるために、学び続ける

ー具体的に事業を始めようと思うときに、やっておくべきことはありますか?

:まずは、自分が本当にしたいことは何かを何度も繰り返して考えます。そして、世の中に必要とされているのか。最後に、自分のビジネスモデルは、競合に勝てるのかを頭がちぎれるくらい考え抜きます。

いくら困ったときでも、事業の方向性や参入の判断は、最後は自分で考えなきゃいけません。「やるべきかやらぬべきか」と悩んだときは、これまでも本を読んだり、セミナーに参加したりして、いろいろな方たちに相談しました。そうすると、自分の無知さや新たなアイデアに気づきます。今は、一流の先生たちから学びたく、ビジネススクールに行くようになりました。ちなみに、私は「経営戦略全史」「ビジネスモデル全史」の三谷宏治先生の本を読み、目からウロコの連続だったので、先生が主任教授を務める「K.I.T虎ノ門大学院」を選びました。

ー実際、ビジネススクールに通われてみていかがですか?

:講義によっては、毎回宿題を課されるんですけど、それを通して自社の事業戦略を考えられるので、とてもよいです。超一流の戦略コンサルタントに毎回アドバイスを受けているのと同じですからね。

ー単なるフレームワークではなく、ケーススタディという学習方法が特に良さそうですね。

:自社戦略に集中しているとどうしても視野が狭くなってしまいます。といって、部下に相談しても広がることはありません。そんな時、違う視点からのアドバイスをもらうと、一気に道が開けたりしたことが何度もあります。生徒同士でのディスカッションも楽しいです。

ー違う業界の人ばかりですもんね。

:はい。ビジネススクールはお勧めします。授業料が高いですし、仕事が忙しいのになんでこんなことを…と思うかもしれませんが、絶対行ったほうがいい。

ー社員にも参加を促しているとか。

:はい。弊社では補助もしています。なぜならば、よい企画やアイデアを出すためには、よいインプットを脳にしておかないとダメだからです。いくら情熱が大事だと言っても、情熱だけではよい仕事はできません。それから、経営者やリーダーは、常に新たなビジョンを提示していく必要があります。創業のビジョンを常に磨いていかなければ、魅力のある事業や会社にはならないからです。
だって、イヤではないですか?5年も10年も同じビジョンを語り続ける経営者は。いつでも、わくわくドキドキさせるビジョンを掲げて欲しいですよね。

ーアイデアの在庫を貯めていくんですね。

:はい。学び続けないと、ダメだと思います。ビジネススクールに行くことだけが学びではありません。本でも、セミナーでも、投資家とのディスカッションでもいろんな学びがあります。でも、そこに手を抜いたらダメです。ここは、自信を持って言えます。

事業を進化させるためには、学び続けるべきなんです。

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社内が大荒れ!?グループウェアNo1サイボウズの創業ストーリー
【第1回】サイボウズ 青野 慶久社長独占インタビュー!今だから語れるサイボウズ誕生の裏側

(取材協力:株式会社ビズオーシャン/堀 貢一)
(編集:創業手帳編集部)

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